ライセの蛮行的な突入により、敵味方双方に軽い動揺が起こった。
仮面ライダークイズが現れた。そのうえで、真一文字にギンガへと切ってかかった。ソウゴがそれがライセだと気がつくのに数秒の間と数歩の後退を必要とした。
獣のごとき咆哮もあげて、彼はギンガに拳を振る。がむしゃらに攻め立てる彼に、主水の知性や意思を感じない。
これが、ミライドライバーの特性。
ソウゴのように継承する側と託す側、互いの了承をもって力やを願いを受け継ぐのではない。
一方的にその力や姿や時間を収奪し、かつ我がものとして固定する。
それがこのドライバーだった。
その事実をあらためて実感ながらも、それでもライセを捨て置くわけにはいかなかった。
ギンガの力の桁外れさの手強さは、身を以て知っている。クイズがいかに未来のライダーと言っても、単独で勝利を収められることはまずできない。
今でこそ乱入してきたライセを推し量るようにあえて防勢に回ってはいるが、彼の現有戦力に見切りをつけて取るに足らぬ者として排斥にかかるのも時間の問題だ。
「ライセ、落ち着いて!」
「うるさいっ!」
肩に置かれたソウゴの手を振り払い、ライセはなお無謀な突撃をくり返す。
その暴走ぶりに呆然とする。一方ですべてを否定された彼の気持ちも分かるからこそ、ソウゴは立ち尽くした。
「奴に構ってる暇はない。俺たちも行くぞ」
ゲイツがそう言って素通りした。
あえてそう口にして叱咤するあたり、彼なりの気遣いなのだろう。
主人の後に続いた白ウォズに追従するかたちで、ソウゴも戦闘に復帰した。
案の定、クイズが弾き飛ばされて、次鋒のゲイツがギンガに重い足取りで肉薄する。
ジカンジャックローを振りかざして牽制し、空いた左拳をギンガの身体に突き入れんとする。
ギンガの片手が、迎撃した。受け止めつつ、マントの裾を翻し、裏拳でジャックローを弾き飛ばす。
ギンガの拳が、風を切って星の粒子を帯びて、ゲイツのマスクに迫った。
武器を手放したリバイブハンドが、それを覆い込むようにして防ぎ止めた。
ぎちぎちと、ゲイツリバイブに用いられているスムースグラフェニウムに過剰な負荷がかかる音が聞こえた。
そのまま額を打ち合わせ、ふたりのライダーは接戦を繰り広げていた。
単身で、単純なスペックでギンガに拮抗できるほど、ゲイツリバイブの機能は底上げされているといって良い。
だが、それだけではまだ足りない、とソウゴは理屈抜きで直感した。
ギンガとリバイブの接触面。そこから光がほとばしる。宇宙を飲み込む闇の渦。妖星の輝き。それらが集約されたエネルギー。それはゲイツ渾身の怪力と耐久性を瞬く間に上回り、その重装甲を浮き上がらせ、弾き飛ばした。
だが、それも織り込み済みだ。その死角を縫う形で、白ウォズがジカンデスピアーを突き出した。
だが難なくそれをいなす。掌底を腹部に叩きつける。次いで振り抜いたソウゴのジカンギレードも、速射されたエネルギー弾が吹き飛ばし、はためいたマントの奥から突出した直線的な蹴りが、ジオウのスーツに見舞われる。
〈ストライク・ザ・プラネットナイン!〉
本人の声音かベルトの音声か。
区別のつかない読み上げとともに、手から離れた宇宙の力場は、分散して雨あられのようにドーム内に降り注ぐ。
榴弾の威力を数段倍化させたような火力が断続的に四人のライダーを襲った。
ソウゴやウォズ、ライセなどは壁の奥にまで吹き飛ばされ、ゲイツリバイブも膝を屈した。
「相変わらず、大雑把に強いなぁ……!」
近くに倒れていたライセを助け起こしながら、ソウゴは愚痴めいたことをこぼす。
「お前が呼んだんだろう。何か策はないのか?」
ゲイツもまた反対側で白ウォズの腕を引いて姿勢を立て直させながら、ゲイツが問い質す。
「さて、わたしもそこを君にアテとしているわけだがね。魔王」
自身の足で立った白ウォズは、逆にソウゴへと問い返す。
「え? 俺?」
「君の口ぶりからすると、そちらの世界にもギンガが来たんだろう。そのうえで、ここにいる。どうやって乗り越えたんだい?」
それは、と言いかけてソウゴは口ごもる。
秘するつもりはない。ただ、現状においてそれが不可能だからだ。
あの時は、トリニティの力もギンガの無敵のガードの前には通用せず、一度目は敗退した。
誰にとっても不都合なアクシデントにおいて、アナザーキバ、タイムジャッカー、敵味方の垣根を越えた総力戦で、かつ物量さで強引に押し切って打倒しえたのだ。
その数を今、そろえることは不可能だった。
あるいはグランドジオウなら、という思いもあるが、すでに時間の消滅はライドウォッチにも影響していくつかは消滅していた。揃っていなければあの姿に変わることはできない。
ライセという要素があるにしても、今の彼は、恃むことができない。
つまりは、正攻法で勝つことは難しい。
――正攻法、ならば。
ならば搦め手から仕掛けるほかないだろう。
「……数秒」
「ん?」
「数秒、俺が自由に動ける時間を作ってくれるのなら」
ソウゴはギンガを挟んで向かいにいる、一時の仲間たちにそう頼んだ。
「わかった」
一片の詳細も聞かず、ゲイツが動いた。自身の砂時計を回す。
