女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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初体験は盛大な方がいい

 10日弱あったはずだよな? 本番まではそこそこ時間はあったはずだった。

 そして今日は何曜日だ? そう、今日は日曜日だ。そしてここは対バン会場でもあるでけぇ箱だ。

 

 ……いやはっや! ていうか凛達のよりも俺の初ライブの方が日程的に早いんかい! 

 そういやって思うとうちのPさんかなり無理な日程組んでたんだな……あいつらみたいにダンス未経験からダンス練習じゃなくて、俺はベース経験済みからのスタートだから其処で大きな差はあったんだろうけど。

 

 勿論日にちが勝手に過ぎて行ったなんてことはないし、なんならつい昨日、ちゃんと前乗りしてこの会場でのリハも済ませてきた。

 リハは完璧……とまでは行かないが、初めてにしては上々といったところらしい。まぁ俺は必死にやってただけで何がどうなってたか全然わかんないんですけどね。

 

 

『──────!!!』

 

「うめぇ……」

 

 

 控え室のモニターから見る参加者の姿は輝いて見えて、他人事に見えたけど、それでいてそこから薄く聞こえてくる生音で本物だと実感して身震いする。

 

 不思議と孤独に包まれている気がして寒気のようなものを感じる。

 本来ならライブ前にあのコワモテのPさんが様子を見に来てくれるはずだったんだけど、なんか色々あってこれなくなったらしいし。なんだよ、色々って。まぁ来れないのはしゃーないんだけど。

 

 

「ま、ここに集まっているのは全員プロだし、当然だよ」

「バチバチに決まってますね」

「なんたってライブだしな!」

 

 

 いつもの髪型にアクセサリーをつけて戦闘態勢、と言わんばかりに目をキラキラ輝かせる夏樹さん。対して思ってた数倍参加してるバンドのレベルが高くてかなり緊張しているわし。

 経験の差といえばそうなんだろうけど、なんかここまで雰囲気というか落ち着きに差があると、この先俺は大丈夫なんだろうかと心配になってくる。こんなの気にしてたら始まらないんだろけど。

 

 

「光もちゃんとやってもらってるじゃん」

「メイクとかしたの初めてですよ……」

「ほぼメイクしてないも同然だけどな」

 

 

 それはそう。だってちょっとなんか粉をポンポンってしてもらったり、髪型をセットしてもらっただけだしな。

 でも、どうやらライブ前にメイクをする、しないっていうのは個人によって別れるらしい。木村さん率いる346組はもれなく全員メイクしてもらってたけど、他のバンドではやって貰わず、そのままステージに行ってた人もいたし。

 

 

「Pさんはもう来たのか?」

「いや、なんか色々あったらしくて来れないそうです」

「……そっか」

 

 

 まぁ何があったのかは俺にも全くわかんないんだけどね。

 うちのプロジェクトのメンバーは個性が強い奴らばっかだから、それに伴って問題の起きる数も多くなっていくのも仕方がないことよ。それを解決するために奔走するのもPさんだからな。

 

 

「やっぱ緊張してるか」

「もちろん。こんなでかい箱でベース弾いたことなんてないですから」

「そんなもんだよな。アタシも最初のライブは緊張した。でも、同時にすげー興奮したし」

「……そうっすね」

 

 

 正直な話、100緊張ではない。100あるうちの80が緊張で、残った20くらいワクワクしている自分もいるのも事実だ。

 バンドマンってバカな生き物だよな。正直今はとっても助かってるって実感してるわ。これで100緊張してたらまともに両腕が言うことを聞かなくなってた自信あるわ。

 

 

「親とか友達は呼んだ?」

「いや、シンデレラプロジェクトの人たち以外は呼んでないですね。あと一応親も」

「親御さんも喜ぶんじゃないか? 光がこんなでかい舞台でライブしてるの見たら」

「喜びますかねぇ」

「そりゃあ、喜ぶだろ」

 

 

 一応両親二人とも一応チケットは渡しておいたけども。

 

 母親は分からん。あの人はマジでわからん。あの人は俺のことをどう思っているかすらわからん。

 流石に自分の息子のことを嫌いというわけではないんだろうけど、色々とうちの母親は破天荒だからな。入寮したときの一件を思い出してくれれば分かるけど、まさにあんな感じの母親だからね。

 

 父親の方は多分喜ぶわ。なんてったって、俺にベースを仕込んだのは父親だからな。

 俺の父親はなんてことないただのベーシストだったけど、息子が形はどうあれでかい箱の舞台に立って演奏するとでもなれば、それなりには来るものがあるのではなかろうか。

 まぁ俺は本人じゃないから知らないんですけど。

 

 

「夏樹さんは誰か呼んだんですか?」

「アタシはもう何回もやってるからな。キリ無くなっちまう」

「かっけぇ」

「新鮮味がなくなるだけだよ」

 

 

 うわぁ、頑張ろう。ビッグになろう。

 

 俺も後輩か誰かが出来たら、いつかこう言えるようになろう。そん時はバチバチにキメ顔で言おう。

 いや、ダメだわ。今の夏樹さんみたいにちょっと照れながら言うのが逆にいいんだよ。ていうか夏樹さんだから良い。というか夏樹さんの顔が良い。

 

 

