うーむ。飛鳥からPさんに向けてそれっぽい伝言のような、予備知識のようなものを授けられたのはいいものの。これ、どのタイミングで言いだすかだよなぁ。Pさんも暇な人じゃないし、ちょっと話がって無理やり時間作ってもらって蘭子になんか悟らせるのも悪いし。
「……」
「…………なぁ。蘭子、今日来てからずっとあんな感じか」
「うん……寝てたからよくわかんないけど、杏が見てた限りは今日来てから、ずっと何か描いてた」
「ほえー……中身は?」
「さぁね。杏もそこまではわかんないよ」
「そっかー……じゃ、これ情報料」
「飴だー!」
蘭子も蘭子で、昨日の事はかなり気になっていたらしい。何でも『ギシキ』がなんとかと言って、夕食も手短に済ませて自室に引きこもっていたみたいだからな。まぁ多分、儀式って意味だろうけど。アーニャが聞き間違えて無ければ。
アーニャが日本語の細かいニュアンスを覚えきれずに一言一句伝えるとまでは行かなかったが、そもそも日本人ですら読解困難な言語を帰国子女に覚えていてもらうのが酷な話だ。難易度master+だからな。
恐らく、今日来てからもずっと何かを描き続けているスケッチブックと、それに描かれているものが『儀式』に類するもの、もしくは関するものなんだろうと推測できる。
いやー、あれめっちゃ気になるなぁ。昨日の蘭子の言いたいことは理解できたが、それはそれとしてあのスケッチブックの中身は気になる。
「出来た!」
「へー! らんらんって絵とか描くんだ!」
「ふぇあっ!? ……この私の新結界を破るとはっ」
「なーんで隠すの? 見せて!」
「禁忌に触れるなぁ!」
いや、あっさり貫通したー。蘭子それはな、新結界だろうが由緒正しき末裔の作ったガチガチの結界だろうが、科学の粋を集めた銃弾すら通さない防弾ガラスですら吹き飛ばす、陽キャって生き物なんだ。あきらめな。
すげぇよ本田。俺らが出来ない事を悪意ゼロでやるんだもん。頭の先からつま先まで陽キャって感じがする。
「そのスケッチブックが、らんらんの持ってきた一品?」
「こ、これは
「えぇっと……違うの?」
「……よって、異なる器の力をここに」
「おー! 何々~?」
今、ナチュラルに魔導書と書いてグリモワールと読んだな。あまりにも自然なようで自然じゃない変換。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「
「大昔にヨーロッパで流通していた魔術の事が書いてある本じゃないっけ。漢字で書いたら魔を導く書物って書くでしょ」
「めっちゃ頭いいやん。なんなんだその雑学スキル」
「ゲームやってると雑学がたまっていくもんだよ。杏、実は頭も悪くないしねー……」
となるとだ。
『このスケッチブックは絶対に人に渡してはいけない私の大事な物』って言ったところだろうか。
……割とこうやって考えると、ちゃんと文脈とか状況とかから内容を考察して、実際にそれっぽい文になったあたり、昨日の飛鳥から教えてもらったコトは間違ってなかったんだなって。
俺、なんで高校二年生にもなって中二病への理解と知識と才能を開眼させてるんだよ畜生。
「お疲れ?」
「いや、まぁ少し」
「ゆっくり寝よーよ」
「すぐに凛とか前川が来て叩き起こされる未来しか見えないから今日はパスで」
「つれないなー」
「また今度な」
随分と会社のオフィスですと言った様子だったCPルームも随分と華やかになった。
ゴルフのパター練習マットにCPメンバーの写真や、四葉のクローバーの置物。落書き帳と懐かしのクレヨンペンシル。少し珍しい、地球儀の形をした星座版の天球儀……
「華麗なる生命の息吹……」
「красивая……綺麗な花、ですね」
「凛ちゃんの家のお花ですか?」
「うん、涼し気になるかと思って」
