群生するアナザーキカイたちが、背後に回ったソウゴの気配を察知した。
気づいたのが、一体……そこからまた一株、一匹……反応は波及し、そして全員がその方角を向くのに時間はかからなかった。
ソウゴはさらに走りを速めた。
その足下に追いすがるツタを振り払い、一路、橋の中央へ――『境界』へ。
気遣いなのか純粋な見落としか。
ウォズの提唱したこのアナザーライダーたちのルールには、矛盾がある。
ひとつ、アナザーが出現するのはこの世界に存在しないアナザーライダーだという点。だがソウゴは目撃している。今と同様に、アナザーアギトが世を侵略するさまを。
ひとつ、そのアナザーライダーに接触したものは時の在り方を歪められて消滅するということ。
であれば、もっとも接敵していたであろう自分……常盤ソウゴが真っ先に消滅していないと筋が通らないではないか。
それは自分が特殊だから? 時の王者であるからか。
――否。
答えは数メートル先に迫っていた。
たどり、着く。
柔らかく、鈍く、重いものが、半身に触れた。
まるで海面にゆっくりと沈められていくような感触。直後に起こる激しい頭痛は、全身が拒絶反応を示しているためか。
思わず痛みに目をぎゅっと瞑る。
痛みが和らぐと同じくして、開けた視界はわずかにくすんでいた。
ゾンビ映画のクライマックスのように、あれほど殺到していたアナザーキカイたちが、跡形もなく消えていた。
ふぅ、と息をつく。ソウゴの立てた憶測が、答えに変化しつつあった。
「――まぁ、安心してもいられないよね」
ソウゴは軽く嘆いて顔を持ち上げた。
『こちら側』も、世界の崩壊が迫っているのは同じことなのだ。だからアナザーライダーはこちらでも増殖を続けていた。
現に今、彼の目の前には新たなアナザーライダーが現れていた。
ゴーグルの中に、鋭く見せる眼光。毒蛇を想起させる蓬髪。
自然界ではありえないようなピンク色のアンダースーツに、カビを思わせる斑点がびっしりとこびりつく。人工物と天然の細菌とが融合したかのようなおぞましい姿は、一度見れば忘れない。というよりも、胸に表示されている。
「アナザーエグゼイド」
ソウゴは険しい表情でその名を告げた。
その呼び名に反応したのか、獣のように低く唸りながら、両手を広げるようにして迫った。
ソウゴはジクウドライバーを取り出し、迎撃の構えをとった。
だが、アナザーエグゼイドの爪が迫るよりも先に、ソウゴが変身するよりも速く。
間に男が立った。
彼は長い脚を持ち上げて、すくい上げるように腰をひねってアナザーライダーを蹴り上げた。
その男は端正な顔立ちでありながらどこかふてくされたようにアゴを突き出し、横顔だけソウゴに向けた。見知った顔だ。うんざりするほどの馴染みさえある。
「
あいさつをするような仲でもないが、ソウゴは困惑していた。
この男の奇行はいつものことだが、今回は特に怪しさ満点の様子……いや服装をしていた。
愛用と思われるトイカメラはそのままに、カラーのついた厚手の紺色の上下。そこに白と青の横縞のシャツ、いわゆるマリンボーダーを身につけ、白いキャップ帽のツバを指でつまんで持ち上げた。
「なに、その恰好……水兵さん?」
趣味なのか、彼なりのルールがそこにはあるのか。たしかついこの前会った時はレジスタンス風のミリタリーファッションの仮装をしていたが。
「違う。船乗りだ」
ふてぶてしい顔つきのまま、彼は低い声で答えた。あるいは本人にとっても予期しえない、不本意な恰好であるのかもしれない。
「まぁ、何が違うかと聞かれても俺も知らんがな」
身もふたもないぼやきめいた一言とともに、彼は一枚のカードを取り出した。
――自分の時間とともに失われたはずの、腰のケースの中から。
『自分』が映ったその一枚を裏返すと、ファインダーを模したバックルへと押し込んだ。
「変身」
片手でスライド式のカバーを閉じると、内包するライダーたちを象徴する十八の紋章が彼を取り巻いた。
いくつもの像が長身のシルエットと重なって、その姿をマゼンタに彩り、バーコード状の装飾がマスクに突き立つ。
――おそらく、彼よりも強いライダーは探せば数多くいるだろう。単純なスペックで言えば、それこそ今まで出会ったライダーたちの中でも、いくらでも。
〈KAMEN RIDE〉
だがその特異性は唯一無二のもの。
ジオウと同じく彼ら歴代のライダーの力を内包した、異形中の異形。
あらゆる意味、あらゆる視点から鑑みても、型にあてはまらない『規格外』。
それゆえに、スウォルツに狙われた。
加古川飛流を扇動して時空を変動させ、士自身の仲間を指嗾して同士討ちさせ、能力は奪われたはずだった。
〈DECADE!〉
仮面ライダーディケイド。
その力は今ふたたび士の元に戻り、そしてソウゴの前に現れた。