女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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人生の転機って重大な癖にしょっちゅうくる

「お疲れぃ」

「そっちもね」

 

 

 カチャン、と軽くガラスでガラスをこづいたような音を出して、コップに入ったオレンジジュースを一気に喉を通して胃に流し込む。んー、良い爽快感だ。何歳になってもジュースはおいしいものである。

 

 机の上には豪華……ではないが、スーパーで適当に買ってきたお菓子がちょっと丁寧にお皿に盛られている。

 今日は、俺の初ライブと凛の初ライブのお疲れ様会みたいな感じの奴だ。ちなみに会の発案者は凛である。昨日は頑張ったもんね。マジでお疲れ様。

 

 

「どうだったよ。初ステージ」

「どうって……なにそれ」

「いや、気になるじゃん。あんだけ観客を沸かせてたわけだし」

「別に……ファンの人を沸かせてたのは美嘉さんだし」

「でも、ちゃんと最後は紹介してもらってたじゃん」

 

 

 十中八九、照れ隠しだろう。俺にはわかる。わかんないけどわかるんだ。凛だって人間だからね。

 

 実際、昨日は凄かった。

 自分の周り全部の熱量も尋常じゃないし、ステージでアイドルしている美嘉さんや卯月たちは滅茶苦茶輝いていた。

 他にも可愛い子いっぱいいたし、ほんとにすげぇ事務所だしアイドルが集まってるんだなって再確認させられた。そんな気分になる。

 

 そもそもの箱の規模が違うとはいえ昨日の凛たちの会場はキャパ2000人とか聞いたし。500人って多いと思うんだけどなぁ……おかしいなぁ……ライブハウスとコンサートホールの違いか?

 

 

「……凄かった」

「……」

「ステージから見える景色も、空気も、感覚も、全部が初めてだった」

「……楽しかったろ」

「楽しかったっていうよりも圧倒された、かな」

 

 

 知ってしまったか、ステージの味を。まぁ俺もそんなに知らないんだけど。

 でもそんなにキラキラした目で話されたらさ、どれだけよかったのか想像もつかないなりに思い浮かべてしまう。

 あれだけ努力してちゃんと得られた成果があるっていうのは素晴らしい。努力しても水の泡とかあるからね。ちゃんと報われてよかったほんま。

 

 

「アイドル、始めてよかったな」

「……うん」

「最初、アイドルになるかもって言われたときはびっくりしたもん」

「もう昔の話でしょ」

「回想入っとく?」

「良いって別に……」

 

 

 まぁそんなこと言われても回想には入るんですけどね。

 いやー懐かしいね。あれから何年たつのだろう。俺の記憶が正しければ、あれはなんと昔、先月の事だったであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は部活もなく、学校が終わってそのまま寄り道もせず速攻で我が家に帰宅したんだ。そしたら玄関に置いてある靴がなんか一つ多かった。それも松井家の人間の靴のサイズとは思えないモノ。

 なんかおかしいなー、なんて思いつつ、制服を脱いでダル着に着替えに二階の自分の部屋に戻ったのよ。

 

 

「おかえり」

「ただいま」

 

 

 うん、知ってた。知ってたよ。どうせお前だろうなって皆目見当ついてたよ。なんなら最初に靴見つけた時点で気が付いてた。

 

 おんなじ町内でありさらにはご近所さんでもある昔なじみの友達が勝手に部屋に上がり込んで来てたよね。その名も渋谷凛。顔が良いことで地元では有名な奴。

 まぁ上がってたのが凛で良かったよ。不審者だったら叫んで逃げてた。

 

 

「私、アイドルになるかもしれない」

「…………はい?」

 

 

 ズボンをベッドに放り投げ、シャツの第一ボタンを開け、さぁ脱ごうとシャツで視界を真っ白にした瞬間に急な衝撃が入る。物理的ではなく。

 

 ……今、なんて言った? アイドルって言ったか? アイドリングストップの間違いじゃなくて? なんかエコな運転をこれからするとかじゃなくて?

