寮の食堂では、担当の滅茶苦茶優しいおばちゃんと、週10でいるんじゃないかって割合で響子ちゃんがキッチンを仕切っているが、週に1度だけ、例外の日がある。
それが毎週土曜日にある、アイドルが料理の当番をする日だ。俗に言う当番日だけは、寮に所属していて、かつ食堂を利用しているアイドル。要するに、この寮を利用しているアイドル達が朝、昼、晩と三食。3~4人が食事番に入り、料理をしていくというルールらしい。
ちなみに響子ちゃんは、さっきも言ったが当番日だろうが何だろうが、大体キッチンにいる。マジで週10でいる。たまにお仕事とかでいないと超絶心配する。
この制度、色々と聞いた話によると、寮で生活をしているアイドルが、将来一人暮らしをした時にちゃんと自炊生活が出来る様に、ここで料理もある程度できるようにするとかいう狙いもあるらしい。とはいえ、集団生活だからな。本質としては、やっぱり寮なんだから寮内で完結するようにと言うことだろう。
「今日も練習キツかったにゃー……」
「お疲れー」
「みくはん、今日もダンスレッスンやったん?」
「それもだし、色々とトレーニングも。体幹トレーニングとか」
「体幹は地獄だなぁ」
「アレ、めっちゃキツイんだよねー。しかも麗さんのはヤバイ」
そんな当番制の日だが、俺は今まで免除されてきた。理由は簡単。俺は食堂を利用していなかったからだ。
自炊! 自炊! ほっ〇もっと! 自炊! 自炊! コンビニ! ……と言った感じで、食堂に行ってアイドルに囲まれたら死ぬという勢いで、意地でも部屋と外食以外は食事をとらなかったことが幸い(?)して、俺は今まで食事当番を回避していた。
まさに登板(当番)回避だね! 松坂〇輔! 現役生活お疲れさまでした。
体幹トレーニングは本当にキツイ。ダンスにしろスポーツにしろなんにしろ、やっぱり基本は体幹なんですよ。体幹が凄けりゃ何でもできる。世界も救える。
「喜びな。今日の晩飯は俺様特性、焼肉定食だ。スタミナ付けろ」
「うわー、なんかすっごい男飯って感じにゃ。ニンニクは?」
「ちゃんと抜いてある。俺は後からフライドガーリックゴリゴリ入れてる」
「そこらへんは気遣いできるんだ」
「普段からデリカシーが無いみたいな言い方辞めろよ」
「みくは無いもんだと思ってたけどー」
「シューコちゃんは今日人に会わないし、バチバチ入れちゃうけどね」
そう。そんなわけで、本日の晩御飯担当は私、松井光でございます。人様に料理をふるまうのは久しぶりだから、なんか緊張しちゃったよ。
周子さんと紗枝ちゃんだけなら、多分そこまで緊張はしなかったんだろうけどね。大人数相手だと、ちょっとビビる。
本日のメニューは焼肉定食。
パッと見、ただの男飯で女の子にはあんまり向かないセンスだって思うだろ? 大丈夫、任せとけって。
メインディッシュには、焼肉のタレ+牛肉と言う最強のアイテムを加えた主力を添える。そしてサイドには千切りキャベツ、ミニトマト、キュウリ。これは全部響子ちゃんにやって貰った。めっちゃ速かった。
そして箸休めに丁度いい、超絶簡単もやしナムル。後は、ふわふわになるように卵を溶いた、ぱっと見お吸い物に見えるわかめたまごスープinネギ。
こう見えても私、料理できる系男子なんですよ! 母親が料理たまにサボるからな。あのクソババア。今だけは感謝してやる。
「……美味しいにゃ。これ、はしたないけどご飯の奴」
「やろ? 結局、焼肉のタレが最強なんだよ」
「光、大体味付けするときそれ使うよね。美味しいからええけど」
「光はんの料理、ほんまに美味しいからなぁ」
「お褒めに与り、光栄でございます」
訝しげな表情でお肉を口に運んだ前川の目が、敗北を悟った表情になった。
そうだろう、そうだろう。旨いもんは旨いんじゃ。諦めな。
寮のご飯、正直入った当初はダイエットメニューみたいな感じの食事しか出てこないのかな、なんて思ってたんだけど、蓋を開けてみると結構高カロリーな料理も多いんだよね。勿論、副菜とかでバランスは取ってあるんだけど。
やっぱり、アイドルってハードなダンストレーニングだとか、人によっては筋トレをしたりする人もいるみたいだから、エネルギー源の補給はしっかりしなきゃなんだろうな。結局、沢山食って沢山動くのが真理だからね。
あとは、減量中の人にはその人用のメニューが別で用意してもらえるようになっているらしい。凄い施設だな。アイドルの寮だから、当然と言えば当然なのかもしれないけども。
「楽器も弾けて料理も出来る……なんか無駄にハイスペックでムカつく」
「頭は悪いから許せよ」
「勉学では負ける気はしないにゃ」
「こちとら赤点回避に必死だからな」
「甘いねー。赤点はね、取ってからが本番なんだよ」
「周子はんは、ただ単に授業ちゃんと聞いとらんだけやろ?」
頭はちゃんと悪いから安心してくれよ。授業つまんねーんだ。マジで数学とか意味不明。
あんなもん、途中で計算ミスしたら終わりって時点で欠陥なんだよ。人間ミスなんて当たり前なんだから。それを全部含めてやるもんだろ。知らんけど。
「もっと弱点晒すにゃ! 弱点を!」
「んなポケ〇ンみたいに言われても」
「多分、幼馴染ちゃんには甘いよねー」
「あと格好もチャラい! ピアス付けてるし茶髪だし。それにマイペースな所も結構ある」
「格好に関しては、ここにおると、あんまり気にはならへんけどなぁ」
「あと、服とか冒険しないよね。なんか量産型高校生ってよりも、モブって感じ」
「急に刺すじゃないすか」
凛って言うほど弱点か? いや、弱点かもしれんわ。前やらかした時も、凛絡みだった気がする。
恰好がチャラいのは別に趣味だから良いだろ。ピアスだってネックレスだってアクセサリーだって、全部俺の好みなんだから、弱点なんかじゃないね。ここにいる人でもっとすごい格好してる人だっているし!
