女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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人数配分間違えるとハーレムじゃなくて地獄

 

 春の陽気にぽかぽかと包まれたこの季節は、なにか新しい物事を始めるのにピッタリだ。

 ついこの季節は夜もちょうどいい気温で寝すぎてしまいがちだ。夜更かしでもすれば尚更である。

 

 

「……んぁ」

 

 

 日の眩しさと心地よい温かさに襲われながら目を覚ます。

 

 寝起きのモヤモヤ感のまま目を少しずつ開くと、上にはまだまだ見慣れない天井。

 体を起こすと机の上には食べかけのお菓子やジュースの痕。

 

 

「……なにこれ」

 

 

 更に右手を上げれば、何故かゲームのコントローラーが握られてる。

 更に更に周りを見渡してみる。

 

 

「……なんこれ」

 

「ぐへへ……その横スマは安直だぞぉ……」

「岡〇のスリーランだけで3本は空けられるね……」

 

 

 両隣りには未成年がいるのにビールの空き缶をそこらじゅうに撒き散らす野球バカと同学年とは思えない妖精ボディをした半ニート。あと机の上に置かれたメモ帳。

 

 

「……なんぞや」

 

『ぐっすり眠っているみたいだったからおこさないでおいたわよ。遅刻しないように気をつけてね♡』

 

「『かなで』……ってはぁあああああああああああ!!!!!」

「うるさいなぁ……杏はまだ眠いんだよぉ……」

 

 

 ご丁寧にハートマークまで付けられた綺麗な字をした書き置きと、机の上に置かれた電子時計で状況を完全に把握する。もうおめめパッチリやわ。

 畜生、あのもみやで野郎なんで起こさなかったんだよ! 確実にこうなることわかっていやがったな! 

 

 隣でモゾモゾと妖精(半ニート)がなにかほざいてるが、そんなことは知ったことではない。速攻で風呂場に制服を持って向かい一瞬で着替える。

 朝飯とか食ってる時間もねぇ! そんなわけで鍵もかけずに自分の部屋から勢いよく飛び出す。

 

 

「いってきまあああああす!!!」

 

 

 どうせユッキは二日酔いで寝てるだろうし杏は酔ってなくても寝てるだろうし。あの二人がいる限り部屋は開けっぱでもいいだろう。

 エロ本とかも隠してないしな。隠す勇気なんてさらさらないし、なんなら持ち込めなさそうだけど。

 

 廊下を全力疾走してると先の方に見慣れた超背の高いシルエットが見える。

 てかあれきらりだな。紛うことなききらりだな。

 

 

「あーっ! 光くんおっすおっすー☆」

「うっす! 杏は俺の部屋で寝てっから!」

「ありがとぉー☆」

 

 

 うむ、俺の予想通り杏を迎えに来てたんだな。多分きらりは優しいから酔いつぶれてるユッキさんのことも何とかしてくれるだろう。最悪ちひろさんも呼べばいいし。

 

 

 いやー、なんでこんなに忙しいんだろうなー!

 なんでなんだろうなー! あん時から全部おかしかったんだろうなー! (めちゃくちゃわかりやすい回想入り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーディション?」

「そう! 出てみようぜ!」

 

 

 軽音部の部室でもある物置で今西という奴にそんな話を持ちかけられたのは、ちょうど今よりひと月かふた月前のことだった。

 

 当時はお金が必要で……といった理由も特になく。ちょうど新しいベースや機材を買うお金も出来たと言うことで務めていた激ブラックなアルバイトをやめた直後だったはずだ。

 いやー、マジでスーパーのバイトはヤバいぞ。大ブラックすぎ。腰が逝くかと思ったもん。

 

 

「って言っても俺ら高校生だぜ?」

「大丈夫だって! 学生向けって訳でも無いけど学生でも受けられるのは間違いねぇから!」

 

 

 オーディション、と言ってもアイドルになる訳では無い。俺がアイドルとかそもそも考えられないし考えたくもないでおじゃる。

 

 

 持ちかけられたのはプロのベーシストのオーディション。スタジオミュージシャンになる為のものだった。

 スタジオミュージシャンとかになるには自分から売り込みに行かないといけないとか聞いたことあったけど、案外そんな訳でもないらしい。

 まぁそもそも俺ってベーシストでは有るけど圧倒的エンジョイ勢だしな。プロになるのが目標って訳でもないし。

 

 

「でもプロになりたいって訳でもないしなぁ」

「いいから出てみろって! 受かったら月収とかはバイトの並じゃねぇからさ!」

 

 

 好きなことを仕事にできるならそれにこしたことはないだろうが、世の中そんなに甘いもんじゃないだろう。

 てかなんでこいつはそんなに俺にオーディションさせたいんだ。深い意味は無いんだろうけど。

 

 

「出てみるだけでも経験になると思うぜ? 交通費ぐらい出してやっからさ!」

「……まぁ、そこまで言うなら」

 

 

