女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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人成らざるものの響きは生者に会得せしめるか

 今日の最高気温は30度を超えているらしい。あれあれ? 今月って、まだ6月じゃなかったっけ? 梅雨明けとは聞いてたけど、おっかしいぞー?

 

 

「暑い」

「最近、それしか言ってないでしょ」

「暑いんだから仕方ねーだろ」

「確かに、今日はいつもより暑いですねー……」

 

 

 あまりの暑さに流石の俺もキレ気味である。暑いんだから暑いという他ない。

 暑い事の何がダメって、どんだけ脱いでも脱いでもずっと暑いことにある。冬場は着こみまくればあったかいのに、夏は脱ぎ捨てても限界値があるっておかしいだろ。

 

 

「これ……本当にそのまま首にかけても大丈夫なんですか……? タオルに噴射するんじゃ……」

「うん。俺はそのままで大丈夫」

 

 

 そうして首の後ろを開ける様に服をずらす。すると、若干躊躇しながらではあるも智絵里ちゃんが首元にコールドスプレーをかけてくれる。ちょびっとだけだけど。多分、一気に長時間やるのは気が引けたんだろうな。

 

 

「あー、気持ちいい。懐かしい」

「ほ、本当に大事ですか……?」

「大丈夫大丈夫。ありがとね」

 

 

 うーん、涼しいね。野球部とかではコールドスプレーを直で行ったり、アイシング用の氷の入った袋を頭に乗っけたり良くするからな。

 夏場の野外球場では、プロの選手も良くそうしている姿が見られる。ベンチに冷房とか付いてないんかね。

 

 

「んで、ミーティングって何なんだ?」

「未央がPに話したいことがあるんだって」

「話したい事」

「まぁ、今にわかるんじゃない?」

 

 

 ミーティングになるとCPルームにメンバー全員が集まる。いつもは基本的にバラバラな配分でいたりするメンバーが一堂に集まるので、毎回軽いお祭りみたいな感覚になる。

 莉嘉とかみりあちゃんにたまに前川が大体騒いでるだけなんだけどね。ちびっこどもは良いとして、前川はマジで前川。まぁでもそれがあって前川って感じだしな。名前でゲシュタルト崩壊しそう。

 

 本田がPに話したいこと、ねぇ。何なんだろ。新しいアイデアとか? 丁寧語撤回案推進とかそんなところか?

 今そこで話してる内容を聞けばわかるんだろうけど、正直俺はそこまで気にならないしなぁ。暑すぎてやる気も溶けちまうでこりゃ。

 

 

「私物の持ち込み、ですか」

「そう! 事務所の中、明るくなるかなって思って」

「確かに、そうかもしれませんが……」

「P」

「?」

「また丁寧口調」

「あ……すみm、すまん……」

 

 

 私物の持ち込みかぁ。うーん、俺特に持ち込みたいって思う物ないなぁ。

 なんなら、この前思いっきりゲームもちこんじゃってたし。アレ、もしかしたらアウトだったんかな。学校帰りのノリで持ってきちゃってたんだけど。

 

 

「仕事に関係ないものは必要ないと思うにゃ」

「えー? みくにゃんも猫耳持ってきてるじゃーん」

「ばっきゃろー。あれはれっきとした仕事道具だろ。プライベートで付けてる所みたことあんのか」

「フォロー風でみくの事を刺すのはやめるにゃー!」

「否定はしないんだね……」

 

 

 大体、猫キャラって取って付けたようなもんってそれ一番言われてることだしな。今更ではある。

 なんなら、多分俺はプライベートでの方が前川と会ってるまであるしな。こいつ寮生活組だし。学校にいる時とかは知らんけど。

 

 

「うーん……みんなの個性が見えて面白いかなーって思ったんだけど……」

「……みなs、みんなは、どう思う?」

「私は、少しくらいならあっても良いかなって思います」

「きらりもさんせーい! みんなどんなもの持ってくるか、知りたいにぃー!」

 

 そこからドンドンと賛成派の意見が上がっていく。美波さんが賛成派なのは意外だったな。そんなに硬い人ってイメージじゃなかったけど、なんとなく反対派かと思ってた。

 

 

「みくは仕事とプライベートはキッチリ別けたい派にゃ」

「ま、今の事務所の感じ。クールで嫌いじゃないけど」

「俺もなー。ゲーム持ち込んだ前科持ちで言えることじゃないけど、公私混同して良いことになる例なんてないだろうし」

「珍しく二人とも気が合うにゃ」

 

 

 実際、仕事とプライベートは別けた方が良いと思うよ。仕事は仕事、プライベートはプライベートでやらないと、どっちか疲れた時に逃げ道もなくなる気がするしな。

 大概の社畜の人はそういう沼に陥るって聞いたことがある。それにアイドルが該当するかは知らんけど。

 

