RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(1)

 常盤ソウゴは仮面ライダーである。

 

 五十年後に世界を破滅に導く最低最悪の魔王となると告げられ、その時が刻一刻と迫りつつあった彼だが、今はまだ、目の前の今この一瞬と、それにつながる未来に最高最善たらんとする正義の仮面ライダー、ジオウであった。

 

 だがその彼の誓いとは裏腹に、異変は起こった。

 ディケイドの力を奪ったスウォルツはあれ以降姿を見せず、いまだ目立った行動に出ていないが、怪人出現を緊急速報で知った彼は、朝食もそこそこに家である時計屋『クジゴジ堂』を飛び出した。

 

 ――ここまでともに苦難や葛藤を乗り越えてきた、かけがえのない仲間たちとともに。

 

 現場は、一流商社『今生カンパニー』だった。

 緑化運動でも意識しているのか。多くの緑に囲まれた高層ビルにあることで知られているが、今はそれも、予期せぬ厄災によって煉獄と化していた。

 

 正面玄関で腰を抜か青年がいた。見目こそ秀麗ではあるが情けなく、もうひとりの青年に脚にすがりついている。

「逃げろ、イッチーッ!」

「で、でも……っ!」

「いいからっ!」

 青年は異形の怪物を前にしてもひるまず、木切れを武器に対峙していた。

 

 逃れようとする人垣に逆らい、破壊の跡を乗り越えてたどり着いたソウゴたちが居合わせたのは、まさに彼らに凶刃が迫っていた瞬間だった。

 

 ソウゴはしばし言葉を失った。

 覚えがある。加害者にも、被害者にも。

 

 肋骨を思わせる濃い紫の外殻。頭蓋を想起させる、歯を浮き彫りにさせたマスク。そのバイザーの奥底で不気味に沈む瞳は、幽鬼のそれだった。

 しかし大きく歪もうとも、その根本は、(シノビ)という在り方そのものは喪ってはいなかった。

 

 鋭く研がれた鉤爪を振り上げるその怪人は、その名は、

 

「アナザーライダー……! でもあれって!?」

「あぁ、アナザーシノビだ……それと」

 

 主の代わりに答えたのは、ウォズだった。

 ゲイツとツクヨミの姿はない。同様の怪人出現の報は街の内外で多発しており、彼らも対応と実態の調査に追われていた。

 

 ウォズは手を鋭く突き出した。その腕と意思を介して彼の外套が反応し、膨張しながら伸びあがると遠方の青年ふたりを飲み込んで、自分たちの足下へと転移させる。

 

 復活したアナザーシノビの刃を警戒してのことではなかった。いや、そちらも十分に脅威ではあったが、それ以上に異質な気配が、蜂の群体の形となって彼らの頭上に迫りつつあったからだ。

 

 羽音とともにアナザーシノビの傍らに集結した蜂は、やがて終結とともにひとつの人型へと統合されていった。

 形状こそ隣のアナザーライダーと酷似していたが、本来のシノビにドクロをねじ込んだようなモノがアナザーシノビであるならば、こちらは枯れ葉とスズメバチをイメージとして混合させたかのような、生物的な嫌悪感を催す怪人だった。

 

 筋繊維が剥きだしになったかのような股に刻まれたアルファベットには、『HATTARI』という文字。

 

「『ハッタリ』……?」

 

 これもまた、ソウゴを当惑させた要素のひとつだった。アナザーライダーの姿を、ソウゴは改変された世界で最初に見たもの……加古川飛流の銅像で記憶したはずだった。だがそこに、こんな形状のアナザーライダーはいなかったはずだ。

 

 その上腕には、シノビと同様に本来の年代が記されているはずだろう。だがそこにあったのは漢数字の代わりに『――――』という、空白を意味する直線だった。

 

「どうやら込み入った状況ではありそうだが、今は考える暇はなさそうだ。我が魔王」

 

 彼らはソウゴたちをゆっくりと顧みる。

 移動した青年たちを狙ってか、それとも彼らを排除するのにソウゴたちは障害となると判断したのか。

 機械的に駆けだしたアナザーライダーたちを前に、ソウゴは従者の助言を容れた。

 

 それぞれのドライバーを腰回りにセットすると、慣れた調子で自分たちの時間を内包したライドウォッチをセットする。

 

 背後に展開したのは、刻まれる時。

 突き出した腕はそれに従う針のよう。

 

 ベルトのバックルを回し、あるいは展開したウォッチを読み取らせ、戦士たちは気勢をあげる。

 

「変身!」

「変身」

 

〈カメンライダー! ジオウ!〉

〈フューチャータイム! スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダー、ウォズ、ウォズ!〉

 

 簡素にして異形の時の王、ジオウ。白い従者となったウォズ。

 彼らはそれぞれに拳や武器を構えて、二手に分かれた。

 

 ジオウは白目を剥いて倒れた青年と、彼を介抱するもうひとり……神蔵蓮太郎を助け起こした。

 

「大丈夫?」

 

