女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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なんやかんや人が作るご飯が一番美味い

 TAB譜と音楽データが表示されたモニターと指板を交互に見続けていた視線を、数時間ぶりに違う方向にもっていく。

 自然と口から洩れたため息が、体に入っていた力を伝えてくれる。同時に、すぃーっと真上に抜けていく感覚もする。

 

 右ひざに乗っていたベースをスタンドに戻して、ついでに体も真上にぐぃーっと伸ばしてみる。すぃーっとぐぃーっとのびーっとね。

 うーん、長時間座っていたせいでバキバキに固まっていた体が、しっかりほぐれていく気がするよ。

 

 

「……げっ、もう9時」

 

 

 時計の針は綺麗にL字を反転させたような形になっている。時刻は夜の9時。晩御飯には少々遅めな時間だ。

 いつもだったら面倒だしって感じで晩飯抜きでも問題無いんだけど、今日は腹が減っている。問答無用で腹が減っている。

 今日の体育は持久走だったからな。体は疲れてるし眠いし腹は減っている。欲求がありすぎる。

 

 

「行ってきまーす」

 

 

 そういうわけで、本日はコンビニ弁当の時間でございます。

 そもそも食べ盛りの高校生がご飯を食べないなんて言うのは、なんだかんだ教育上よくない気がする。まぁ俺はご飯抜いても別に問題ないんですけどね。

 

 部屋着にジャンパー羽織って簡易的な外へお出かけスタイル。別にコンビニに行く程度、この程度で良いのよ。

 

 

「光、アー、こんばんわ……?」

「ありゃ、アーニャちゃん」

 

 

 少し遠くから聞こえてきた、若干片言の日本語。距離的には隣の隣の隣の部屋の前から。そうなんだよね、実は俺とアーニャちゃんの部屋割と近いんですよね。

 

 こんな感じで話すのは、俺の知り合いの中でも一人だけ。ロシアとのハーフなアナスタシアだけ。いつもバチバチにおしゃれな私服のイメージだけど、普段はちゃんと若干緩めの部屋着なんだね。何故か安心したわ。

 

 

「オデカケ、ですか?」

「コンビニに晩御飯を買いにね」

「光も、まだご飯、食べてないんですか?」

「アーニャもかい?」

「Хорошо……気が付いたら、こんな時間に」

「一緒だねぇ」

 

 

 アーニャちゃんにもそういう時があるんだなぁ。顔つきとかが異次元だからなんか別世界の人と思いがちだけど、ちゃんと同じなんだなって。

 

 女の子はちゃんと毎日三食健康に食べなきゃだめだぞ。特にアーニャちゃんハチャメチャに体ほっそいんだから。もっとご飯食べて健康的にならなきゃ。

 ひゃだ……これってセクハラ……?

 

 

「Еда вместе、アーニャ、これから食堂に行きます」

「うん」

「光も、一緒にいきませんか?」

 

 

 うおぉ……とんでもないキラーパス飛んできた。ゆっくり喋ればいいよって言う子供がよちよち歩くのを見守る親の気持ちで待っていたら、赤ん坊から右フック飛んできた感覚。タイトル狙えるでこの黄金の右。

 

 いや、それにしてもどうしたもんか。ずっと言ってきたが、俺はこの寮の食堂を使うことを極端に避けている。理由は単純明快。大量の女性に囲まれてご飯を食うのが申し訳なくなるから。

 そもそもここって女子寮だし! そんなところに俺がいたら申し訳ないでしょ!

 

 

「アーニャとご飯、いや、ですか?」

「そんなわけなか。少し侍ジャパンの選出について考えてただけだよ。勿論行こう」

「Они у нас есть! 一緒にご飯、食べましょう!」

 

 

 アーニャちゃんってLEDかと思うくらいすんごい眩しくて屈託のない笑顔するよね。こんなもん見せられた日には断ろうと思う事象全部吹っ飛ぶ。

 金貸してって言われたら100万貸すわ。そんな金はないし、アーニャちゃん絶対にそういうこと言わないけど。

 

 いつの間にかゼロにまで詰められた距離から、ノータイムで手首を掴まれずんずんと食堂へ進んでいく。

 外国在住だった人ってボディタッチとか全く抵抗ないって聞くけど、本当だったんだなぁと他人事みたいに感じる。凛の手もちっさくてほっそいゆびしてるけど、アーニャも負けず劣らずだなぁ。

