RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(9)

「ミライ……ドライバー?」

 

 ライセは自身の用いているベルトの名称を初めて知ったようだった。

 問題はなぜここでそれが出てくるのか。そもそもどこに由来する装置であるのか、そして今の状況とどうかかわりを持っているか、ということだ。

 

「ドライバーといっても、これは本来誰かを変身させるためのものじゃない。強いて言うのであれば、観測装置であり、情報端末であり……固定器具でもある」

 

 白ウォズはどこか誇らしげに言い、その後をゲイツが継いだ。

 

「この形状、そして色。お前は何度となく見たはずだろう」

 映し出されたホログラムは半透明ではあるものの、ジクウドライバーよりも暗い色のメタリックな質感であることぐらいは分かる。

 そしてソウゴはライセの持ち物以外にその形状のドライバーを三度、いや四度見たことがあった。

 

 シノビ、クイズ、キカイ、ギンガ……

 そのいずれもが、時代も隔て技術体系もバラバラであるにも関わらず、すべてのベルトの基本の素体が同じ形状をしていた。

 

「でもそれって」

「――そう、元々は彼らの未来を生み出したのが他ならない君だからだ。君自身の体験をもとに未来に形作られたライダーだからこそ、ジクウドライバーがベースとなっている。だがあくまでそれは起点に過ぎない。そこから各ライダーに至る現実的な理由(ライン)は、こちらで用意することができる。わたしはそこに目を付けた」

「どういうこと?」

「わたしが、このベルトを製造した。ある組織とともにね」

「組織?」

「財団Xという」

 

 決して老いのためとは言い切れない、苦み走った表情でゲイツが答えた。

 なお眼光の鋭さは保ちつつ、自身の従者を睨む。

 

「あの時代のあらゆるオーバーテクノロジーを取り入れんとしていた、死の商人だ。ダブルやオーズと敵対していた組織でもある。この男は俺に無断でその組織と接触していて、そしてこちらのお前から回収したドライバーを資料として開発に取り掛かっていた」

 

 曲がりなりにもライダーの力を使って戦っていた者が、その敵だった悪の組織と手を組む。

 あらゆる理由があろうともとうてい許される行為ではないが、ここは過ぎた話として飲むよりほかなかった。

 さほど悪びれた様子もなく、白ウォズは語を継いだ。

 

「そして出来上がったこのドライバーは極めて汎用性の高いOSを持っている。それこそ、百年先の未来でさえ通用するほどにね。そしてその書き込み不可能な領域(ブラックボックス)に、我々はあるプログラムを組み込んだ」

「プログラム?」

 

 薄気味悪そうな様子で、ライセは反芻した。

 

「なに、簡単で無害なものだよ。いわばタイムマシンさ。ただし、データ専用のね」

 

 ますます得意げな様子を強めて、白ウォズは言う。

 

「各未来で収得されたデータは、過去をさかのぼってこのミライドライバーへと転送される」

「じゃあ、俺がシノビやキカイになれたのは、そのためか」

「財団の連中にはそう吹き込んでやった。『このベルトは未来の技術を先んじて収斂させられる』とね。だが、わたしの最終的な目的は別にあった」

「目的?」

 

 白ウォズは唇を歪めたまま映像を落とした。

 代わりに現れたのは、線で結ばれたいくつものポイント。その節々には年号と思われる四桁の数字がそれぞれ割り振られていた。

 

「事象の『確定』だ」

 

 確定。たしか主水も消える間際に同じワードを口にしていた。

 自分の力をライセに渡すことが、確定事項であったと。だからこそ、自分はここまで無事だったのだと。

 

「このミライドライバーに各未来のライダーが収得されるということはだ。つまりこれから先、そのライダーが我々の時間軸に誕生することが約束されるということだ。たとえば、明光院ゲイツという青年はオーマジオウによって支配された2068年から2018年へと行き、若き魔王の命を狙った。だが彼がそうして時を遡ったという事実こそが――あぁなんということか。皮肉にもオーマジオウが誕生する未来をある程度確定させる、過去と未来をつなぐ『線』となっているんだよ」

 