それに、花瓶に植えられている、まるでお花屋さんが仕立てたような白い花々。
凛の家の家業はお花屋さんだ。俺らが生まれるよりも前から店を構えていたらしく、地元では昔からある花屋としても定着している。
あとは割と道路沿いにある家だから普通に立地も良いんだよな。謎に店番をやったこともあったが、意外と花屋って需要の多い店なんだなって、当時の子供ながらに感じた記憶がある。
関係ないが、俺にはこういう花とかを生けたり飾ったりするセンスは一切ない。
凛の家のお母さんとお父さんは店を構えているだけあって、素人目に見てもめっちゃ綺麗にするんだけど、それを割と近くで見てきたのに俺にはそういうセンスが絶望的にない。
凛の方にはちゃんとDNAとして引き継いでいるので、この花を見ればわかるようにガッツリとこういう美的センスは高い。花屋の娘がこういうの上手くないなんてそうそう聞かない話ではあるけど、俺でも出来ると思うやんだって……
「凛の家で見慣れてたけど、こうしてみると映えるもんだな」
「私が見繕ったフジの花、水換え忘れて枯らしかけてた癖に」
「小坊の頃の話じゃねーか、いつの話してんだよ。しかもあれはある程度寿命もあったって聞いたぞ」
「あれ、言ったっけ。サボテンとか贈ればよかったね」
「割とインテリアとしてありではある選択肢を出すな」
言いましたー! 大体あの花の手入れは凛が逐一やってたから俺はなんも触れてないし、枯れた時は割とショック受けたんだぞ。普通に小さくてかわいかったんだから俺。
お前は花の知識とかあるかもしれないが、こちとらただ単に隣に花屋があるだけのド素人だし、花屋の娘が花の様子を逐一チェックしてくれているなら、俺が下手なことする方が怖いじゃんって当時は思ったんだよ。今でも多分、同じことを考えるわ。
「綺麗……」
凛の持ってきた真っ白い花に顔を近づけて、憧れの感情が乗ったような表情でポソリと蘭子が呟いた。
蘭子が焦ったりとかしてない場面以外で普通にしゃべるの初めて聞いたかもしれん、俺。
「あっ、Pさん!」
「あの、お茶を一緒にどうですか?」
「え、あぁはい。じゃあ頂きm……も、貰おうかな」
Pさんもマジで丁寧口調直らないな。これはもう意識して変えられるもんじゃない気がして。
職業病だね、職業病。一回、Pのプライベートでの元同級生相手にどういう口調で話すのか、どうにかして聞いてみたいわ。
「はい、Pさん」
「ありがとうごz、ありがとう」
「どうですか?」
「はい、美味しいでs……オイシイ」
「やっぱりPは丁寧口調の方が良いかも」
「あはは……」
なんか最近心なしか片言になっている気もするしな。
それにしても、こんなコワモテの人が可愛い女の子二人に囲まれて、お菓子食べながらお茶を飲むなんて、ちょっぴり奇妙な光景である。そこに茶髪の男子高校生もお茶飲んで菓子を食ってるわけだから何にも言えないけどね。
「所でさ、アレは誰が持ってきたの?」
「!」
「らんらんだよ。一番最初に持ってきたんだ」
「これって、何?」
「馬の蹄鉄だね」
「なにそれ?」
「最近流行りの奴だな」
李衣菜が親指でクイッと指さした先にはウマの蹄鉄に装飾とリボンが施されたものがあった。蹄鉄の末端の二つ空いた部分が紐で止められており、ドアノブの所にひっかけて落ちないようになっている。
「馬の足にはめ込む金具みたいなもんだよ。これを馬とか牛の蹄に直接打ち込んでやると、蹄がすり減ったり割れたりするのを防げるんだ。要するに、馬や牛用の靴みたいなもんだな」
「魔除けや幸運のお守りにもなるんじゃなかったっけ」
「杏、飴」
「……ん? あー、ヨーロッパでの言い伝えね。日本で言う、盛り塩みたいなもんだよ。扉に掛けておくと凛ちゃんが言うように魔除けや幸運を呼び寄せるって言うね。丁度そんな感じで末端部分を上に向けるのが正しいとか」
