ジオウは消えた仲間たちの姿を枉げた怪人たちと、もつれ合いながら激闘を繰り広げていた。
すなわちアナザーウォズ、アナザーゲイツと。
だが、ソウゴもよく知る彼らの力を模倣したその手ごわさは群を抜いていた。
防ぐ間もなく、休む間もなく、その鎌刃が、斧がジオウを苛む。
力を奪われ、素体で抗戦せざるを得ない常盤ソウゴを苛む。
だが時間とともに不安定になりつつこの場でジオウⅡなど用いれば、アナザージオウⅡが再現されかねない。ヘタを打てば、自分の存在さえも危ぶまれる。
ジレンマに苦しめられるソウゴだったが、
「ジオウ!」
〈Follow your ミライ!〉
敵の向こう側から、声がした。天に光柱が立ち上る。
その中から突き出たものが風を切り、何かがジオウの手に投げ落とされた。
それは、一個のライドウォッチ。
白い基本部分に薄緑を施し、中央のディスプレイには見慣れたライダーのマスク。文字通りの『ライダー』の四字がモニター代わりになっているもの。
だが本物の『彼』がメインフォームへの変身につかうものとは形状が異なり、ジクウドライバー仕様となっていた。
「これって……ウォズのライドウォッチ!?」
「
ライセの声が遠くから快活に聞こえる。
その意味は分かるような分からないようなという心地だが、スイッチを押す手が自然と馴染む。
「それじゃ、ありがたく使わせてもらおうかっ!」
〈ウォズ!〉
敵の挟撃をかがんでかわし、我が身を転がせながら、その過程でベルトにウォッチを送り込み、そして回した。
〈アーマータイム! カメンライダーウォズ!〉
本来のウォズの変身音に合わせて、変身音が高らかに謳う。
本人のあの独特な意匠にも似たマフラーが首元に纏わり、カラーリングもウォズのそれへと調整される。
その魔性と知性が受け継がれたかのような、自信の高揚感が流れ込む。
そして、少し道が外れたあたりでライセの姿を認めた瞬間、
「祝えっ!」
その衝動に身を任せてソウゴは叫んだ。
「時空を超え、ありとあらゆる未来の可能性を照らす仮面ライダー、ミライ! まさに生誕の瞬間であるっ!」
ソウゴはそう強く祝う。
その誕生が何者にも望まれたものでなかろうとも、その存在が世界に拒絶されようとも、新たにできた友のため。
「なんだそれ?」
「へへっ、一度言ってみたかったんだよねー」
「まぁ、なんだか妙な気分だけど……そっちは頼んだぞっ!」
そう悪態をつきつつもまんざらでもない様子で、ライセはアナザーミライと接戦を繰り広げていた。
ソウゴもまた、因縁深いアナザーライダーと対した。
〈ジカンデスピア!〉
その柄を回しながら現れた槍を構え、大振りにないで敵を牽制する。扱い方は、トリニティとなった際に習得済みだった。
翡翠の穂先で鎌刃と打ち合い、金属音を鳴らす。
二歩、三歩と突きによって後退していくアナザーウォズ。石突にあたる部位でその足を払い、転ばせる。穂先を翻し、アナザーゲイツに叩きつけ、そしてふたたびアナザーウォズへと向き直る。
慌てて上体を起こしたが、もう遅い。ソウゴのくり出した神速の突きは、その歯車だらけの胴部を貫く。その勢いを借りて、ソウゴは虚から生まれたその肉体を浮き上がらせ、そして空けた左手でタッチパネルをスワイプした。
〈爆裂DEランス!〉
トリガーを引くと同時に槍が光輝を帯びる。幾何学的な模様を軌道に描き、そして近未来のエネルギーを過剰に流し込まれたアナザーウォズの耐久力が限界を迎え、その肉体から穂先が外れると同時に爆散した。
残るはアナザーゲイツである。
時空を超えてまで自分を狙ってきた相手。
ソウゴは戦術的に優位かどうかはともかくとして、選ぶウォッチは決めていた。