 過剰なフリと抑揚をつけ、解説する白ウォズに、ソウゴとライセは絶句した。衝撃の度合いで言えば、ソウゴの方が強かったに違いない。

 

「おや? ひょっとしてそこまではまだ知らなかったのかい? そうさ、君が最高最善たろうと努力しようとも、我が救世主が君の時間軸にもいる限り、結局先に待つゴールは」

「やめろ、ウォズ」

 

 嗜虐的にソウゴのうつむく顔をのぞき込む白ウォズを、ゲイツが止めた。

 声には、旧友を嘲られたことへの怒りが隠しきれないでいた。

 

「――失敬。たしかに話が脱線していた。つまりはそれと同じさ」

 白ウォズの頭上で、星がまたたくように光のラインが消える。かと思えばふたたび蛇行し、直線になったり曲線になったり、枝分かれしたり一つにふたたたびまとまったり。

 ありとあらゆるパターンで動いて見せる。だが最後は、2022から始まる年号(ポイント)に行きつくように設定されていた。

 

「ミライドライバーにシノビたちの力が集約されている以上、どれだけそこに至る経緯を操作されようとも彼らの力は、ゲイツリバイブは、かの救世主が常盤ソウゴを討ち果たしたという事実は決して揺らぐことはない! まさに盤石の……と思っていたのだけれどもね」

 

 まとめに入りかけて、急に彼の語気が弱まった。露骨に落胆の様子を見せ、そして少し恨めし気な眼差しは自身の主に対して投げかけられた。

 

「俺が止めた」

 ゲイツが硬質な声で、その視線の理由を答弁した。そして自身もライセを冷たく見定めた。

「そいつが妙なベルトを持って現れた時、こいつの暗躍を察した。だから先んじて動いて、計画を潰し、その馬鹿をこの時代まで追い返した」

 

「おぉ、さっすがゲイツ」

 ソウゴはいくらか暗澹たる気分を改めた。

 いくら世界が違おうとも、時間が経とうとも、意固地なまでな正義感は変わらなかった。そのことを知って、安堵した。

 

「茶化すな」

 とゲイツは言ったが、心なしかその声音は明るかった。

 

「……それよりも、今の話でおかしいとは思わなかったのか?」

 真剣味を帯びた問い方に、青年たちは顔を見合わせた。

 あまりに雑多な情報の数々に呑まれるかたちとなった彼らは、そこにまで思考が及んでいなかった。

 

 だが指摘されてみると、たしかに不自然だとは思った。この時代にたどり着くまでに抱いていた感触に近い。根本的な見誤り、すれ違い。矛盾が大きすぎるがための、見落とし。

 

 だがそれが何かはすぐには答えられなかったソウゴたちに、ゲイツは痺れを切らして明示した。

 

「良いか? ミライドライバー計画は結局失敗したんだ。再開発もしなかった。……にも関わらず、今も、俺が計画を潰す()に会った時も」

 

 まっすぐに、ひとりの青年を凝視しながら。

 意図が分からず立ち尽くす彼に、見つめ返されながら、老人は当然であったはずのその疑問をあらためて問いかけた。

 

 

 

「――なぜそいつは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 人工的に演出された斜陽が、ソウゴの、ゲイツの、そして白ウォズの足下に黒く影を伸ばしていく。

 そのうちのひとつ、白ウォズの影が、大きく前へと進み出た。

 

「存在しないはずの世界、存在しないはずのライダー、存在しないはずのドライバー、そして、存在しないはずの……」

 

 ゲイツとソウゴの前を横切ってもうひとりの青年の背後に回り込んで、立つ。肩をつかむ。ただでさえ長身なウォズに、唐突に背後から絡まれたのだ。その衝撃やどれほどか。上半身をすくませる彼の顔の横で、白ウォズは語る。

 

「その原因たる存在に、いや現象に一つ、心当たりがある」

 

 彼らの頭上で線が消える。点も消える。そして時間が消え、虚空と静寂が訪れた。

 

「それは、()と呼ばれている」

 

 真実を知る話し合いは、最終段階へとその足を踏み入れようとしていた。

 ……今まで意図的なものも含めて無視されてきた、来海ライセを視界の中心に置いて。


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