RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(13)

 ――遠く鈍く、ソウゴの声が聞こえる。

 ――近く強く、内部より強く問いがなる。

 

 目の前の敵を討て。

 お前は、何者だ?

 

 言われるまでもない。世界を守るため、宇宙より来訪したその破壊者を打倒する。

 否、すべての元凶はお前自身ではないのか? 自分を処さずして、何がヒーローだ?

 

 偽りの心臓が速く鳴り打つ。

 ただ機能として存在するばかりの呼吸が、荒くなっていく。

 

 自然と手はコマンドキーを握りしめている。手中のそれが『?』から『!』へと形を変え、ライセはほぼ忘我したままにそれをベルトの中央へと納めた

 

〈ファイナルクイズフラッシュ!〉

 

 敵を、討て。

 敵は、お前ではないか?

 

 人々のために戦い続けろ。

 何を馬鹿な。そもそもお前は人ではないではないか?

 

「違うッ!」

 

 内なる糾弾に対し、ライセは拒絶を返した。

 

「俺は人間だ……俺は人間だ俺は人間だ俺は人間だ! 俺は、俺は……っ!」

 

 そうくり返す彼とギンガの間に、二枚のパネルが用意されている。

 

 この来海ライセは、自身が称するとおりに人間か?

 ○か? ×か?

 

「うあああああああ!!」

 声を絞り上げてライセは飛んだ。

 

 人間だ、人間だ、人間だ。

 ――腑に落ちる。

 

 人間だ。人間だ。人間だ。

 ――欠落した記憶。真っ白な始まり。いつの間にか手に入れていた力。思い出せないライダーたちとの出会い。共闘したはずの仮面ライダーGの、()()()()()()()()()()()()()()()()あいまいな反応。

 

 人間だ、人間だ、人間だ!

 ――いまいち実感できない生。ソウゴたちの指摘した時間と自分という存在の食い違い。そうした矛盾に行き当たった時、いつの間にかそこから外れている自分の意識。

 

 人間だ。

 人間だ。

 人間だ……

 

 ――嗚呼けれども真実の光を帯びて突き出したその脚は、クイズとしての特性が向かう先は

 

 ×

 

 と刻まれた、その一択に迷いなく向けられていた。

 

 刹那、ギンガがふたたび動き出した。

 ライセへ向けて残った力を放出し、そして声を発する。

 

〈貴様は無の者だ。ならば、私と同じはずだ!〉

 

 正答を経て最大限に強化されたライセの脚力は、そんな追及に必殺の一撃をもって答えた。

 悲痛な慟哭とともに少しずつ、錐で穴を穿つようにして宇宙のエナジーを押しのけ、接近していく。だが近づくにつれ、当然ギンガの力の放出量は増していく。流しきれず、その身を焼いていく。

 

 だが、すべての災厄の元となっているのなら、いっそもろともに滅びれば良い。

 そんな思いが、最後の一押しとなってギンガを貫いた。

 

 溜め込んでいた力が流し込まれた衝撃によって暴発した。

 そしてライセをも飲み込む熱は周囲を焼き尽くし、ドームを吹き飛ばした。

 

 

 

 そして、新世界の王宮は、救世主のしがみついていた過去は、わずかな残骸のみをこびりつかせて消滅した。

 自分たち自身を守っていたライダーたちは変身こそ解けたものの重症というほどではなく、次第に収縮していく爆発の起点。その一点を彼らは注視した。

 

 そこにライセは、倒れ伏していた。

 クイズへの『擬態』は同じように解除され、ただ存在しない青年の形をとりながらもその腕は、ギンガのエネルギーに飲み込まれて消し炭さえ残らず、肩から先までかけて焼き切れていた。

 

 痛みもない。血も流れない。

 残された肩の断面を、恐る恐る覗き見る。

 

 そこには、血も肉も骨も神経組織もない。

 ただ風船のように、あるいはヒーロー物のビニール人形のように虚無の空洞だけが広がっていた。

 

 やがてその内側から泡がこぼれ落ちたかと思えば、瞬く間に腕の形をとった。上着までも、何事もなかったかのように再生した。

 

「ああぁ……ああぁぁぁあぁあ……」

 

 ライセは呻く。起き上がろうとして崩れ落ち、そのまま立ち上がることもできず、生えそろった五指を開いて、それらをわななかせながら呼気を漏らす。

 

 クイズでも他人からの受け売りの情報でもない。

 今目の前で起きた、常人ではありえない現象。あってはならない身体の構造。自分で終わらせることさえできない、肉体。

 それらこそが、彼が人間であることを否定する何よりの証だった。

 

「あぁぁぁぁ……ああああああああああああああっっ!!」

 

 ライセは頭を抱え、髪をかきむしってガレキに顔を埋めた。

 獣のような慟哭を、その苦悶を、受け止められるものなどそこに、いやどこにもいるはずなく、彼の絶叫はただ、異界の風に流されていくばかりだった。




next episode:そして来る星海0000

ギンガを討ち、その力を得ることでミライドライバー計画を完遂させる。
そう語る白ウォズの狙いは、自分たちの時間軸の固定にこそあった。

すなわちそれはソウゴたちの世界の消滅を意味していた。

だがソウゴは騙されたことに怒りを覚えるよりも先にライセを気遣い、手を差し伸べた。
仲間や世界を消そうとしているすべての元凶は自分のはず、なのに何故接してくれるのかと問う彼に対し、ソウゴはある答えを示す。

絶望的な戦いに挑みに行った友のため、ライセもまた、みずからの内にいる仲間たちの正体を知り、そしてひとつの決断を下す。

だが彼らの前に、ひとりの男が立ちはだかった。
彼は、もうひとつの海、もうひとつの銀河。
圧倒的な力と意志の強さは、未来のライダーとライセは追い詰められていく……

それぞれの絶望に抗うべく、ふたりの仮面ライダーの最終決戦が始まろうとしていた。

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