『『ごめんなさい!』』
『凛ちゃん……未央ちゃーん!』
『みなさん、待っていてくださって、ありがとうございました。改めてシンデレラプロジェクトを進めていこうと思います。一歩ずつ、階段を上っていきましょう』
CPルーム前の壁に背中をかけ、中の様子を耳で伺う。
ドア越しからでもわかる、メンバーたちの答えには熱気がこもっていた。文字通り、これにてCPは無事に再始動、と言った感じだろうか。
卯月も本当にただの風邪だったらしく、マスクはつけながらだけど無事に帰ってきたし、本田と凛も昨日のPさんのおかげで復帰が決まった。これにて本当にめでたしめでたしって訳。
「やっほー★」
「美嘉さん」
「なーにドア前に突っ立ってるの。入らなくてもいいの?」
「どの面下げていけばいいんすか……」
「そう? あの時の光くんの気持ち。みんなわからないでもないと思うけど★」
「……だとしても、今は遠慮しときます。みんな、楽しそうにしてますよ」
「そっか」
横から急に声をかけられたかと思うと、お相手は城ヶ崎美嘉さん。多分、ニュージェネの一件に少し責任を感じているんだろう。少し不安げな表情をしながらも、明るくこちらに話しかけて来てくれた。
俺は別にアイドルじゃないしな。関係者ではあるけど、あの場に俺がいたって、っていう感じだし。今回の件に関しても、横入りしたような形だし、俺自身顔合わせにくいんだよな。昨日めっちゃキレてたところも、多分誰かに見られてるか聞かれてるかしてただろうし。マジ後悔。
『あのさ、P! 試しに丁寧口調辞めてみない?』
『確かに、ちょっと硬すぎるかもにゃ』
『険しき壁を超える時か……』
『きらりもぉ、それが良いと思うにぃ~☆』
それに、あんなに楽しそうにしてるしな。俺が今入ったら、この流れ崩れそうだし。今はこの流れを聞いているのが楽しいし、俺は良いかな。CPはあいつらシンデレラの卵のためのプロジェクトなわけだし、俺はそれのお手伝いをさせて貰える立場にいるだけだしな。
というか、昨日ブチギレた件があるから近いうちにクビになるんじゃねぇかと俺は心配になってるよ。なんでこんなメンタルしてるのに、あの時の俺はあんなこと出来たんだよ。逆にすげぇな。
「美嘉さんは、入らなくていいんですか?」
「アタシは良いよ。部外者だし、遠慮しとく」
「莉嘉がいるじゃないですか。ニュージェネがCDデビューするきっかけを作ってくれたのも美嘉さんですし、俺よりも断然貢献してると思いますけどね」
「そんなこと言ったら、光だって凛ちゃんがデビューする後押ししたんでしょ?」
「なんで知ってるんですかそれ」
「凛ちゃんが教えてくれたケド?」
うっそだろマジかよ。この話って門外不出じゃなかったっけ。そんなことなかったな、そんなことは一回も言ったことなかったわ。
いや、でもそこまでのあれじゃないんだよな。普通にあの時は『いやぁ、凛は顔が良いしアイドルになっても成功するしスカウトされたならやった方が良いでしょ。枕だけは死んでも許さん』ってノリでやってただけなんだよな。
そうやって思うと人生ってわからねぇなぁ。分岐点なんて簡単に起きるもんなんだね。
『はぁ……努力しま……する』
『じゃあ、まずはみんなのこと名前で呼んでみてー!』
「大分面白そうなことになってきましたね」
「あははっ、本当。そうだね」
それにしても、ずいぶん面白そうな方向に話が進んできている。丁寧口調の取れたPさんか。想像つかないな、なんだかすっげえむずむずすると思うわ。
口調が変わってから慣れるまでって、口調が変わる前の期間が長ければ長いほど違和感増すからな。口調に限らず、なんにでもそう言えるか。
「そうだ! 試しに光も敬語外してよ★」
「無理です。Pさんの場合は、PさんからみてCPのメンバー全員年下だからタメ口が許されるんですよ。美嘉さんは俺より年上じゃないですか。高三でしょ今」
「たった一歳差じゃんか。奏とかも普通にタメ口だし、そっちの方が良いと思わない?」
「奏はあいつタメ口利きそうな奴じゃないっすか」
「奏にどんな感情持ってるのさ」
いやぁ、だって奏だし……あの速水奏ですよ? 年上だろうがなんだろうが滅茶苦茶骨抜きにしそうじゃないですか。
待って、俺、奏に対して碌な印象持ってないかもしれない。良い女なのになんでだろうな。心当たりしかないけど謎だわ。
「でもさ、光って周子にはタメ口混じってなかったっけ」
「あれは周子さん相手ですし」
「光も奏に似てるところあると思うけどな~」
いーや、幾ら美嘉さんとはいえ、それは完全に見当違いですね。どう考えても俺と奏は別の人間ですし。タイプ的にも性格的にもね、多分。
それに周子さんは、俺の中では先輩というよりも隣人なんですよ。しかもあの人の性格的にハチャメチャ慣れやすいからついついタメ口になりそうになる。気を付けねば。
