女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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追われるものは大体色んな意味でとっても強い

 世界がオレンジ色に染まる頃、昼間のポカポカ陽気が少しずつ息を潜め、少しずつひんやりとした空気に変わり始める。そんな夕暮れ時の広場。

 

 綺麗な木目のボディが夕暮れの日差しを綺麗に反射していて、やけに綺麗だ。夜の照明を反射するエモさが最強だと思っていたけど、これは新しい発見かもしれないなぁ。

 

 

『高森藍子の、ゆるふわタイム。今日のお相手は、CDデビュー間近、ニュージェネレーションズのみなさんでーす』

『こんにちは! ニュージェネレーションズです!』

『今度、デビュー曲の発売イベントでミニライブがあるとのことですが……』

 

 

 イヤホンから流れる音声は、普段は一ミリたりとも聞かない、アイドルがMCを務めるラジオ番組。

 そこから流れる知らない声色と知っている声色に、少しだけ胸がキュッとなる。

 

 

『くだらないことで笑って 何気ない会話で泣いて』

『ひとつひとつの出来事に 栞を挟んで』

 

 

 本田をリーダーに据えて、そこに卯月、凛が加わった三人構成のユニット。その名も、ニュージェネレーションズ。直訳すると、新世代。

 複数形だから、新世代達みたいな感じになるのかな。英語とかよくわかんねーや。

 

 

『忘れないように なくさないように』

 

 

 アイドルの卵であるCPの記念すべき本格アイドルデビュー第一号。そのユニットの名前として、これ以上適切な名前はないだろう。

 誰が考えたのか知らんけど、ハチャメチャにセンスいいわ。俺だったらそもそも英語分からんし。普通にGoo〇le翻訳かけたわ。

 

 

『お客さんみんなに元気パワーを、ズドドドーって! 届けたいですっ!』

 

 

 イヤホンから漏れる本田達の声は、階段を何段も飛ばしてドンドンと先に駆けあがっていくようだ。

 元から眩しい奴だとは思っていたけど、最近はLEDにでも変わったのかというくらい光り方が尋常じゃない。俺には、眩しすぎて見えない。

 

 

『では、凛ちゃんは?』

『あっ、はいっ……楽しみに、してます』

『もー、しぶりん! もっとテンション上げて行こうよ! 頑張るぞーっ、おー! みたいなっ!』

『えぇっ、じゃあ……がんばるぞー、おー……?』

 

「……ッ、くくっ」

 

 

 完全に本田のペースに振り回され、音声越しにもわかる凛の困った表情と対応に、思わず軽く吹き出してしまう。

 変わったのか、変わってないのか。こんな凛を見るのは、初めてかもな。いままでは周りに本田みたいなやつもいなかったし。そういう奴と仲良くなるようなこともなかっただろうしな。学年が違うから俺が知らないだけかもしれないけど。

 

 

『アラジンのように 魔法の絨毯に乗って』

『迎えにゆくよ 魔法は使えないけど』

 

 

 一つの音も漏らさないように、丁寧に、一言ずつ語り上げる。ゆっくりと、ゆっくりと。ギターの音一つも零さないように。

 オレンジに染まった空に吸い込まれていく音色は、どこから力不足で届かせたい所にまで届いていない気もする。

 

 

『お金もないし 力もないし 地位も名誉も無いけど』

『君のこと 離したくないんだ』

 

 

 目を瞑り、何一つも取りこぼさないように、耳に残すように集中してしまう。少しでも油断すれば、止まってしまうくらい。ゆっくりと、一つ一つを踏みしめる。一歩ずつ。

 

 

「それ、誰かへのラブソング?」

 

 

 意識外から、予期せぬ音が被せられる。

 驚いて目を開けると、目の前にはピンク髪のバチボコ綺麗なギャルが、ニターっと口角をあげてこちらをのぞき込んでいた。

 

 

「死にます」

「ダーメ★」

 

 

 なんでいるんですか本当に死にます、いや止めないでェ! 夜の公園は大体高確率で飛鳥かアーニャに出会うから今日は一人で歌いたい気分だなーって逆に時間を早めたのに! いや、ラジオの時間には偶々被っただけだから。そう、たまたま、うん。運だから。

 

 

「こんな時間にこんな場所で弾き語りしてるのなんて夏樹くらいだと思ってたけど、歌声が男の人の声だな~なんて思ってたらね★」

「なんでこんな時間に」

「たまたまお仕事がついさっき終わって、たまたま広場沿い通っただけだよ★」

 