 

 

「嘘、忘れて。じゃあ帰るから」

「おい待てコラ。話聞かせんかい」

 

 

 顔も合わせずにスッと立ち上がってそのまま逃げようとする凛の肩をガッシリと掴んで、そのまま先ほどまで座っていたベッドに押し戻す。

 凄くバツが悪そうに俺の顔から眼をそらしているあたり、さっきの話は本当だったんだろうな。

 信じようとしなくてごめんて。もう信じたから許してや。ちゃんと信じたから。

 

 

「……今日、店番してたら凄い顔の怖い男の人に声かけられた」

「よし分かった。明日から俺も一緒に店番してやる。凛の父さんと母さんには話しとくから」

「違う」

 

 

 大丈夫だって。凛の父さんも母さんも昔から滅茶苦茶俺のこと可愛がってくれたし、超優しいから。

 凛って綺麗に両親の顔を半分ずつ受け継いでるんだよな。二人ともイケメンだし綺麗だから。超羨ましい。

 

 それもよりも不審者の話よ。こいつ、本当に顔は天下一品だからな。

 中学の時から顔が良いってことで俺らの学年でも有名だったんだから。地元でも有名学校でも有名ってもはや芸能人まである。

 でもこいつ、問答無用で告白してきた男を片っ端から振るんだよね。顔が良い奴もいるのにかわいそーに。百人斬りナイトバタフライかよ。

 

 

「それで、その人が急にアイドルにならないかって言ってきたから……」

「不審者じゃん」

「私も不審者だと思って追い返した。三日前に」

「三日前に」

 

 

 こやつ、なぜその時すぐに言ってくれなかったんだ。

 まぁこの子って基本的に本当にやばくでもならない限りはヘルプミーマーリオしに来ない子だからね。プライドが高いというか、オオカミちゃんだから。がぶがぶ~、童〇明治だよ~(裏声)

 

 

「それで昨日も来て今日も来たからさ、もう折れて話だけ聞いたの。今日はお父さんもいたし」

 

 

 うーん、このお人よし。なんだかんだこういうところがあるからいけない。クールでツンケンしている癖に押して押して押されると折れるからね。告白は斬るけど。

 

 これ、無駄なカミングアウトなんだけど、中学の時に凛のこのお人よし部分を使って、どうにかして胸を見せてもらえないだろうかと本人に頼み込もうかと思った時期があったんだよね。

 結局、あまりにも凛がいい子過ぎたから作戦移行には至らなかったんだけど。あの時の俺とっても偉い。中学生の思考って怖いね。バカだね。

 

 

「そしたら。これ」

「ほう」

 

 

 延ばされた手の先にはなんだか小さな紙が。どれくらいの大きさかというとちょうど名刺サイズ。というか名刺だな、これ。

 それをひょいっと摘み上げて裏表を見てみると、何だか小さめな文字で色々と文章が書いてある。

 

 なになに。『株式会社346プロダクション アイドル部門 シンデレラプロジェクトプロデューサー 武内────』

 

 

「…………346プロって、あの?」

「うん。多分、光が想像してるとこ」

「アイドル部門って、マジなんか」

 

 

 名刺にガッツリ刻まれているアイドル部門の文字。うん、何回見ても確実に入っている。

 隣にあるシンデレラプロジェクトとかいうのはよくわからんけど、多分管轄とか事業的なもんだろう。会社の事だろうし、素人にはよくわかんねーけど。

 

 

「なに、私じゃアイドルに向かないって言いたいわけ?」

「いや、どちらかというとモデルかなーって」

「褒めてんの? それ」

 

 

 いや、褒めてるだろ。少なくとも凛だったらモデルも余裕だよ。適当に言ったけど。

 

 それにしても346プロってマジかー。名前だけなら俺でも知ってるんだよな。

 そもそも芸能事務所がどういうものなのかは全く知らないんだけどね。まぁでもよし〇ともジャ〇ーズもそういうものだし。

 

 

「そんでどうすんのよ。やるの?」

「……光は、どう思うの」

「どうって」

「私がアイドルになること」

 

 