「「「へー」」」
「そうだったんだー!」
「はい、飴」
「杏の事、Wiki〇edia扱いしないでよねー」
「いいじゃん。飴あげるんだし」
「まー、そうだけど」
こいつ本当に博識だな。頭の回転も速いけど、地の部分の知識量も半端じゃないわ。こんな飴をもぐもぐ頬張るちんまい体のどこにそんな情報が入ってるんだ。
それにしても、そう言った言い伝えのあるものをその状態通りに持ってくるとは。やっぱりこの中二病は一朝一夕の物じゃないんだな。
「ンナーッハッハッハッ! 我が同胞達よ、皆に等しく祝福を授けよう! 聖なる光に包まれ、幸運になるが良い!」
「……あぁ、うん」
「ありがとう蘭子ちゃん!」
こうやって聞くと、みりあちゃんだけレスポンスの速さと迷いのなさが異常だわ。確かに彼女の普段の様子を見てれば大した違和感じゃないんだけど。
今のは多分、『メンバー全員に幸福が訪れる様に』みたいな意味合いだろうか。流石に俺レベルだと細かいところまではわかんねーな。
これ、杏がこの読解術のやり方掴んだら一発説ないか?
「とっても素敵ね」
「四葉のクローバーと一緒なら、もっと効果あるかな」
「う、うむ」
「いやー、らんらんいい子だよねー。みんなのためにラッキーアイテムとかさ!」
「蘭子ちゃんだからー、なんか怖そうなドクロとかかなーって思っちゃった!」
「ど、どくろ……」
俺もそういうイメージだったしな。わかるぞー、莉嘉。その気持ちすっげえわかる。めっちゃ怖いクリスタルのドクロとかも持ってきそうだしな。というか、骸骨全般持ってきそう。
「血塗られた十字架とか……!」
「ち、血ぃ……!」
「蘭子、ホラーはニガテです」
「そうなんだ」
「ホラー映画も、怖くて、見ません」
「わ、私も……」
「なんか意外だね」
Pさん、そんな『そうだったんですか!?』みたいな顔でこっち見ないでくれ。頼む、後生の願いだ。
俺も寮住まいだった癖して、近隣住民としか接触を取らなかったせいでこの情報を知らなかったんだ。まぁ、思い返してみれば実は知ってたパターンではあったんですけど。
「あれ、お前ら何してんの」
「光こそ。Pに何か用でも?」
「ちょっと予定をな」
「ふーん」
なんかさっきからずっと蘭子の高笑いがそこら中で聞こえてたので、何かは知らんが何かはあったのだろう。という根拠に基づき、そろそろ動くかとPルームに向かっていたんだが、何故かニュージェネと鉢合わせた。
にしても蘭子の方、マジでさっきまで5分刻みくらいで高笑いが聞こえて来てたけど、何があったんだ一体……(困惑)
「P、多分ちょっと忙しくなるから。手短に済ませなよ」
「お、さんきゅー」
「じゃあねー! まっさん!」
P、なんか予定あったのかな。俺も時間ずらした方が……って思ったけど、もうここまで来ちゃったしいいか。何ならもう目の前だし。
ドアをノックすると、野太い声が返ってくる。
「どうぞ」
「松井です。今時間、大丈夫ですか」
「はい」
Pルームの扉を開けると、Pは席の机にメモ帳を開き、先ほどまで右手を首元に置いていました。みたいな体勢になっていた。
時間は大丈夫だと言ってるけど、これは社交辞令なのか、一体どっちなんだ。
「蘭子の件、なんかあったんですか?」
「……はい。どうやら、若干避けられていたようで。私が、上手く彼女の言葉を理解できないせいかと」
「成程」
「ですが……先ほど、渋谷さんから教えていただいたお陰で、少し兆しが見えまして」
「…………へ、凛がぁ???」
「はい、彼女の助言もあり。これなら、神崎さんともPVについての話し合いを進められるかと」
なーして考えとることがそんなに被るんじゃお前はああああああっ!!!
