女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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キャラ渋滞は便利な言葉

 初めての346プロ所属スタジオミュージシャンとしての舞台に立った次の日。

 本来ならあの興奮を忘れられず、いつにもましてベース欲が高まり延々とベースを弾き続けていた! ……的な感じにはなってたんだろうけどなぁ。前科者の俺にはもう一度同じ過ちを繰り返すメンタルはないのよ。

 

 

「んま」

「良かった~!」

 

 

 そんなわけで、俺はとっても大人しく、事務所でシンデレラプロジェクトのメンバーと、かな子ちゃんが作ってきてくれたお菓子を食べて豊かなティータイムを過ごしていた。

 

 中学生の時までイキって無理やり飲んでいたコーヒーのおいしさが最近やっとわかるようになってきたよね。

 いやぁ甘いものとコーヒーの相性って化け物みたいにいいわ。まぁ、今食ってるのはクッキーだから多分紅茶とかの方が相性良いんだろうけど。コーヒーは飲めるようになったのに紅茶は飲めないんだよね……

 

 

「かな子ちゃんのお菓子本当においしいです!」

「しまむー、あんまり食べ過ぎちゃうとおなかに~?」

「えぇっ!?」

「卯月なら大丈夫でしょ……未央も人のこと言えるの?」

「私は最近ダンス沢山してるから!」

「それは三人ともそうじゃん」

 

 

 卯月は多少太った程度では全く影響ないから大丈夫だよ。卯月のそこんところの事情全く知らないからアレだけど。

 というかこいつら二人とも美味そうに菓子食うよな。CM向いてるわ絶対。凛は……化粧品のCMとかいいんじゃないかな。ほんと知らんまに模範的クールになりやがって。

 

 

「おいしいから大丈夫だよ~」

「かな子ちゃん、トレーナーさん大丈夫なの……?」

「あっ」

「後で徹底的にしごかれる姿が目に浮かぶにゃ……」

 

 

 こいつ、完全にトレーナーさんに減量迫られてたの忘れてたな? 後でレッスン利用されて締め上げられるぞ。

 

 はい、かな子はこういうやつです。

 フルネームで三村かな子。超絶お菓子作りが上手く、めちゃくちゃいい子。明るめの黄土色のショートカットに真ん丸でタレ気味な目は、見る人をほんわかさせてくれること間違いなし。つまり顔が良い。

 

 ……ではあるが、ほんのちょーっぴりだけふくよからしい。

 このレベルで太ってるって女性社会どうなってんだって最初は思ってたけど、あまりにもここの会社で見る女性のスタイルが良すぎて最近感覚がバグってきた。

 確かにここにいる人たちに比べたらふくよかかもしれないな。うん。でも実際これくらいの体系の方が好みの人は多い……なに言ってんだ俺は。

 

 

「……あれ。ていうかさ、俺以外みんな紅茶派だったりする?」

「私、コーヒー飲めなくて……」

「私もー」

「凛はお前コーヒー飲めないっけ?」

「飲める」

 

 

 その割にはお前今飲んでるの紅茶やん。コーヒーちゃうやん。

 まぁ飲めるってだけで好きとは一言も言ってないもんな。そりゃそうじゃ(オーキド)

 

 そいで本田も卯月もコーヒーは飲めないと。卯月はなんかすっごいイメージ通りだったけど、本田も飲めない側の人間なんだな。

 

 

「多田は?」

「わ、わたしはロックだから勿論飲めるよ? うん」

「さっき李衣菜チャンめちゃくちゃ砂糖入れてたにゃ」

 

 

 おい、多田。やっぱり飲めねぇやんけ。

 いや、正直予想付いてたけどね。なんなら一番予想付きやすかった。意外とパターンすらも許さないってレベルで想定しやすかったわ。

 

 

「智絵里ちゃんはコーヒー飲める系なの?」

「わ、わたしですかっ!? わたしも苦いのはちょっと……」

 

 

 あら可愛い。まぁ智絵里ちゃんが苦い系の物が無理っていうのは、なんとなーくイメージ通りだよなぁ……って言っても智絵里ちゃんとこんな距離近いのは初めてだけど。

 

 そんなわけで確かフルネームは緒方智絵里。合ってるかは知らん。俺も名簿見て必死に覚えたんだから。

 少し赤っぽい茶髪に近い髪を高めの位置にツインテールにしてまとめていながらも、ツインテールにしてる人にありがちなキツイあざとさとかは一切ない。どちらかというと、まんま小動物的な雰囲気を感じる。

