女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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大舞台は緊張と期待のタイフーン

 今日は卯月たちの初めてのライブの日。

 本来なら祝日ということもあってグッスリ爆睡する予定だったんだ。そんな中でも半分同僚みたいな感じになってる三人の初舞台を見るために、ちゃーんと寝る前に次の日の持ち物やら服装やらを準備して、そのうえで目覚ましをかけてスタンバってた俺のことをまずは手放しで褒めてほしい。

 

 

『おはよ』

 

『…………おはよ』

 

 

 でも思い返せば目覚ましが鳴る前から凛のモーニングコールで叩き起こされ。

 

 

『起きて』

『ハッ! ……えっ、もう着いた?』

『うん』

 

 

 電車の中で無事寝落ちし、気が付けば凛に肩を叩かれ半分飛び起きたと思ったらすでに現場に着いていて。

 

 

『凛? ここ関係者しか入れんパターンの場所では?』

『関係者でしょ』

『いや、普通にチケットあるし今日は客側なんだけど』

『大丈夫』

 

 

 ちゃんと普通のお客さんと一緒に正規の入り口から入ろうと思ったら、何故か服を引っ張られて職員用窓口から入場させられ。

 

 

『あれ? 今日は見学でもしに来たの?』

『いや、よくわかんないですね……』

『あははっ! なにそれー!』

『今日はよろしくお願いします』

 

 

 なんか我が物顔でスタッフさんに道案内してもらいながら、美嘉さんとか先輩方のあいさつに付き合うことになり。

 

 

「先輩たちからいろいろ学んでください。今日の全てが、皆さんにとって貴重な体験になります」

「「「はいっ!」」」

 

 

 果てには気が付きゃ本番前の三人を激励するPさんという激エモシーンを千川さんと二人で眺めることになってる。一体俺はどういう立場でここにいるねん。

 

 早い、早すぎる。手際といい全てが早すぎる。俺がちゃんと備えていた意味よ。凛ちゃんほんとによくできた子。お母さん感心しちゃう。

 

 

「千川さん」

「なんでしょうか?」

「俺ってなんでここにいるんですかね」

「さぁ? でもなんら問題はないですから、大丈夫ですよ」

 

 

 その割にはさっきPさんめちゃくちゃ焦ってたように見えたけどな。

 

 そりゃあそうだ。だって俺も聞いてなかったんだもん。

 Pさんが凛からそういう旨の話を聞いてるなら、律儀なこの人のことだし事前に連絡をしてくれるはずだもんな。

 というか、毎日最初の軽いミーティングでその日の予定を全部伝えてくるようなこの人が伝達ミスとかやるはずないもんな。可哀そうに(他人事)

 

 

「そもそもここに俺っていてもいいんですかね」

「さっきも言ったじゃないですか。問題はないって。松井さんも立派な関係者ですから」

 

 

 いやいやいや。違うからね? そもそも俺ってシンデレラプロジェクトのメンバーでもないからね? ただ346プロと契約している高校生ってだけだから。それ以外何にもないから。関係者って俺が知らないだけでそういうもんなの?

 

 

「ところで松井さんはみなさんに声をかけたりしないんですか?」

「なんで俺が」

「またまた~。 凛ちゃんの練習に付き合ってあげてたのは松井さんじゃないですか」

 

 

 えっ、なんで知ってるの? 俺、そのことは誰にも言ってないんだけど。

 っていうかやってた場所が場所なだけに俺らの地元と同じ人しか知りえない情報だよね? だってあの公園昼間はともかく、夜なんて全然人来ないんだぜ?