……いや、良いんだけどね。仲間意識がとっても高いし、仲間思いでとってもいいことなんだけどさ。なんか、なんか、考えてることが被るとちょっと悲しくなる。
最初の方は、『えぇ、凄っ!』で済むけど、凛の場合は何年も一緒だからまたかいってなる。ましてやこんなピンポイントで同じなんて思わなんだ。
「……ちなみに、あいつはなんと」
「はい、『言葉とかの前に、もっと蘭子に近づいてみたら』と。私は、大事なところを見落としていました」
う────ん、ほぼ全部かぶっている。物凄ーく、被っている。9割くらい被っている。あいつ、マジでどっからこの結論出したんだよ。あいつ絶対にそういう才能有るだろ。趣味が若干そういうのあるもん、俺より資質あるよ。
「じゃあ、俺からちょーっとだけ役に立ちそうなコト、教えますね」
いや、これで蘭子とPの関係が良化するのなら正直なんでも良いんだけど、これを言おうか、言わないか……いやでも飛鳥からの請負だしなぁ……いや、言うわ(決心)
「ダブルスタンダードみたいにはなりますが、凛の言うこと。信じてやってください。Pさんにとって、神崎蘭子という女の子を知ることは、直接蘭子の言葉の意味を受け取る力にもなります。そこから少し視野を広げると、きっとアイツの世界が見えると思います。Pさんのメモ帳に書き詰められている文字は決して裏切りません。これは断言できます」
なんかこの構図、懐かしくも嫌な思い出が蘇ってくるな。あの時はブチギレ散らかしてて、Pさんにキレるだけキレて帰ったんだっけか。
あの時は雨だったけど、今日はじりじりと暑い太陽が天高く見下ろしてきやがる。堕天使の目印ともなりえる黒い翼を見つけるには、少し過度な眩しさだ。
「そうですね。言うなれば、『すれ違いし未完の堕天使と足掻く求道者。双方が魂の器の色を変え、真の意味で共鳴させし時。子夜を告げる鐘へまた一歩近づき、覚醒し魔王へ捧げる讃美歌となり得よう』……みたいな」
「っ! 松井さん、それは……!」
「昨日の音声データ。もう不要になったので、消しておきますね」
そう言って、Pの部屋を後にする。なんか若干止められた気もするが、あれ以上格好つけると爆散しそうなのでもう逃げる選択肢しかない。早く帰ってゆっくりしたい。
予定は狂いに狂い、最後はもうアドリブでなんかそれっぽく格好つけて言ってみたが、長くなるし全然だめだ。蘭子のアレには届かねぇな。
最後の翻訳はしないからな。各自でやってくれ。そのボケはどういう意味ですか? って芸人に聞くのと同じだよ。公開処刑、公開処刑。
すまん飛鳥、お前の『蘭子自身に近づいてみてはどうかい』って伝言。俺の知り合いが先に使ってたわ。あればっかりは想定外。悪ぃな。
いやー、慣れないことはするもんじゃない。いくら後ろからの援護射撃をしようとしたって、自分より格上のスナイパーに役目を持っていかれたら、こっちの取れるもんはもうおこぼれを拾って綺麗にすることしかないのよ。
それにしても、こんなところであいつと思考が被るとは、わかんねぇもんだなぁ。人生。
読者層気になるので知りたいアンケ
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男! 未成年
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女! 未成年
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どっちでもないorわからん! 未成年
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男! 成人
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女! 成人
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どっちでもないorわからん! 成人