RIDER TIME:仮面ライダーミライ   作:大島海峡

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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(6)

「我が魔王、ここは二手に分かれよう」

 並走していてウォズが立ち止まり、そう提案してきた。

 立て続けに起こる騒動に奔走されているなかでの、突然の献策だった。

 

「私はあちこちで起こっていちる『小火』を潰して回る。我が魔王は、分散しているゲイツ君やツクヨミ君との合流を急いでくれ」

「それは良いけど……大丈夫なの、ウォズ?」

 

 シノビのウォッチが突如として力を喪ったのは、ついさっきのことだ。

 異変は街のみならず、今まさにウォズ自身にも起こっていた。

 

「心配はない。いざとなれば、ギンガの力がある」

 

 主が気がねしないようにという配慮だろう。まだ稼働しているウォッチを披露して涼やかに笑っている。だがその表情には、一抹の陰がにじみ出ていた。

 

 とはいえ、ソウゴには彼を留める明確な理由や確信があるわけではないし、時が惜しい。

 状況は足下に寄せる漣のように、原因もはっきりしないままに彼らの生活や日常を侵していた。

 

「……気をつけて」

 

 万感の思いを込めてただ一言だけ残す。

 そして彼らは別々の道へと駆け出した。

 

 ソウゴがたどり着いたのは、河をつなぐ一本の橋だった。

 ゲイツとそれをサポートするツクヨミと最終的に連絡をとったのは、彼らがこのあたりにいた頃合いのはずだった。

 

 ふたたびそこで連絡をとろうとしたソウゴは、その橋に戦闘の痕跡が残っていたことに気づいた。

 真っ黒に焦げ付いて奔る、一筋の軌道。その周囲の欄干は、熱で融けてねじくれていた。

 

 ここでいったい何が起こったのか、何者かが戦闘し、ひょっとして人知れず消えた誰かがいるのか。

 ――ひょっとしたらそれは……

 

 そう思いかけて、首を振る。これは後ろ向きな発想だ。それも、こういう現状でしてはいけない類の。

 だが押し込めた心労が災いしたのか。刹那的に、ソウゴの前頭葉に、針を刺しこまれたような激しい痛みが襲いかかった。

 

 膝が屈さずとも、俯いてしまう。

 目線の位置を戻したのは、頭痛が引いた時だった。

 

 まだ痛みが尾を引いているのか。

 心なしか目の前の世界は、色褪せて、輪郭も曖昧だった。

 

 向こう岸に見える世界は、変わらないままではあったが、言い知れない違和感のようなものが、ソウゴの直感の奥底でくすぶっていた。

 

 だがそれも、怪異が目に見える形で押し寄せてきた瞬間に消し飛んだ。

 気がつけば毒々しく肉感的な外皮に覆われた生物が三体、短い腕を伸ばしながらソウゴへとにじり寄ってきていた。

 

「ワーム……」

 

 これも異変の一端か。

 地獄兄弟がこの地球に呼び寄せようとしていた外来種が、ふたたびソウゴのそば近くに姿を現した。

 

 そして彼らの節々が、赤熱を帯び始めていた。脱皮の兆候だった。

 成虫となれば、その一体一体が高速に移動する強敵と化す。

 

 それを阻止すべく、ジクウドライバーを取り出そうとしたソウゴだったが、両者の間に、色を孕んだ風が舞い降りた。

 

 身を翻す。地に足をつける。と同時に、銀の閃きが左手の敵を斬り裂き、返す一太刀が右手より仕掛けたワームを返り討ちにする。そして後ろ回し蹴りが、鮮やかに左右を含めた三体を刈り取った。

 

 緑の炎を盛らせながら、ワームたちが爆散した。

 突如として現れたその仮面ライダーは、いともたやすく、敵を駆逐し、ソウゴを救った。

 あの夢の中と、同じように。

 

「シノビ……!?」

 

 彼の名を、呼ぶ。

 だがそれはあり得ないことだった。何しろ、神蔵蓮太郎はライダーであったどころか、アナザーライダーであった時点の記憶すら無くしている。

 

 となればコレは一体、誰だ?

 

「大丈夫か」

 取り済ましたように作った声も、蓮太郎のものではない。

 腰のデバイスを抜き取ると変身が解除され、素顔があらわになった。

 

 だがやはりそれは、見覚えのない、年格好はソウゴとかなり近い青年だった。

 視線が合った瞬間、ソウゴにあったのは戸惑いだった。

 だが対する青年は、共学に目を剥いていた。

 そしておずおずと遠慮がちに、

 

「お前……ソウゴ……常盤ソウゴだよな?」

 

 と、彼の名を呼んだ。

「そう、だけど……」

 ソウゴは怪訝さを隠しきれないままに頷いた。

 

 青年たちは、互いに当惑を向け合いながら、しばし時は止まったように固まっていた。

 

 

 

 ――何か、異常なことが起こっている。

 

 

 

 道中さんざん感じていたことを、ソウゴは改めて強く反復した。




next episode:キカイ・リブート『2019」

 ソウゴとライセ。
 ついに出会いを果たしたふたりの仮面ライダーだったが、やがてライセの側より表情をほころばせた。

 彼が言うには、自分もまたあのバス事故の生き残りで、ソウゴや飛流と違ってすぐに親戚に引き取られ、街を離れていたのだという。

 言いしれない違和感をぬぐいきれないソウゴだったが、
「あの過去をそれぞれ乗り越えられたからこそ、俺たちはまた出会えた」
 という言葉に心動かされる。

 だが再会を喜ぶ間もなく、異変は劇的に、かつ確実悪化の一途をたどっていった。
 そしてついにソウゴの周囲にも影響が起こり始め……!

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