女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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天才と助手に素敵な男飯を

 学生が学校帰りにスーパーに寄るって言うのは、実際どうなんだろう。

 

 寮生活が始まってからしばらくはコンビニや専門店の弁当などで食いつないできたが、栄養バランスやら出費やら考えるとやっぱり自炊が良い気がして、最近は殆ど自炊に切り替わってる。

 

 そう思うとスーパーは我らの味方だ。徒歩10分の場所にあるし、何よりも安い。

 最近は野菜も高騰しているが、日によって安い野菜を購入して家計の負担を減らすのが主夫の心意気という物だ。

 野菜は生だと日持ちしにくいが、調理して副食や常備菜にすることである程度日持ちはするようになる。昔から何かと料理好きで趣味でよく自分の飯は作っていたが、まさかこういう形で活きるとは思わなんだ。

 

 

「おや、買い物帰りかい」

「見ての通りで」

「志希ちゃんもいまーす」

「見りゃわかりますよ」

 

 

 自室の前でバッタリお隣さんとお隣じゃないさん。

 志希ちゃんさんは全く隠れられていなかったしね。飛鳥よりも身長高いから当たり前だけど。というか隠れる気無かったろ。めっちゃニコニコしながら飛鳥の後ろに突っ立ってたが。

 

 

「もう夕食には頃のいい時間だ」

「そうだね」

「志希ちゃん、お腹すいちゃった~」

「そうですか」

 

 

 なんだろう。他愛もない会話のはずなのに、謎に圧を感じる。

 というか二人の視線が俺じゃなくてずっとパンパンになった買い物袋に行ってる。狙ってるんよ、その視線は。

 

 

「…………男飯ですけど、食べます?」

「人数分の材料はあるのかい?」

「肉屋のおっちゃんに豚肉サービスしてもらったんで」

「今日の献立は?」

「キャベツたっぷり焼肉丼」

「ん~、男の人が作るご飯! いいねー!」

 

 

 肉屋のおじさんが豚肉のこま切れをサービスしてくれたのは事実だ。3日分で別メニューで考えてたのが5日分になって豚肉パーティとか考えてたけど、一日で消費できるならまぁ良しとしよう。

 

 本日の献立はニンニクたっぷり男の焼肉丼だったが、女性が来るとなったらにんにくは削除しよう。

 ついでにキャベツも乗せるか。本当は無限キャベツにする予定だったけど、ほんの少しはバランスも考えないとな。

 

 

「じゃあ、遠慮なく~♪」

「邪魔するよ」

 

 

 それはそれとしてこの人たち、よく平気で赤の他人の男の部屋に足踏み入れられるよな。部屋主が扉を開けたらあっという間に中に入っていくんだもん。

 変なもん部屋に入れてなくてよかったわ。ついでに3日間くらいしてなくてよかった。ゴミ箱も空にしておいてよかった。マジで。

 

 

「志希ちゃんベッドもーらい♪」

「志希、あまり男性の寝床に突っ込むものじゃない。後、ゴミ箱は漁ってはいけない」

「クンカクンカ……うーん、セクシャルな匂いは薄いな~」

「二人とも引っ張り出すぞ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

「いただきます」

「イタダキャス……」

 

 

 丼ぶりごと持って見かけなど気にせずガッツリかき込む俺。

 礼儀正しく綺麗に箸をもってご飯を口に運ぶ飛鳥。

 案外一番普通にご飯を食べる志希ちゃんさん。

 

 いただきますも三者三様。ご飯の食べ方も三者三様。いやー、こんなに性格によって食い方変わるもんなんだな。

 志希ちゃんさんとかも普通に綺麗に食べるから意外だ。箸の持ち方とかも綺麗すぎる。超意外。超失礼。

 

 

「ん~、リンゴに醤油にお砂糖。塩気が強いけど、水あめみたいな甘さも感じるね。大味に見えて色々入ってる~」

「焼肉のたれは最強なんですよ」

「豚肉のさっぱりさに合わせてガツンといったソースを使うなんて中々やりおるな?」

「焼肉のたれってそういうもんです。マヨネーズいる?」

「貰おう」

 

 

 マジで簡単よ? 豚のこま切れ肉を少なめのごま油で炒めて、そこにエ〇ラの焼肉のたれ中辛を投入。本当はここで刻みニンニクとか入れるんだけど、今日は自重。

 

 アツアツご飯に刻んだキャベツと作り置きしたもやしナムルを少々。そこにメインの焼肉を乗せて、刻んだ青ネギと温玉を添えれば、超絶簡単男飯焼肉丼の完成。

 お好みでマヨネーズやキムチを乗せたりしても美味しいぞ! 油に油を重ねてるから洗い物だけめんどくさいのが欠点だ!

