RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(4)

 自身の内側から湧き上がる衝動めいたものに突き動かされるようにして、ソウゴがたどり着いたのは、ある立体駐車場の屋上だった。

 

 先の冬頃に謎の爆発および周辺道路の破壊が行われたというその場所は、通路はともかく現場それ自体はまだ封鎖されていた。

 

 ソウゴは逸る心を抑えて、その禁を破ったのだった。

 といっても、その場所に来ていたのはなにも彼だけではなかった。

 

 誰かが、頻繁に通っている形跡があった。

 無人のものさびしい光景に、白々とかすむ空の下に、一束の献花が供えられていた。

 

 きっといつでも、何日も、何度も何百回も、そうやって。

 あの時の雪のような、真っ白花を贈っていたのだろう。

 

 まるで許しを乞うような、あるいは巡礼のような心境で、重い足取りで。

 傷ついた身体と、決して癒えない心を引きずるようにしながら。

 

 そのことを、その彼の姿を想像するだけで、胸が締め付けられるようだった。

 

「――やっぱり、()()だよね……」

 

 それでも、一つの残酷な答えに、ソウゴはたどり着いた。

 

 足音がして、ソウゴは振り返った。

 誰何の声をあげるまでもなく、息を弾ませてやってきた青年は、

「ソウゴ!」

 と親しげに彼の名を呼ぶ。

 彼は、来海ライセは、階下より姿を見せた。

 

「良かった、無事だったか……」

 と自分のことのように喜びながら駆け寄ってくる。

「けどどこ行ってたんだよ? 心配してたんだぞ!」

「ごめん……でもどうやってここまで来たの?」

「なんか船乗りというかカメラ持った男にここに行けば会えるって聞いて」

 

 なるほど、と内心で返す。

 門矢士の言っていた『下準備』とはこういうことだったのかと。

 

「お前に言われた場所に行ったけど来ないし、なんか変な奴には門前払い食らうしっ」

 彼も彼で相当な苦労をしたようだと、必死の形相と身振り手振りから察せられる。そして何よりこの世界のことを考えれば、彼と自分の行き違いの理由も見えてくる気がした。

 

「うん、俺もさ……話しておかなきゃいけないことができたんだ」

 

 ライセを宥めるような目と口調で、ソウゴは言った。

 だが、相対した青年の顔つきは、ますます険しいものとなった。

 ()()彼を不快がらせるような話はしていないはずだが……そう思った矢先に、ソウゴもまたかすかな空気の流れの変化を感じ取った。

 

「ソウゴ後ろっ!」

 

 示されるまでもなく、ソウゴは頭を伏せた。

 頭上を、光の弾丸が通り過ぎる。段階を置かず襲った蹴りをかわし、地面を前転する。

 ライセに助け起こされたソウゴの目が剥いた。口が軽く開き、喉が枯れる。その先に、一体のアナザーライダーが降り立っていた。

 

 アナザーライダーは、多少悪意めいて虚飾されていたとしても、その多くは原型の特徴を持っている。そしてオリジナルの個体名と年代を、どこか体の部位に持っている。

 

 だが、これは。

 こればかりは。

 

 たとえ覚悟はしていたとしても、見たくはなかった。

 赤くくすんだ胴回りに、兵士の身に付けるようなベストを胸にかけ、どこか荒廃した近未来(ディストピア)感を醸し出すスーツ。

 閉じることなく口から曝された歯から、低い呻き声が漏れる。肉感的に張り付く血色の皮膚が、半透明の金マスクの中にビッタリと強引に押し付けられている。

 

 レンズの割れたベルトはとうに時間を示し、追いかけることを止めていた。

 剥かれた白目の片隅にある小さな文字列は、ふつうなら見逃せるはずだった。

 それでもソウゴの視線は、意識は、それを捉えてしまった。

 

GEIZ(ゲイツ)……」

 

 その名を、震えた声で呟く。

 

 

「またアナザーライダーか……! いくぞソウゴ! ……ソウゴ?」

 

 頭が痛む。心臓が痛む。

 耐えがたい苦痛によってソウゴはその場に蹲った。

 ゲイツが歴史から消え、その代替物としてアナザー化した存在がねじ込まれた。

 その衝撃が己の心身を蝕んでいるのか、と思った。

 

 だが、違う。

 手にノイズが奔る。砂嵐が混じる。泡沫が指先を覆っていく。

 何処かへと引きずり込まれる底知れない感覚が、全身を包む。

 

(俺も……無事じゃいられないってことか!)

