ソウゴがもときた道を辿ってゆくと、例のゲイツ像の奥、そこにはまだ主水のタイムマジーンが残っていた。
「問題は俺に使えるかだけど」
コクピットで背後から見る限りでは、操作はさほど差がなかったように思える。仮面ライダービルドこそ
そしてその機体に接近しようとした矢先、その直感がソウゴの足を止めさせた。
操作できるかどうかではない。もっと原始的な、生存本能めいたものが、彼にそれを乗ることを躊躇わせたのだ。
そして逡巡する暇もなく、その予感は現実のものになった。
機体の上空が、裂傷のように、赤く引き裂かれた。
その亀裂の奥から、メカと獅子を強引に混ぜ合わせたような、禍々しい巨影が降り立ち、主水の形見を跡形もなく踏み付けにして粉砕し、爆散させた。
血の色と錆びた金色によってカラーリングされたその頭部には、アナザーライダーのウォッチが埋め込まれていた。それが誰の所有物なのか、一目瞭然で、やがてそれは、開かれたコクピットから吐き出されるようにして飛び降りた。
「アナザーゲイツ……! ここまで追ってきたのか!?」
白ウォズの理屈に当てはめるのなら、これらのアナザーライダーはただの『現象』に過ぎない。よってソウゴの独語じみた問いかけに答えるどころか、理解さえしていまい。
だが、それでも彼がここにいて、なお敵意を剥くことが、何よりの肯定だった。
まるで、仮面ライダーゲイツとはオーマジオウの敵対者であると、盲目的に体現するかのように。
アナザーゲイツが地を蹴って迫る。
「くっ」
それと戦うことは、無意味な足止めどころかその行為自体がソウゴらには有毒でしかない。それでも、こうも執拗に追いすがられては、戦うしかないだろう。
(ジオウⅡ!〉
ソウゴはジクウドライバーを腰に巻く。
現有する最大戦力たる、そのウォッチをスライドして二つに分けて、挟み込むようにしてベルトの両脇にセットする。
「変身!」
〈カメンライダー……ジオウ、Ⅱ!〉
二つの時計が、合わせ鏡のように、左右対称の動きでソウゴの背で針を回す。曲げて突き出した腕で持ってバックルを操作したソウゴを、ハウリングする強化されたジオウへと変身させる。
仮面ライダージオウⅡ。
自身と光と闇を受け入れたソウゴの決意が創り上げた、王道の第二段階。貴公子然としたその姿と、愛剣サイキョーギレードをもって、アナザーゲイツを迎え撃たんとした。
刹那、額の針が回った。
ソウゴの脳裏に、数秒後の世界が映し出される。
それこそがジオウⅡ最大の特性。いわゆる未来視の力。
それ自体が特異ではあったが、今回の予知はとりわけ奇妙だ。
男が、ソウゴの背後で銃を構えていてトリガーを弾こうとしていた。
この世界にはいないはずの男。いや、それどころか本来は、自分たちの世界の住人でさえない。
ソウゴは咄嗟にその場に踏みとどまって、頭を伏せた。
その頭上すれすれを、弾丸が通過した。アナザーゲイツの革命戦士然とした、胸部装甲に火花を散らした。
ジオウⅡの能力を知ったうえでか、それとも諸共にと思っていたのか、判断がつきかねた。
「……何でここに」
ソウゴは振り返って白いコートのその男に問わんとしたが、その無意味さを悟った。
手段にしても理由にしても、尋ねるだけ無駄というものだ。
――それこそ、門矢士同様に。
「沈没船よろしく、お宝を抱えたまま沈まれても困るんでね。手伝ってあげるからありがたく思いたまえ」
背から撃ったという後ろめたさを微塵も感じさせないどころか、恩着せがましい物言いとともに、その男、
ウォズは、門矢士の仲間と彼を紹介したが、先の戦いではスウォルツの側に味方してグランドジオウのウォッチを奪い、かと思えば返し、と思いきやディケイドと戦ってその力が奪われるきっかけを作った。
士も大概読みにくい性格をしているが、この海東大樹は目的意識や仲間意識や倫理観といったものがかなり希薄、あるいは独特で、それ以上に扱いに困る人物だった。
