女子寮生活は難儀です   作:as☆know

60 / 80
不敵な笑みは人生で数回しか許されない激レア技

 来た当初は綺麗に整えられた大企業の職場の一室というような雰囲気だったCPルームも、ここ一週間で完全に姿を変えた。

 杏はかなりでかめな人をダメにするソファー兎版を知らん間に設置してたし、前川はホワイトボードに猫のマグネットみたいな小物を持参したかと思えば、美波さんはおしゃれなアロマキャンドルを持参。

 そして元々あったソファーにはカラフルなカバーが設置されており、そこには大きめのカブトムシのぬいぐるみが。今も珍しくきらりが真剣な面持ちでソファーカバーを吟味している。

 

 ちなみにだが、杏が寝ているあの人をダメにするソファー。どこで仕入れたかはわからないが、アレはマジでヤバイ。

 サイズ的に俺は杏みたいにすっぽり埋まって寝ることはできないが、本人からの勧めで寄りかかって寝たら、あまりの寝心地の良さに起き上がれなくなった。

 単に俺がサボりたかったとかそういう次元じゃない。アレは科学とかの域を超えていた。その場にいた莉嘉や卯月、凛までもが骨抜きにされていたから間違いない。

 マジでこの人をダメにするソファーは人をダメにする領域を超えている。どっから仕入れたんだ本当。

 

 

「うわぁ……なんか私たちのお城って感じする!」

 

 

 机にはどこでも卓球ネットみたいなのが設置され、最初は反対派だった李衣菜と莉嘉が卓球ならぬブタミントンをしている。クールキャラはどこ行ったんだお前。

 そして、一角には色々な見た目のヘッドホンが4種類ほどかけられていた。そんなに使い分ける必要あるか? ヘッドホンって。

 

 

「煩わしい太陽ね……」

「おっはよー! らんらん!」

「だからっ、その呼び名は……!」

「らんらん、デビューCD好調らしいじゃーん!」

「今日もこれからステージなんだよね!」

 

 

 あら^~。やっぱ女の子同士のてぇてぇはいいもんなんですかね。俺にはちょっとよくわからんけど。

 

 あれからPと蘭子の間に有ったすれ違いは、無事に修正され、蘭子は自身が思い描くストーリーを現実にするようにデビューすることになった。

 まるでゲームのSSRキャラみたいな衣装に身を包んだ蘭子は、ノリノリでPV撮影してたし、本当にやりたいことを伝えられて良かったね、という感じだ。

 結局、事の結末としては、Pが蘭子自身に寄り添うことをきっかけに、蘭子が自身の描いたイラストで自分の中のイメージをPに伝えたことで、蘭子の使う言語を完全に翻訳する手段がなくとも蘭子の思い描く理想を現実にしたらしい。

 関係ないが、蘭子の言語は蘭子の出身地の熊本から取って、熊本弁と一部で言われているらしい。熊本魔境だろ。

 

 飛鳥が言っていた、『Pと蘭子が歩み寄る』というのは、Pだけでなく蘭子からも接触を試みるって事だったのね。あいつはどこまで見えていたんだろうな。今回の件に関しては、あいつは予言者みたいな活躍の仕方だったわ。

 

 

「ってことは、光くんも一緒に?」

「いや、ライブじゃなくてステージなんで。俺は同行しないっすよ」

 

 

 ステージ公演なら、フルバンドがいる訳じゃないしね。

 あっ、そういえば言い忘れていましたが、私、松井光。今回の蘭子のソロCDのベースとして参加させていただきました。いえーい、パチパチパチ!

 

 なんというか、普通に難しい曲だったし、これでデビューするのか……ハードモードだなぁという感じでした。良い感じで弾けたし、プロのmixで本当に遜色なくなってたから良かったんだけどね。

 まさかデビュー曲がバンドサウンドじゃなくて、クラシック風の曲になるとは思わなかったよ。

 

 

「ンッフッフッ……月は満ちて太陽は滅ぶ。漆黒の闇夜に解き放たれし翼……」

「んえぇ……ナニソレ……?」

「うんうん、そっかー。今日も仕事で帰りが遅くなるんだねー」

「晩飯どうすんの? もしあれなら、響子ちゃんに伝えとくけど」

「「「「「えぇっ!」」」」」

「あっ」

「なっ、なんでわかるにゃ!?」

「なんでって、みんなわかってなかったの?」

「「「「「えぇー!!!???」」」」」

 

 

 いや、まぁ遅かれ早かれいつかはバレただろうし、隠すことでもなかったと思うけどね。CP始まってから少なくとも2か月以上は経ってるのに、逆によく今までバレなかったな。

 

 

「……ねぇ、なんで光は当たり前のように驚いてないの」

「へ? いや、そういうこともあるかなーって」

「そういえば、前にイメージビデオ撮ってた時、まっさん誰かに電話してらんらんの手紙解読してたよね」

「確かに! そういえばそうでした!」

 

 

 あー、そういえばそんなこともあったわ。蘭子の手紙の内容が分かんなくて右往左往してたところに俺が鉢合わせて、電話で飛鳥に繋いで手紙の内容を解読したんだよな。そんな昔じゃないけど懐かしいわ。

