RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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last episode:仮面ライダーミライ(1)

 2019年。橋の手前。ふたつの世界の境界。

 

 地に墜ちた『逢魔降臨暦』が、泡に沈んで融けていく。

 その痕跡を踏みにじり、際限なく増殖するアナザーライダー、それらに追随する怪人たちが、世界を埋め尽くしていく。

 ――かくして、その世界に残された人類は、もはや生存さえも諦めていた。せめて自分たちの終焉が苦痛のないものであることを、祈るのがせいぜいか。

 

 ただその世界で唯一の仮面ライダーが、唯一の諦めていない者が、追いすがる怪異の群れの中を突っ切って噴水広場に躍り出た。

 

〈アーマータイム! Turn Up! ブレイド!〉

 

 他でもない。仮面ライダージオウこと、常盤ソウゴである。

 銀と青の騎士鎧をまとった彼はジカンギレードを手に、世界の絶望に抗う。

 すべてが虚無に呑まれかけた状況下で、友を信じ、勇を奮い、剣を振るう。

 

 巨大な古生物を思わせる上半身を持つ、同じく角を一本立てた怪物がその行く手を遮った。

 アナザーブレイドであった。奇しくもかち合った両者は数号の剣戟を交わし、競り合った。だが振りの速さ、判断力と小回りの利きによって、そのアナザーライダーの攻撃を牽制した。

 そして最後、大上段からの振り下ろしが正面から襲いかかった、ソウゴはそれを受け止め、かつ勢いを殺してしのぎ切った。

 ソウゴは、ベルトを、そこに取り付けられた二つのウォッチのボタン操作とともに回転させた。

 

〈フィニッシュタイム! ブレイド! ライトニング、タイムブレーク!〉

 

 ブレイドアーマーの両肩に円弧を描くようにして取り付けられたカード。それらが稲妻を帯びて飛散した。

 それがアナザーブレイドと、その後続のローチたちを弾き飛ばして、そして直線の軌道を作り、怪物たちを縫い付けた。

 

 一度大きく腰を沈めて捻り、力を溜め刃を退かせていたソウゴの身体は、射放たれた弓のように敵めがけて突っ込み、重ねられたカードもろともアナザーブレイドほかを串刺しにした。

 

 紫電とともに爆発四散したアナザーライダーだったが、刹那、ソウゴの身体を、重力が倍化したかのような脱力感が襲った。

 

 ジオウのスーツを鎧っていたブレイドの力が泡沫とともに消え、そしてベルトに取り付けられていたウォッチもまたブランクと化して地面に落下した。

 

 ――ふたつの世界は、同調している。融合しつつある。

 よってどちらかの何者かに変化があれば、対になる存在にも影響を及ぼす。

 片方の世界で何かが消えれば、もう片方の近似した何かが、それと紐づけされているがごとく、併せて虚無の深淵へと引きずり込まれる。

 

 『無』によって書き加えられた世界の法則は、ソウゴの手元からレジェンドたちから継承した力のほぼすべてを、想いを無慈悲に奪い去ってしまっていた。

 

 それでも使わずにはいられない。無尽蔵に現れて世界を食い尽くしつつあるアナザーライダーたちを、止めないわけにはいかない。

 

 

 

 声が聞こえた。

 ソウゴ自身の内から。心の臓のあたりから。地を響かせるような、そして格の違いを相手に直接刻み付けるような、強く低く、威厳に満ちた美しい声。

 ――王の、声。

 

 

『若き日の()よ』

 

 

 声は語る。自分(ソウゴ)へ。2068年の荒涼とした大地から。かつてのおのれと英雄たちの彫像を背に。

 

 王の名は、オーマジオウ。いつか来る、常盤ソウゴの姿。

 ジオウであってジオウを超えた黄金の覇王。

 ジオウであってジオウであることを捨てた黒き魔王。

 

『形こそ違えど、それこそが私の見た光景だ。仲間もなく、民はあてもなく救いを求め、あるいは諦め、そして地にて抗い続けるのは己のみ。だがその孤高の道こそが我が王道である。最高最善の王へと続く道程である』

「……」

『それでもなお、お前は消滅した仲間とともに己が望む王道を進むというのか?』

 

 抗弁を許さない、圧倒的な独善に満ちた響き。だがどことなくそこには、案じるがごとき響きを感じるのは錯覚だろうか。

 その未来の自分でさえ、時の乱流の前に像が多重にぶれつつあった。書き換えられようとしていた。

 だがオーマジオウは、50年後の時の魔王は、その威厳を保ったままに泰然と、無人の領土に君臨し続けていた。

 

「……最近、なんとなく思うんだけどさ。あんたって実は、ゲイツたちの言うような極悪人じゃないのかも」

『……』

 

 もしかしたら、自ら号するとおり、世界を救った最高最善の王のかたちなのかもしれない。

 ひょっとしたら、この響く声自体、追い詰められた自分の空想でしかないのかもしれない。

 

 そう思いながらも、膝につきそうになる我が身を叱咤しながらも、ソウゴは重ねて強く言い放つ。

 

「でも俺は()()()()()ならない。たとえ今は消えていたって、俺の中からはゲイツたちや平成ライダーたちの想いは消えない。……ライセもきっと、ここに来てくれる」

 

 それに、とソウゴは体勢を立て直した反動とともに、腕に一個のウォッチを取り出した。

「俺はまだ、全部の力を喪ったわけじゃない……!」

 それは、黒を基調としたライドウォッチ。ある意味においては、ブレイドのそれと対になる存在。

 

〈カリス!〉

 

 ウォッチを回し、鳴らし、空いたベルトのソケットへと装填し、不死者の力を、鎧を呼び起こす。

 カマキリのように天を向いた触覚。胸のプレートに刻まれたのは、その慈愛に満ちた持ち主の気高さを示すかのような、無骨に角張っているものの、大きく広いハート。両肩に、左右に分離した弓弦がしなる。

 

〈アーマータイム! Change! カリス!〉

 

 黒い鎧によって我が身を上書きしたソウゴの両目に、ライダーの名を、そして血液の色を模した瞳が明滅した。

 

 この亜種的なアーマーチェンジは、ただ単純にアナザーライダーたちを駆逐するためだけに使うのではない。

 世界が崩壊する運命にも、自身が孤独な勝利者になる宿命にも、屈することなく挑み続けるための力だ。

 同じく苦境と絶望を乗り越えて、来てくれるであろう、友のためにも。


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