 

「えー、楽しく仕事出来た方が良くなーい?」

「仕事にも緊張感は必要だと思うにゃ」

「えー、なんでなんでー! 真面目過ぎだよー!」

「ソウダソウダー!」

「なんでそう君は後ろから刺したがるの!」

 

 

 でも、珍しいというわけではないけど、前川の意見は割と正しいというか、俺は前川側の人間だなぁと思うわ。

 ある程度の緊張感を持ってやることには、それ相応の理由があるからな。仕事でも常日頃から実践を想定したことをする。

 例えばスポーツでも、雰囲気は柔らかくても、練習の空気自体は締まっていて行動がテキパキしているチームは強いと相場が決まっている。こういうのって、割と何事にも同じことが言えたりするよな。

 

 

「ではこうしm……しよう。私物の持ち込みは、一人一品まで許可するということで」

「「「「一品?」」」」

「一品だったら、何でもいいの!?」

 

 

 びっくりした。あんな反応速度の速い杏。初遭遇した時の飴に対する反応速度と、スマ〇ラで俺のフェイントを察知して逆手に取ってきた時とおんなじ反応速度だった。流石に全員杏の方向いたわ。

 

 

「……まぁ、ある程度弁えて。それで、どうd……どうだろう」

「…………まぁ」

「一品だけなら、そう大崩れすることもないだろうし、良い折衷案じゃない?」

「……じゃあ、まずはそれで様子見とか?」

「やったー!!!」

 

 

 杏の一品なら何でもいい発言がすっげえ気になるけどな。

 実際、俺は絶対に公私混同はダメ! って訳でもないしな、あくまで聞いた話とある程度の実体験を基にした話だし。

 何より実体験の方は、こういった女の子のが殆どの環境じゃなく、根性論主体の男子入り混じる地獄での話だったしな。何もかも該当するとは流石に言えまい。

 

 

「おやおや、何やら盛り上がっているね」

「今西のじいちゃん……じゃなかったわ。危ない危ない」

「「「「「おはようございまーす!」」」」

「光、今思いっきり口に出てたけど」

「気にしなくてもいいと何度も言っているじゃないか」

 

 

 そんなやり取りをしていると、どこからか今西のじいちゃん、基、今西部長と千川さんがいらしてた。

 本当に急にくるのね。普段もたまに顔は出してくれるけど、しょっちゅうは来ないからちょっとびっくりしちゃった。

 どうしても今西のじいちゃんを見るとあいつの顔が上手い事重なって……うぅむ。慣れん。一向に慣れん。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「まだラフの状態ですが、神崎さんのイメージで作曲家の方にお願いしてみました」

「これまた凄い尖った曲を……」

「おぉ……! 魂の波動が……! 流石は瞳を持つ者! 災厄に飲まれし者もそう思うか!」

「うん。バンドサウンド基盤じゃなくて、蘭子のイメージする西洋のクラシック風も取り入れた感じ。蘭子の世界にはピッタリじゃないかい?」

「うむ!」

「気に入っていただけたようで何よりです」

 

 

 CPメンバーからのCDデビュー第二弾が決まった。選出者は俺の横でちょこんと座っている超絶中二病なお嬢様こと神崎蘭子。しかもソロデビューと来た。さっき聞かされた時はびっくりしたわ。

 一回目の時は2つともグループだったから、CDデビューは基本的にグループでのものになるとばかり思いこんでいた。目から鱗というか。

 

 んで、なんで俺が蘭子の隣に座って蘭子のそれに付き合っているかというとだ。別に飛鳥を通じた通訳係というわけでもない。あいつも忙しいだろうしな。

 

 

『伝説の幕開けとなる降誕の時……波動を刻む者として、災厄に飲まれし者も宴に参加するが良い!』

『俺の事なにか呪いの伝道師かなんかと勘違いしてない?』

 

 

 と、なんか言われてしまったからである。降誕の時と波動を刻む者は何を指しているかわからんが、災厄に飲まれし者というのは十中八九俺だろう。俺の事、一体何つー解釈してんだお前。

 

 蘭子の意図としてはよくわからんので全て憶測の話になるが、一応CPに近しい人物で、かつ音楽の知識もそれなりにある奴の意見を求めたかったのかなと勝手に想像している。

 じゃないと俺を呼ぶ理由はないだろうし。俺に意見を求めてきたってことはそうだろう。そうであると信じたい。

 Pさんも許可してくれたし、良かったね。

 

 

「今、作詞家の方に歌詞をお願いすると同時に、PVの企画を進めています」

「ほう、『夜を統べる闇の眷属』」

「『この世に紅き血の惨劇を……』…………」

「わーお、これまた夜見たら寝れなさそうな画像で」

 

