ギンガの破壊された地点から、光の柱が立ち上っている。
それは天と地点とを結ぶ回廊とも、あるいはこの星の情報を、人知れぬ未開の領域へと向けて送る交信手段のようでもあった。
白ウォズは変身を解くと、恐れも見せずにそこへと接近し、手を光の中へと埋めた。
すると柱は細まっていく。内部を駆け巡る奔流は次第にその勢力を弱め、ほぐされた糸のようにたわんで消滅した。
白ウォズに、いや彼の手にあったブランクのウォッチに、ギンガの力と時とが吸収されたのだ。
ギンガミライドウォッチ。
ソウゴのウォズも手に入れた、最強の力の結晶。
それは今、もうひとりのウォズの手に渡った。
「それで、ここからどうするの?」
不安げに問い質すソウゴの前を横切り、白ウォズはライセの前に立った。
悲痛な慟哭は時間とともにナリをひそめていたが、代わりにすすり泣く声が、埋めた顔から漏れ聞こえる。
そんな彼を冷ややかに見下ろしながら白ウォズは口を開いた。
「さっきも言った通りにこいつはアバターに過ぎず、見ての通りに、そもそも破壊は不可能だ。存在しないものを潰せはしない。そこで」
いったん言葉を区切った白ウォズは、いきなりライセの髪を引っ掴んだ。
そして強引に引き立たせると、無防備にさらされた腹部に、あろうことか、ギンガのウォッチを、ライセへと拳ごと突き込んだ。
ライセが呼気を一気に押し出した。突き放され、地面に転がされた彼は、突如としてねじ込まれた異物感にえづき、呼吸を荒げて身悶えた。
そんな彼自身には興味が失せたように背を向けて、白ウォズは再び説明した。
「仮面ライダーギンガは特定の時間軸を持たず、見切りをつけた世界や時代を破壊しに来る厄介者でね。だがそれゆえにそれらの領域を超越する力を持っていて、それは我々にとっても有用だった。だからミライドライバー計画の最終段階として組み込もうと構想されていた」
ソウゴはライセに駆け寄って介抱した。
幸いにして、いや体質ゆえか。目立った外傷はなかった。
「よって、今ギンガを取り込んだことでまがりなりにだが、本来の計画の完遂となったわけだ。これでバグを起こしていたドライバーは正常な状態となる」
「なると、どうなる」
ソウゴは白ウォズを軽く睨みながら問いかけた。
すると美青年然とした男はニヤリと両の口端を吊り上げて答えた。
「いやぁ、ご協力感謝するよ魔王。おかげで
この世界は。前提を、彼はことさらに強調した。
そのことに嫌な予感を覚えたソウゴは、低い声で尋ねた。
「じゃあ、俺たちの世界はどうなるんだ?」
と。
白ウォズはせせら笑ったままに答えた。
「さぁ? ただこのまま消滅現象そのものは止まるとも思えない。いずれは跡形もなく消え去る運命だろうね」
「……騙したのか!?」
ソウゴは白ウォズに掴みかかった。
その手を邪険に払いながら、青年は冷たく返した。
「わたしは君の時間軸を救えるなんて一言も言っていないだろう? だがこれで共倒れになることは回避できる」
それに、言葉を継ぎ足す。
「以前君は言ったじゃないか『自分の未来を、最後まで諦めるな』と。……今がその時だよ、魔王。わたしは今度こそ、自分の未来をつないでみせる」
逆に肩に置かれた手に、尋常ではない力が込もる。確固たる信念の火が、細められた双眸に宿る。
それでも、やはり許されることではないだろうと思った。少なくとも、ゲイツがこんな騙し討ち同然の策を是とするはずがない。
そう思って、ソウゴはゲイツを顧みた。
だが、首を向けたままに、彼は固まった。そんな彼の様子を見てその視線を追っていた白ウォズもまた、つい今し方の勝利の優越を失い、血の気を引かせていた。
彼らの視線の先には、吐血して膝を落とす、痩せ枯れた老人の姿があった。