 

 ちなみにだけど、さっきから初対面というのもあるのかもしれないが、たまーに目が合うと凄くびっくりされるのでなるべく目を合わせないようにしている。

 そうだよな。今まで他の奴らが環境に順応しすぎてただけで、普通の女の子ならそういう反応になるよな。ごめんな、ビビらせちゃって(涙目)

 

 

「いやー、にしてもお疲れ様でしたな~。光クン」

「俺?」

「当たり前じゃないか~。昨日のライブ、未央ちゃんの目にはしっかりと焼き付いているぞ!」

 

 

 というか本田はどこ目線で言ってるんだよ。

 お前がもしかして俺のプロデューサーなんか? だったらとっても不安になること間違いなしだわ()

 

 

「でも本当に凄かったですっ! 私たちも次はあぁやってステージに……!」

「卯月たちなら出来る出来る」

「ふーん。卯月のことは名前呼びなんだ」

「えっ」

「私は名前で呼ばれる方が嬉しいですよ? 凛ちゃんはイヤ……ですか?」

「えっ」

 

 

 何この子。強い(確信)

 周りの人がみんな揃って卯月卯月っていうもんでいつの間にかそれが移って下の名前呼びになってただけなんだよ。誤解だ。直せるなら直すよ。そのうちね。

 

 

「そういえば、まっさんはあんまり私たちのこと、下の名前で呼んだりしないよね」

「私と凛ちゃんくらい……でしょうか?」

「李衣菜ちゃんも呼ばれてたにゃ」

「アレはお前をイジる為の悪ふざけだし。な?」

「うんうん」

「うにゃー!!!」

 

 

 怒るな怒るな。面白かったからええやないか別に。

 でも多田はそれこそ名字呼びしてる人少ないし、下の名前呼びが落ち着く枠だよなぁ。前川は前川ァ! って感じするからそのまんまでもいいんだけど。

 

 

「そもそも異性を下の名前で呼ぶのってなんかハードル高くね?」

「全然そうは思いませんなー」

「男の人ってそういうものなんですかね……?」

「私は全然気にしないかなー。小さいことを気にするなんてロックじゃないし」

「アカン、価値観が違いすぎる」

「多分この子たちがフレンドリーすぎるだけだにゃ」

 

 

 前川はこっち側の人間なんだな。今までで初めてお前と心が通じ合ったな。トレーナーとして嬉しい限りだ。ごめん、全部適当言った。

 

 それにしても、島村さんと本田がコミュ強なのは予想付いてたけど、問題はぽかんとした顔してるこのロックかぶれよ。

 お前もそっち側の人間やったんかい。その薄そうなロックの仮面の裏にはどんな素顔が隠されているのかちょっと楽しみになってきた。

 

 

「でもみくちゃんだって私たちのこと、上の名前では呼ばなくない?」

「それは女の子同士だからにゃ。相手が男の子だと話は別にゃ」

「みくちゃんは男の子が苦手なんですか?」

「いやそういうわけでは……」

「結局あだ名付けるのが一番なんだよねー!」

「それは違うよぉ」

 

 

 あれ? 渾身のシンジくんモノマネしたはずなんだけど。なんかものの見事にスルーされてない? 気のせい?

 いや違うわ。これあれだわ、完全に通じてないだけだわ。世代じゃねぇかぁー……そっかぁ……悲しいなぁ。

 

 まぁ俺も全然世代じゃないし、なんならエヴァとかほとんど見てないんだけどね。雑モノマネのモノマネしてるだけだから。もはや原型残ってないまである。……あれ? 原因それじゃね?

 

 

「でもこんだけ距離感ぶっ壊れがいると大変だよな」

「そこだけは同情してやるにゃ」

「前川が急に可愛く見えてきたわ。お前、アイドル向いてるんじゃね?」

「みくは正真正銘のアイドルだにゃー!」

 

 

 前川ってもしかしたらちょっとおかしいところがあるだけで、それ以外の点に関しては滅茶苦茶常識人なのかもしれない。

 いや、でも猫キャラの時点で全てぶっ壊れてるような……いや、やめといてやるか。

 

