「ライセ、あいつは」
「あぁ」
蓮太郎が言いかけたことを、ライセは先回りして頷いた。
信じがたいことではあるが、おそらくは、並行世界……ソウゴの世界でもゲイツが勝利した世界でもない、もうひとつの世界からやってきた仮面ライダーギンガ。
その力を手に入れ、正当に自身のものとした、来海磊星という人物が、今目の前にいる存在なのだろう。
ソウゴの友人が死ななかった可能性の姿なのか、あるいはまったくの別人なのかはともかくとして。
そのギンガに変身した彼の姿が、にわかに消えた。
刹那、激しい痛みがライセの腹部を直撃した。
転がる身体。大きくブレる視界。その前で、ギンガが一度突き出した拳をゆっくりと引き戻している最中だった。
「い、いきなり何を……?」
「おいおいおい、ちょっと撫でただけだろ。」
よろめきながら立ち上がるライセにギンガはうぞぶいた。
「――もっとも、この程度でヘバるような軟弱モンに、俺の力はやれねぇがな」
なおふてぶてしく言いつのりながら、みずからの『贋作』へと磊星が歩を進めていく。
その間に、蓮太郎たちが駆け寄り、立ちはだかった。
「……お前ら、自分が何してるかわかってんのか?」
帽子を上から押さえつけるような仕草をしながら、磊星は四人のライダーたちに追及した。
「そもそも、そいつを殺すための力がこのギンガって話なんだろ? だったらこのままこの俺が倒したところで問題ないじゃねぇか」
粗野なようでいて、彼は物事の要点を掴んでいた。そのうえで正論をまっすぐぶつけてきた。
そうだ、とライセはまだ言葉を発せられずとも肯定する。
だが自身の存在に対して揺らぐ彼と、ギンガの間に立つ四人のライダーが、納得して退く様子はなかった。
「違う……俺たちはそんなことのためにお前の力を使うんじゃない」
「はっ、じゃあなんだってんだ」
「決まってるだろ!」
嗤うギンガに啖呵を切って、蓮太郎は銀色に光る瓢箪を取り出した。
「ライセの心も救い、世界も救う……そんな正しい力の使い方をするためだ!」
蓋を開けて溢れ出た流動体が彼の腰で輪を作る。ベルトを形成する。
他の三人もまた、各々の手段でベルトを自身の腰へと転送していく。
ミライドライバーをベースとする黒鉄の変身アイテムに、今までライセが用いてきたデバイスを当てていく。
回す。嵌め込む。スライドさせる。
〈誰じゃ!? 俺じゃ! 忍者! シノビ、見参!〉
〈踏んだり! 蹴ったり! ハッタリ! 仮面ライダーハッタリ!〉
〈ファッション! パッション! クエスチョン! クイズ!〉
〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ! 仮面ライダーキカイ!〉
虫のマシンからアーマーのパーツが射出される。
その合間を紫電がすり抜け、○×のパネルに反射される。
それぞれのアクション、各々に手足を舞わせ、別々の音曲を奏でる。
だが異口から放つのは、
「変身!」
という、決意を込めた同じ音。
仮面の戦士の姿となった彼らは、四人並び立つ。
だがその列に、ライセはいない。
その力がない。資格がない。自分が一方的に収奪してきた能力と姿は、今彼らの元に戻り、彼に残されたガワは、来海ライセの写し身のみ。ただ立ち尽くし、傍観するよりほかなかった。
「悪いが、ライセは消させない。その力を貸してもらう、そのためにアンタに認めてもらわなくちゃいけないというのなら……俺たちが相手になる」
彼らの総代として進み出たシノビが、強く宣言する。
ギンガは肩をすくめるようにして笑った。
「面白ェ。そこの腑抜けをただ潰すよりよっぽど楽しそうだ」
「はっ! そんな強がっても、外で戦った奴よりもグレードダウンしてるのが外見でバレバレだってーの!」
挑発にあえて乗る形で果敢に先陣を切った……もとい無謀な独断専行に奔ったのは、ハッタリだった。
逆手に構えた刀で斬りかかった彼を、ギンガはその場から一歩も動くことなく微妙な重心移動と手による捌きでいなし、つんのめった勇道に強烈なカウンターパンチを見舞った。
その一撃は、音だけで、ハッタリの悲鳴だけで強烈さを他者に伝えるのに十分過ぎた。
シノビは足下に転がるように押し戻されたハッタリを介抱しながら声を飛ばす。
「油断するな、初手から一気に畳みかけるぞ」
シノビは印を結び、我が身を立て直したハッタリもまた、同じように技巧の指捌きでそれに倣った。
「火遁の術!」
「水遁の術!」
〈ストロング忍Pow!〉
シノビたちの口元と手の合間から吐き出された炎が、水流が、ギンガへと当てられる。
一対多。だがそれを、磊星が卑怯だと非難する様子はない。
彼自身が、ライセやライダーたちが、そして一度当たってみた勇道が、感じていたことだ。
ギンガこそが、ここにいる誰よりも最強の存在なのだと。
それ以外が結託して総攻めをかけて、ようやく抗し得るのだと。
現に、自然エネルギーを利用した彼らの忍術が、ギンガに通用している気配はない。
だがそれも計算のうちだ。彼らの合体攻撃は左右にクイズとキカイが展開するための牽制であると同時に、彼ら自身の布石でもあった。
「今だっ、蓮太郎!」
勇道が水攻めを続行しながら鋭く指示した。
「はっ!」
〈メガトン忍Pow!〉
気炎一声。
蓮太郎は刃を大きく旋回させて竜巻を引き起こした。
だがその嵐の中でも、ギンガは悠然と構えている。
それで良かった。忍者たちが変化を起こしたかったのは、彼自身ではなくその周囲だったのだから。
炎熱と衝突したハッタリの水流は、蒸発した。それが風によって巻き上げられ、塵と一体化すると色をつけて天へと登っていく。
やがて現れたのは、空にかかる大きな雲だった。それこそ、この空間にも存在する太陽を覆い込むほどに。
火と水、そして風。
三位一体の合成忍術をあえて称するならば、さながら雲遁の術といったところか。
陽光を失えば、ギンガは弱体化する。
その事前知識を得ていたからこそ、あえて示し合わさずとも四人はその作戦を遂行出来た。
〈ファイナルクイズフラッシュ!〉
〈フルメタルジエンド!〉
タイミングを合わせて、キカイとクイズが必中必殺の体勢に入る。
だが、ギンガは直立をしたままだ。
やはり太陽光を遮られて移動能力さえ奪われたのか。そう思うのは容易だったが、妙な胸騒ぎをライセは覚えた。
「……そんな太陽を消せば、どうとでもなる? そんな風にはなるかよ」
そしてその予感は彼が制止するよりも早く現実のものとなった。
ギンガの胸のキューブが燦然と閃く。光の宝珠が生み出され、その眩さに直近にいたシノビ達が目を背けた。
だがライセにはそれが不思議と見て取れた。ギンガに起こった変化が。
その光の球……小型化された太陽は円盤状に平たく変形し、ギンガの頭へと収まった。さながらハットのように装着されると一度、一際大きな光輝を放った後に全身のスーツの下地とともに朱色に変色した。
迸る熱波が、地面を焦がし、チチ、と鳥のさえずるような異音が立った。
〈灼熱バーニング! 激熱ファイティング! ヘイヨー! タイヨウ! ギンガタイヨウ!〉
本人の豪放な性格に見合った派手な意匠に派手な音声。
揺らめく炎のごとき帽子の鍔を摘みながら、来海磊星は得意げに言い捨てた。
「何故なら、この俺自身が太陽だからなァ」