 

 俺の分の資料は無いので、蘭子の資料を横から覗く形で資料を読み進めていく。ちょっとこっちに寄せてくれてるあたり優しいなお前。

 

 俺達が読み上げたタイトルの二枚目の資料には、イメージ画像としてまんま呪いの人形です♡って感じのガチホラーと取られてもおかしくないような画像が載っていた。なんなら、横の説明文の末尾にホラー世界ってガッツリ書かれてる。

 なるほど、中二病って言うか、蘭子の感じだと確かにそういう風にとらえられてもおかしくないよね。夜の廃れた教会で一人佇んでいても風貌だけなら似合うだろうし。

 当の本人は横で顔面蒼白な訳なんだけど。

 

 

「神崎さんのイメージに合わせて、ダークな内容でと考えています。出来れば本格的なホラーを全面に……神崎さん?」

「こ、この紙片に紡がれしは過去の姿。既に魔力は満ち、闇の眷属たる時は終わりを告げた……今こそ! 封じられし翼を解き放ち、魂を解放させる時っ!」

「……」

 

 

 おーっと、困ったぞ。俺には蘭子が何を言っているのかさっぱり理解できない。

 Pはなんでメモを確認しているんだ。俺は今頭の中で飛鳥に連絡するかしないかの選択肢を一生行き来しているぞ。とりあえず、音だけは残しとこうと思ってスマホで撮影はもう始めておいたから。

 

 

「……企画の内容に、何か問題が?」

「うむ!」

「具体的にはどこらへんが?」

「ふっ……」

 

 

 あっ、これ長いのくるぞ。立ち上がって大きく息を吸い込んだら、それはもう準備万端の合図だぞ。

 

 

「かつて崇高なる使命を帯びて! 無垢なる翼が黒く染まり! やがて真の魔王への覚醒が……!」

「使命……魔王……イメージに、相違があることはわかりました」

「!」

「……ですが、すみません。差が、よくわかりません……」

「なっ……」

 

 

 うん、俺にもよくわからん。Pさんはメモに色々と蘭子の言語を書き起こしてんのかな。普通の翻訳よりも難解だと思うけど。翻訳家が直近にいないから、正解が正解かもわかんないしね。こんなことなら、俺も飛鳥にコツとか習っときゃよかったかもしれん。

 

 

「それが、重要なことなのでしょうか」

「…………今日は、もう良い。よもや、降誕の時を前にして、瞳が曇るとは」

「あの……神崎さん……!」

 

 

 そう言い残すと、蘭子は俺に資料を渡して応接室を去って行ってしまった。

 本田の時みたいな決定的なすれ違いというよりかは、今はまだ小さなほころび。だけど決定的に核は違うといった、そんな感じだろうか。

 少なくともPの言うことと蘭子の反応を見る限り、現段階ではPV案の内容に相違があったのは確定かな。崇高なる使命、無垢なる翼が黒く染まり、真の魔王への覚醒……だっけ。うーん。

 

 

「Pさん、この資料。俺、貰っても良いですかね」

「……本来は、関係者のみに配布される、社外秘の物ですが、構いません。神崎さんの分は、こちらで複製しますので」

「助かります」

 

 

 そういうとPさんは先ほどのメモ帳を開き、何やら色々と書き出した。やっぱり、そのメモ帳には蘭子の使う言語の翻訳が入っているのだろうか……って考察しなくても聞けばいいか。

 

 

「そのメモ帳って、蘭子の使う言葉の意味を書いてる感じですか」

「その通りです。なにか、疑問でも……」

「じゃあ、スマホでさっきの会話、途中からですけど録音してあるんで使っちゃってください。蘭子の場合だと、どこのニュアンスで意図が変わってくるのかわからないでしょうから、情報はより正確な方が良いでしょう?」

「……ありがとうございます。ただ、こういった企画内容は機密情報ですので」

「すいません。ただ企画内容自体は省く様に目の前で編集するので今回だけは。そもそも、必要ないと思ったら消すつもりでしたから」

「……わかりました」

「無茶言ってすみません」

 

 

 Pさんもかなり臨機応変に立ち回ってくれるようになったな。すげぇありがたい。

 今すぐこの場で飛鳥に電話をすれば、この場の食い違いの相違を解決することなんて容易いとは思うんだけど……なんか、こういうのって俺ら部外者が直接手を下すべきじゃない気がするんだよな。

 何よりも、前回みたいに何の手掛かりもないって訳でもなさそうのがミソだ。音声データで蘭子の言いたいことは取ってあるし、言ってみれば、ここの相違をどうにかすれば表面上は解決するわけだし。

 

