RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode2:キカイ・リブート『2019」(6)

 来海ライセは、存在の内部に今まで三人の人間を内包していた。

 

 すなわち自分自身。

 すなわち仮面ライダーシノビ、神蔵蓮太郎。

 すなわち仮面ライダーハッタリ、今生勇道。

 

 そして今、ここにもうひとり……いや一機が加わり、異様な空間の中でもとりわけ異質な存在感を放っていた。

 

 彼らが要るのは閉ざされていた鋼鉄の扉の内部。

 その男の力から近未来的な光景を予想していたが、意外にもそこはノスタルジックな、それこそ郊外で半分老後の趣味のように個人的に開いてい駄菓子屋のような店の軒先だった。

 

 そしてそこに仁王立ちしているのは、どことなく古風ゆかしい、硬派な風情を持った男だった。

 彼を目前に、青年は三者三様、怪訝そうな顔を並べていた。

 

「人間、だよな?」

「いや、機械(キカイ)さ」

 

 ほとんど独語のようなライセの問いかけに、青年の形をしたその存在はさんざん聞いた解答をした。

 

 仮面ライダーキカイ、真紀那(まきな)レント。

 ぎこちなくはにかむ彼は、ヒューマノイズという、正真正銘のロボットだと己を紹介した。

 

「いやいや機械って」

 

 笑い飛ばしたのは勇道だ。

 2121年という途方もない未来から来たというのも眉唾物だが、何より目の前の人物が機械の身体を持っていたということ自体が、そもそもの疑念らしい。

 

 本人は軽く小突くつもりだったのだろう。だが彼の予想を超える硬度を持っていたらしいその身体は、惚れ惚れするほど見事な、言い換えれば殴った本人を思えばかなり痛ましい金属音を奏でた。

「いっっったぁ……!?」

 事故的に、不可抗力のダメージを拳骨に受けた彼は、自身の手を抱くようにして悶絶していた。

 

「おお……大丈夫かハッタリ……ていつまでも生身で呼ぶのも変だな。勇道」

 蓮太郎が美貌に涙を浮かべる彼を雑に気遣った。

 

(というか、実体もないのに人との違いはあるのか?)

 それ以上はややこしそうなので、考えるのをやめ、ライセはあらためてレントと向き直った。

 

「もう一度確認をするけど、あんたは2121年からここに来た」

「そうだ」

「けど、ここに来るまでの記憶は無くしている」

 

 その問いにも、レントは表情乏しく首を上下させた。

 

 どうやってここにたどり着いたのか。何故同胞を裏切って戦っていたのか。

 ――何を守っていたのか。

 

 それが彼の記憶回路(メモリー)から抜け落ちているという。

 蓮太郎や、勇道と同じく、仮面ライダーであったことに関わる()()()記憶が。

 

「もっともこいつは、データの『破損』というよりも『欠落』に近い」

「欠落? 誰かに抜かれたとか?」

「あるいは逆に」

 

 言いかけたところで、過剰に痛がる勇道の嘆き声に遮られた。

 ライセは咳ばらいをした。

 

「だが、書き替え不可能な領域に、ある言葉が残っていた。おそらくはシステム基幹に関わるパスワードだ」

「それは?」

 

 普通なら誰かのマシンのパスワードを聞き出すなど、マナー違反も良い所だ。それがマシン自身に尋ねるのなら、なおさらのこと。

 だがこの場合、遠慮している時ではなかったし、相手もさほど難色を示さなかった。

 

 

「『WILL BE THE BFF』」

 そして目を細めて彼は続けた。

「ソウゴが、思い出させてくれた言葉だ」

 

 驚きに、息を呑む。

 あのオモチャに書かれていたのと、酷似した字面。

 ただの偶然と思いかけていた矢先にライセが浮かべていた人物の名が、挙がる。

 

「ソウゴって、まさか常盤ソウゴか!? なんであんたが……?」

 

 レントは首を右に向け、左へ向ける。

 答えられない。言えない。憶えていない。ジェスチャーは、明確にその意を示していた。

 

(どういうことだ!? なんで、百年も先のライダーから、ソウゴの名が出る)

 いや、それだけではない。勇道はともかく、シノビ……蓮太郎もその名についさっきまで反応したではないか。

 

 果たして、あの再会でさえ本当に偶然のものなのか。

 わからないながらも、自分がどこか深淵に引きずられてしまうのではないか。そんな予感と不安とがライセにはあった。

 

「見てよこれ! こんなに腫れてるし、骨にヒビ入ってるって!!」

「いや大丈夫、なんともなってないから。ていか俺たち生身じゃないし」

 

 ――いや、確実にわかっていることは、ひとつある。

 

「煩い! せまっ苦しい!!」

 

 人の心の中でさんざん騒ぎまくるシノビ一行を、ライセは一喝した。

 彼らはキョトンとした顔を見合わせながら、手足を止めた。

 

「あのさ今、けっこう大事なハナシの最中なんだけどさぁ!」

「なんだよ、このぐらいは大したことないだろ? そこまで目くじら立てなくても」

「そうそう、それこそ『心が狭い』ってやつだな」

「おっ、勇道けっこう上手いじゃん」

「へへっ、だろ?」

 

 あははは、と頓狂に笑い合う。

 シノビとハッタリ、宿敵同士と聞いていたふたりだったが、皮肉にもその因縁の原因さえも抜け落ちてしまったせいで、蓮太郎の予感どおり、すっかり意気投合してしまったようだった。

 

 そしてそんな彼らの能天気な様子にライセは呆れ、頭を痛ませながらもどこかで救われているような気がした。


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