 どういう人脈持ってんのこの人? そもそも人脈から来た情報なのか? もうわかんねぇなこれ。大人怖ぇ。

 

 

「なんか言うことないの」

「お前が言うんかい」

「『なんか言うことないの』」

「そんな似てないが」

「ちぇ~。未央ちゃんの自信作だったのに」

 

 

 めちゃくちゃ表情変えずに真顔で言うじゃん。怖いじゃん。『お前ずっと私のダンスを近くで見てきただろ???』って顔が語ってるもん。

 あいつは無表情だけど俺は分かるんだ。だって後ろにスタンドが見えるもん。爆熱ストームだもん。マジン・ザ・ハンドだもん。めっちゃキレてるもん。

 

 っていうか本田のモノマネは凛のだよな? だとしたら色々と足りてない。足りてないというか。本田のバックにはマジンじゃなくてパリピの魂が付いてるから無理だわ。

 

 

「がんばれ」

「向いてないよ」

「何が?」

 

 

 俺が10秒くらい悩みに悩み抜いて出したエールは真っ二つにされました。

 

 お前辛辣すぎんか? 臭くならないようにちゃんと簡潔にわかりやすくかつ短くストレートに届くような言葉を選んだのに。そんな俺の渾身のエールだったのにひでぇや。

 

 

 ガチャッ!

 

「?」

「あ゛っ゛」

 

 

 目があったぞ、前川。おはよう。挨拶は大事。

 

 本番前のちょっと神妙な感じになってる空間のドアがいきなり開こうものなら、そりゃあ音でバレるし視線は集めるよね。

 そんなわけで視線の先にいたのは前川とかな子と智絵里ちゃん。前川を先頭についてきた感じがぷんぷんとする。そいつ色んな意味で先頭向いてるもんな。わかるわかる。

 

 いやでも今のドアを開けたら先客がいて、そいつと目が合って『あっやべ』って顔になって硬直するって体の動きはとっても猫だった。猫キャラ貫けてて偉いぞ! 前川!

 

 なーんでこいつ簡単に入ってこれてるんだと思ったけど、こいつに関しては完全に関係者だったな。ちゃんと繋がりあるし。っていうかよく見たら緒方さんと三村さんまでいるじゃん。保護者かな?

 

 

「あぁう……っまだ納得はいかないけど! 今日はみくを倒したみんなに託すにゃ!」

 

 

 暫く視線を集めてうろたえる中、絞り出したセリフがこれである。

 

 茶化しに来たんじゃなくて応援しに来たんじゃん。良いとこあるねぇ野良猫さん。

 っていうかこれ、俗にいうツンデレじゃね? 僕知ってる! これツンデレだ! 猫意識してんのか? 顔は可愛いんだから破壊力だけはあるぞ。命中30%だけど。

 

 

「ライブ、頑張って!」

「みんなと一緒に、見てますから……」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 

 智絵里ちゃんとかな子ちゃんの女の子らしいエール。それに元気に答える卯月。グッとサムズアップする本田。無言でうなずく凛。

 なんというか、三者三様だよなぁ。御三家みたいな感じがする。こうやって見ると、この三人って相性がいいのかもな。上手いこと相性を補えそうな気がする。

 

 

「光」

「なんだよ」

「これだよ」

「正直すまんかった」

 

 

求めていたのはこれね。ごめんね。そんなの分かんない無理ぽ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだで前川達についていって観客側に戻りましたとさ。

 まぁでもあれだわ。思ってたよりもガチガチじゃなくて何だか安心したわ。本番前にガチガチになる凛ってなんか想像できなさそうではあるしな。あいつも緊張はするんだけどね。

 

 今回、美嘉さん達がライブをする会場はかなりでかい。例えるのなら、小中の時に学校で貸し切ってやった合唱コンクールの時に使った会場みたいなどでかいホール。久々に来たわ。おそらく去年ぶり。

 例え方へんじゃね? って思ったやろ? マジでこれが一番正しいから。みんな見たら『あっ、ここ昔合唱コンクールで使った所っぽい!』ってなるから。

 

 

「ここだよー!」

「えーっ! もっと近くが良かったー!」

「でも~、ここからでもとってもよく見えるよぉ!」

 

 