 交通費を出してくれると言うならば、そりゃあ行くだろう。どーせ受かんないだろうけどな。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……おい、ほんとにここであってんのか」

「おうともさ! ここがオーディション会場の346プロよ!」

「とんでもなくでかい所じゃねぇか! ふざけてんのか受かるわけねぇだろ!!!」

「まぁまぁ」

 

 

 何度もどこに行くか聞いたのにするするっと躱され続け、結局言われるがまま今西に連れられてきたのは、謎のどでかい学校のような城のような建物。

 

 これがあの346プロなのかよ。

 346プロといえば個人的にはよし〇ととかに匹敵するくらいどでかい事務所のイメージがあるくらいにはやべー芸能事務所だったはずだ。あと知り合いが確かここに勤務しているくらいだな。

 てかなんなんだこれデカすぎだろ。会社というかもはやシンデレラとかに出てきそうな城じゃねぇか。

 

 346プロってアイドルとかも扱ってるとこだったはずだ。あいつはアイドルだったはずだし。 a〇exとかみたいな。a〇exにアイドルいたかあんまり覚えてないけど。

 

 アイドルとかほとんど知らねぇんだよなぁ。クラスにもドルオタは何人でもいるしテレビでも見るっちゃあ見るけど、ちゃんと注目して見た事はない。

 高垣楓とかは聞いたことあるけど。あとバラエティ番組によく出てる人達は知ってる。輿水幸子とか。あとは渋谷凛。

 

 

「とりあえず早く入ろうぜ!」

「これ勝手に入っていいんか?」

「大丈夫大丈夫! 俺に任せとけって!」

 

 

 全く持って信用出来ないんですがそれは。

 

 

 


 

 

 

 今西に連れられるがまま入口を通ると、冗談抜きで何かの城のような光景が目の前に入る。

 なんなんだマジで。頭おかしいすぎる。

 

 

「……でっけぇ」

「光、俺ちょっと受け付け済ませてくるわ」

 

 

 何故か慣れた手つきで受け付けの女性と何かを話している今西を他所に、とんでもない内装の事務所に圧巻され続ける。

 

 

「なつきちー。今日暇?」

「おう、今日は夜なら空いてるぜ」

「ほんと!? じゃあまたギター教えてよ!」

「別にいつでも教えてやるって」

 

「えっ」

 

 

 あの二人、すっげぇ見た事あるんだけど。

 金髪のリーゼントにしてる子はF〇S歌謡祭とかでもよくギター弾いてる子だよな? ヤバくね? 普通に居るやん。

 もしかして俺ってとんでもないところに来てね? 

 

 なんかあんまり周りをジロジロ見るのももどうかと思ったので、不本意ながら野郎である今西に視線を移すと、何やら変な紙を見せて受け付けを済ませていた。多分、応募の紙だろう。

 あれ? でも履歴書は俺が持ってるし応募の紙とか書いた覚えないんだけどな。

 

 

「迎えの人が来るからしばらく待っててってよ」

「おかのした」

 

 

 受け付けから少し離れたところで缶コーヒーをあけながらだべっていると、何やら緑の服に身を包んだ綺麗な女の人が迎えに来てくれた。

 

「お待たせしました。今西くんと松井くん……ですよね?」

「お久しぶりです、ちひろさん」

「……ん? お久しぶりです?」

「なんでもない」

 

 

 こいつ、今どう見ても完全に口を滑らせたよな。

 

 今西からちひろさんと呼ばれた女性は、表情を崩すことなく笑顔を保ち続けている。

 てか胸元に千川って名札が貼ってあるやん。なんで今西は下の名前を知ってんだよ。

 

 

「ふふっ、それでは案内しますね?」

「あっ、お願いします」

「じゃあ、俺はここで待ってるから」

 

 

 7割ほど入ったままのコーラ入りペットボトルを振りながらニヤニヤ笑ってくる今西にむかつきながらも、適当に返事だけは返す。

 あいつここまでして一体何を考えてやがるんだ。帰ってきたら今度こそ問いただしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターに乗り、長い長い廊下をテレビで見たことある女の子やスーツの人達とすれ違う。

 なんなんこれ。ほんとに別世界に来たみたいだわ。未だに夢かと思うわ。

 

 目的の部屋に着いたのだろうか。

 千川さんがドアをノックすると中から少し低い女性の声が聞こえる。

 

 

「松井さん。ここからは貴方自身のお仕事ですよ」

「は、はぁ」

「頑張ってくださいね!」

 

 

 ちょっと待って。俺なんにも聞かされてないんだけど何を頑張ればいいのだろうか。

 

 ドアを指さしながら入っていいんすか? 的なことをジェスチャーで千川さんに訴えかけると、ニコニコしたままどうぞどうぞと言った感じでドアに手を向けられる。

 

 これは入るしかないよね? 男だから腹をくくれっていうのかよ。マジかよ。嘘だろジョージ。

 

 ここでうだうだ言っててもどうにもならないのでドアに手をかけて、一呼吸置く。

 大丈夫だ。心の中に修造を飼うんだ。北京だって頑張ってるんだよ! 