 

 あぁ、だから制服なんですか。美嘉さんの制服姿初めて見たけど、なんというか物凄くイメージ通りの着こなししてるなぁ。首元ぱっかーんの上着腰に巻いてスカートの丈をクッソ上げてる。

 多分見えても大丈夫なようにはしているんだろうけど、俺は座ってて美嘉さんが立ってるこの高低差だと、少しだけ目のやりどころに困る。

 

 

「君、本当にアイドル部門じゃないの?」

「スタジオミュージシャン見習いっすよ」

「それにしては歌が上手かったけどね」

「素人ですシロート」

 

 

 そんでナチュラルに隣に座るんですね。本田もそうだったけどさ、そういうパーソナルスペースの近さがね、世の中の男性たちの心をボコボコにしているわけですよ、えぇ。反省しないで止めないで欲しい多分。

 

 

「悩んでるんでしょ。凛ちゃんのこと」

「黙秘権を行使します」

「奏から聞いたから安心しなよ★」

 

 

 あんの女ァ! 女ァ!(二回目) なーに人のプライベートを堂々と人にばらしてんだあんにゃろう!

 って言うか奏の奴、なんで美嘉さんと知り合いなんだよ。そんな要素あったか? いや、俺が知らないだけで沢山あるんだろうな多分。

 

 そもそも周子さん起点で考えて共通の知り合いつなげて行ったら、そりゃあ知ってるよなって話になるのか。そもそも同じ事務所だし、接点だけなら死ぬほど有りそうだもんな。仲が良いかは知らないけど、

 

 

「いや、よく考えてください。奏が凛についてなんか言ってたとしても、そもそも俺と凛の接点なんてCPメンバーくらいの物でしょう。そりゃあ知り合いが頑張ってたら俺も何とかしたいと思うけど、そんな俺がここまで悩むくらいにh」

「凛ちゃんと幼馴染なんでしょ? 未央ちゃんから聞いたよ★」

 

 

 あんの女ァ! 女ァ!(四回目) なーに人のプライベート中の極秘事項じゃないけどあんまりばらしてほしくない部門堂々の第二位のことを美嘉さんにバラしてやがんだ外はね野郎!

 ちなみに一位は服を着るのが好きじゃないってことね。これバレたら変態だと思われるから。

 

 

「へー、やっぱり本当なんだ。そりゃあ可愛い後輩の幼馴染のデビューなんて心配するよね~」

「勘弁してつかぁさい……」

「別に恥ずかしい事でもないじゃん。当たり前当たり前★」

 

 

 ここにアコギがあってよかったね。そこに肘を乗っけて両手で顔を覆い隠すことが出来るから。

 美嘉さんは優しいからそうやって俺の事甘やかしてくれるけど、男の身である僕からしたらね、もうとてつもなく恥ずかしいんですよこれがまた。お前は凛のなんなんだってなるからね。

 

 

「光君とはちょっと境遇は違うけどさ。アタシも似たような感じだからわかるよ。莉嘉がいるから」

「そっか、美嘉さんって莉嘉の姉ちゃんで」

「アタシも最初に莉嘉がアイドルになる! って言いだしてから、CPに入るのが決まった時はさ。凄い不安だったから」

 

 

 懐かしい、昔の思い出を思い起こすように、美嘉さんの表情が少し優しい笑みになる。

 夕焼けは少しずつ空の彼方に落ちていき、オレンジ色だった世界も少しずつ暗くなっていく。いつの間にかついていた照明も、少しずつ夜の始まりを予感させる。

 

 

「同じだよ。あんなに小さかった莉嘉がさ、今はアイドルになるって言って346プロにいるんだから」

「本当ですよねぇ」

 

 

 俺が知ってた凛なんてもう本当に小さかったんだから。

 昔も昔の大昔は友達を作るのがへたっぴでさ。近づいてくる奴と話せなくて黙って見つめるもんだから、相手が怖がったんだよな。それでずーっと俺に引っ付いたんだよ。小学校低学年くらいまでの話なんだけどね。

 

 

「でもさ、アタシらが弱い所見せたらダメなんだよね。多分、莉嘉はアタシの背中を追ってるから。だから、アタシは莉嘉の追うべき存在じゃないと」

 

 