 夢の中とは言え、かつて自分を助けてくれた恩人。

 この世界で、一度は悪の誘惑に負けつつも誇りを見せてそれを跳ね除けた知人。

 その彼に、ソウゴは親しげに声をかけた。

 ところが蓮太郎が返したのは、戸惑いの眼差しだった。

 

「……誰?」

 

 という、誰何の問いかけだった。

 

 ソウゴは軽い落胆を覚えつつ、理解も納得もしていた。

 アナザーライダーを倒し、歴史が修正されれば、それにまつわる事象はなかったことになる。

 つまり、仮面ライダーシノビとしての時間を喪い、代わりにアナザーシノビとなった彼には、ソウゴ相対した記憶がないのだと。

 

「ここは俺たちに任せて、逃げて」

 

 すでに何度も経験したことだと、おのれのうちで疼く何かに言い聞かせ、ソウゴは彼らを促し逃がす。

 

 彼らを追わんとする異形にして未知のアナザーライダー、ハッタリの前に立ちふさがり、対峙する。少し離れたあたりでは、ウォズがアナザーシノビと対していた。

 こうなったのは偶発的によるものではない。対抗手段であるシノビのウォッチを持つウォズが、アナザーシノビを受け持つのは当然の流れだった。

 

 暗黙のうちにそれを受け入れたソウゴは、ジカンギレードをその手の内に転送した。

 次の瞬間、アナザーハッタリよりくり出された針の一突きを、殺気を、その峰をもって受け止め、刃を返してその胴体の甲冑へと叩きつけた。

 剣刃がその胴に沈むことはないが、衝撃はダイレクトにその中核へ伝達しているはずだった。猛獣のような呻きが、喉元より牙の生えた口端からこぼれ落ちる。

 

「まだまだ!」

 意気軒昂。後退の気配を見せるアナザーハッタリにさらなる追撃を加えるべく、円形の時計を手の中で回した。

 

 ライドウォッチ。

 彼らの力の象徴であり、それぞれの世界と時代を駆け抜けた仮面ライダーたちの歴史が集約されたデバイスである。

 

〈鎧武〉

 

 距離をとったアナザーハッタリ、今度は針を射出し、知ってか知らずか、その変身を妨害しようとした。

 だが、ジオウの頭に展開した別の、2013年の仮面ライダー……鎧武の頭部がはめ込まれ、回転し、展開しながらその射撃を跳ね除ける。

 

〈アーマータイム! ソイヤッ! ガイム!〉

 

 鎧武のマスク部分がジオウの胸部まで下がり、文字通り、ジオウの王道を佐ける装甲(アーマー)となった。

 

 距離を詰める。その愛刀、大橙丸Zとジカンギレードとの二刀流による連技を叩き込む。

 アナザーライダーは火花の尾を引きながら、バク宙によってそれをやり過ごそうと回避に専念していた。ソウゴは、逃すことなく一気に畳み掛けるべくさらに追った。

 

 だが、ハッタリの姿は空中で分解した。無数の蜂となってソウゴを取り巻き、攻守は逆転する。嵐のように、機関銃のようにソウゴを攻め立てた。

 

 二刀を振りかざしても、蜂はその間を、上下の隙を、難なくかい潜ってジオウに食らいつく。

 装甲を頼みに、多少のダメージを覚悟で強引にその群体を突っ切ったジオウは、地面に転がった。

 

「じゃあ、虫には虫で対抗しようかっ」

 

 すでにその手に、別のウォッチを握りしめて。

 

〈カブト〉

 

 ジクウドライバーの左に赤いウォッチをセットすると、太陽の光からカブトムシの形をしたメカが現れた。黒煙を突っ切って天を舞い、ジオウを追った蜂の先鋒を挫いて、彼と一体化して装甲と化す。

 

〈アーマータイム!〉

 

 パージした破片がまた別の形……三本のカブトムシの角へと成形され、頭部と両肩に取り付いた。

 

〈Chenge Beetle! カブト!〉

 

 ベルトのディスプレイに表示されたのは、2006。

 その時を司る力と速さを得たジオウは、

「クロック・速くなれー!」

 口に出して念じながら、ベルトの右端を叩いた。

 

 目にも留まらぬ速度をもって敵の群体を翻弄し、叩き落としながら逃さず、一箇所へと集めて閉じ込めて、じわじわとその間隔を狭めていく。

 

「おおっ! これは!」

 

 アナザーシノビ相手取っていたウォズは、その技に、姿に、興奮しながら両手を広げた。

 

「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者、その名も仮面ライダージオウ、カブトアーマー! 天の道を行き、総てを司る速さをも継承した瞬間である!」

 

 その祝詞を、余人とは違う時間の流れの中で受けたソウゴは、「あぁ」と納得し、一瞬その足を止めた。

 

「そう言えば、今まで祝ってなかったね。これ」

 

 顔を見合わせた主従の背後から、二体の凶手が迫っていた。しかしそれを、彼らは難なく受け流した。

 

「ではこちらも、そろそろ本気でいくとしよう」

〈シノビ! アクション!〉

 