〈KAMENRIDE〉
その彼は、銃身を伸ばすようにして開いた装填口に、カードを挿し込むと、天へと向かって撃ち放つ。
「変身!」
〈DIEND!〉
引き金を指で押し込むと同時に発せられたのは、銃弾ではなかった。
彼のライダーとしての素体。それがプリズムのような虚像が彼を基点として交錯し、収束し、実体化して頭上に回りながら展開したパネルと組み合わさって、ライダー、ディエンドの
ディエンドは銃口を切り返して連射。アナザーゲイツをけん制しつつ、空いた手を虚空にかざす。
ディケイドと同様に世界の境界を越えて渡る力のある彼は、例の灰色のオーロラを生み出し、そこをくぐるようソウゴに示唆した。
「ほら、行った。せめて僕がお宝を取りに行くまでの間、保たせておいてくれよ」
その不遜な言いぐさは彼なりの照れ隠し……なのではなく、掛け値なしの本心なのだろう。
だがタイムマジーンが大破した今、その気まぐれに従うよりほかなかった。
オーロラを抜けようとした手前で、ふと尋ねたいことがあって、ソウゴはアナザーライダーと戦う彼を顧みた。
「ねぇ、聞きたかったんだけどさ。……あんたの言うお宝って、なに?」
「お宝はお宝さ」
片手間にアナザーゲイツの猛攻をいなしながら、海東は答えた。いや、答えにさえなってはいないが、あるいは自分自身でもこれといった定義はないのかもしれない。
「じゃあ、何のためにそれを集めてるの?」
答えはない。戦闘に集中している、という体で黙殺した。
そんな彼に、ソウゴは重ねるようにして推論をぶつけた。
「お宝ってさ、人に見せたがるものじゃん。ひょっとしてあんた、門矢士に自慢したいんじゃないの?」
ともすれば執着していた宝物さえ、次の瞬間には興味を喪って未練なく手放す。そんな複雑怪奇な男が、唯一変わらず執着しているものが、ディケイドこと士だった。
だとすれば似ている、とソウゴは思った。
ずっと王となることを言い訳にして、自身の本心を打ち明けなかった、かつての自分自身と。
「あのさ、俺も言われたんだけど、もっと自分に素直にな」
「やめてくれないか、そういうソレっぽいこと言うの」
ソウゴの好意をピシャリと跳ね除けるように、海東は言った。
性格同様に複雑な構造のマスクからは、表情を読み取ることはできない。だがその攻防に一瞬の乱れが生じ、不意を突かれたディエンドはアナザーゲイツの、ねじくれて先端を尖らせた弓から吐き出された光弾を浴びて転がり、片膝をついた。
だがその時には彼は、一枚のカードを指に挟んでいた。
ソウゴにも見えるように翻したそのカードには、ソウゴもよく知るライダーのバストアップ姿が描かれていた。
〈KAMEN RIDE GEIZ!〉
カードを装填すると、ディエンドはふたたび銃口からプリズムを撃ち出した。
消えたはずの友の姿が、虚像としてのゲイツが現れ、どこか機械的な気を吐くと同時にジカンザックスを手に攻めかかり、みずからのアナザーと武器を打ち合い、肉薄した。
ソウゴは驚き、そして呆れた。
あえて彼の虚像を喚び出した理由はおそらくは嫌がらせ、意趣返しといったところか。だがまさか、ゲイツの影法師までも自身の力として手に入れていたとは。
これでこの空間にはこの偽ゲイツと、アナザーゲイツ、そして別の時間軸のゲイツがいることになる。
「まるでゲイツのバーゲンセールだ」
ソウゴは思わず呟き、言った後で苦い顔を作った。
冗談のつもりで言ったわけではなかったが、もしそうだとしたら笑えないにもほどがある。
「あっちの世界は任せて」
ソウゴはあえて虚像のゲイツにそう言った。だがそれをを介して、自分たちのゲイツと、この世界に残すもうひとりの友へと向けた言葉だった。
そしてソウゴは、自分が目指すそれとは異なる『2068年』に背を向け、心の内で別れを告げた。