 距離感ぶっ壊れタイプな女の子の何が大変って、こっちの距離感の調節の仕方が大変なんだよな。

 クラスに一人はいただろ? めちゃくちゃ男女関係なく接してくれて、しかも滅茶苦茶距離感の近い女の子。全国の男子学生を勘違いさせ続ける最強生命体な。

 

 そういう女の子っていうのは本当に扱いが難しい。普通に扱えばいいじゃんって思ったそこのあなた。それは違うよぉ(シンジくん)

 このタイプの子と普通に接し続けていると、そのうち異性なのにまるで男の子のような扱いをその子にしてしまうようになるんだよ。具体的にどういうことかっていうと、自然に距離が近くなるうちにそのうちとんでもない地雷を踏み抜いて相手を傷つける可能性があるということ。

 これだけは阻止しなくてはならない。だから気を付けなくてはならない……って昔、凛に教えてもらった。滅茶苦茶熱弁されて推されたから、あれ以降ちゃんと気を付けるようにしてるんだよ。女の子って難しいね。

 

 

「でもアイドルなんだから、こんだけコミュ力的な能力あった方がいいのかもしれんな」

「わたしも頑張らなきゃいけないのかな……」

 

 

 緒方さんはそのまんまでもいいと思うんだけど……っていうのは口に出してはいけない。まだそれを口に出せる距離感じゃない。

 これだからコミュ障は辛いね。本田が羨ましいよ。

 

 

「これ以上コミュ強がいるのも困るけどな」

「あれ? まっさんってきらりちゃんとまだ会ったことないっけ?」

「きら……それって芸名?」

「本名でしょ」

 

 

 すげぇ名前してんな。ごめん第一印象それになったわ。

 キラキラネームがちょっと前に流行語みたいな感じになりかけてたけど、きらりってキラキラ通り越してもはやスタンダートなまであるからな。娘さんがアイドルでほんとによかったなって謎の目線で見ちゃうわ。

 

 

「凛は何回かあったことあるん?」

「当たり前でしょ」

「きらりちゃんたちは今日確かレッスンでしたっけ……?」

「Pさんがそうやって言ってたね」

 

 

 もしかしたら俺も今まで見たことあるのかもしれない。

 てか、今の今までまだちゃんと全員と顔合わせする暇がないって忙しすぎだろ。実際、卯月たちのライブも控えてるし、俺もつい昨日までライブ関係でわちゃわちゃしてて、実際ちゃんとした時間捕る余裕なんてなかったけどさ。

 

 

「そっかー。いつかそのうちちゃんと挨拶しときたいよな」

「……光クンって結構律儀なところ多いにゃ」

「俺、常識人だからさ」

「常識人は自分のこと常識人って言わないにゃ」

 

 

 それはそう。正論で返されたらなんも言い返せなくなるのマジで悔しい。

 

 会うなら早く会ってみたいよな~。きらりさんって人。その人含めると……13人か。シンデレラプロジェクトって確か14人だっけ? こうやって見ると多いよn

 

 

 バァン!!!

 

 

「!?」

「杏ちゃーん! レッスンの時間だにぃ~☆ ……ってあれ? 杏ちゃんは?」

「杏ちゃんは見てないですね……」

「きらりちゃん、今日はレッスンじゃないのかにゃ?」

「うん! 今日は杏ちゃんとレッスンの予定だったんだけど、杏ちゃんったらまーたいなくなっちゃって!」

「きらりちゃん……扉はゆっくり開けないと智絵里ちゃんが……」

「ひ、びびび……びっくりしたぁ……」

「あわわわ! 智絵里ちゃんごめんねー!」

 

 

 …………ハッ! いかん、思考が完全に止まっていた。

 いやいや、いやいやいやいや。いったいこれはどこからどうツッコんでいけばいいんだ。ツッコミどころが多すぎて逆にツッコめないタイプだ。

 

 爆発音かと思うくらいの音量で扉を開けた先に立っていたのは、とてつもない背丈をした女性。

 背丈の割には体はごついというわけでもなく、とってもスラッとしたモデル体型にも見える。ただでかい。滅茶苦茶でかい。うちのPさん並みにでかい説あるぞこれ。

 

 

「杏ちゃんはどこにいるんでしょうか……」

「レッスンはサボるわけにはいかないしね」

「だいじょーぶ! 杏ちゃんはぜーったいここにいるにぃ☆」

「なんでわかるの……」

 

 