 前の時も、結局Pと本田と凛の三人で直接決着つけてたし、俺がやるのは本命の立ち回りじゃなくていい気がする。やることは勿論やるけどね。

 

 

「じゃあ、こことこの部分は切り抜いて……これなら大丈夫ですかね」

「はい、これなら保存していただいても。勿論、ばら撒く様なことは遠慮して……」

「そんなことはしませんよ。ただ、微力なりとも力にはなりますから」

 

 

 資料とボイスだけ回収して、俺も帰るかな。とりあえず、帰って風呂入って飯食って落ち着いたら、飛鳥に相談だな。直接手を加える訳じゃないし、俺が相談する分には問題ないだろ。

 

 にしても、なーんか俺忘れてる気がするんだよな。なんだっけ。

 こういう時に限って思い出せない。のどの一歩手前まで出てきている感じあるのに、クソッタレ。歯の奥に挟まったほうれん草とかのほっそい繊維みたいな感覚だ。

 

 

「あれ? 光くん、まだ帰ってなかったの?」

「おう、ちょっとな。忘れもんかい」

「うん! 今取ってきたところ」

 

 

 廊下で接触したのは赤城みりあ。CP最年少だった気がする。まだ小学生だっけ。逸材だよなぁ、小学生でアイドルだなんて。

 純粋無垢な可愛さでスカウトか何かをされたんだろうけど、もしかしたらPはこの子に何か別の才能を見出してたりするのかもな。

 

 

「光くんって、蘭子ちゃんとPさんと一緒にお話ししてたんだよね?」

「おん、そうだよ」

「さっき蘭子ちゃんが『CDデビュー直前まで来たのに、Pさんは私の事をわかってくれてなかった』って言ってたんだけど、何があったの?」

「あぁ、ちょっとな。でも大丈夫だk…………ん? ごめん、みりあちゃん。蘭子がなんて言ってたかもっかい聞いても良い?」

「え? うん、『CDデビュー直前まで来たのに、Pさんは私の事をわかってくれてなかった』って」

「蘭子が? そうやって?」

「うん。そう言ってた!」

 

 

 おかしい。みりあちゃんが喋っている内容は、歴とした日本語だ。いや、蘭子のも日本語には変わりないんだけど、アレは日本語を一度暗号化したようなもんだし……

 え? でも完全に俺たちの使ってる日本語になってるよね? めっちゃ日本語だもんね。蘭子が言ってたって言ってるもんね。どう考えても嘘をつくような子ではないし。

 

 

「ごめん、みりあちゃん。俺、そういえば今日蘭子がCDデビュー決まった時に、みんなに向かってなんて言ったのか忘れちゃってさ。どうしても思い出したいんだけど、覚えてる?」

「覚えてるよ! あの時はね、『私の魅力をみんなに伝えられるように、がんばります!』って言ってたよ」

「『我が闇の力、今こそ解放せん!』とか言ってなかったっけ?」

「だから、そうやって言ってたよ?」

「?????」

 

 

 いや、これどう考えても翻訳出来てるね。なんなら飛鳥よりも完全に日常言語として翻訳してるね、この子。

 Pさん、もしかしてこのこと見抜いててこの子のことスカウトした? なんか早口言葉みたいになった。

 いやいや、でもこれを見抜いていたって言うのは無いな。見抜いてたら普段から翻訳依頼してるだろうし、相当律儀でもないかぎりあんなにメモは……いやでもあの人性格律儀だなぁ……ぐぉぉ……いったい何が正解なんだ……ぐぬぬ……

 

 

「光くん大丈夫? なんだかすっごく難しいお顔してるよ」

「ハッ! いやいやいやいや、大丈夫だ、ありがとな。おかげですっごい助かったわ。みりあちゃん、もう暗くなってくるし、俺が駅まで送っていくよ」

「本当? 一人で帰るの寂しいなーって思ってたんだー!」

 

 

 多分、美波さん辺りが待ってくれてるとは思うんだけどね。

 まぁそれはともかくとして、恐らくPはこのことを知らないだろう。隠す必要性もないが、このままばらしても非正規ルートから一気に突破してゴールするバグ技みたいなことをしでかしたら、Pさんの努力も無駄にしてしまう気がする。

 

 …………よし、決めた。このことはみんなにバレるまで黙っていよう。ちょっと意地悪になろう。

 二人には申し訳ないが、みりあちゃん以外にも蘭子の言語を理解できる人がいるのに越したことはないし、Pさんには頑張ってもらおう。

 ごめんなさい、Pさん。俺、会社の規約とかそっち系は守るけど、それ以外の事は悪さするかもしれんわ。本当にごめんなさいかもしれんもしかしたら。

読者層気になるので知りたいアンケ

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