女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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デカさ=男のロマン

「……あっ」

「おや、いつぶりかな」

 

 

 学校も終わり、そのままの足で事務所に出向いた矢先、通りがかった休憩スペースでばったりと出会ってしまった。

 ほんの少しだけ、俺からしたら気まずい気がする人物と。

 

 

「えーと、確か初めて来たとき以来……だった気が」

「私から自己紹介はしていなかったかな」

「いや、存じてます。今西のお爺ちゃん……で大丈夫ですかね?」

「うん。孫がいつもお世話になっているそうで。ありがとうね」

「こちらこそ、と言いますか。達也には世話になってます」

 

 

 頭を真っ白に染め上げた物腰低そうな初老の男性。ニコニコとした顔つきからは、何処か仲のいい高校の友達と雰囲気が被る。

 俺の知ってる友達はもう少しトゲトゲしているが。

 

 今西部長。

 一応、346プロ所属の俺としては、会社の上司にあたる存在。高校生である俺としては、仲のいい友達のおじいちゃんにあたる存在。

 こうしてみると、なんだかんだ厄介な関係だなぁと自分でも頭が痛くなる。

 

 

「はっはっはっ、そんなにかしこまらないでくれ。私からしてみれば、君は孫の友人になるのだから。もっと砕けてくれていいんだよ?」

「人生の大先輩ですので……」

「僕はそんな大それた人間じゃないからね」

 

 

 柔らかく、少しだけ豪快に笑いながら自動販売機に小銭を入れる。ガシャンと二回鳴った取り出し口から、缶コーヒーを取り出し、柔らかく投げられたのを反射的に受け取ってしまう。

 

 少し困惑しながら、冷え切った缶コーヒーを見つめてると、飲みなさい、と促される。こういうのって、素直に受け取ってもいいものなのだろうか。社会人としての常識が分からん。

 

 

「この会社に来てから、一週間は経ったかな?」

「あ、はい。多分もう一週間は経ったと思います。あんまり覚えてないですけど……」

「どうだい? 少しはこういう生活にも慣れたかな?」

「どうですかね……正直、毎日が驚きの連続で」

「それは良いことだ。退屈な人生よりもそっちの方が楽しいだろう」

 

 

 退屈な毎日よりかは刺激的な方が良いと思うけど、あまりにも刺激的すぎるとショック死しそうで怖いんですよね……なんていうのは流石に言えなかった。

 

 なぁに、言わなくても俺の発言に嘘は何一つ入っていない。少なくとも、この人はあの今西のおじいちゃんなんだから、色々と凄いんだろうなというのもわかるし。隠し事したってバレそうな気がする。

 

 

「それでどうだろう。寮生活にも少しは慣れたかな?」

「!? ッヴェッホぇっほ! りりり寮ですか!?」

「そんなに焦らなくても大丈夫さ。千川くんが問題ないと言っているんだから、それ自体に問題はないよ」

 

 

 知っててもおかしくないよな、そりゃあそうだ。

 部長って役職なんだから、千川さんの上司にあたる訳であって、そりゃあ俺の状況も理解しているよなって話だ。俺があまりにも動揺しすぎていた。

 

 

「それで、どうだい。色々と順調かい?」

「順調……なんですかね。環境は良いんですけど良いのかわからないです」

「周りに可愛い女の子しかいないというのは、羨ましい話なんだけどね」

 

 

 それは漫画やアニメの世界の話であって、現実で起きると毎日鉄骨渡り生活みたいなギリギリの究極対決になるんですよね。

 

 確かに俺の周りにいる可愛い可愛いアイドルの皆さんは良い人達ばかりで、恵まれた環境ではある。

 もう少し俺が肝の据った男であれば、最高の環境だったことは間違いないだろう。

 

 

「大丈夫。君の事は孫からも千川君からも聞いている。私たち346プロは、君のことを信頼しているよ」

「……ありがとうございます」

 

 

 むず痒い感情を押し流すように、貰った缶コーヒーを流し込む。

 微糖タイプのコーヒーだったらしく少し渋めの苦みの後に、甘ったるい感じが舌を包み込む。少しだけ、似ている。

 

 俺はそんな出来た人間じゃない。今西のおじいちゃんがどういう方なのかは存じ上げないが、そう簡単に信頼されても困ってしまう。

 