 

 一瞬で消滅しないところを見ると、耐性があることは確かだが完全な抗体というわけでもなかったようだ。その由来不明の体質を過信していた、おのれを呪う。

 

「おい、どうしたソウゴ!」

 ライセが助け起こそうとすると、ますます痛みはひどくなる。まるで自分に起ころうとしていることを、細胞の全てが無理やりに抗って引き留めているような、そんな感覚。

 

 いっそ抵抗をやめてしまえば楽になれるのではないか……そんなことさえ、一瞬思ってしまう。

 

(いや、そうもいかない)

 立ち上がらなければ。進み続けなければ。目を開け続けなければ。声をあげなければ。

 

 現におろおろと惑うライセの隙を、アナザーゲイツが突かんとしていて……そのことを、伝え、なければ……

 

 轟音と共に、ソウゴらと敵の間に巨影が割り込んできたのは、まさにその瞬間だった。

 その二足歩行の巨大ロボットを、ソウゴは知っていた。知ってはいるものの、その形状は彼の知るそれ……タイムマジーンとは、多少精巧さにおいて劣る。

 

 派手さとは無縁の、黒く質感が剥き出しのボディに、せめてもの洒落っけで両肩に赤と青、相互非対称のペイントが施されているだけだった。

 

 その単眼(モノアイ)が、ギョロリとアナザーゲイツを見下ろした。

 そして拳を振り上げ、それへ向けて叩きつけた。

 アナザーゲイツは後ずさった。それが敵対行動と捉えられる前に、そのタイムマジーンは二度、三度とぎこちないがパワフルな挙動で拳を振り回し、地面を穿ちながら敵を隅へと追いやっていく。

 

 そして伸びた腕が、逃げ場をなくしたアナザーライダーを掴み上げた。腰を捻り、最大限に遠心力を活かした全力のスイング。それはソウゴ達の敵を、屋外の彼方へと飛ばしていった。

 

「乗れ!!」

 

 タイムマジーンのハッチが開き、男が身を乗り出した。鋭く声をあげた。

 その顔の輪郭が、逆光の中で動く。声音と合わさって、ソウゴの知る『彼』の面影と結びついた。

 

 どのみち選択肢はない。アナザーライダーの常人離れした脚力は、せっかく稼いだ時と距離とをすぐに無いものとしてしまうだろう。

 

 まごつくライセを促して、ソウゴは男の勧めに従い、その機内へと我が身を投げ入れた。

 

 

 

 招き入れられたコクピット内部も、自分の愛機と比較してやや見劣りする構造となっていた。コンソールパネルは煩雑で配線類が整理し切れておらず、モニターの画質も粗く不鮮明だ。

 

 ソウゴのものでさえ、ふたり入るのがやっとなのだ。

 そこにスタイルの良い男が三人ともなれば、だいぶ窮屈だった。

 だが、決して老朽化が原因なわけではない。使われている機材はすべて、新品同然のものだと状態を見れば瞭然だった。

 

 おそらくはこれこそが、()()()()()()()()最先端なのだろう。

 

 ビークルモードに変形したマシンは浮上し、上空に開けた次元トンネルを通過した。

 大いに揺れる機内ではあったが、目を白黒させるライセと違い、勝手の知れたソウゴは平静さを取り戻していた。

 時間移動の恩恵でもあるのか。痛みもノイズも、嘘のように消えていた。

 

 その上であらためて、ソウゴは前で操縦桿を握る男の背を見た。

 

「ありがと、お陰で助かった」

 親しみを込めて、礼を言う。

 

「礼を言われるまでもない。俺もただの使いっ走りだ」

 

 どこか不遜さを感じさせる、切って捨てるような物言いに、ソウゴは懐かしさとともに苦笑をこぼす。

 門矢士ほどでないにせよ、自分の実力と知性に絶対の自信を持つ彼に、あらためてソウゴはあらためて問うた。

 

「久しぶり、でいいんだよね……主水(もんど)

 

 自分がいくつも夢現の中で関わりを持った未来のライダー。

 その中で明確に面識があったのは確かだったが、力を奪われた彼の中で、記憶や時間がどうなっているのか。果たして彼は自分たちと一時共闘した青年のままなのか。そこが不安ではあった。

 

「あぁ……ただし、お前が思っているよりも、ずっとな」

 

 時間の奔流の中で操縦が安定した後、そう答えて男はソウゴたちへ振り返った。

 その顔は、ソウゴの知る仮面ライダークイズ、堂安(どうあん)主水のそれよりも、一回りほど歳を重ねたものだった。

 

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