――肌身に伝わる感覚としては、アナザージオウⅡを倒した時に似ていた。
世界が正常化していく。
歪められていた時間は修正され、健全となった法則のもとに、正しい運行を再開させるべくレールが敷かれ直されていく。
「ライセ」
変身を解いたソウゴは、彼に声をかけるべく駆け寄った。
だが彼はまだ、仮面ライダーミライの姿のままで……そうして顔を隠したままに、足下から泡沫とともに消えていきつつあった。
やはり、という予想と、やりきれない悲哀が、ソウゴの心に同居していた。
「種明かしをするとさ」
ライセは柔らかな口調で、そしてどことなく面映ゆげに言った。
「俺は完成したからこの姿になったんじゃない。むしろ
もし物理的にベルトごと、あるいはライセごと破壊しようとしても、『無』の産物であるがゆえに、あるいはその固定の力ゆえに、それは不可能であった。
だから彼は、それの存在を認めつつ、その本来の目的や仕様を無理やり歪めたのだという。
だがそれが意味するところは、このバグの根幹を取り除くと同時に、際限なく未来の分岐を観測し、収集するということだ。
結果、彼の核となっていたドライバーは本来のデータを許容量を超え、暴発のうえに消滅する。彼の仮面ライダーとしての姿は、そのエラーの発露だったのだ。
そして先に語った通り、実体と現象、その両方が消滅すれば、『無』はこの世界への取っ掛かりを喪い、ただの一過性の儚い夢として虚無の海へ沈んでいく。
胃の腑にカミソリでもねじ込まれるような、身をねじ切られるほどの苦痛であったはずだ。絶えず、死への恐怖がまとわりついていたはずだ。
そして自身の消滅こそが、避けようのない世界の正常化の最終条件だった。
「でも、間に合って良かった」
嗚呼、だがそれでも彼は、来海ライセは、その苦痛も死も悲観せずに受け止めて、静かに虚ろへと融けていく。
それを見届けながら、ソウゴは尋ねた。
「辛い?」
同じ立場にいれば誰であっても返答に窮するであろうその問いに、友は迷わず首を振った。
「俺は、お前や、そして俺の中にいた蓮太郎たちのおかげで、やりたいことをなりたかったものを最後の最後になって見つけられた。そして、それを成し遂げることができた。――だから、これで良いんだ」
塵は塵に。虚無は虚無に。現に浮かび出た泡沫の夢は、弾けて醒める。
世界が揺れる。ビルが飴細工のように歪み、風が樹木の葉やソウゴたちの足下をなぞり上げる。
組み直されていく世界を見回すソウゴに、「だいじょうぶ」とライセは言い添えた。
「言っただろ。最後に俺が消えれば、世界は元に戻る。お前の本当の友達も……そしてお前が抱える問題も敵も帰ってくるけど、まぁお前なら、どんな道をたどったって良い王様になれるって信じてるよ」
そう言って、ミライの身体は、肩のすぐ先まで虚空へと崩れていく。
ベルトも消滅し、そしてソウゴが持っていたゲイツとウォズ、ふたつの特異なウォッチも、あるべき時代、その世界と運命をともにするべく還っていった。
「それじゃ、もうそろそろ、俺は俺のあるべきところへ行くよ」
もう掲げたり、握り返せる手はないものの、青年は気軽に別れを告げる。
「またいつか!」
――そしてソウゴは、そんな彼に笑って言葉をかけた。
少し驚いたように、背を向けて消えようとしていたミライが身体を向き直した。
「未来は、まだ決まってないから未来なんでしょ? だったら、ライセがいていい未来も、きっとどこかにあるはずだ。だからぜったいに俺はそこへたどり着いてみせる! 最高最善の魔王になって!」
誓いの言葉を、けっこう無理がある道理を、ソウゴは一方的に友へと宣う。
それでも、言葉には力がある。想いを重ねれば重ねるほどに、強くなっていく。
絵空事だと笑われようとも、自分が王様になりたいと願うのと同じように、きっとこの誓いも現実になる、未来へと繋がる灯火となる。
ミライが融けていく。剥がれ落ちていく仮面の中にあったのは、虚ろな空洞などではない。
友の、来海ライセの、満面の笑みがあった。
「『またいつか』……良い言葉だな!」
その言葉を最後に、彼は、その最後に流した一筋の涙とともに泡となって消える。
世界がやり直されるまで、あと数秒。
そのわずかな間、彼は独りぼっちになる。
「――いつの日か、絶対に」
強く、噛みしめるように、時の王者となる宿命を負った青年は呟いた。