〈スピードタイム! リバイ・リバイ・リバイ!リバイ・リバイ・リバイ!リバ・イ・ブ・疾風!〉
ゲイツの装甲が裏返る。
重装甲は翼に。体系自体は速度を重要視したスリムなシルエットに。
ただしソウゴの知るその姿とカラーリングは反転し、黒を基調としたボディに青いエネルギーラインが駆け巡っていた。
ゲイツリバイブ・疾風。
未来予測をも超える速さを手に入れたゲイツは、大きく飛翔した。
〈こざかしい〉
低い嘲りとともに、ギンガはエネルギー弾を連射し、撃墜せんとした。
だがゲイツはドームの天井やその先の空を縦横に駆け巡り、それを回避していく。
その機動力はもはや、ジオウの目でさえ捕捉できず、ただ風を切る音だけが響き渡る。
「時を支配する魔王が、『時間を作ってくれ』、ね」
皮肉気味にそうつぶやいた白ウォズだったが、その依頼に沿うべく別のウォッチを握りしめていた。
〈キカイ、アクション! デカイ! ハカイ! ゴーカイ! フューリャーリングキカイ、キカイ!〉
ライセも持つ未来のライダーの力。それをウォズもあえて用い、キカイのパーツを受け継ぐフォーム、フューチャリングキカイへと変形する。
その背から飛び出た雷光が方々に飛び散り、工具類の形をとる。ドームの内壁へと吸い込まれていく。
もとよりそういう機能が存在していたのか、あるいはキカイの特性によるものか。
壁から機関銃のようなものが形成され、ギンガへ向けて掃射する。
だがギンガの足下から展開したエネルギーフィールドがそれをことごとく跳ね除けていく。だが完璧な防壁は、だからこそ奴自体の動きを封じた。
ソウゴもまた、自分の仲間とよく似た彼らの作ってくれた時間に応えるべく、ライドウォッチを取り出し、回し、押す。
ただし、ジオウⅡのものではない。
黄色にカバーに黒い本体。
〈キバ!〉
今となってはソウゴがほとんど所持している歴代ライダーのウォッチ。そのうちでも中期の年代に位置する、『王』の時間。
それをベルトにセットし起動させる。
〈アーマータイム! ガブッ! キバ!〉
どこかギンガの声と似た擬音を合間に挟み、ジクウドライバーから無数のコウモリが飛び出した。
それらが寄り集まって黄色い巨大な一匹、コウモリによく似た何かとなると分離し、ジオウの両肩へと取り付いた。目はピンクより黄色へ変色し、『キバ』の二字を刻む。胸には鎖で巻かれたような印と、血を想わせる赤い胸部装甲。
「さぁ……ふんばっていこうか!」
時が惜しい。味方が危うい。
前口上もそこそこに、探り合いや小手先技での競り合いもなしに、ドライバーのベルトを押して回す。
〈フィニッシュタイム! キバ!〉
シークエンスに入るに当たり、前へと押し出した右脚甲が展開し、翼と爪を広げる。
すると、周囲がにわかに陰り始めた。
太陽を暗雲が覆い込み、夜の帳が降りて闇が訪れる。満月が上る。
ギンガの動きが次第に鈍重になって、力の圧が弱まっていく。
しおれる花のように、錆びる鉄のように変色し、停止していく。
そう、狙ったのはギンガそのものではない。
この無尽蔵の力を絶えず供給し続ける大元……太陽光だ。
白い方ではない。自分のウォズが、事が終わった後に教えてくれた情報、そして自分とは別の『王』のライダーの特性だ。
「みんな、今だっ!」
時の王の号令一下、各ライダーはそれぞれの方向から乾坤一擲の技を投入すべく準備を始めた。
〈ビヨンドザタイム! フルメタルブレイク!〉
先鋒を司ったのは仮面ライダーウォズだった。
黄金色の歯車が組み上がるように軌道を描き、それに乗じる形で加速した蹴りは、満足に動けないギンガを直撃した。
〈フィニッシュタイム! 百烈! タイムバースト!〉
空を駆けていたゲイツが、飛翔したソウゴと入れ違いになる形で、地評へ向かって急降下する。
最大加速で突入し、幾重もの空気の壁を突破して、自身を正義と信念の一矢、一筋の青い流星と化した特攻は、ギンガに痛撃を与える。
〈ウェイクアップ、タイムブレーク!〉
そしてソウゴもまた、天地逆さまとなって月に自身のシルエットを投影する。
月光の祝福と加護を受けた時の王は、大きく横に旋回しながらギンガへと迫った。
その胸部に、脚の翼が激突する。
勢いのまま、ギンガを壁まで突き飛ばす。ギンガの背がめり込んだ壁に『キバ』の文字が刻まれた。
……どういう理屈かは分からないが、時の王としての力の一端に是非を問うのも無粋というものだろう。
ライダー三人の、出来る限りの最大戦力を投じたのだ。
本来であるならば、そこで爆発四散していてもふしぎではなかった。
だがこの規格外のライダーは、スパークを放出してダメージを露呈させつつも、なおもその形状を保っていた。それどころか再起の兆候さえ見せていた。
まだ、一手足りない。
最後にキックを放ったソウゴは、身をもってそう直感した。
あと、一押しがいる。
すべての力と手段を各々が出し尽くした今、それを決するのはただひとりしかいない。
――たとえそれが、傷心のただなかいる人物であったとしても、彼自身の未来を切り拓くために、やってもらわなければならない。
「ライセッ」
仮面ライダークイズに扮する彼に、ソウゴは鋭く促した。