 単純なようで難しくてやっぱりちょっと単純なこと言うなぁ、こいつ。

 女の子ってやっぱりこういう少し回りくどいような言い方が好きなんだろうか。これは回りくどいっていうよりもどう答えればいいか困るってやつだけど。

 

 正直な話、正直な話よ? 俺は凛にはアイドルにはなってほしくない。

 理由は超絶単純明快。芸能界の闇だとか枕営業だとか、そういうのに触れる機会を作ってほしくないし、出来ることなら指一本たりとも触れさせたくないから。

 考えてみろ。友達が黄金の沈む泥沼に飛び込もうとしているのをとりあえずでも止めようとしない人がいるか? 止めないやつは多分サイコパスかなんかだね。

 

 けど、俺は知っている。女性がこういう『どうした方がいい?』『どう思う?』系の話を振ってきた時は、大概肯定してほしいと結論はもう決まっているのだ。

 

 

「枕営業とか死んでもしてほしくないから出来ればやだ」

「するわけないでしょ」

 

 

 ごめん。やっぱり隠し事とか無理だわ。本音出ちゃったわ。

 

 肩の力が抜けたのか知らんが、凛が急にぼふっとベッドに横になる。お前よく男のベッドに簡単に横になれるよな。まぁいいけど。

 想定していた答えの斜め上に行ったのかな。なんか噴水みたいにどでかい溜息出してるし。おもしろ。

 

 

「じゃあさ。そういうのしなかったら、私がアイドルになっても良いわけ?」

「まぁ、いいんじゃね? アイドルとかよーわからんけど、お前顔はいいから」

「ふふっ、なにそれ」

 

 

 そういえば、なんかアイドルには笑顔が大事とか聞いたことがある気がするし、無い気もする。多分、俺が今イメージしたアイドルがめっちゃ笑顔でドルオタたちから金をむさぼり取ってる風景しか出てこんからだろうな。

 

 そういう意味では、今こう言う笑顔を見せられるこいつはアイドル適正高いのかもしれない。

 これは高くつくぞ。どれくらい高くつくかというと不良債権ゲス狸のローンくらいには高くつく。

 

 

「……うん。決めた」

「そう。スッキリした?」

「まぁまぁかな」

「充分。じゃ、家まで送ってってやる。感謝しな」

「泊まる」

「アホか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、まだオタクの人から搾取とかしてないからやさしいよな」

「アイドルに偏見持ちすぎでしょ」

 

 

 まぁ凛がまだそのうちにすら立てていないと言うのも事実だけどな。アイドル始めて一ヶ月ちょいくらいしか経ってないんだからそりゃあそうだけど。逆にステージに立ったのが早すぎるくらい。

 

 

「でもまぁ……アイドルになって正解だったかな。まだわかんないけど」

「どっちなんだよ」

「光の真似だよ」

 

 

 嘘だ。俺はそんな適当なことは言わないから。何でそんな悪い笑顔してるんだよ。泣くぞ、おい。

 でも適当な発言だとは言え、自分で選んだ道が正解だったって言ってるのを見れて俺は嬉しいよ。今が全てじゃないけどさ。

 

 

「まぁでも中学最後の思い出くらいにはなったんじゃねぇの?」

「もう中学校なんてとっくの昔に卒業してるけどね」

「とっくの昔ではないやん」

 

 

 言うても一ヶ月くらい前じゃね? 全然日付把握してないからわかんねぇや。

 中学生の卒業式って何月にやるっけ。 二月? 三月? どちらにせよ、長くてもまだ全然経ってないのに大袈裟に言いやがる。こいつ楽しんでんな?

 

 

「そういや、凛って高校何処にしたん?」

「……さぁ」

「えぇ……」

 

 

 逆になんでそんなにまっすぐとこっちを見ながら嘘つけるわけ? お兄さん怖いよ。そんなウソを堂々とつける子に育てた覚えはないのに!(違う)

 

 結局、この後ちょいちょいと凛の進学先を聞き出そうとしたけど、全部うまく躱された。ケチな奴だ。今度晩飯おごってやらねぇからな。

読者層気になるので知りたいアンケ

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