 何故か真っ赤に固定されてるカーペットの敷かれた階段を上り、ドアの向こう側に抜ける。狭い空間から一気にどえらけない広い空間が目の前に映るのは何とも言い難い快感があるよね。

 なんというかアイドルのライブをやるっていうよりも、劇〇四季が始まりそうなステージだな。こういう会場ってアイドルとかのライブにも使えるんだって豆知識的な何かが増えたよ。この先使うとは思えない知識だけど。

 

 っていうかここ、端の席じゃん。しかも空中に浮いてるタイプの。

 俺ってエスカレーターでもそうなるんだけど、それってどこでどう支えてるん? ってなるようなものの上にいるのすげぇ苦手なんだよな。慣れたら大丈夫だから高所恐怖症ってわけではないんだろうけど。

 

 

「あそこのステージに卯月ちゃんたちが立つんだね……」

「バックダンサーだけどな」

「ふんっ! お手並み拝見にゃ!」

 

 

 って言いつつ、お前ら基本的には使ってる部屋も時間帯も卯月たちと一緒だから練習の進展具合とか知ってるはずだろ。お手並み拝見も何もないのでは? 詳しいことは知らんが。

 

 なんかオタクっぽいひょろっとした男性の隣の席に腰を掛ける。本当に映画館みたいな席だな。ポップコーンとジュースを摘まみたくなってくる。まぁここ飲食禁止なんだけどね。

 暇な時間はスマホでも見ようかと思ったが、なんかこんな場所でスマホを見るってマナー違反な気がしなくもなく、スッと左ポケットにスマホを押し込んでステージをぽけーっと見つめる。

 いやー、あそこに立つんだなぁ。なんか信じられねぇ。

 

 

「お隣、空いてる?」

「御覧の通り」

「座っていいかな?」

「どうぞどうぞ」

 

 

 もう片方の空いた席に座ってきたのは超越美女、新田さん。なんとなく重心をオタクの人の方に少し寄せる。なんか近づいたら罪な気がしたんだ。

 

 それにしても顔が良い、ほんとに。もし知らない人だったら美人すぎてちょくちょくばれないように横目に見てたまである。そんな事したら怒られるからやんないけど。

 

 

「光くん、不安じゃないの?」

「……何がですか?」

「凛ちゃんのこと。幼馴染なんでしょ?」

 

 

 一体どこから情報が洩れてるんですかね、ほんとに。また本田か? あのセルフスピーカーめが。まぁ隠してるわけでもないから別にいいんだけどさ。俺じゃなくて凛が困っちゃうからね。

 

 

「不安……不安ねぇ……そんなこと言っても、もう本番ですしね」

「腹は括った……みたいな? 漢らしいところあるんだね」

「いやいや、俺じゃなくて。凛は強いですから。あの見た目通りですよ」

 

 

 ツンケンしてて、名前の通りに凛としてて、何事もクールにこなす。それが渋谷凛という女性の表向きの姿だから。

 長いこと一緒にいるってだけで何回か弱い所を見たことはあれど、それを表に出すようなことは昔からしなかったからな。昔から強い人だよ。

 

 っていうかさ、男らしいところあるってどういうこと? 美波さんは俺のこと今までどういう目で見てたの? 悲しくなっちゃうよ?

 

 

「ねーねー! 二人とも何話してるの? もう始まるよ!」

「もうそんな時間ですかい」

「みんなの姿、ちゃんと見ないとね」

 

 照明が落ちていくのと反転、周りのボルテージが上がっていくのを歓声の大きさとペンライトの光で身をもって感じる。

 この前はあっち側だったけど、今回はこっち側だもんな。どっちから見てもすげぇ迫力。アイドル冥利に尽きるよな。

 

 

「気張れよ、凛」

 

 

 なんかここでボソッと言っとけばかっこよくなる事ね? って思ったけど、そんなことは無かった。というか周りの圧がすごすぎて多分誰にも聞こえてないわ。陰キャかよ。

読者層気になるので知りたいアンケ

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