 美嘉さんの目は物凄く真っすぐで、まだ全然話したことはないが、何か彼女の強さや活躍してきた地盤を目の当たりにしている気がする。守るべきものがある人って、こんなに強いんだな。

 

 

「ま、でもそれはアタシの話★ 光くんと凛ちゃんの関係はまた別だし、二人は家族じゃないんだからそのまま付き合ってパートナーとして支え合う……なーんてのも一つの答えじゃない?」

「いやぁ…………ないかなぁ」

「幼馴染って普通に恋愛対象じゃないの?」

「凄い不思議な距離感ではあるんですよね」

 

 

 友達以上恋人未満というよりも、家族未満親友以上というか。感覚的にはそんな感じ。

 こちとら生まれて物心ついた隣の家には全然話さねえ顔のいい女の子がいたからな。よくもまぁあんな人に懐かない犬みたいな女の子が、ちゃんと人とコミュニケーション取れるようになって……まぁ本当に大昔の話なんだけど。

 

 現に、今は何も問題ないしね。若干言い方に棘があることもあるけど、アレ本人には何の悪意もない天然物だからね。幼児時代は苦労しただろうなぁ。

 

 

「俺も莉嘉にとっての美嘉さんみたいな立ち位置にかぁ……お兄ちゃん呼びにしてもらえばいいのかな」

「多分だけど呼んでくれないとは思うな……」

 

 

 そうですか? 頼み込めば一回くらい呼んでくれそうじゃないですか。そもそもお兄ちゃん呼びってロマンありませんか? 僕にはありますけど。

 人生ひっくり返っても良いから超絶美少女の妹からお兄ちゃんとか言われたい人生だったな。彼女がア〇ナ似じゃなくて良いから直〇ちゃんみたいな妹が欲しかった。ちなみにシ〇ンが一番好きです。ツンデレのデレサイコー!

 

 

「いや、まぁでもお兄ちゃんに近いっての、間違ってないかも」

「えっ」

「だって、年下で幼馴染なんでしょ? それで昔から知ってて、不思議な距離感ってことは友達とか親友以上でしょ? じゃあ、もっと親密な関係って事だし★」

「ほうほう」

「つまりは恋愛対象か兄妹かな!」

「じゃあ兄妹っすね!」

 

 

 恋愛対象ではないのよ。違うよ?(爆速否定) 凛の事を異性として見れないとかそういうわけでは全くない。いやごめん全くって言うのは流石に嘘だけど、ちゃんと一人の女の子として見てるよ? あんな顔が良い女、俺そんなに知らねぇもん。

 周りに加蓮とか奈緒とかもいるから希少価値が下がるとかいうパ〇ドラなインフレしてるだけだからな。

 

 もう俺の中で渋谷凛って女は圧倒的にTier1よ。もう生まれてこの方あいつと長い時間過ごしてきたから見慣れてる感は正直あるけど、それでもこいつやっぱり顔が良いよなってたまになるもん。顔が良いって正義だよな。

 

 

「光くん……割と強情というか、凄い引くところは引かないんだね……」

「絶対に譲ったらいけないラインって、この世にそこそこあると思うんですよ」

「色々あったんだね」

「大体ここ2ヵ月くらいで色々あり過ぎました」

 

 

 寮に入ったり寮に入ったり寮に入ったり、色々とアイドル系列の人とハチャメチャな勢いで繋がりが出来てきたりね。勿論、今目の前にいる人だって本当は物凄い人なんだからね。俺が知らんかっただけで。

 

 ここ最近で俺が知った怖い大人、主に千川さんだけど、あの人とか見てると社会で生きていくには物凄い労力とか根回しとかそういう上手さがいるんだろうなぁって、俺この年でも感じたよ。あの人はバケモンだ。

 

 

「そんなわけで、直近のミニライブ。しっかり近くで支えてあげな。きっと凛ちゃんも喜ぶよ★」

「ミニライブの日、俺収録入ってるんすよね……」

「……まぁ、支えるってのは直接の話だけじゃないからさ!」

 

 

 なーんでミニライブの日にガチ珍しく仕事が入ってるんだよおおおおおお!!! 割とステップアップしていくためには必要なちゃんとした収録っぽい仕事だし断れるわけないんだよな。

 この日だけは俺の運命を呪ったわ。見たかったなぁ。凛たちの初めてのミニライブ。

読者層気になるので知りたいアンケ

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