RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(3)

 戦いに及ばんと踏み出しかけたライセの足が、内なる声によって立ち止まる。

 

「え? なに? ……はぁ? いやでもさぁ……」

 

 その声はある指示を宿主に命じ、ライセはそれに意義を見出せずに困惑をみせた。このやりとりもすでに一度や二度のことではなかったが、今もって慣れない。

 だが、シノビの力を引き出すには、その基となった彼との同調は不可欠だ。不本意ながら、ライセはその意向に従うことにした。咳払いし、拳を固めて翻し、声を張り上げた。

 

「忍と書いて、刃の心! ……仮面ライダー、シノビ!」

 

 印字を結んで腰を屈める。

 だが、タイミングを逸した名乗り口上ほど格好のつかないものはなく、得られたのは周囲の当惑だけと気恥ずかしさだけだった。

 こうなることは分かっていた。だがシノビたるにはやらざるを得なかった。姿勢を戻したライセは、爪先で軽く地面をこすりながら、額の鉢金を指で叩く。

 そうやって精神の均衡を取り戻した彼は、あらためて怪人たちに戦いを挑んだ。

 

〈忍POW! 斬り捨て!〉

 

 ベルトから引き抜いた忍者刀を順手に持ち替え、並み居る怪物たちを斬り伏せる。包囲を切り抜けた先、すぐ眼前に、歪曲した大刀が迫っていた。

 

「……アナザーライダーか!」

 

 おそらくは字面から察するに、『アナザーガイム』。その太刀筋を紙一重の間合いでくぐり抜けて回避したライセは、返す刀を後転して躱した。

 

〈ブレイブ忍POW!〉

 

 ライセが吐いた呼気が、紫炎となってアナザーライダーの周囲を焼き巻いた。中身はどうあれ、外面は樹皮にも似ているので、火が有効のはずだ。

 着想としては安直だったが、功を奏した。アナザーガイムは悶絶の悲鳴をあげた。

 さらなる痛撃を与えようとしたシノビの足を、忍としての感覚が押しとどめた。

 とっさに刃を翻して防御したところに、あの高速で動く紅の影……アナザーカブトが立ちふさがった。明確な自我を持たない彼らに仲間意識など存在するべくもないが、確実に生じる隙を狙っていた。

 

 光速で動くそれに、ライセは応戦した。

 シノビも速攻に長けたライダーではある。敵の挙動を、かろうじて捉え、かつしのぐことはできた。

 だが、まず速さの質というものが違う。さらには物量も違う。正攻法で仕掛けても勝ち目はないのは明白だった。

 

〈だったら、ここは技に富んだボ……いやいやオレ様の出番だな!〉

 また、別の青年の声が聞こえた。

 手中に熱とかたちを感じたライセは、わずかながらに抵抗感を覚えた。だが、考える方針は、そのデバイスに宿る『彼』の意思と合致していた。

 

 その手に精製されたのは、オレンジの手裏剣。

 シノビのプレートを取り外し、それに換装する。

 

〈踏んだり! 蹴ったり! ハッタリ! 仮面ライダーハッターリ!〉

 

 見栄を切るようにベルトが、新たに力を借りたライダーの名を高らかに叫ぶ。

 背後に現れた蜂型のロボット。その腹から射出された鎧が、あらたにシノビの身体に纏われた。

 稲妻の模様のアンダースーツ。自身の腰のそれに似た前立てとたなびくオレンジの鉢巻きに、その奥に隠された青いバイザー。

 

 仮面ライダーハッタリ。

 仮面ライダーシノビの相棒……ではなく、自称そのライバルらしい。

 

 カブトのミドルキックが飛ぶ。

 木の葉が舞う。蜂が躍る。その蹴りは空振りに終わり、背後で実体化したハッタリは、自身の直刀をその空いたその背へと叩きつけた。

 空中にその身を躍らせた彼はそのままアナザーガイムの薙ぎの一閃をかわし、手で印字を組み結ぶ。

 

〈カチコチ忍POW!〉

 

 その手から発せられた氷霧は、そのままアナザーガイムの足下を凍てつかせ、自由を奪う。

 

 スペックとしてはシノビと同等以上ではあるものの、その持ちうる特性はどちらかと言えば直接的な攻撃性に乏しいのがこのハッタリである。

 だが反面、牽制や陽動といった、名の通りの『ハッタリ』的な手段のバラエティに富んでいるといえた。

 ――もっとも、本人はそういう意味合いでつけた名ではないとはいうが。

 

〈オレ様の氷は絶対零度の氷点下! 手も足も出まいっ!〉

〈いやそれ、悪役のセリフだから……〉

 

 二、三の言いたいことはあるものの、両者の性能は十分に信頼に足る。

 こうして、このふたりの忍者の形態を使い分けることで、相手の特異性に対応する条件はそろった。

 あとは数だが……その問題もすでにクリアされかけていた。

 

 呼び出された有象無象の複製品は物の数ではなく、それを除けば……ここからは同数で、対応できる。

 

 ――自分には、仲間(ヒーロー)がいる。

 

吾郎(ごろう)さん!」

 

 ライセは、自身の店の前に、逃げずにたたずむ男の名を呼んだ。

 彼の本当の姿を、前を開いた白いスーツの下に巻かれた、銀のドライバーを目撃する人間は逃散してとうにおらず、準備を終えた彼はワインボトルのようなものを手にして前へと進み出た。

 

「……今、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える……!」

 

 口上を、唱える。

 静かに、穏やかに、だが勇ましく、恥じることなく。

 

 広げた掌を握りしめたボトルを使って自身の象徴たるGの一文字を描き、そしてボトルをオープナーにも似たバックルへと装填した。

 中から抽出されたエネルギーリキッドが彼の……吾郎の身体を全身を包み込む。英雄としての武装を、形作っていく。

 

 仮面ライダーG。

 

 ライセの

 

 

 ――よく、知る、戦友の姿が現れた瞬間だった。


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