おんなじ理由で志希ちゃんさんとかも危ないよね。そういう雰囲気有る。
「逆にここで、『じゃあ頼むぜ美嘉!』なーんて言えたら、それはそれで違くないですか? 俺は違うと思いますけど」
「アタシは別にいいと思うんだけどなー。逆にそういうガツガツしたところもギャップでありかも!」
「ギャップと言えばすべて許されると思ってる節ありません?」
ギャップって言うのは基本的に普段本性を隠してたりするやつが、ふとした瞬間に本性出した時の差がえぐくて破壊力抜群で破壊光線だぜ! って感じの奴だよね確か。どっかの山賊打線の長であり、きったねぇ変態ホームランを打つ主砲の特技が、ピアノや書道みたいなことをギャップって言うんですよね。わかりますよ。
「松井さん、本日は先日からお話を頂いていた通り、10時から1時間スタジオに予約を入れておきましたので、そこで練習をしていただきます。14時から先週からお話をしていた楽曲の収録をしていただきます。収録はバラ撮りとなっていますが、現場には作曲者の篠田さんもいらっしゃるとのことですので、把握の方、よろしくお願いいたします。また、収録の際は私の方も同行させていただきますので」
「了解です。収録って大体どれくらいかかりますかね?」
「早ければ1時間ほどで終わりますが、篠田さんはかなりリテイクを出されるお方なので、目安は大体3時間ほどと思われます」
「わっかりました」
346プロに入ってからは毎日行われるようになった、恒例行事であるPさんとの一日のスケジュール確認。始めも始めの方はマジで予定とかなんもなかったけど、最近はやることもなかなか増えてきた。
スタジオミュージシャンって、本当はバイトも兼任しながらの職業らしいんだけど、俺の場合は346プロ所属のスタジオミュージシャンだから、ある程度安定してお仕事来るっぽいのよね。
とはいえ、それは最近の話だし。多いと言っても、ちゃんとしたガチガチのレコーディングは今日が初めてなんだけどね。まぁどうにかなるっしょ。
「それでは、本日の予定は以上になります。何か、質問などはありませんか?」
「大丈夫です。それじゃあ……あり?」
「おはようございます……あら? 松井さんもいらしてたんですね」
「おはようございます」
「千川さん、どうも」
そんなわけで一日のスケジュールも確認したところで帰ろうとすると、自動ドアじゃないのでドアが丁度良く開いた。あっ、ちゃんとノックはあったけどね。だから頭と頭でごっつんこしないで済んだ。
ドア先にいたお相手は、ミス職場の人間こと千川さん。いつも通りの緑の制服姿で、何とも見覚えがある。見覚えしかない。
「じゃ、俺はこれで……」
「はい。そういえばPさん、練習進んでますか?」
「なんの練習、でしょうか」
「今西部長から聞きましたよ~」
「あー、アレですか」
用も済んだしPさんと千川さんの業務的な話を聞いてもな、って感じで部屋を後にしようとしたんだけど、内容がその話だと事情は変わる。
ニヤニヤしながらPさんの方を振り向くと、千川さんも若干からかうような悪い顔をしていた。この人やっぱいい性格しとるわ。当の本人のPさんはまだ理解してないのに。
「言葉遣いを直す練習、されたんですよね」
「約束、というか。そういう要望は頂きましたが……」
「約束でも要望でも、まずはPさんが率先してプロジェクトのために行動を起こすことが、これからのために大切なんじゃないですか?」
「そうですよそうですよ。実際にメンバーから要望があったってことは、それが改善されればもっとメンバーとのコミュニケーションも取りやすくなると思いますし!」
「……仰る通りです」
「だったら、Pさんもちょっとは言葉遣いを変える努力をしないと!」
「何事も一歩ずつですよ!」
こういう場合、若干引きがちになるPさんの性格を良いことに、ずんずんと二人三脚で詰めていく。
実際問題、Pさんがプロジェクトメンバーに敬語を使うことで大きな壁があるとかそういうことはないんだろうけどね。若干智絵理ちゃんが怖がるくらいか。それでも智絵理ちゃんもだいぶ慣れてきたと思うしね。
やべぇ、こういう時の千川さんあまりにも頼もしすぎる。味方になった更〇剣八みたいだわ。
あの人、絶対に敵に回したくない男ナンバーワンの人だからな。個人的には一方〇行よりも敵に回したくない。どっちも敵にしたか無いけど。千川さんも敵に回したかないわ。
「ということで、丁寧語をやめる練習!」
「俺達が付き合いますよ!」
「あの……お気持ちは、ありがたいのですが……」
「Pさん、今は練習の時間ですよ? ほらっ、もう一度、言ってみてください!」
やはり普段とは違う感覚で話そうとすると困るのか、いつものように首筋に手を回している。そして一つ息を吐くと、少し意を決したような表情になった。
そんなに気合入れるようなことですか? それ?