 

 

「周子さんから話は聞いていたけど、本当に料理が出来るとはね」

「意外だろ?」

「趣味なのかい?」

「趣味と言えば趣味かな程度」

「志希ちゃん的には美味しいごはんが食べられればなんでもいいけどね~」

 

 

 趣味というかなんというか、うちのお母さんは毎日ビシバシと料理を作るタイプじゃなかったから、俺や父親が料理を作る機会もそこそこ多かっただけな気もする。

 

 育児放棄とかそういうのじゃないよ? 単に面倒くさがりなだけ。休日とか昼まで寝て一瞬起きたら夜まで寝てるようなそういう人なだけ。

 そういう日に毎日カップラーメンって言うのもどうなんだって話であり、それなら作った方が良いよなって話に大昔の小学生の頃になった覚えがある。

 今思えば無茶苦茶なきっかけだ。たたき起こして作って貰えって話だしな。

 

 

「飯を食いたいなら食堂があるじゃないすか」

「えー、キミの手料理の方が良いじゃん」

「それって面白そうだからですか?」

「勿論!」

 

 

 だろうな。絶対にそうだと思った。

 この子よくわからんけど料理作るとか面白そう! ってそういう凄い単純な気持ちで来たんだろうなって感じがぷんぷんしてたからね。

 

 

「でも、今の話はキミにも言えることじゃないか?」

「俺?」

「わざわざ食材を買い込んで一人で料理を作ることもないじゃないか」

「いや、食堂は無理。女性しかいないところに邪魔しに行くなんて」

「住み込んでるんなら気にしなくてもいいじゃないか」

「いやいや、そろそろここも出るかもしれないし」

「そーなの?」

 

 

 出てくよ? いや、出て行かないとヤバくない?

 そもそもここは一週間の試用期間的なそれがあったしな。千川さんが口頭で言ってた事だから、本当はどうなってるかわからないけど。

 

 

「出ていくのは確定なのかい?」

「ううん。出て行かないと男性としてやべーかなって」

「そんなことないと思うけどにゃー」

「志希ちゃんさんは寮住みじゃないからでしょ」

「そうじゃなくても別にそんなの気にしないよ~」

 

 

 正直、俺が男子寮にいて一人だけ女の子が入ってきたとしても全然嫌ではないけど、それはあくまで男からした話。

 

 女性しかいないってコトで寮に入った人もいるかもしれないのに、俺が入ったせいでせっかくの寮生活ライフに影が差した人もいるかもしれないと考えると、どうしても住むという選択肢は出にくい。

 

 

「この世界の真理に比べれば、性別が男性か女性かなんて些細なことだよ」

「それに比べたらなんでも些細にならない?」

「なにより、君に出ていかれると周子さんや紗枝も寂しがる。アナスタシアなんかも寂しがると思うぞ。アナスタシアを泣かせても良いのかい?」

「それは不味い」

 

 

 あんな純粋無垢の化身みたいな女の子が泣くなんてことになったら戦争になる。その原因が俺ともなればもっと不味いことになる。

 

 待てよ? でも俺が寮から出ていくってなった程度で、そんなにアーニャちゃんが悲しむことになるか?

 いや、あるな。あの子の純粋無垢さ加減を頭に入れると、ワンチャンどころかツーチャンある。とはいえ女の子一人の感情を優先して、多くの女性方に迷惑をかけるって言うのも……

 

 

「そもそも、寮なんて言うのは少し共有スペースが多いだけの集合住宅みたいなものだよ。一人男性がいたところでどうってことはないさ」

「それはそうだけど」

「実際、一週間以上過ごしてきて君に来た文句や問題は有ったかい?」

「ない」

「そうだろう?」

 

 

 でもそれは本人に文句を言いにくい状況だとか、そういった事が関係してるかもしれないじゃん?