 ウォズは自身が相手取るアナザーライダーと、対になるウォッチをベルトのそれと換装した。

 

〈誰じゃ!? 俺じゃ!? ニンジャ! フューチャーリングシノビ! シノビ!!〉

 

 半分に割れた2022年のライダーのマスクから投影された手裏剣の装甲が、紫のマフラーが、ウォズに貼りついた。

 

〈カマシスギ!〉

 

 手の内に、ジカンデスピアがカマモードへと形を変えながら転送される。

そのリーチをもって、自分たちに迫るアナザーシノビを牽制する。

 

 戦局は、終末へと向かっていた。

 ジオウは怪蜂の群れの、数の優位を神速によって打ち崩した。アナザーハッタリは怪人としての実体となって地を転がり、

 

〈フィニッシュタイム!〉

 完全に起き上がる前にジオウのボディーブローが見舞われた。

 

〈カブト!〉

 それでもアナザーハッタリは決死の反撃に出る。針でもって突きかかる。だが、それを手の甲でいなしながら、ソウゴは的確に隙を見つけ、強烈なカウンターを入れていく。いなす。押し込む。追い詰める。

 その合間に、手順に従ってベルトとウォッチを動作させながら。

 

〈クロック! タイムブレーク!〉

 

 針を寸毫の距離感ですり抜けて、握り固めた拳でハッタリの背を叩く。

 ジオウの背後へと押し出された怪人は、素早く身を切り返して逆襲する。だがすでに、ジクウドライバーのシークエンスは完了していた。

 

 『キック』という文字の羅列が虚空に浮かび上がる。放物線を描いて並び、標的を定める。その軌道に従って、ソウゴは身体を大きくひねって足を切り込ませた。

 ただし右から左にではなく下から上へ。回し蹴りではなくムーンサルトキックで。

 

「せいりゃあ!」

 何かが違う、と違和感を指摘できる者はこの場にいるはずもなく、エネルギーを吸収したその爪先に蹴り上げられたアナザーハッタリは、空中で内部から膨れ上がって爆散した。

 

 そしてアナザーシノビとの戦いも、終幕の時を迎えていた。

〈フィニッシュタイム!〉

 ウォズはベルトのミライドウォッチを読み取りらせた。エネルギーを溜めて、アナザーシノビが潜む影へとそれを沈み込ませた。

 まるでモグラでも巣穴からかき出すように、その鎌刃は敵を引きずり出し、中空へと放り出した。

 

 風を帯びて高速で駆け回り、影を自在に往来する魔忍であったとしても足場のない白日に浮き上らされては、もはやなすすべはなかった。

 

〈忍法、時間縛りの術!〉

 

 自身の間合いに落ちてきた敵に向けて乱切りに刃を叩きつける。

 最後に大振りに横一文字で胴を払われたアナザーシノビは、爆発四散。影さえも残さず消滅した。

 

 

 

 事態がある程度沈静化された後、ソウゴは地面に転がるアナザーライダーのウォッチの残骸を見下ろしていた。

 タイムジャッカー達が対象に埋め込むものと規格は同じだった。加古川が使役していたものと同様に変身者はおらず、触れようとした瞬間に、泡のようなものがそれにまとわりつき、やがて泡沫ごとに消滅した。

 これも、今まで見たことのない反応だった。

 

 そもそも、アナザーライダーは同じライダーの力でなければ倒せない。基本的には。

 対応していたシノビはまだしも、あのハッタリというライダーは聞いたこともない。だからソウゴもカブトウォッチで消耗させた後でジオウⅡの一撃で屠るつもりだったのだが、その工程が必要なかった。

 

 楽に撃破できるならそれに越したことはないが、それでも妙な手応えのなさが逆に不安を煽った。

 

「我が魔王」

 周辺の警戒に当たっていたウォズが、変身したままに駆け寄ってきた。

「あのアナザーライダーたちを操っていた者は周囲にはいなかった。タイムジャッカーが、今さらこんな無軌道な襲撃をするとも思えない。そもそも」

「シノビたちの時間軸は、消滅している。アナザーが作れるわけがない」

 

 ソウゴは、自身が潰した可能性をあえて明言した。

 ウォズは、肯定も否定もせず、マスクの奥底に表情を隠していた。

 

 そのウォズの姿に、異変が生じた。

 

 突然彼のベルトから、シノビのミライドウォッチが弾け飛んだ。

 火花を散らし、コンクリートに落下しながら、その力や色や図柄が、霧のように抜け落ちていく。ウォズの変身は強制的に解除され、ウォッチは無機質な機構を剥き出しにしたブランク体へと形状を逆行させた。

 

 ソウゴとウォズは、互いに顔を見合わせた。

 アナザーライダーのこと、そして今力を喪失させたウォッチのこと。いずれも原因はわからないが、はっきりしていることもある。

 

 その両者が無関係ではないということ。

 そしてこれが、一過性のものではない、誰も予想し得なかった異常な現象であるということだった。

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