 というか、その真っ白な肌反則でしょ。一応人種的には黄色人種として分けられる日本人とは白さが違う。日焼けで黒くは出来ても漂白は出来ないからなぁ。

 羨ましいという感情にはならないけど。ひたすら綺麗だなぁという感情が出てくる。美しいね。

 

 

「 добрались、ここが、食堂、です」

「着いちゃったか」

「着きました!」

「そうだね」

 

 

 日本語難しいよね、そうだね。今の着いたって言葉は、ちょっとだけ意味合いが違ったんだな。

 

 時間が遅いというのもあるんだろう。食堂の広間には誰一人としていない。まぁ時間も9時を過ぎているしな。本来ならとっくに晩御飯を食べ終わって風呂にも入ってゴロゴロする時間帯だ。

 やべぇ、俺まだ風呂入ってねぇわ。シャワーしか浴びてねえ。終わった。

 

 

「あれ? アーニャちゃん……と、そちらの方は新しく入ってきた方でしたっけ?」

「初めまして。本当にすみません」

「えぇっ!? 私何も言ってないですよ!?」

 

 

 開幕謝罪は社会の基本。絶対に基本ではないけど、俺の中ではもう基本だから。誠心誠意込めた謝罪だから。

 

 ていうかごめん、人いたわ。調理場であろう場所からひょっこりと顔を出してきたのは、しっかりバッチリかわいい赤毛のサイドテールが印象的な女の子。

 まだまだ全然子供のような感じに見えるのに、エプロン姿に何か貫録を感じる。なんだ? お母さんなのか?

 

 

「キョーコ、まだご飯、ありますか?」

「えーと、おにぎりとお味噌汁とカレイの煮物と、あとほうれん草のおひたしならあるよ」

「フルコースじゃないですか」

「和食ですけどね」

 

 

 そんな雑談をしている間にどんどんと作業が進んでいる。同時進行なんだけど。超マルチタスクなんだけど。

 お味噌汁温めて、煮物チンして、ラップにくるまれたおにぎり出して海苔巻いて、小鉢にタッパーから取り出したお浸し盛り付けてゴマも振ってるんだけど。

 もしかしなくても、あなたお母さんですか?

 

 

「はい、準備出来ましたよ! ささっ、遠慮せず座ってください」

「 выглядит превосходно、キョーコ、ありがとう!」

「ううん。丁度洗い物してたところだから全然大丈夫。晩御飯はちゃんと食べなきゃ」

「おぉ……めっちゃ美味そう……イタダキャス」

 

 

 ナチュラルに対面じゃなくて横に座ってくるのは何なんだろうね。いや、全然いいんだけどね。なんで対面じゃないのか気になっただけで。

 

 それはそれとして、マジで美味そうだな。和食なんていつぶりだろうか。少なくとも、寮に入ってからは初めてかも知れん。

 

 って言うか味噌汁うめぇ! 赤味噌めっちゃうめぇ! わかめと豆腐にネギも入ってんのか。味噌が五臓ロックに染み渡る。ロックに行こうぜ。今なら愛知県民の気持ちが分かる気がする。

 煮物も味がしみ込んでるし、丁寧な処理されてんな。おにぎりの塩加減も丁度良いし、おひたしの濃さもいい塩梅だ。若干減塩されているのが分かる。健康志向~。

 

 

「これ、誰が作ってんだ」

「私が作ってます!」

「マジィ???」

「правда с собой、キョーコの料理、本当に、美味しいです」

 

 

 完敗してる。俺の料理スキル。マジで完敗してる。

 いやー、趣味程度のものとはいえ、そこそこの自信はあったんだけどなー。全ての料理の味付け、塩加減、盛り付けの綺麗さ、栄養管理。全てにおいて完璧すぎる。

 こちとら三食うどん生活とか平気でやるのに、こんな健康的な料理が出てきたら泣いちゃう。

 

 

「負けました。完敗です」

「私、何かしましたっけ……?」

「何もしてないですよ……えっと、お名前は……」

「五十嵐響子。15歳です!」

「15歳!? 15歳でこの料理スキル!?」

「お料理、大好きなので!」

 

 