「あの、お気持ちは……いえっ、気持ちはありがたい……あぁいや、気持ちは、貰っておく……ぜ」
「いいじゃありませんか!」
「……そうでしょうか」
「ワイルドな魅力、出てましたよ!」
いや、ほんまか? それ、ほんまござか? ドーラァ?
ワイルドな魅力が出ているよりも、違和感の方が出ていたっぽいんだけど。Pさんもそんなに詰まるか? この人って幼少期からずっと丁寧語なんかもしかして。
「それじゃあ次は、私を卯月ちゃんだと思って話しかけてください!」
「そう、言われましても……何を話せばいいのか、すぐには……」
「それじゃ、いつもみたいに一日のスケジュールを伝えるとか。ほら、さっき俺にやったみたいに」
「スケジュール、ですか」
「それだったら、いつものようにやるのを丁寧語抜くだけで良いですし!」
さっきのはいつも無意識に返している言葉を変えようとしたから詰まったんだろう。僕のよく見る罰ゲームが重い系You〇uberも語尾を変えた後は、大体の場合ふとした返事で語尾を忘れて本気でチクショー! って言ってるし。
逆に言えば、普段からよくやっている事であれば、本文自体はすらすらと出てくるので後は語尾を変えるだけなのである! 至極簡単! 圧倒的イージー! ポペペペピポー!
「島村さん、本日の午後からhいえっ、今日の午後からはボイスレッスンの後にサインを書いていたdあぁっ、ポスターにサインを書いて、くれ……? あぁいや、書いて欲しい、ぜ……?」
「……ふふっ、あははっ……!」
「やば……やばいっす、千川さんこれ……っくはは……!」
「あの、お二人とも……?」
「す、すみませんっ……面白くなって、つい……!」
「Pさん……本当にボロボロっすね……っくく……!」
ヤバイ、語尾変更と丁寧語強制の致命的な違いを忘れていた。
これ、普段喋っている言語は変えずに語尾だけ変えればいい語尾変更と違って、丁寧語ってそもそもの言葉を変えるから、それ全部変えようとするとガッタガタになるんか。
マージでヤバイ、壊れたイケボDJかと思ったもん。ビョッブボッビュ病院で!? のそれのバグり方だったもん。多分これmihi〇aru GTにつながるもん。
「……でも、Pさんの思い。きっとあの子達にも伝わってると思いますよ。この前は色々ありましたけど、頑張ってくださいね、Pさん」
「意外と俺ら、Pさんの事は見てますから。ちょっとくらい信用してくださいよ。信用に値するようにやってみせますから」
あんなことしておいて、どの面下げて言ってんねんこのガキゃあとは思ってしまったが、許してくれ。
俺たち子どもは、多分、大人が思っているよりもずっと、大人の事を見ている気がする。大人が子ども扱いしているのか、子供が大人が思っているよりも成熟してるからなのかはわかんないけどね。
凛だってPさんの事を見てて信頼してたからこそあの反発だったんだろうし、そういう意味でも大人って大変だよな。俺達みたいな大人と子供の中間みたいなやつらの面倒見ないといけないんだからさ。
「……ありがとうございます……いやっ、ありが、とう」
「この調子だと、もうしばらくはかかりそうですね……?」
「そうっすねぇ」
読者層気になるので知りたいアンケ
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男! 未成年
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女! 未成年
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どっちでもないorわからん! 未成年
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