 

 

「失礼します……」

 

 

 高校に入る時の面接の感じを思い出しながら部屋に入ると、まず一番最初に奥の机に黒髪の女性が座っているのが見えた。

 てか部屋広っ。よそ見とかしてないからわかんないんだけど、視線に入る限りでもめちゃくちゃ広いのがわかる。ちょっとくらい俺の部屋にも分けて欲しいんだけど。

 

 なんか座ってる女性、風貌とかめちゃくちゃ偉そうな人なんだけど。ラスボスオーラがえぐいんだけど。完全に強キャラやん。ベヨ〇ッタやん。てかベヨ〇ッタにしか見えんやん。

 

 

「私はベヨ〇ッタではない」

「……はい?」

「はっはっはっ!」

「うぉっ!?」

 

 

 隣からいきなり笑い声が聞こえたからびびっちまったじゃねぇか!

 

 てか女の人以外にももう一人部屋にいたんだな。緊張しすぎて気が付かなかった。

 真横にあったソファに座っていたのは、とっても見た目が優しそうなおじさんだった。

 女の人とのオーラのギャップがえぐいんだけど。おじさんの方が年上っぽいのに。

 

 

「君が松井光くんだね? 孫から話は聞いているよ」

「……孫?」

「おっと、これは言ってはいけなかったかな?」

「今西部長。話を進めても?」

「おっと失礼」

 

 

 なんでこのおじさん俺の名前を知ってんだ。資料にでも目を通してたのか? 

 

 てか待てよ。今西? 孫? 

 ……あっ(察し)

 

 

「それでは話を進めさせてもらうぞ」

「ちょっ、話っt」

「分かっていると思うが、君には我が346プロアイドル部門専属のスタジオミュージシャンとして活躍を期待している」

「えっ、なにそれは」

 

 

 待って。僕が知っていた情報スタジオミュージシャンだけしか合ってないんだけどどゆこと? 

 何? アイドル部門専属とかあるの? マジでなんも知らないんだけど。

 

 

「……今西部長。聞いていた話と違いがあるようですが」

「はて、ボケが回ってきたのかな?」

「えぇ……(困惑)」

 

 

 すっとぼけた様子を見せるおそらく今西のおじいちゃんを見て、女性が片手で頭を抱える。

 マジかよ。この女の人もハメられたの? 

 これ俺帰ったらダメかな? 思ったより大きい話になってるから家に帰りたいんだけど。

 

 

「松井光くんだったな? 君はどこまで話を聞いているんだ」

「えっ。いや、スタジオミュージシャンのオーディションがあるから試しに出てみないかって」

「まぁ、間違ってはいませんな」

「間違ってはいませんね」

「うわビックリした!」

 

 

 知らん間に千川さんも部屋に入ってきとるやないか! 

 びっくりして間抜けな声を出しちまったよ。

 

 

「……千川。資料に間違いはないのだな」

「はい、常務。映像の方もこの方で間違いはありません」

「ふむ……」

 

 

 ここに来て初めてこの女の人の役職がわかった。

 でも常務ってどれくらい偉いんだろうか。部長と社長と係長くらいしかわかんないしな。常務なんて初めて聞いたかもしれない。

 

 常務は腕を組み、少し考えるような様子を見せると、直ぐに頭を上げてこちらを見つめてくる。

 な、なんか照れるんですけど。普通に綺麗だもんな。年齢的に守備範囲外だけど。

 

 

「まぁいい。手違いはあったが、予定通り採用だ」

「は、はぁ」

「良かったですね! 松井さん!」

「……はぁ?」

 

 

 うん。全く話の流れがわかんないんだけど、とりあえず良かったのだろうか。

 

 

 


 

 

 

「悪かったって〜。ラーメン奢るから許してくれよ〜」

「軽すぎだろ」

 

 

 とりあえず一番最初のロビーに戻ると一発今西の腹に拳を打ち込んで洗いざらい履かせた。

 その結果、最初からこいつとこいつのおじいちゃんの策略通りだったという事実が明かされた。まぁほぼほぼ予想通りだったけど。

 

 ちょうど346プロのアイドル部門も活発化してきたこのタイミングで新しいスタジオミュージシャンが欲しかったらしく、そこで白羽の矢がたったのが俺だったらしい。

 だがしかし、基本的に怠惰でめんどくさがり屋な俺をここまで連れてくるのは至難の業。という訳で『とりあえず受けてみるだけ』『交通費ぐらい出してやっからさ!』という甘い言葉で俺を誘い込み、既成事実を作ってやるって寸法だったらしい。

 

 完全に詐欺の手口じゃねぇか! 常務の人も泣く泣く許可してたけど、多分事前に俺に何も言ってないって知ってたら落としてたんだろうな。そらそうよ。

 

 まぁ、いいや。取り敢えず、さっさと家に帰るか。

 それから考えよう。うん、そうしよう。

 

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