RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(6)

「別の2068年って」

 

 ライセは冗談だと笑い飛ばそうとしたようだった。だが、彼の許容量をはるかに超える事態は、表向きに一笑することさえ許してはくれなかったらしい。ライセは咳払いのあと、すぐに表情と語調を改めた。

 

「パラレルワールド……ってことか? つまりは、このソウゴは俺と知ってるソウゴじゃないってこと?」

 短い時間、得られた情報はこの場にいる誰よりも圧倒的に少ないはずなのに、ライセの憶測は的を射ていた。

 

「どうかな」

 ソウゴは苦笑を返した。

「こっちの俺も、この俺も、あんまり大差ないと思う」

 

 

 ――そう、分岐点は、きっとちょっとしたものだった。

 あの時、あの雪の日。

 ツクヨミが真実を伝えることに遅れていたら、一触即発の雰囲気に水を差してくれなかったら……?

 こうなっていたかもしれない。その可能性は何度も悪夢のように頭の中をめぐった。

 

 問題は、そこではない。

 ソウゴのことでもない。

 

「俺の知ってるライセと、今の君はだいぶ状況が違ってるけど」

 

 常につきまとっていた違和感。自分の知識とは違う現実。

 ソウゴは、そこにこそ……眼前の来海ライセにこそ、注目した。

 

「君と会う前、つい最近まで飛流と敵だったんだ。でも会うまで、事故のことはずっと記憶の中に閉じ込めてた。だからなんで恨まれてるのか、分かってなかった。だから事故のことをちゃんと見直そうと思って、色々調べてたんだ」

 

 主に、他の被害者のこと。生存した子どもたちのこと。

 王に選定されなかった2000年生まれの彼らが、その後どうなったのか。

 帰ってきた者もいる。だが、そうでなかった者もいた。

 

 

 

「ライセ……君は、あの事故の後に帰って来なかったんだ」

 

 

 

 この世界は、風さえも吹かない。

 気候、交通、ライフライン。それらが徹底的に管理されている様子で、人通りはまったくない。オーマジオウの世界とはまた違った意味で、物寂しい空間だった。

 だからこそ、その静謐な世界でライセの息遣いはよく聞こえた。

 

「そう、なのか……」

 彼は少なからず衝撃を受けたようだったが、取り乱すことはしなかった。

 ソウゴだってこの時間軸ではすでに死んだ身だ。それに現に自分はこうして生きている。それでいいじゃないか。

 そう自身に言い聞かせているのかもしれない。

 

 その時、今まで黙っていた主水が、横合いから口を挟んだ。

 

「……ソウゴお前、それを本気で言ってるのか?」

 

 咎めるような口調とともに、主水が青年たちを交互に睨む。

 元々人付き合いは得意なようには見えない。母親のため、世界のため、難問に孤独に戦ってきたであろう男だ。

 だがこの場所、愛想がないというよりかは……敵意に近いものを、彼からは感じた。

 

「少し推理すればおかしいってわかることだろ。そいつが死んだかどうかっていう話は、()()()()()()()()の」

「それでも」

 

 ソウゴは彼の言葉を遮って言った。少年じみたはにかみとともに、ライセの背を叩く。

 

「彼は俺の友だちだ。たとえどんな世界だろうと、どんな風に生きていたとしても。今の俺に分かるのはそれだけだよ、主水。これは俺たちが答えられることじゃない……でしょ?」

 

 ソウゴ。感極まったように、ライセが呼ぶ。

 対する主水は、下手をすれば親子ほどに歳の離れてしまった相手に、露骨にため息を向けた。

 

「人が好いのも相変わらずか」

 

 そうぼやきながらも、ライセの前に立ち、そして少しだけ目元の険を解いた。緊張した面持ちで見返すライセをしばらく無言で見下ろした後、みずからの首に指をかける。

 そして自身のペンダントをそこから取り外し、ライセの鼻先に突きつけた。

 

「やるよ、俺にはもう必要のないものだしな」

 

 ライセは知るべくもないが、クエスチョンマークをあしらったそれがただのアクセサリーではないことを、ソウゴは知っていた。

 

 仮面ライダークイズのドライバーを展開するのに必要な、コマンドキー。

 たしかに彼の言葉のとおり、力を喪った今、それはもはや無用の物には違いない。それでも、彼がライダーであったことを証明する大切なものであったはずだ。

 それを、彼が今知り合ったばかりの青年に託すという。

 

 驚くソウゴ、漫然とそれを受け取るライセ。そして手渡した次の瞬間、主水と、彼の周囲の空間に歪みが生じた。

 泡沫とともに指先や足先が溶けていく。清められた空気と同化し、無へと還っていく。

 

「主水!?」

 

 ソウゴは思わず声を張る。主水は諦観と苦笑がない混ぜになったような面持ちで、みずからに起こった異常を受け入れているようだった。

 

「俺がここまで無事でいられたのは、そいつに最後のクイズの力を渡すことが『確定事項』だったからだ。そのタスクが終われば、当然堂安主水()の存在は不安定なものになる」

「俺に……って、どういうことだよ!? なんなんだよっ、俺の身に起こってることはっ! クイズの力……? どうして俺にそんな大事なものを譲る!?」

 

 事態がまるで飲み込めないでいるライセに、主水うなずいた。

 

「過去にこだわる気はないが、借りがあってな。この先で待ってる奴と、そのソウゴに。……そのソウゴが信じてるんだ。だったら俺も、お前に賭けることにするさ」

 

 胴回りまで消滅しているにも関わらず、主水は取り乱すことなく言ってのける。

「そう言えば、ずっと言い損ねていた」

 そしてあらためて、前時代の戦友へとあらためて目を向けた。

 父親のことに囚われて余裕がなかった頃と比べれば、はるかに優しい眼差しで、彼は笑った。

 

「ありがとう、お前たちのおかげで、俺は家族に向き合えた。――俺たちの未来を、頼む」

 

 それが、叡智でもって世界を救ってきた英雄の、最後の言葉となった。

 堂安主水は消えた。跡形も残さず消えた。

 残され、そして遺されたライセは、ソウゴを顧みた。まるで身に余る宝物を押し付けられた子供のような、得る喜び持て余す困惑が勝ったような気弱さを、双眸にたたえて。

 

 そんな彼を見て、かえってソウゴはこの状況が切羽詰まったものだと痛感した。長く悲しみに沈む余地などないことをあらためて知り、静かに気を奮い立たせた。

 

「行こう」

 ソウゴは新たな友の肩をそっと押し、共に進むように促した。

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