RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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last episode:仮面ライダーミライ(4)

 ――仮面ライダーミライ。

 本来はベルトの仕様にないはずの、どの時間軸にも存在してはいなかったライダー。

 

 その誕生は世界の流れを一変させた。

 だがそれは、ソウゴ個人の所感や比喩ではなかった。

 

 実際に、風向きが不自然にうねりを作って変化していく。

 地が揺れ、見えない芋虫のようなものが、あるいは透明な波が、彼らの足下をすり抜けていくのが肌身で感じられた。

 

 その流れに、黒いパーツが、禍々しい紫色がつく。

 形が作られていく。

 

「簡単な話だったんだ、ソウゴ」

 

 ライセは、ミライは、その流れの行き着く先を静かに見届けながら言った。

 

「この並列する世界では対になる存在は互いの影響を受ける。破壊すれば消滅し、消滅すればその反存在が発生し……影響の及ぼし方はさまざまだけど、それは俺()()自身にも言えることだ」

 

 複数形を強調して彼は言った。だがそれはソウゴをカウントしていないかのようだった。その眼差しは、意識は、自分自身と、今まで目に見えなかった何者かに向けられているかのようだった。

 

「『無』は誕生した衝撃で世界をふたつに分けた。けど、自分自身も分断されてしまった。アバターである『来海ライセ』と、滅びの現象として表出したものへと」

 

 そう説明を続ける最中にも、『それ』はソウゴもよく知る平べったい円形のものへと急速に変わりつつあった。

 

「けど、『ライセ()』はもう空っぽのコピー品じゃない。ライダーとしての個を確立した。……あの白い男がそこまで考えてたかは知らないけれど」

 

 ――それは、一個のアナザーウォッチだった。

 

〈MIRAI〉

 

 核となって不気味な音声を鳴らし、闇の霧が周囲の領域を閉ざしていく。

 その中に囚われた怪人たちやアナザーライダー、過去の遺物を食らってリソースとして、骨格を作り肉を作る。

 

「対となる現象としての『お前()』もまたその性質上、実体化せざるを得ない」

 

 それは、自身の手足を、信じられないという調子で、窪んだ眼で見下ろしていた。

 幽霊船の船長という塩梅のその怪物は、基本的なフォルムをミライと同じくしながらも決定的に違っていた。

 

 襟首に『----』と表記された、すりきれた外套。ほつれて白く濁ったマフラー。その腰回りには勲章のように手裏剣のようなものやスパナ、クエスチョンマークなどが取り付き、地球を俯瞰したような円い図形はバックルに。

 帽子の角度はさらにえぐいものとなり、さながらカタカナの『ム』という文字を歪めたようにも見える。もう半分のマスクはライダーとしてのものではなく、ドクロを模したものであり、大きな裂傷が目元に入っていた。

 

 だが、その眼の奥底は虚無。空である。

 

 みずからの半身であり、歪められた虚像を見せられながらも、仮面ライダーミライは至極冷静に締めくくった。

 

「――アナザー(もうひとつの)ミライへと」

 

 望まずして肉体を得たことに、『無』は少なからず動揺していたようだった。

 だが、その空洞を以てライセを睨み返した。

 

「そして俺たちはこの世界に打ち込まれた楔だ。そのどちらもが消えれば……俺たちの『母体』は世界に対するアプローチを喪い、世界は元に戻る……!」

「なるほど、お前の狙いは我々自身の対消滅か。世界がそうなる前に」

 

 その怪人、アナザーミライは鼻で嗤うようにして言った。

 対消滅。剣呑な言葉を耳にして、ソウゴは進み出た。

 しかしライセは後ろ手でソウゴを遮った。

 どことなくそのライセのものを似せ、かつ低くした音調でアナザーミライは続けた。

 

「それが意味することをわかっているのか? 創造主に刃向かうのか」

 

 対してライセは、マスクの奥で笑ったようだ。

 

「それが、仮面ライダーってもんだろ」

 

 ライセの軽口を無視して、アナザーミライは地を蹴る。

 ライセもまた、拳を突き出して飛び上がった。

 

 質量を持たせたすべての元凶へ。

 もうひとりの自分自身へ。

 この世で唯一無二の、他でもなく自分が立ち向かわなければならない敵へ。

 

 そして、来海ライセは挑みかかる。

 ――仮面ライダーとしての、最初で最後の戦いへと。


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