 

「それじゃあ、最後に若者よりもほんの少し多く年を取った私から良いことを教えてあげよう」

「良いこと」

「人生は長いけど、案外早くて急だ。でも、それ以上に長い。君は若いんだ。今は全力で楽しんでもいいんじゃないかな?」

 

 

 それじゃあ、僕はここで。

 それだけを言い残して去っていった今西のおじいちゃんの言葉と姿が、何故か心に強く残っている。

 

 今を全力で楽しむってどういうことだろう。楽しむという言葉が抽象的すぎてわかんない。なんでヒントはくれるのにそんな難しい言葉を残すんだ、先人は。

 

 

 

 


 

 

 

 

「お疲れ様です……あれ」

 

 

 CPルームの扉を開けると、だだっ広い空間には誰もいない。

 部屋を間違えたのかと思って、ドアの横についている部屋名を確認するけど間違いない。良かった、危うく死ぬところだった。

 

 それにしても、この部屋に誰もいないとは珍しい。いつもなら誰かしらがこの部屋で待機していたりする印象だったのに。

 まぁたまたま今までがそうだっただけかもしれない。そもそもここに来てから日も浅いしな。こういう日もあるか。

 

 とは言いつつも、一人だとやることもないからなぁ。学校からも課題は出てないし、適当にワークでも進めるべきか……あっ、飴落とした。

 

 

「飴だー!」

「うぉあっ! って、おるやんけ!」

「なんだよー、うるさいなー」

 

 

 嘘、いたわ。ちゃんと一人いたわ。

 落とした飴を拾おうという体勢に入るよりも前に、座ろうとしていたソファーの下からちっこい生命体がニュッと姿を現した。モグラか君は。

 

 

「……」

「……」

 

 

 飴をしっかり握りしめながら地面と平行になって見上げる少女と、驚いたせいで臨戦態勢みたいな体勢になったまま寝転ぶ少女を見下ろす僕。

 …………気まずい。そういえば、俺、この娘とまだ一度も話したことなかったんだ。

 

 

「…………飴貰っていい?」

「あ、どうぞ……CPの子だったよね。名前は、えっと」

「双葉杏。別に覚えなくてもいーよ」

「いやいや、そういうわけには行くまい」

 

 

 とりあえず椅子に座れば? って適当に近くの椅子をすすめてみるが、動きたくないと一蹴された。

 

 椅子に座ってる俺と、地べたに寝転がって飴を頬張る完全見た目幼女。どうなってんだこの状況。

 しかもこの子確か俺と同い年だった気がする。もう片っぽの滅茶苦茶でかい女の子と一緒にいたせいで、半端じゃない衝撃を食らったからしっかりと覚えている。

 

 

「え、本当に同い年だよね?」

「杏は17歳だよ」

「信じられん……俺の目の前の光景って現実なのかな」

「きらりと一緒だともっと信じられなくなるから安心しなよ」

 

 

 きらりって言うのは、色々ととてつもなくビックでダイナミックでぶっ飛んでるあの彼女の事だろう。

 意味の分からない日本語を発しながら突っ込んできた姿はブルドーザーかと思った。勢いは台風。身長はうちの高校のどでかいバスケ部やバレー部相当あった気がする。

 なんというか、脳がバグる。

 

 

「あの子を見た時、俺の中の自信がバキバキに砕かれた気がする」

「自信持ちなって、君も十分大きいじゃん。きらりはPくらい大きいからねー」

「あの人も相当でかいよな~」

「杏って基本的に大体人と話す時って見上げる形になるんだけどさ、あの二人とかもう見上げる次元じゃないんだよね」

 

 

 一応ね、僕も身長は180㎝あるんですよ。正直言って高い方なはずなんですよ。ここの事務所って高身長が集まる傾向にでもあるの? でも今西のおじいちゃんは大分小柄だったよな。偶々か? 偶々なのか? それとも双葉さん一人で二人分の負債を背負ってるのか?