 

 

「光ならその電話相手の人に協力を仰げば、蘭子の言葉もPに伝えられたんじゃないの。なんだったら、みりあの事も知ってたんじゃ」

「まぁ昔の話だし。さぁ、どうだろ?」

「……はぁ。そうやってすっとぼけて。光って、たまにそういうところあるよね」

「そんなことないって」

「お二人とも……言ってください……」

 

 

 きっと今俺は相当悪い、もしくは悪戯気な笑みを浮かべているんだろう。凛の若干呆れた表情がそれを物語っている。

 俺なりに色々考えてるんだし、今回だけは許してやってくれよ。まぁ、頭のキレる凛なら、今の状況である程度の推察は出来るだろ。なら、もう俺からこの件に口を出すことはないしね。

 

 いいじゃないの。無事に終わった話なんだから。俺はこの件に関わった時から、直接的に手はなるべく加えないって行動理念で動いてたんだから、許してちょうだいよ。

 結果としては、予定通りに解決したんだから良いじゃない。

 

 まぁ、犠牲としてPさんの心労は物凄いことになっていたんだろうけど、いつかぶち当たる壁に早いうちにあたっておくのは良いと思うんだ。俺も飛鳥と話してそう言う結論出したし。

 とはいえすまんPさん。マジでお疲れさまでした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…………よし、これでおっけー」

「Что это? ……アー、光、それは何、ですか?」

「それが光くんが持ってきた一品?」

「はい……いや、違うか。付属品みたいなものですよ」

「なにそれ?」

 

 

 俺がCPルームで組み立てていたのは、一人一品持ち込む私物に必要なスタンドだ。

 まぁ、スタンドって言ってる時点でもろバレだけどな。もうちょっとだけ持ちこさせてくれ。

 最近のスタンドはお手軽に組み立てられるし良いよな。あと、普通に寮にもA〇azonが届くの初めて知ったわ。シューコさん教えてくれてマジでありがとう。

 

 

「もしかして李衣菜、スタンド使ってないの?」

「初めて見たけど」

「いや、楽器屋に置いてあるだろ」

「見た覚えないや……」

「それじゃあ、今組み立てていたそれは付属品って言ってたけど……」

「本命はあれですよ。ソファーに置いてある奴」

「знать! アーニャ、光が持ってるの、よく見ます」

「…………あー! なるほどね。まぁ、私は最初から気が付いてたけど」

 

 

 スタンドの位置を調整して、ニヤニヤしながら指さした先にはソファ……と、そこに寝かされたちょっと大きめのギターケース。

 李衣菜はケースのシルエットを見てから反応したよな。突っ込まないけど。

 

 李衣菜のこういうところ良いよな。ニワカは悪いことじゃないぞ。それだけ新規の子が増えてるって事だからな。コンテンツの存続に新規参入者は必須だからね。

 なんか李衣菜は俺がここに来る前からずっとニワカやってる気がするけど。

 

 

「へー。これ、光のギターなんだ」

「そう、古い方ね」

「アーニャ、よく、見ます」

「これ、先っちょから弦伸びてるけど大丈夫なの?」

「問題ない。単純に俺がガサツで切ってないだけ」

 

 

 ギターケースを開けると、そこにはネックの先からだらしなく弦がくるくると丸まっている以外は、何の変哲もないアコースティックギターが。

 

 そうです、私の持ってきた私物はこれです。給料で新しいエレキギターを買ってしまったので、物のついでと言わんばかりに実家から親父の一番使わないであろうギターをかっぱらって来て、上手い事いい塩梅になるようにしました。

 配分的には、寮に実家からパクったアコギ、新しく買ったエレキ、元々あったベースの三本。そして、CPルームに俺が今まで使っていた古いアコギが一本という感じ。

 親父には仕送り兼ギターパクリ代としてそれなりに渡したので、まぁ許してくれるだろう。一応渋々とは言え言質取ったし。ギターに関しては、俺が新しいアコギ買うよりも、親父に買わせた方が良いだろうし。

 

 李衣菜に見られるならともかく、美波さんに見られるのはなんか恥ずかしいな。アーニャは普段から見てるだろうから良いけどさ。ちゃんと弦切ってくればよかったな。

 

 

「ほら、こうやって立てかけておけば置物としても良さそうじゃない? アイドルのいる部屋だし、ギターくらいあっても違和感はないでしょ」

「おー、確かにロックだ」

「問題はどこに置くかなんだけどな。うちには元気な人たちが多いから」

 

 

 こういうギタースタンドとかって意外と足を引っかけたりするからね。エレキなんかはあんまり直射日光ダメとか聞くし、置き場所は意外と大事だ。

 何よりもこの事務所には超絶元気な幼児2人とか、いろんなことでよくキレてる猫娘とか、超絶陽キャの外ハネ娘とか、はぴはぴにょわー☆っとしている杏の保護者の方とかが良く走り回っているので足を引っかけないかが心配すぎる。

 

