「まずは今起こっている事象について話しておこう」
そう言った白ウォズは、みずからの本を開いた。
何も描かれていないページからレーザーのようなものが照射され、それが虚空に二つの球体を形作った。
やがてその二つは互いの間隔を詰めながら接近していき、やがて一点が密着し、そして重複した。
その図は受験勉強の時に頭を痛ませた、数学の図形問題によく出てきた姿だった。「この重なった部分の体積を求めなさい」とか、そういう類の。
「我々の世界の関係というのはただの並行世界ではない。本来であればどちらかの世界が確定した場合、もう一方は存在できなくなるものだ。すでにその選定が終わったはずなのに、並立し、一部を共有してしまっている」
「えっとつまり? 消えたはずのゲイツたちの世界と、俺たちの世界が、衝突しちゃってるってこと?」
「俺たちに言わせれば、お前たちの世界の方が消えたはずの可能性なんだがな」
咎めるようにゲイツが返した。
委縮しながら、ソウゴは「ごめん」と頭を下げた。
不用意な発言だったと自分でも思った。
ゲイツたちの側からしてみれば、とうに切り捨てたはずの過去が降って涌いてきたわけだから、その困惑はそれほどか、想像するに余りある。
若い頃であればそれで許さずひと悶着を起こしただろうが、彼はただその後は、大儀そうに息をひとつこぼしただけだった。
「魔王、君がそれ以外につかんでいることは?」
白ウォズが尋ねた。
「各地に倒したはずのアナザーライダーが現れた。ウォズは……黒ウォズはそのアナザーライダーが接触した人間は消えていくって」
「なるほど? まぁこちらの世界を認識していなければ、その程度の解釈で止まるのも無理はないか」
白ウォズの吊り上がった口端には、もうひとりの自身への嘲笑と優越感が滲み出ていた。
「違うの?」
「あのアナザーライダーは互いの世界が干渉し合った結果生じたアレルギー反応のようなものだ。まぁ歪みの顕れではあるから接すれば当然周囲の時空は不安定になるが……本質はそこにはないよ」
「つまり、干渉ってほう?」
白ウォズはうなずき、揶揄の類は捨てて進行役に徹した。
「言わば反作用さ。どちらか世界で力を行使すれば、もう一方の世界で対応する存在が不安定になる。たとえば、その『来海ライセ』がシノビの力を使えば、そのアナザーライダーが君の世界に現れ、歪な形でそれを再現しようとする。逆に君がライドウォッチを使えば、それに対応するアナザーライダーがこちらの世界で出現する。わたしの記憶の混濁も、おそらくは君のウォズに異変が生じた結果だろう。そして魔王、君はこの時間軸においてすでに死んでいる。そしてそれこそが我々の世界を隔てる絶対的な分岐点だ。だから変動が少なく、影響を受けにくい」
「……なんか、分かったような……気がする?」
「本当か?」
ゲイツが疑わしげな目をソウゴへ向けた。
実際その全てを理解できた自信はない。それでも、良いものも悪いものも、色々と腑に落ちた心地ではあった。
「ということは、俺にも影響が出ないのも同じ理由か。俺がソウゴの時間では死んでるから」
ライセが尋ねると、露骨に白ウォズは嗤った。
だがそれは彼の無知や誤りを小馬鹿にしたものというようには見えなかった。より根本的な点……彼がそう発言したこと自体を、何かの冗談と捉えているかのような。
だがそのことを追及する前に、ゲイツが代わりに続けた。
「先ほどもウォズが言ったが、この世界はすでに一部を共有している。だが世界が融合し始めるとそれは一部では済まなくなる」
「互いの席を奪い合って食い合い、それによってまた互いに引っ張り合う。果てに待つのは」
白ウォズが、適当な机に本を下ろし、影絵のように両手を獣に見立てて噛み合わせる。
それを打ち鳴らし、バアンと擬音を声にして大きく腕を広げた。
「対消滅だ。共倒れになって、すべては無に返るだろう」
その言動の軽さとは裏腹に、ぞっとしない結末を彼は語る。
「……いったいどうしてそんなことに」
すでに起こってしまったこととは承知で、ライセはそれでも聞かざるをえなかったようだ。そんな彼に返ってきたのは、冷ややかな失笑だけで、無視して話は続いた。
「実は我々はこうした時間犯罪やアクシデントに対する予防策を用意していてね」
「予防策?」
「当然だろう。我々は歴史を書き換えることによって勝利を得た。ならば不心得な輩なその真似をしないとも限らない」
自身のデバイスを再び操作しながら得意げに言う白ウォズを、ゲイツはことさらに剣呑な目つきで睨んでいた。
「タイムジャッカーのように根本そのものを書き換えられては、他のライダー同様我々の力も盤石ではなくなる。そこで、いくら時間を改竄されようとも我が救世主ゲイツリバイブの力、そしてその源流であるシノビ、クイズ、キカイの歴史だけは確保する。そのためのシステムを作ろうとしていた」
デバイスから放射されたプロジェクタを舞うような手つきで操作する。
そして映し出されたのは、その機構の設計図とも言うべき立体映像だった。
それを見た瞬間、ライセとソウゴの顔色が大きく変わった。あまりに見覚えのある姿に、衝撃を隠しきれずにいた。
「名を、ミライドライバー計画という」
彼らの頭上に現れたのは、ジクウドライバーに似た形状を持つ……否、ライセの持つドライバーそのものだった。