来海ライセは、現とともに夢を見る。
……いや、今となってはどちらが夢でどちらが現実なのか。或いは自分にとってはどちらも紛い物なのか。
今、ライセの意識は知らぬ未来に在ると同時に、みずからの内に広がる虚無の世界で青年たちと向き合ってもいた。
「分かったんだ。彼が来たことで、俺たちが何なのか、そしてどうしてここに来たのか」
彼ら四人の代表として、蓮太郎が口を重く開いた。その視線に先には、少し外れたところにいる堂安主水の姿があった。
「俺たちは、記憶が抜け落ちていた訳じゃない。逆だったんだ」
「つまり俺たちこそが、記憶だった。ミライドライバーによって収拾されたライダー達の戦闘データ。そこに混じる、彼ら自身の記録が形を成したもの。それが、俺たちだ」
レントが言いにくそうにしているところを引き継いだ。
主水は腕組みしながら、あとの説明を付け足した。
「俺は自分の知恵で戦うライダー。つまりは、戦いの大部分は俺自身の記憶で、だからこそ記憶の大部分をこちら側へと持ってこられたってわけだ」
もはや、何も言われてもライセの心が動くことはなかった。だが、死んだような、凪の海のような彼の内で唯一浮き上がっていた小石のようなものが、砕ける音を彼は確かに聞いた。
「ちょっと待てよ、つまり僕たちはコピーされた偽者ってことか!?」
「偽者じゃない、一部だよ」
「同じことだろ!?」
勇道が一般人的な意識をもって喚き立てるおかげで、どこか冷静になれている部分もあった。
「別にどうでも良いよ、もうなんだって」
そう言って、彼らの前をライセは横切った。
「なんでも良いって、こっちは良くなんてないぞっ、おい!」
憤慨する好敵手を蓮太郎は背後からそっと押さえつけて、場の空気を濁すことを防いだ。その上で、彼は尋ねた。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
本当は、ひとりでも行くつもりだった。打ち明ける必要も感じなかった。
それでもあえて、ライセは渦巻く星屑の前で立ち止まって答えた。
「ギンガの力を、モノにする」
たしかにギンガの存在が、自分の中でなお息づいているのを感じていた。
だが、ウォズという男にウォッチをねじ込まれてからずっと、異物感が拭えないでいる。おそらくは非正規的な方法で手に入れた力であるからだろう。このままでは他のライダーのように、十全に力を発揮できる感触がない。
あの、世界を食い尽くすような膨大なエネルギーを扱えるようになれば、あるいは現状を打破できると考えていた。あるいは、元凶たる『
それが本当に効果のあることかは分からない。だが今のライセにはそれしかなかった。
自分がめちゃくちゃにしてしまったこの世界に対する贖罪。それが、今の自分が赦されている唯一の存在意義だと、信じていた。
「あんたらが偽物か本物かなんて関係ない。短い間だったけれど、今まで俺と一緒に戦ってくれた。あんた達は、俺の」
言いかけたことを、言いたかったことを、彼は口を一時閉じて飲み込んだ。
そのうえで、彼らにいぶかしまれないように別の方向へと逸らして言った。
「――俺の、被害者だ」
軽い吐息めいたものが、誰かの口から漏れた。
「頼む資格がないことはわかっている。それでも、どうか最後まで力を貸してほしい」
顧みて、頭を下げる。
最初は当惑を見せていた四人ではあったが、すぐに精悍な戦士の貌となって、強くうなずいたのはその肉体同様に強固な精神性を持つ男、真紀那レントだった。
「俺たちは仮面ライダーだ。元々、世界と子どもたちの未来を守ることに身を捧げることに、ためらいはないな」
そう言って、ギンガの座すであろう空間へとつながる星の門へ、ライセの脇をすり抜けて進んでいく。
続いたのは意外にも、今生勇道だった。
「ええぃ、こうなりゃヤケだっ!」
と、声を上ずらせて眉目秀麗な顔を両手ではたきややぎこちない歩き方で流星群の中へと吸い込まれていく。
となれば、残っていたのは二人だった。彼らも世界の危機を前に足をすくませるような人間ではない。きっと賛同のうえ、門へと向かってくれる。
「お前は、それで良いのか?」
……そう、ライセは思っていたのだが。
堂安主水は、彼の前に立っていた。
「今の俺には、いや俺たちには何もない。だがそれでも、俺は親父の生きている世界を、今この時をマトモにしたい。だから自分が消えてもウォズに協力した。だがお前が目指すものは、一体なんだ? 誰にとっての何になりたいんだ?」
老いた彼同様、すべてを見通すかのような澄んで理知的な眼差しを注ぎ、神妙な調子で尋ねる。
「そんなこと……何もない俺に答えられるわけないだろ」
対するライセが返せるものは、冷たく乾いた笑いでしかなかった。
「……そうだな。今のお前に出題したところで、どうしようもないか」
そっけなく言い放った主水は、何事もなかったかのようにギンガの待つ空間へと足を踏み入れた。
勝手に入り込んで勝手に尋ねておいて、勝手に納得して議題だけを残して勝手に先に行く。
元の人格も大概に一方的だったが、どうやらそれは歳は関係なく元々の性分らしい。釈然としないライセの肩を、横に並んだ蓮太郎が、軽いタッチで叩いた。
「最後まで見届けるつもりなんだよ。俺も、あいつらも。だから色々と気を揉んじゃうんだ」
咎めることもせず、ライセが拒んだ問いかけを追及することもせず、ただいつものように、少し緊張感に欠ける明るい調子で言って笑いかける。
「じゃあ、行こうか」
と蓮太郎に促されるままに、ライセは自分の中に眠る規格外の存在を目覚めさせるべく、その空間へと足を踏み入れた。