 アコギは軽いもんでひっかけてぶっ飛ばしても相当な勢いでもない限りは壊れたりしないんだろうけどね。俺はそれを承知で持ってきてるから壊れても別にしゃーないんだけど、ひっかけた人がそれを気にしちゃったら地雷設置したみたいで申し訳ねーしな。

 

 

「あの観葉植物の横とかいいんじゃないかな? 端っこの方でも目立たない場所じゃないし、あそこなら莉嘉ちゃん達が走り回っても足を引っかけることはなさそうかなって」

「確かに。さっすが頭の回転早いっすね」

「そんなことないよ~」

 

 

 美波さん、案外わかりやすくテンション上がるんすね。もっとクール系かと最初は思ってたけど、この人意外とヤワらか?タイプの人でした。

 全人類が望む理想のお姉ちゃんという感じだ。優しいし、ちゃんとするところはちゃんとしてるし、それでいて視野も広くて気配りが出来る。CPメンバー全員が認める、CP全体のまとめ役ともいえる存在。本当に19歳か?

 

 

「ねーねー、光。なんか弾いてよ」

「お前この世で一番ギタリストが言われて困るセリフを言うな」

「そうなの?」

「逆になんか弾いてよって聞かれたらなに弾くってなる?」

「………………確かに」

「だろ?」

「あはは……ギタリストあるあるなんだね……」

 

 

 あるあるもあるあるですよ。今、全国のギタリストか首をブンブン縦に振ってますからね。

 しかもこれがギターならまだわかりやすいから良いけど、ベース持ってる時にそれを言われた日にゃもう死ぬかと思う。

 なに弾けばわかるんだよ。マ〇オの地下BGM弾いたって地味じゃねえかよ。いったいどうしろって言うんだよあれ。ギターですら致命傷なのに、ベースでそれ言われたらもう跡形もねぇよ。

 

 

「Но……でも、光、私がいる時、いつも、ギター弾いて、くれています」

「私とアーニャちゃんの扱い違う気がするんだけど」

「うん、違うと思うわ。なんでだろ」

「自分の事がなんでわかんないのさ」

「いや、マジでなんでなんだろ……」

「……アーニャ、光の事、困らせましたか?」

「No problem。何も問題はない」

「今、なんだか普段の光くんからは想像できない光景だね……」

 

 

 なんでこんなにアーニャに甘いんだろうなぁ。俺にもよくわかんねぇや。

 なーんか甘やかしたくなるというか、誰かの何かに似た感じがするというか、心の底のどっかにあるスイッチがアーニャの事を甘やかしたくなるというか。

 これ、学会とかに提出したらなんか論文とか書いてくれんかな?

 

 

「まぁ、とはいえ弾きますよ。一応これでも、最近はちゃんとお仕事貰ってるんですから」

「でも、光くんが弾くのって、ギターじゃなくてベースじゃなかったっけ」

「李衣菜から聞きたかったセリフを代弁してくれてマジでありがとうございます」

「私だってギターとベースの違いくらいわかるし!」

 

 

 ほんまか? ちゃんとライブでベースの音とかどれかわかったりするか?

 普通に聞く分にはベースってどれだよ。えっ、このなんかズーンズーンってなってる低音? 地味~wwwってなるのが定説だからな。悲しい楽器だよ。良い所も沢山あるのにね。

 

 

「任せてくださいよ。最近はギターも大分上手くなってるんで……CDとかに乗せられるクオリティじゃないですけど」

 

 

 丁度最近、丸サのソロギターの練習をしてたのよね。ソロでもオシャレで映える曲だし、何より有名な曲だから知っている人が多いって言うのがとっても良い。

 音楽がそこまで深く好きじゃないよって人に選曲するうえで何が重要かって、知っている曲を選曲するところだからね。その人が知らない曲を刻み込むのもいいけど、知っている曲を弾いて楽しんでもらうこともとっても大事だからさ。

 

 そんなことを考えながらギターのチューニングをそそくさと済ませて、スタンドにひっかけておいたカポを手に取り、3フレットに合わせる。

 本当だったら動画サイトで上がっている一番有名なロックアレンジのソロギターが一番好きなんだけど、あいにく俺はギターにそこまでの実力を持ち合わせていない。よって、今回はとってもシンプルで静かな練習している奴で行かせていただきヤス。

 ド派手な技術だけが全てじゃないんですよ、音楽って言うのは。シンプルだけど所々に細かいアレンジを入れて飽きさせない、そういうのもまた好きなんですよね。

 

 

「じゃあ、素人ながら恐縮ではございますが」

 

 

 ピックを取らずに、爪先でギターの弦を撫でる。指先に直接来る感覚が、今この手で音を奏でているという感覚みたいでとても好きだ。

 

 ここで披露した丸の内サディスティックはとてつもなく好評で、結局CPのメンバー全員に披露することになった。そんなに上手くないのに……おかげさまでベースよりもソロギターの方を練習することが増えたよ……本職とはいったいどうなっちまったんだ。





読者層気になるので知りたいアンケ

  • 男! 未成年
  • 女! 未成年
  • どっちでもないorわからん! 未成年
  • 男! 成人
  • 女! 成人
  • どっちでもないorわからん! 成人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。