 

 

「大変なんですねぇ」

「その一言にこの会話以外の意図も含まれてない?」

 

 

 気のせいですよ。決して双葉さんも案外苦労人の類なのかなー、とかそういうことは全く思ってないですよ。いや、本当に。

 

 

「っていうか、今日は双葉さん以外はみんないないんですね」

「多分、みんなレッスンなんじゃない? ダンス以外にもボイトレとかもあるし、裏方みたいな仕事もあるしねー」

「双葉さんは?」

「サボリ」

「言い切るね」

「杏は週休8日を希望しま~す」

 

 

 一週間は7日なんだけどね。なるほど、圧倒的サボり魔なのかこの子は。そういうタイプの子なのか。今まで会ってきたのが割とまじめなタイプが多かったから少し新鮮……

 

 いや、ごめん嘘だな。宮本さんとか志希ちゃんさんとかもサボり魔かは知らんけど、似たようなタイプの人おったわ。

 あと多分周子さんも似たようなタイプな気がする。あの人、俺の部屋で一生グダグダしてたし。もしかしたら仕事は超真面目にやるタイプかもしれないけど、俺が見てるのはオフの姿なので想像がつかん。

 

 

「っていうか、釣られるくらいには飴好きなの?」

「好きだよ。大好物」

「買っといたら食べる?」

「食べるから常備しておいて」

 

 

 人から物を貰うことに対して警戒心が無さすぎない? その飴も実を言うと今西が学校で食ってたのを貰ってただけなんですよね。

 たまたま飴を持っててたまたま飴を落としたら双葉さんが釣れたなんて、なんて幸運なんだ。幸運なのかはわからんけど。

 

 

「警戒心とかないんだねぇ」

「別に変なことするような人でもないでしょ。ロリコンじゃなさそうだし」

「ロリコンではないかな」

「どういう子が好みなのさ」

「うーん」

 

 

 好みの子、好みの子かぁ。

 クールそうな子はちょっと好みだよな。基本的には、俺が結構おちゃらけてることが多いから、そういうのを冷静にツッコんだり見守ったりしてくれるようなタイプは好きかもしれん。

 

 胸はあればあるだけいい。そりゃあそう。男の子なんだもん。

 あ、ぼ、ぼくCとかが好きかな……なんて言うのは甘え。男なら男らしくEとかFとかGが好きですって男らしく言いなさい。

 二次元のCと現実のCは全然違うんだからな。アニメは盛ってる? それはそう。まぁ俺、彼女とか出来たことないから友達経由の話なんだけどな。

 

 

「………………スタイルが良いとか」

「絶対に胸の事考えてたね」

「違う」

「男子の考えている事なんて手に取るようにわかるんだよ」

 

 

 あれか? 内面読む機能でも女性にはついているのか? 標準搭載されているのか?

 

 ダメダメそれ反則だよそれ! まってまってそれズルだよそれ! えっカスタム中やっちゃいけないんだよこれ!

 えっ、カスタムじゃない? だってこれFPSじゃないしね。

 

 

「じゃあ好きなアルファベット言ってみな?」

「E」

「うわー……大きいの好きなんだ、嫌われるよ」

「男なんて大体大きいのが好きな生き物だろ!」

「知ってるけどさー」

「大体、俺が何がとは言わんEが好きだといってもそうドン引きするような人物なんていないs」

「いるでしょ。ほら」

 

 

 そう言って双葉さんが指をさす方向には、廊下側の出入り口……ではなく、その左側にもうひとつあるPの部屋のドア。

 いるって言ったって、誰もいないでしょ。そもそもこの部屋には俺と双葉さんしかいないし、Pの部屋にいるとしてもそれはPだけだろうし、Pにこの話を聞かれたって別に。

 

 

「あっ」

「………………ふーん。大きい方が良いんだ」

 

 

 音もなく静かに開いた扉の先には、なんだかすっごく機嫌の悪そうな渋谷さんと、その後ろには滅茶苦茶居心地悪そうに首元を掻くP。

 いや待って、なんで? 双葉さんみんなはレッスンに行ってたとかなんとか……そういや、多分とか言ってたな。ソースのない情報はこれだからダメなんだよ!

 

 

「待って、違う、そうじゃない」

「何が違うの」

「ほら、アレだよ。好きなアルファベットの話をしてたの。Eの90度傾けたらホチキスの芯みたいなところが良いよなーみたいな」

「アルファベットに大きいも何もないと思うんだけど」

「」

 

 

 この後、死ぬほど詰められたし、気が付いたら双葉さんはソファの下に消えてた。

 超怖かった。なんというか、超怖かった。

読者層気になるので知りたいアンケ

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