ウォッチを外して基本フォームに立ち返ったジオウは、すでに手の中にあるウォッチを見下ろし、語り掛けた。
「一緒に戦おう……ゲイツ!」
それは、もうひとりの明光院ゲイツから借り受けた彼のウォッチ。
本来のライドウォッチとは逆向きに投じると、ジオウの背に、アナログとデジタル、二種類の時計が組み合わさって回り始めた。
ソウゴは彼がそうするように、拳で叩いてベルトのロックを解除。両手を前へと突きのばしてからダイナミックに円を描かせる。
そしてドライバーを掴むと、一気に回した。
〈アーマータイム! カメンライダーゲイツ!〉
――彼の道が、誤っていたとは言わない。
だがその道を選んでしまったがために孤独となってしまった救世主。静止していたその時が今、ふたたび動き始めた。
ウォッチを模した防護が両肩に形成され、赤い装甲が総身を包む。
両手にはジカンザックスとジカンジャックロー。
獣のように唸るアナザーゲイツと相対すると、その体色が青く変色する。
奇しくも互いに、抽出したゲイツの力は、リバイブの特性までも内包しておたようだった。
眼にも留まらぬ速さを得て、直線的かつ不規則な動きで、それは天地を駆け巡る。
だがジオウ ゲイツアーマーもまた、それに相当するスピードでもって応酬した。
傍から見ればそれは、濃淡二種類の青色の風が、互いに絡み合いながら嵐となる様に見えただろう。
床、ビルの壁を余すところなく、重力に反逆しながら駆け巡り、その暴風の軌跡に触れた窓ガラスは、一拍子遅れて破損した。
そしてその速攻勝負を制したのは、ジオウだった。
最後の交錯のあと、つめモードとなったジカンジャックローによる痛撃を脇腹に喰らい、殺し切れない勢いのままに横転し、壁に激突した。
だがその主を保護すべく、アナザーゲイツのタイムマジーンが時空を切り裂き落下して、巨躯を以て立ち塞がった。
〈Oh! No!〉
〈パワードのこ!〉
ソウゴは手の内で武器を組み換える。弓を斧に、爪を鋸へ。
そのうえで、ジカンザックスにウォズのウォッチを、ザックローにゲイツのウォッチを装填する。
〈ウォズ! ザックリカッティング!〉
〈ジカンジャック! ゲイツ! のこ切斬!〉
ソウゴは吼えた。双肩に渾身の力を込めて振り抜いた。今もなおつながる仲間たちとの絆。それを確かに感じ取り、受け止め、継承しながら。
刃からほとばしる緑の放物線が、赤の軌道が、歪められた時空転移装置を左右から挟み込むかたちで粉砕する。
そして武器を収納したあと、ふたたびベルトに戻したゲイツウォッチをスイッチを、自身のウォッチと合わせて押し、そして時計を回す。
〈フィニッシュタイム! タイムバースト! タイムブレーク!〉
起き上がったアナザーゲイツが、狂気的な咆哮を放つ。その闘気が赤く分厚く膨れ上がる。
並みの攻めでは、ほとばしるその熱が跳ね除けてしまうだろう。
――だが、行ける。気がする、のではなく必ず行く。
自分とゲイツなら、それができる。
そのためのヴィジョンが、幾重にも重なるアナザーゲイツの像となって浮かび上がる。
『キック』と『きっく』が並びたち、飛び上がったソウゴの路を作る。敵の熱波を突き抜ける。
自身の像に重なるように、アナザーゲイツが迎え撃たんと爪を立てるようにして迫る。
そしてそのポーズと位置が合致した瞬間、ジオウのライダーキックがアナザーライダーを撃ち抜いた。
貫通したソウゴは膝で地面を削りながら、勢いを制して起き上がる。
その背で友の反存在は膝をついた。そして、時間差で電光をほとばしらせ、アナザーウォッチを吐き出して自壊させながら、大きく崩れ落ちて爆滅した。