RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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後日談

 そのフレンチレストランは、小規模ながらも外観のセンスの良さや山海の味を存分に活かした良心的な価格の料理、何よりソムリエとして確かな資質を持つ店長により厳選され、管理されたワインはそれらに買い物帰りの主婦や、ゲストを歓待する会社員、デート帰りの恋人たちなど、幅広く支持されていた。

 

「――ありがとうございました!」

 

 その店のオーナーシェフ――といっても従業員は彼女と店長と合わせてふたりしかいないが――旧姓日向(ひなた)恵理(えり)はその日最後の客を見送ってから、店に戻った。

 中ではすでに、彼女の夫兼店長が食器を片づけていて「お疲れ様」と優しくねぎらいの言葉をかけてくれた。

 

「吾郎こそ……ここまでほとんどひとりでやってきたんだもの。大変だったんじゃない?」

「そんなことはないよ。いろいろあったけど、ようやく一人前に店なんて出せるようになったんだ。その間のことを考えれば、大したことじゃないさ」

 

 彼の言うように、さほどの気負いも感じさせることなくサラリと言ってのける。

 その優しさが彼の何よりの美点であると同時に、ずるいところでもある。

 これではこちらも労いようもなくなってしまうではないか。

 

 苦笑していた恵理ではあったが、ふと思いついたことがあって店の裏のワインセラーに小走りに向かった。

 数こそ少ないが幅広いニーズに応えられるように効率よくボトルが購入されている。そのうちの一本、他と少し間を取ったスペースに置かれていたをこっそりと抜き取って、吾郎のもとへと戻る。

 

 すると彼は、銘柄を見た瞬間目を丸くさせた。

 

「ねぇ、今夜はこれ開けちゃわない? ちょっとまだ若いけど、適当にまかない作って」

「これは駄目だっ!」

 

 誘い文句は遮られた。手からはそのボトルがもぎ取られ、抗弁も物理的な抵抗もできないままに恵理は立ち尽くした。

 ふだんは決して怒るところなど見せない彼にしては、いつにない狼狽ぶりだった。

 

「……ごめんなさい。でも、それって誰かの予約だったりするの?」

 

 彼からの愛情を疑ったことなど一度もない。まさか他の女性への贈り物であろうはずもないが、純然たる興味から、探るような調子で彼女は尋ねた。

 正直に言って、慌てる程希少なワインというわけではない。比較的求めやすいリーズナブルな価格の白。しかも、先に言った通りかなり若い、それこそ今年のワインだ。

 だからこそ問題はなかろうと恵理もそれを選んだわけだが。

 

「いや、うぅん……でも、これは……」

 夫は言いよどむ。

 だがそれは何かの真意を押し隠すというよりかは、彼自身覚えがない、といった苦しげな調子だった。

 

「――確かには、憶えてないんだけどさ」

 持ち前の誠実さがそうさせるのだろう。彼自身よく話と気持ちを整理をつけないままに、しどろもどろになりながら吾郎は続けた。

 

「いつだったか、()()と約束したんだ。……その彼が大人になったら、一緒に開けようって」

 

 まるで『彼』とやらが映り込んでいたかのように、吾郎はそのボトルに目を落とす。

 慈しみとともに微笑みかける彼に応えるように、ボトルは淡く輝く。

 その時を静かに待つように、波がたゆたう。

 

 

 

 その真新しい白ワインのラベルには、2019という年号。

 そして暗闇を進む船をあまねく照らす、灯台のイラストが描かれていた。

 

 

 

 

 

 RIDER TIME:仮面ライダーミライ

 完




後書き


原案の方
「ジオウのミライダーの能力をすべて使えるライダーを主人公にしてください! その力に人格が入っていて会話できるように! 黒幕は『無』もしくは財団X! そして相棒は仮面ライダーGでお願いします!」

ぼく
「はい、分かりました!」
(主人公=『無』=すべての元凶。中にいるのはミライダー本人ではなくデータ。Gは冒頭で消滅)

 で、こうなりました。

 本作の終わりに際してあらためてご挨拶いたします。
 リクエストを受けてこちらを書かせて頂いた大島と申します。

 前述のとおり、おそらく原案の方はスカッとした活劇を期待されていたのでしょうが、何故か、かくも重苦しいストーリーになってしまいました。

 いやまぁ、さすがにGの辺りは未来をテーマに設定している以上、盛り込むことが難しかったので泣く泣く申し出たうえで却下させていただき、そのうえでそこ名残としてシーンを挟ませていただきましたが。
 一応ではありますが、最低限のお約束は果たせたのではないでしょうか。
 残念ながら、いつの間にか原案の方は退会されてしまったので、感想をお聞きすることは叶いませんが。
 ……ひょっとしてこんなモン書いたからでしょうか……?

 とまれ、そうして書き始めた作品ではありましたが、紆余曲折ありながらも皆様より個別にいただきましたアドバイス等のおかげでなんとか形になって完結させることができました。

 ご助言頂いた方、資料を提供をお送り頂いた方、誤字をご指摘頂いた方、ご感想ご声援を下さった方々、何よりここまでお付き合いいただいた読者様、皆々様にこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 さて、今後の活動についてですが、オリジナルの方で構想中の短編をUPして、あとはノープランです。また気が向くことやリクエスト等があれば、二次創作に戻るかと思います。

 あらためて、ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました!
 それではまたどこぞでお会いいたしましょう!


 大島海峡

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