 

 確かに飛鳥の言うことは的を射ている。確かに、寮生活と聞いてある種の集団生活のようなものを想像していたが、実際のところそうではない。

 俺個人が個人でカタのつくような生活になるような立ち回りをしている、というのも大きいかもしれないが、事実そういった生活様式が成り立っている。

 千川さんが言った様に大浴場もあるが、一度も利用したことはないし、食堂にも一度たりとも行ったことはないが、自室のキッチンで十二分に生活できている。

 

 あれ? さっきから俺、言い訳ばっかしてね?

 

 

「飛鳥ちゃんも素直に言えばいいのにー」

「客観的な意見を述べているだけだよ」

「色々と捻じ曲がってるよね~」

「ボクはそういう生き方をしているだけさ」

 

 

 俺が寮を出ていく直接的な理由は、ただの一つもない。

 

 隣人には恵まれているし、人間関係も問題はない。というか、中々に良好だと思う。部屋も広いし、環境も悪くないどころか良いくらいだ。

 通学の面も問題はないし、近隣の周辺施設も充実している。家にいる時に比べて家事をする手間があるという部分はデメリットだが、よくよく考えなくても家にいる時からちょくちょく家事はしてたし、あんまり苦ではない。

 

 あれ? もしかして、あんまり出て行かないといけない理由なくね?

 

 

「寂しいんでしょ?」

「そう言った自分の我儘ではないよ。ただ、親交を持った人が離れるとなると、そういった感情も芽生えるだろうね」

「ひゃだ……これがモテキ?」

「今の文脈からその発言が出るなら、君は相当女性経験がないらしいね」

「名探偵になる才能有るよ」

 

 

 凄いストレートに言うじゃん。そうだよ、ないよ。生まれてこの方、女の影なんて人生歩んできて何一つとして見えてこなかったよ。

 なんなら近寄ってきた女の子は何故か凛に刈り取られてたらしいし、できることなら今すぐにでも彼女欲しいよ。

 

 というか、飛鳥がまさか寂しいとかそういう感情を覚える人だったとは。

 これも天命だよとか言ってあっさり受け入れるタイプだと思ってたけど、なんだかんだ14歳なんだな。

 

 

「ともかく、君が出ていく理由はないだろう。一時の感情に任せた合理的ではない決断ほど生産性のないものはないよ」

「説得力有るな」

「志希ちゃん難しいのはわかんなーい」

 

 

 志希ちゃんさんは絶対嘘じゃん。貴方この世の大発見みたいな薬作れるんだから絶対にわかるじゃん。絶対に面倒くさいから適当に言っただけじゃん。

 

 

「志希ちゃんは二人とももっと簡単に生きればいいじゃん、なんてしか思わないな。変に考えたって疲れるだけだよ」

「簡単に?」

「にゃは♪ だってその方が楽しそうじゃん! あたしは自分に素直な子なのだー」

「人間は思考し、積み重ねることで自分の答えを創り上げる。そういうものではないのかな?」

「んふ~。飛鳥ちゃんと光クンのそういうちょっと面倒なところ、人間臭くて大好きだけどね~」

 

 

 とてつもなく的を射ている発言に、思わず引きつった笑みが出てしまう。こういう時に軽く流せる飛鳥は、ちょっとすごいなと感心してしまう。

 志希ちゃんさんヤケに鋭い所があるんだな。人を見る目滅茶苦茶あるよ。今回で会うのは二回目なのになんでバレるんだよ。

 

 

「ごっそさま……もう少し、寮でお世話になろっかな」

「ご馳走様。良い判断だと思うよ」

「美味しかったー! 面倒くさいのも好きだけど、ショージキにストレートなのもシキちゃんは好きだよ?」

「これは告白じゃないってわかるわ」

「良い判断が出来てると思うよ」

 

 

 ちょっと言い方変えやがったな貴様。さっきの意味と少し内容が変わってるだろそれ。

 

 そこから五分後、洗い物にかかる前にちらりと確認したスマホに、千川さんからの正式入寮おめでとうございます! とかいう旨のメールが来ていた。

 もう何もかも考えることを放棄して油のしっかりついた洗い物に没頭することにしたよ。マジであの人5人くらいこの世に存在しているんじゃねぇかな。それでも説明つかないんだけどさ。

読者層気になるので知りたいアンケ

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