 そしてやはりというかなんというか。顔はとてもかわいい。

 少しカールのかかったふわっふわの茶髪にぱっちりとした目とアヒル口は、絵にかいたようなメルヘンを感じさせる。だが、全体的な顔立ちはどこか大人びていて、お姉さんといったような印象を覚える。口調についてはもう触れないでおこう。

 というかあんなスラっとした体形であんだけ爆音でドアを開ける力があるってどうなってんだ。色々とメルヘンが過ぎる。よくドア壊れなかったな。

 

 

「杏ちゃんがいる場所は大体ここだから……えーっと、ソファーの下にはいなさそうかな?」

「なんでわかるの……」

「きらりちゃんって杏ちゃんのサーチ能力はものすごいからにゃ……」

 

 

 杏ちゃん杏ちゃんって言われているのが14人目のシンデレラプロジェクトの子だろうか。なんでソファの下にいる説が出てるんだよ。流石に即否定してたけど。

 その子も多分一度も姿を見たことがないんだよな。マジで謎の人物。まぁ、目の前で元気に飛び跳ねてるメルヘン少女も謎に包まれてるんですけど。

 

 

「ふっふーん! きらりんサーチ発動☆……杏ちゃんはー、こーっこだぁ~!」

「うわぁ!? 起こすなよきらりー!」

「わぁ! 凄いですー!」

「杏ちゃんの一本釣り……見事!」

「杏のこと、魚扱いは酷いと思うなー」

 

 

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ……!

 きらりさんがきらりんサーチとか言って一直線に俺たちの座っているソファーとは別にある、一人用のソファーみたいな椅子に走り出して行ったんだ! そして急にソファーの片側を軽々と片手で浮かせたと思ったら、もう片方の手を空いた隙間に突っ込んで出てきたのは体の小さい女の子だった……!

 俺も何を言っているのかわからねぇ……! というか、何一つ今起きたことが理解できねぇ……!

 

 なんで一発でわかんだよ。というかなんでソファーの下にいるんだよ。おかしい。この世界は何かが間違っていやがる。

 

 

「……すげぇもん見た」

「みくはもう見慣れてきた段階に入ってるにゃ」

「お前やっぱおかしいよ」

「悔しいけど同感にゃ」

 

 

 おそらく、今きらりさんの小脇に抱えられている少女が杏ちゃんと呼ばれている少女だろう。

 年齢的には小学生くらいか? でもみりあちゃんよりも小さい……かわかんねぇな、あの体勢だと。

 

 金髪……というよりクリーム色に染まった髪を下の方でツインテールにしてるっぽいけど、滅茶苦茶長いのを見ると元々ロングヘア―なのだろうか。ここから見てもわかるくらいサラサラしてんな。

 さっきから絵にかいたようなやる気のない顔をしているけど、それでもわかる。もう定番化してきた。顔が良い。そらアイドルだもん、知ってたわ。うん。

 

 

「あーっ! 初めましてだにぃ!」

「あっ、初めまして」

「昨日のライブ! と───っても! 凄かったにぃ! はっぴはぴしてて、きらりまで元気になっちゃった!」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 グイグイ来られすぎてつい敬語になってしまった。

 距離感が近いとかそういうレベルじゃない。新幹線だわ。横顔じゃなくて、距離感の縮め方がもはや新幹線。

 

 

「きらりー。まだ自己紹介もしてないんだし、急に来られてもこの人も困っちゃうでしょ」

「そうだった! おっすおっすー☆ 諸星きらり! 17歳だにぃ! ほーら、杏ちゃんも! 自己紹介して!」

「杏はいいよぉ……眠いんだよぉ……」

「しょうがないな~……ごめんね? こっちは双葉杏ちゃん! きらりと同い年! 体は小さいけど、色々とすっごいんだよ!」

「ま、松井光。17歳です」

 

 

 もうどこからどう処理すればいいのかわからん。勢いが凄すぎる。もうコミュ障陰キャみたいな話し方にこっちがなってしまっている。

 っていうか17歳って言ったか? 俺と同い年じゃねぇか! しかも双葉さんも! なんか色々とバグってて頭がおかしくなりそうだ……

 

 

「それじゃあ、きらりたちと一緒だね! これからも杏ちゃんも一緒にみーんなではっぴはっぴしていこうにぃ☆」

「よ、よろしくどーぞ」

 

 

 なんだろうな。俺、これから先が不安になってきたよ。

 助けてケスタ。

読者層気になるので知りたいアンケ

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