RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(4)

 ふたりの仮面ライダーは、一騎当千の味方をえた思いで、というよりもそのもので、あらためて互いに背を併せて無数の敵へと挑みかかった。

 

 鋼の一閃が、銀の二閃が、敵の陣形をかき乱し、すり減らし、突き崩していく。俯瞰すればそれは、まるでミキサーのようでもあっただろうか。

 

 乱戦ではあったとしても、その主役は四体。敵味方二体に分かれたアナザーライダーと、仮面ライダー。アナザーガイムをGが受け持ち、その戦いに援けを出せないよう、アナザーカブトとライセは互いにけん制し合っていた。

 

 光速で動くカブトを、ハッタリの俊足と早業と技巧でとで相手から引き離していく。

 

 そうしていくうちに、事態は好転しつつあった。

 刃での交錯、斬り合い、競り合い。三度の打ち合いの末、それらをことごとく制したのは、Gだった。剣技ではおそらく専門分野であろうガイムのほうが勝っていた。だがGの知性と、自身を律する理性と、そして逃げ遅れた人々を守らんとする彼の信念がその悪性を跳ね除けた。

 

「人々が芳醇な未来へのリアージュのため! 君を剪定する!」

 

 樹木然とした敵の風体と、そして自身の職業柄になぞらえた言い回しとともに、仮面ライダーは強く敵を押してそのガードを崩した。

 ソムリエナイフを模した剣は一度腰回りまで大きく退くと、そこから一気に突き出した。

 

 神速の刺突は胸部の縅から入ってアナザーガイムの肉体を突き破り、一気に背にまで達してその切っ先を貫通させた。

 

 苦悶とも怒号ともとれる断末魔とともに、ガイムは爆散した。その核たるアナザーウォッチは、地面に転がると同時に亀裂が入って破壊され、泡となって消えた。

 いつもと、同じ要領で。

 

 さすが吾郎。さすが仮面ライダーG。

 さすがに速度で勝る相手と戦っている際に、声をかける余裕などないが、その決着を見届けたライセは胸中で惜しみなく賛辞を送った。今度はこちらもケリをつける番だと、奮い立った。

 

 だが、その一瞬の思考の隙を突かれたのか。

 一瞬止まったその背を、降って涌いてきたアナザーカブトのキックが強打した。

 

 雷光を帯びたその一撃はライセの肉体をはるか先の鉄柱まで押しやり、それが中折れするほどの衝撃で、轟音とともに叩きつけられた。

 

 砂埃の幕を我が身で引き裂き、トドメを刺すべくカブトは駆けた。

 クロックアップによる移動は、十秒はかかる間合いを瞬時に縮めた。その加速は、ただの踵落としをギロチンの刃へと変貌させた。

 

 だが刈り落とすはずだった忍の身体は、両断されたはずの彼の身体は、空中で分解すると同時にハッタリのマフラーや頭巾の巻かれただけの丸太になって、ポンと空気の抜けるような音とともに、煙となって消滅した。

 

〈セイバイ忍POW!〉

 

 思考の隙が生じたのはアナザーカブトの方。無防備に背をさらしたのも、彼の方。すでにオレンジの衣を脱ぎ捨ててふたたび紫の装束をまとったシノビは、準備を終えていた。

 

 アナザーカブトが足元から自身の鳩尾めがけてくり出された蹴り上げに気づいた時にはもう遅い。直撃をくらって空中へと放り出された彼を、飛び上がったシノビの分身たちが追った。

 

 まるでスズメバチを集団で押し込めて蒸し殺すというミツバチのように群がる彼は、

「吾郎さん!」

 と同輩の名を呼び、ふたたび一体化したシノビはアナザーカブトを肉体を地へと蹴り落とした。

 

 すでに落ちる先では、仮面ライダーGが待ち構えていた。

 ボトルの口を押し込み誉、自身の名を表す胸のエネルギー供給ラインが燦然と赤熱を帯びて輝く。

 

「スワリングライダーキック!」

 

 風を抱くようにいてその身を旋回させると、Gは地を叩いて飛翔した。

 天へと向けて突き出した足裏から紅の螺旋が射出され、空中のアナザーカブトに対する楔となる。

 

 それに束縛されたアナザーカブトは、もはや腰を叩いてクロックアップすることができなかった。よしんばできたとしても、周囲の届く場所に、彼が踏み込む足場など存在しなかった。

 

 人々の営みを侵食する悪しき虫は、正義の一矢と化したGのキックをまともにその外皮に受けて、その力を流しきれずに、ウォッチもろとも破壊された。

 

 

 

 騒動が、一応の収束を見せつつあった。

 その中で、ライダーたちはそれぞれに変身を解き、互いに素顔をあらためて見せ合った。

 ライセは吾郎に、手を差し出した。今度は救済のためではなく、共闘への感謝の証として。

 

「ありがとう。吾郎さんのおかげでふだんより楽に戦えたよ」

 そう礼を言われた仮面ライダーGこと吾郎は、わずかに困惑の様子を見せた。

 だが、ゆるやかに首を振り、屈託ない笑顔でそれに応じた。

 

「こちらこそ、感謝するよ。君がいてくれたから、僕も大切な人々を守ることができた」

 と、手を握り返し、あらためて彼らは友情を確かめ合った。

 

 

「どうかな? 大したお礼はできないけど、ロマネコンティでも」

「遠慮しとくよ」

 そう言って店からワインを持ち出そうとする彼に、はにかみながらライセは断った。

「そもそも、俺未成年だし」

 

 それを聞いた吾郎は少し残念そうに苦笑し「それじゃあ」とあらためて指を立てて代案を提示した。

 

「今年のワインを、君の成人まで寝かせておこう。それで、君がちゃんと大人になった時に、ボトルを開ける。……それならどうかな?」

 

 それであれば問題はない。理由もなく、戦友の好意を無下にできるはずなどない。

 ライセはそこでようやく快諾した。

 

 その約定こそが、再会のあいさつだった。それ以上の言葉は不要だった。

 ふたりの戦士は、手を離すと同時にきびすを返した。

 それぞれの戦いを続けるために。それぞれの日常へと戻るために。

 

 

 

 

 ――だが。

 ――しかし。

 

 一度でも来海ライセが顧みていれば、その後の流れや、彼の命運はまた違った未来を迎えていたのかもしれない。

 だが結果としてライセはそのまま来たバイクを立て直してその場を去った。

 

 あとには、何も残らなかった。

 その異常さに、疾走するライダーと、その源となる人格たちは気づくべくもなかった。

 

 痕跡として残されたのは、横転したテーブルの下に転がった、一本のワインボトル。

 『彼』の異形となった象徴であると同時に、愛する人々を守るための力は、今その手を離れて、カラカラと物悲しい音を立てていた。

 

 やがてそれも磁気嵐を帯びた泡に飲み込まれていった。

 彼の建てた店の名前も、外観も内装も、別のチェーン店のものへと差し変わっていた。

 

 

 

 ――仮面ライダーGこと吾郎の存在した痕跡は、その時刻をもって完全に消滅した。

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