 好きこそものの上手なれって、本当に金言なんだなぁ。

 俺もベース含めた音楽が大好きだからこそ、こうやって採用されるような腕前になってるから、そういう意味では通じるところもあるのかな。

 とはいえ、俺も料理が趣味の端くれ。こんなもん、もう師匠じゃん。超えるべき壁じゃん。てかもう俺ご飯作らなくてもいいじゃん。こんなおいしいごはんが出るんだったら

 

 

「えっと、お名前、聞いても大丈夫ですか?」

「大変失礼。ご紹介にあずからせていただきました手前、性は松井、名は光。人呼んで、松井光と申すものでござんす」

「 правильно、お侍さん、みたいです!」

 

 

 そりゃあもう日本男児はみんな心に武将を飼っているんだよ。

 鳴かぬなら、スマホで音声、流せばいい。これが現代っ子です。文明の機器をフル活用して現代の科学の力存分に活用せしめしょう。

 かの武将ノッブも銃でバンバンマシンガンしてましたし、科学の力ってやっぱすげー!

 

 

「寮の方に新しく男の人が入ってきたと聞いたときはびっくりしましたけど、初めてお会いできてうれしいです」

「その節は本当にすいません迷惑だったら即行で実家に帰らせていただく所存です」

「光、ここにいたく、無いんですか……?」

「違うよ、違うな、違くないけど違うわ。でも語弊があるから違うわ。ちょっと待ってね、今頭の中でこの場合にどうやって回答するのが一番正しいかの最適解を導き出してるから」

 

 

 めっちゃ早口でまくし立ててしまった。オタク特有関係ないね。こういう窮地に立たされた場合、人間誰しもこうやって口に出すことで、なんとか一つの終着点を導き出そうとするからね。

 

 こういう時にどうやって反応すればいいのかが一番困るまである。

 だって全部事実なんだもん。違うって言うの事実だけど、アーニャちゃんの前で違くないって言うのも事実だからね。

 

 

「одинокий……アーニャ、光ともっとお話し、したいです……」

「そうだねごめんねだからそんな顔しないで笑って笑顔が一番ステキなんていうシュールストレミングなセリフが出てきちゃうから」

「独特な例えですね……」

 

 

 なんか臭いセリフってイケメンのみに許される気がしない? 俺なんかが言ったら羞恥心で殺されちまうよ。

 

 

「アーニャ、一緒にご飯も、食べたい、です」

「そうかそうか。でもねアーニャちゃん、ここは実質女子寮だから俺みたいなのがその中にいるとだね」

「いや、ですか?」

「うーーーーむ、某の語り紡ぐや蓮の花の又今宵咲き誇るヒュン玉紅蓮の都ヴォルデモートを」

「日本語、難しい、です」

 

 

 そうだね、俺も今心の底から日本語が難しくて助かったと思っているよ。何故なら適当に頭の中にあるそれっぽい文字を羅列してぶつけまくったからね。

 つまるところ、さっきの言葉には何の意味もないんだ。ごめんねアーニャちゃん、僕はずるい男なんだ。

 

 

「それじゃあこうしましょう! 少し早めか少し遅めに食堂に来てご飯を食べる。本当は決まった時間に食べるのが良いんですけど……これなら、みんなのいる時間もさけられますよ!」

「Это отличная идея! 一緒にご飯、食べられます」

「えっ、マジですか」

「大丈夫ですよ! 私がいつも当番なわけではないですけど、ここにいる人はみんな優しいですから!」

「いやそれはそれとしてデビルマーンなんですけど」

「CPの人達だと、みくちゃんや蘭子ちゃんなんかも寮にいますから大丈夫ですよ!」

「Я действительно с нетерпением жду этого!」

 

 

 一体何がどう大丈夫だというのだろうか。目の前にいる白い美少女と横にいる赤毛の美少女のにんまり笑顔ですべてが解決されていく。これもう新手のパワープレイだろ。

 

 とりあえず買ってきたお肉はどうしようかな。明日は鳥の照り焼きの予定だったんだけど、予定を取り付けられたらもう無理だよね。

 って言うかここのキッチンの方が高性能では? いや、二口あればどうにかなるんだけどってそういう話ではない。

 

 いやー、楽しみだなー! この寮のご飯美味しいし、これからの食事が本当に楽しみだ!

 俺以外全員アイドルな女の子ということを忘れているというか、忘れたいというか、もう忘れさせてくれよという感じだけど、本当に楽しみだー!(遠い目)

読者層気になるので知りたいアンケ

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