「緊張することなんてないさ。まぁ見てろよ。終わったころにはきっと楽しいって思えてるぜ?」

「こんなところでライブなんてできたら楽しいに決まってるでしょうよ」

「ははっ! 言うねぇ。そのクチ利けるなら心配いらなかったかもな」

 

 

 そんなに生意気なこと言いましたかね……。

 

 何度も言ってるけどワクワクはしてるのよ。バンドマン魂っていうのがどうやら俺にもあったらしく、それがうずうずしてたまらんのよ。

 あれよ。バンジージャンプとかジェットコースターみたいな感じ。行けば終わりなんだろうけど、どうしても想像する光景が怖くて足が竦むって感じ。

 

 まぁでも、最後に一歩を踏み出すのは自分だしな。結局。

 

 

「それに、言っちゃあれだけど500人なんて全然少ないんだからな?」

「えっ」

「日本武道館で1万5000人届かないくらいだろ? ドームになると4万人は下らないか。うちのアイドルとかそこでもライブして満席にしてるし。なんならアタシも出てるからな」

「マジですか」

「段階を踏むってのもあるけど、最終地点に近いとこくらいは考えとけよ?」

 

 

 もうそんなバグったような人数まで飛ばれると逆に吹っ切れそうな気もするけどな。

 

 そっか、ドーム公演もあるんだよな。俺がそこに立つことになるかはわからんし多分ないとは思うんだけど、子供のころのプロ野球選手になるって夢が色々ねじ曲がってドームに立つくらいのレベルではかなうのかもしれねぇんだな。

 そう思うと夢のある仕事だ。

 

 

「木村さーん! そろそろですー!」

 

「……よし、行こうぜ! 心配すんなよ。お前はすげぇんだからさ!」

「……よっしゃ! やるか!」

「そうだそうだ! もう逃げらんねぇからな! 勇気を出して飛び込んで行け!」

 

 

 ごめんこれだけは言わせて。ポケモンの四天王かよって思ってもうた。もうだめだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 凄かった。なにが凄かったとかじゃなくて、すべてが凄かった。

 

 目の前に広がる広大な客席と所狭しと詰め寄る観客。

 本当に自分の出している音かと信じがたくなるような最高の音質。

 そして体全体を包み込むようなボリューム。

 目の前でなんか燃えてるんじゃねぇかと思うくらいには熱い空気。

 観客の雄たけびとジャンプによって揺れる地面。

 

 そして、何よりも扱った舞台が何処よりも清々しく感じたあの瞬間。

 

 

「ぜぇ……いやー、楽しかったぁ……」

「いや、そんな体勢で言われても説得力ないけどな」

「いや……格好に関しては申し訳ねぇ……ちぬ……」

「冗談だって」

 

 

 なによりもビビったのが体力の持ってかれ方よ。

 今まともな体勢してないからね。もう椅子に座ってるんじゃないから。乗って溶けてるから。もうでろーんってなってるから。台パンして壁に穴開けたりはしてないけど。

 

 確かにいつもよりはしゃいだよ。だってテンションが上がる要素しかなかったんだもん。超絶楽しかったんだもん。

 けど流石にここまで体力ガッツリ削られるのは想定外。マジで一撃必殺だった。持続系じゃなかった。気が付いたらもうクエスト失敗しましたのテロップが流れてた。ライブは成功したけど。

 

 

「松井さん。お疲れさまでした」

「うわびっくりした!」

「光とだりーン所の……だっけ?」

 

 

 急にでかい影に覗きこまれたと思ったらうちの担当のPさんでした。心臓飛び出るかと思ったわ。下手なブラクラよりも怖えよ。

 

 

「……申し訳ありません。本来ならばライブ前に様子を見に来させていただくつもりだったんですが……」

「全然全然。大丈夫っすよ」

 

 

 実際何とかなったし。それに楽しかったしね。

 

 ただ、いざ大きな物事を目の前にしたときに、頼れる人物が自分の近くにいないだけでも自分はこんなにも弱弱しくなるっていうのは驚きだった。

 高校生にもなって少しは大人になれた気ではいたが、実際はそうでもなかったみたいだ。大人へのハードルってたけぇ。

 

 

「この後はライブ終了後、スタッフさん方へのあいさつ回りなどを終えたら帰宅となります。その際には自分も同行しますので」

「あい。了解しました」

 

 

 ライブ前にもあいさつ回り……というか楽屋に様子を見に来た偉そうなおじさんに挨拶はしたけど、終わったらこっちから行くんだな。

 

 そらこんだけの箱を動かすのには俺らだけの力では出来ないことだらけだもんな。スタッフさんたちの協力あってこそだし、むしろ挨拶だけでいいのかと心配になる。

 あっ、でもなんか346名義で差し入れあったし、そこらへんはもう大丈夫なのか。しっかりしてんねぇ。

 

 

「……なぁPさん。ちょっと確認したいことがあるんだけど、時間あるか?」

「……? はい。時間なら暫く大丈夫ですが……」

「そっか。じゃあ後でちょっと面貸してくれ。光はもうちょっと休んでな。アタシらちょっと用があるから」

「はぁ……」

 

 

 結局どっか行ってから直ぐになんともなさそうにして帰ってきてたけど、いったい何だったんだろう。俺がやらなくてもいいようなコトとかやってたのだろうか。

 まぁわかんねぇしいいさね。ライブも無事に終わったし、今日はもうこれで十分じゃ。帰って寝よ(本音)

デレアニ(アニメ版デレマス)を見たことがある?

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