星の渦をくぐった先に広がっていたのは、まるでどこかの惑星の採掘場のような、荒涼とした山肌に囲まれた窪地だった。
その岩盤に埋もれるようにして、かの仮面ライダー、ギンガは眠っていた。
朽ちたような色合いと、枯れ枝に絡め取られた、見るも無残な姿となって。
その手前まで五人は進み出たあたりで、
「……で、どうするんだコレ?」
端的に言って、尻込みをしていた。
チームきっての知恵者である主水にすがるような目を向けるも、「俺が知るか」と言下に切り捨てる。
不意だったのか故意だったのか、蓮太郎は勇道を後ろから押し出し、勇道は仰天して慌てて引き下がった。
それと入れ替わるように、恐怖心の薄いレントが不用意に触れようとして、あわてて他の三人に取り押さえられた。
「いや、起動させるんだろ?」
「そりゃそうなんだろうけど! こっちにも心の準備ってもんがあるでしょ!?」
「起こしたら起こしたで、どうやってコンタクト取るんだよこのエイリアン」
「エイリアンじゃなくて、エネルギーだよ」
「じゃあなおさら無理だろ!」
出自も時代も違う人間の、様々な声が入り乱れて、愚にもつかないコントじみたやりとりをライセの目の前で、内部で繰り広げる。
(わずらわしい、わずらわしい、わずらわしい)
こだまするその声が、ライセをさらに苦しめるとも知らず。
果てなく『無』である自分の心が、窮屈に感じるほどに。
コピーされただけの、ないはずの心が動くように感じてしまう。それがたまらなく……嫌だった。
素直に諦めさせて欲しいと、思う。
「無理だな、『それ』じゃギンガの力は引き継げない」
背後からかかった声に、一同は驚いて振り向いた。
ライセでも、まして他の四人でもない、第六の男の声。
マゼンタ色のシャツにスーツ、その前にトイカメラを提げた男が、異物でありながらごく当たり前のように、ライセ達のような特異な存在しかいないはずの空間に居合わせいた。
「力の継承には意志が要る。それはもうただの出がらしだ」
唖然とする四人をレンズに収めてパシャリと一枚。軽めのシャッター音とともに写し取る。
「あ、あんたは……!?」
ライセは問いかけて思い起こす。
ソウゴのいたビルまで自分を誘導した男。恰好が違っていたから一瞬わからなかったが、その傲岸不遜な物言いとふてぶてしい表情は見忘れようがない。
「通りすがりの仮面ライダーだ。別に覚えなくていいぞ」
ライセの問いかけを受けて一応名乗っているつもり、なのだろうか。
仮面ライダーの一人であること以外は一切謎に包まれたその男は、
「ひとつの時代の節目、その歴史を総括するライダーが決まって現れ、力の使いどころを問われてきた」
と、人差し指を天へと立てながら、彼らを追い越し、手で後ろへと追いやってギンガへと近づいた。
「ある者はすべてを破壊し、ある者は自分の大切な者のために生と死とをひっくり返そうとし、そして今もうひとり……は聞くまでもないが、お前はどうするつもりだ? 来海ライセ。自分より先の時代を統べるライダー。本能に従いすべてを無に帰すのか? それとも……」
ライセに高く伸びた背と、涼やかな横顔を向けながら問いかける。
問い、またも問いだ。いったいこの仮面ライダーたちは、空っぽの自分に何を求めているというのか。
「それを、『あいつ』も知りたいそうだ」
答えを待たずして、男はギンガへと歩いていく。否、その間に生じた灰色の障壁が打つ浪の中へと消えていく。
「だから、
その彼と入れ替わるように、何者かの影が、この荒地へと侵入した。
次の瞬間、暴風が生じた。熱波が、ライセたちの恃みとしていたギンガの残骸を消し飛ばし、そして彼ら自身を数メートル先へと吹き飛ばした。
巻き上がった砂塵の芯に立っていたのは、ひとりの男だった。
銀色と濃紫で紡がれた、材質不明のロングジャケット、分厚いブーツ。それらは経年と積み重ねによって擦り切れていて、彼が経験した途方のない旅路を、初見のライセ達にも強く物語っていた。
ばさばさと黒い蓬髪をかき乱し、そのうえで、跡形もなく穿たれたギンガの痕跡を鼻で嗤い、そのうえで上半身をねじるようにしてライセ達を顧みた。
「てめぇか。俺たちを飲み食らおうってのは」
乱暴な口調だが双眸は無垢な少年のような光をたたえ、引力めいた強さを感じさせる。
「な、なんだあんたは……!?」
思わずそれに呑まれそうになりながら、ライセは尋ねた。
その問いを待っていた、といわんばかりに、若さと少壮の狭間にいるその男は唇を歪め、そして開いて答えた。
「来海、
自分と同じ響きを持つ、その名前を。
「もう一つの名は」
唖然として凍りつく彼らの前で、彼は円形のプレートを腰から引き抜いた。
それを押すと、放出された光がさながらプラネタリウムのように無数の星々や、巨大な太陽となって天に広がった。
それぞれが放射する煌めきは乱反射し、集合離散を繰り返しながら、男の腰回りに落ちてきて、それが黒いベルトをデザインし、かつ物質化した。
「変身」
手にしたプレートを一度大きく突き出して頭上を周回させ、流星のような軌道を描いて腰のバックルに重ね合わせる。
〈ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー!〉
惑星群が落ちてくる。太陽を中心に渦を巻きながら、磊星と名乗った男のもとへ。
男がそれに飲み込まれた。いや、逆にそれを取り込んだ。
その衝突の余波がライセたちに直視を許さない。思わず一瞬目を瞑った彼らの目蓋を、熱と光が炙る。
それが引いて目を開けた時、すでにその力は、姿は磊星の支配するものとなっていた。
宝石質の目、妖星閃く紫のスーツ。アンテナのような触覚。
マントやいくつかの装飾、ハットの鍔のような円盤こそないものの紛れもなくその形状は……
「燃える太陽、無数の惑星。遥かな宇宙は俺の庭」
口上とともに手を大仰に動かし、そして彼は改めてそのライダーの名を、そして自身のもう一つの名を、ハウリングの効いた得意げな声調で挙げた。
「仮面ライダーギンガ、ここに創世」