RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(11)

 淡い失恋の感傷が、隕石のごとき殻と、その中に封じ込められた存在を鮮明にソウゴの中に刻み込んでいた。

 

 ドームの真っ只中に落下したそれは、本物の白日を浴びて封印を解いていく。

 小規模な爆破とともに自らを包み込んでいた物質を突き破って現れたのは、一体の仮面ライダーだった。

 

 ――いや、ライダーの定義を疑いたくなるような規格外の存在。エネルギーの結晶だとスウォルツは言っていた。

 

 星の光輝をちりばめたスーツ、マント。

 流星を思わせる肩のガードに、ハットのような鍔付きのメット。その下には宝石を粗く削り抜いたかのような、いびつな黄色の眼差し。

 

〈我が名は仮面ライダーギンガ〉

 それをもって周囲を睥睨したその怪人は、無機質でありながらどこか威圧感に満ちた声でソウゴも知るその名を名乗った。

 

〈世界が分かたれようとも銀河はひとつ。そしてその宇宙を統べる方はただひとつ。……すべてのものは滅びゆく!〉

 

 そしてかつてと同じような言い回しとともに、両の腕に引力にも似た強烈な力を漲らせる。

 すなわち白ウォズに招かれたこの世界のギンガもまた同様に、滅びの意思を体現して周囲を破壊して回るのだろう。

 

「何もわざわざここに呼びつけなくても良かったんじゃないのか」

 安息の地を荒らされたことに怒りを滲ませなら、ゲイツは言った。ただし戦意の眼差しは、眼前の侵入者へと向けられていた。

 

「良い機会だからね。君にはいい加減こんな過去に閉じこもっていないで、統治者として振る舞って欲しいのさ」

 そして白ウォズは、悪びれずに正論で返し、彼の主人と並び立った。

 それぞれに手に、ウォッチのドライバーを握り締めて。

 

「ジオウ……」

 

 ゲイツは視線を一度外した。ソウゴに申し訳なさそうに声をかけた。

 何を頼まんとしていたのかはすぐに分かった。そしてためらいもなく、かつての友達の横にその身を置いた。

〈ジオウ〉

 垂直に立てたジクウドライバーに自身のウォッチをセットし、腰に巻く。

 それを懐かしげに見届けたゲイツは、自身のウォッチを手に取った。

 

 この50年で、アップグレードでもしたのだろうか。ゲイツのライドウォッチはカバーは黒曜に、本体は赤く、色は反転していた。

〈ゲイツ!〉

〈ゲイツリバイブ! 剛烈!〉

 そして自身の最強のウォッチを一対として、ドライバーを挟み込んだ。

 

〈ウォズ!〉

 

 その音声を皮切りに、三者三様の時計がその背に浮かび上がる。

 

「変身っ!」

「変身!」

「変身」

 

 曲げた腕で時計を回す。突き出した両腕を回し、時計を翻す。そして時計を畳む。

 

〈カメンライダー、ジオウ!〉

〈リ・バ・イ・ブ・剛烈!〉

〈スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉

 

 いつもどおりの変身。

 だが異色の取り合わせの、同時変身でもあった。

 

 外目にはソウゴの世界とほとんど変化はないが、ただひとり、中心に立つゲイツは違う。

 軍人然としていた胸部の重装甲は黒く変化し、代わりにその節目をつなぐラインは、赤く染まっていた。

 

「行くぞ」

 低く呟くように言うや、同じく黒一色に染まったパワードノコを手にゲイツはギンガへと飛びかかる。

 世界を守るべく老いて傷ついたその身を推すゲイツを手助けすべく、ソウゴもまたジカンギレードを握りしめた。その脇を、白ウォズがすり抜けていく。

 

 ソウゴは一度立ち止まって、背後を顧みた。

 廃人のように膝を落として項垂れるライセは、それこそ意志のない人形のように見える。唇が何かを発せたげにうごめいているが、それは決して自身の気持ちを表すことのできるものではなかっただろう。

 

 だが今は、叱咤できる状態も余裕もない。ソウゴは異世界の戦友たちとギンガへふたたび挑みかかる。

 それはライセを守るための戦いでもあるのだから。

 

 

 

 ソウゴたちが、未知のライダーと戦っている。

 今のライセには、それがどこか遠い光景のように、思えてしまった。

「違う……違う……おれ、は……」

 繰り言のように床に落としていくつぶやきを、誰が拾うこともない……

 

『身を守らないと、世界よりもお前が死ぬぞ。……まっとうに死ねるかどうかは知らないがな』

 

 ――かのように思えたが、内より返ってくる声があった。

 ○と×を奥に控えた二つの道。自分の内にあるその分岐路に、ひとりの男が立っている。

 

 堂安主水。消えたはずの男。

 会った時よりも一回り若返った彼は、ライセの虚無の空間で帽子を目深にかぶり直しながら、冷ややかにさえ聞こえる声で言った。

 

 そして彼の示唆のとおり、ライダーたちを激戦を繰り広げるギンガの、桁外れの力の余波は、流れ弾となってライセの膝周りを穿った。

 

 反射的に浮き上がらせた腰に、いつの間にか諸悪の根源たるミライドライバーと、見慣れないクエスチョンマークを左右に散らしたバックル。そして手には空いた中央部分に装填するであろうデバイスが握られていて、同じ『?』のシンボルマークとなって展開した。

 

『これがお前の知りたかった答えだ。そしてお前が考えなければいけない問題だ』

 

 その力に、声に、あるいは自分と接続する別の何者かに突き動かされるかのように、よろめきながらもライセは身を起こした。

 うるさいほどに鳴り響くシークエンス音が、時間制限付きのゲームのように彼の精神をさらに追い立てていく。

 

「変身……!」

 

 締め付けられるような喉の奥から、食いしばった歯の隙間から、そう唱えたライセは、コマンドキーたるそのシンボルをバックルの中央に叩き入れた。

 

〈ファッション! パッション! クエスチョン! クイズ!〉

 

 背の後ろで分かたれた二つのパネルから○と×が飛び、ライセの胸には取り付いて選択を迫る。

 その姿は少なくとも戦っている三人よりかはシンプルな意匠だった。

 黒を基調としたスーツに、体の左右にはベルトと同じ赤と青のクエスチョン。目立っているのはせいぜい頭部から突き出た同様のマークといったところか。

 

 そのライダー、クイズの力の基たる主水が、自分に向けて指を突きつけ、口を動かす。

 促してくる文言こそ、今のライセにとって残酷なものだった。

 だが、あえて認めて追従しない限り、立つ力さえ抜けてしまいそうだった。

 

「救えよ、世界……!」

 震える腕で、自分の中の彼のモーションを模倣する。手をマスクや虚空へ捧げる。

「答えよ、正解……っ!」

 すべてが過ちだった彼に主水はそれを言わせ、間違えるなと使命を貸す。

 

 ――問題。

 ではその世界を救うために、『無』たる来海ライセはどうするべきなのか?

 

「…………アァァァァァッ!!」

 

 その答えが見出せないままに、自暴自棄となったライセは最前線に加わり、声を灼けつかせるかのごとく絞り出しながら、ギンガへと肉薄した。


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