RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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last episode:仮面ライダーミライ(7)

〈Follow your ウェイクアップ!〉

 

 オレンジ色のコウモリに手の甲を噛ませると、ライセは右脚を旋回させてアナザーナイトの胴をえぐり抜いた。両翼を思わせる閃光が誘爆を起こし、跡形もなく吹き飛ばす。

 

 ミミズの怪物を思わせる口のついた円筒から、アナザーゲンムが吐き出される。

 ライセの背から襲いかかる。

 

〈Follow your パーフェクトノックアウト!〉

 

 だがその死角でライセはガシャットギアデュアルを左右に一度ずつ半回転させた。

 ガシャットもろとも光がその手を包み込み、バグヴァイザーⅡが形成される。

 

 チェーンソーモードに切り替わったそれごと、黒く燃える炎が包み込む。

 悪の拳さえもひとつの未来として受け入れる。そこに闇のパズルが組み合わさる。

 

 反転。

 畳みかけるような炎の斬撃が、ピースのようなエネルギーが畳みかけられる。

 近接の間合いに入ったゲンムを、ふたたび土管に入り込む暇を与えず。

 

 そして一方的な攻勢の後に腰を溜めてくり出された刺突がその身体を再生させずに破壊し、敗北、そして死というデータを流し込む。

 

 アナザークローズが、アナザーカリスが迫る。

 肋骨のような外殻に覆われた邪竜と、両肩に頭蓋を埋め込んだかのような毒蟲が。

 

〈Follow your NEO!〉

〈Follow your サメクジラオオカミウオ!〉

 対するライセは、薬品アンプルのような筒と三色のメダルを取り出した。

 それが光に融けるとともに、一本の朱槍へと伸びた。

 

 ライセはその穂先を敵へと向けることなく、地面のタイルへと突き立てた。

 その接触面から、汲み上げられたかのように海水が溢れ出る。瞬く間に彼らの足下を満たし、そこに融けた毒素めいたものが、彼らを悶えさせた。

 

 古の海魔のごとき触手が、そのまま彼らを射貫く。

 そして人外の存在は一網打尽に殲滅された。

 

 ――だが。

 オレンジ色の刃光も、黒炎も、毒水も。

 ことごとくアナザーミライのかざした掌の前には無力化される。泡となって散っていく。

 

「無駄、無意味、無力、無価値、無明!」

 

 みずから対存在に突撃しながら、虚無の亡霊は高々に吼える。

 

「お前が先取りしたモノらを視ろ! 枝分かれした有象無象の悲喜劇を! 誰かの思惑ひとつでなかったことになり、矛盾し、二転三転する! そんな未来に、意味などあるものか……未来の、世界の本質とは、『無』だ!」

 

 ――それはきっと、アナザーミライ、『無』の言葉であり、ライセの感情によぎったものの一端でもあり……そしてこの世界に抱く、人々の負の想念でもあったことだろう。

 

 先行きの見えないことへの漠然とした不安。いくら努力しても突き当たる現実の壁。それを乗り越えた先にさらに道が長く続いていた絶望。それでも乗り越えようとしたものを嘲笑うかのような、理不尽な世界の裏切り。それへの怒り。そう言ったものが、おそらくはこの『無』という間隙を生み出したのだ。

 

 それでも、今のライセは、

「――違う」

 思っている。信じている。

 

「たしかに未来は人間の意志によって変わる。でもそれは、その今を必死に生きて掴んだ、それぞれの結果だ! それは可能性が狭まっていくことじゃない。そしてその未来が望まれたものじゃなかったとしても、その道のすべてが無駄になることは決してない! いずれ別の誰かが照らされたその可能性を進む。世界の残酷さを乗り越えて、奇跡だって起こせる!」

 

 互いの拳を打ち合わせたまま、競り合う。

 やがて意志力に応じて倍化したミライの力は、その拮抗を打ち崩し、一撃のもとにアナザーミライを押し返した。

 

「『無』から、ひとりの人間を、仮面ライダーを生み出せるほどの奇跡を!」

 

 気を焔と化して吐く。

 ドライバーのバックルを五度回し、その力と輝度を高めていく。

 

「――俺に命と心を与えてくれたのは、不完全でも断片でも、お前が言うところの無くなってしまう未来であっても……瞬間瞬間を必死に生きた、仲間たちだっ!」

 

〈Follow your 忍者! ハッタリ! クエスチョン! ゴーカイ! ギャラクシー! Full sail!〉

 

 逆の手でバックルを反転させると、五条の輝きが天へと向けて分散され、虚空で一極化しながらアナザーミライとミライを繋ぎつつ、果てまで伸びていく。

 

 ライセは飛ぶ。その軌跡を、五人の名が標となって照らす。

 

 仮面ライダーシノビ

 仮面ライダーハッタリ

 仮面ライダークイズ

 仮面ライダーキカイ

 海面ライダーギンガ

 

 それを万全の構えで待ち受けていたアナザーミライだったが、その目の前に、ロゴの中から、五つの影が現れた。

 

 仮面ライダーシノビが分身しながら四方八方で忍者刀で斬りつける。

 消えると同時にハッタリがその立ち位置に入れ替わる。身振り手振りであがくアナザーミライをおちょくるがごとく消えては斬撃を与え、背後に現れては前へと蹴り出す。

 

 その先に、クイズが○×パネルを展開させて待ち受けていた。

 その上のボードに記されていたのはごく単純な計算式だったが、宙を転がるアナザーミライに選択の余地などない。

 不正解たる『×』に突っ込んだそれを、雷撃が襲って落下させる。

 

 追撃を加えたのは、キカイであった。

 きしむような、それでいて徐々に何かを迫り上げるような稼働音とともに剛腕を振り、文字通りの鉄拳を見舞って吹っ飛ばす。

 冷気によってダイアモンドダストが、さらにその身体から自由を奪う。

 

 その軌道上に、ギンガがいた。最終形態(ファイナリー)の形状で。

 小手先だけの技能や特殊な能力など要らなかった。ただその拳が、星々の煌めきを伴って渦を巻かせ、銀河を創出させる。

 

 その大爆発(ビッグバン)に突き上げられたアナザーミライに、光の軌道が差し込む。その奥に、仮面ライダーミライが右脚を突き出す姿があった。

 

 敵の運命を決定させるべく。

 そして彼自身の命運を定めるべく。おのれの信念の先を拓くべく。

 

 来海ライセとして選んで照らした未来へ向けて、彼は飛ぶ。

 

 そして未来のライダーたちの残影もまた、飛び上がって彼の像へと重なっていく。

 紫の疾風が、舞い散る木の葉が、赤と青のネオンが、氷霧が、星々の光芒が、最後の一撃に華を添える。

 

「セァァァァァァッ!」

 

 充溢した気と彼らへの想いを光速に換えて、戦士の蹴撃は、もうひとりの自身へと叩き込まれた。

 核となっていたアナザーウォッチを打ち砕く。その実感を噛みしめて、ライセは地面を滑る。

 

 アナザーミライが遠く断末魔を轟かせながら、両の手足を伸ばし、背をのけぞらせる。

 爆発が起こり、残るアナザーライダーや怪人たちを呑み込み、すべては無へと還っていく。

 

 ――刹那、まるで、吊り橋の片方が外れ、もう一方も谷底に引きずり込まれるような、抗しがたい力が、理が、彼を襲った。

 自分の中の時計が、緩やかに針を止めていくのを、ライセは静かに受け入れながら立ち上がった。

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