後は、服装に関してだな。それはマジで弱点。本当に私服とか冒険しない。絶対に冒険しない。
冒険して失敗した時が怖すぎるだろ。シンプルイズベストという言葉を知らんのか、キミ達は。いや、知らんかもしれんわ。前川は置いておいて、周子さんはバチバチにおしゃれだし、紗枝ちゃんも何故か私服で着物を着てたりしたかと思えば、制服や私服も可愛いし。
俺はもうわかんねぇよ……なんで女の子って、あんなにオシャレさんしかいないんだよ……
「後、部屋にいる時は服を着ないって言う、人としてどうかと思う弱点があるにゃ」
「仕方ねーだろ。着たくないんだから」
「欠陥にゃ」
欠陥呼ばわりとは失礼な奴め。個性と言いなさい。非常に服が着たくないという個性とね。
そりゃあ、女性と感覚は全く違うから、ここでは特に言いにくくはあるけど、服ってうざくね? 俺、このセリフ5万回くらい言った気がするわ。
「でも、光はんは顔も整ってはるし、身長も高いし、体格だって意外と筋肉質で、すたいるもええもんなぁ」
「それで楽器も弾けるし、料理も出来るし、運動も出来るんだもんねー」
「後は、げーむも上手かったなぁ」
「マジで器用貧乏だにゃ」
「いや、言い方」
確かに、どの分野も突出してすげぇ! ってもんは無いけれども。でも、楽器は突出してるのか。それだけは出てないといけないもんな。一応、スタジオミュージシャンって名目でここにいるんだもんな。
顔は自分でも悪い方じゃないと思ってる。後、身長は本来なら高身長なはず。きらりとPのせいで霞んでるけど。体格に関しては、今でもたまに運動するからな。学校の授業とかで。
それこそ、姫川さんとキャッチボールとかたまにするし。あの人、俺の事を呼びだせばくる便利屋捕手みたいに思ってる節があるからな。大〇じゃねーんだぞ。色んな意味で。
ゲームと料理に関しては、中学の時に少し手を出したからな。ゲームは今もだし、料理も未だにって感じだけど。
後、器用貧乏はマジで事実。ある程度のとこまでは行けるんだけど、その先にまでは行くことが中々無いんだよね。
「そういえば、光っていつから料理とか始めたん?」
「中学っすね。楽器とか、そこらへんは全部中学からです。野球以外は」
「え゛っ゛、光クン、野球も出来るの!?」
「光はん、元々野球部なんやろ?」
「よくご存じで。小学校の時の話だけどね」
「ふふっ、友紀はんから聞いたんどす」
へー、なんだか意外な接点。姫川さんと紗枝ちゃんって、なんだか属性も違うような感じするし、姫川さんも寮住まいじゃないし、年齢もそこそこ離れてるから、あんまり接点なさそうだけど。
仕事で一緒になることだったりが多いのかな。そこらへんがマジでわかんねーや。
「なんで中学では、野球やらなかったの?」
「上下関係が厳しいんだよ。それに練習もきついし。野球は好きだけど、野球部には向いてなかったんだよな」
「うわー、なんか想像つく」
「光って、堅苦しいの苦手そうだよね。その割には、敬語とか取ろうとしないけど」
「それとこれとは別ですよ」
敬語は敬語だからね。俺が言っている上下関係って言うのは、もっとヤバい。マジで。
俺よりも一年早く生まれたかなんか知らんが、一つ上の学年ってだけで下の学年を奴隷のように扱うんだから。あんなの俺はごめんだね。
後は、捕手練がキツイ。一生下半身虐めてる。あれは地獄。
「ほな、中学じゃ、別の部活に入っとったん?」
「いや全然。バチバチに帰宅部」
「じゃあ、暇人してたの?」
「最初はフィーバーしてたんすよ? 暇人ライフ。でもすぐに飽きちゃったんで、手当たり次第に色々やったり遊んだりしてましたねー」
「色々って?」
「ゲームやりこんだり、漫画漁ったり、サッカーとかダンスも齧ってみたり……大体、ベース以外は長続きしなかったですけど」
「料理は?」
「家庭環境。母親が料理たまにサボるんすよ」
「へー、テキトーな人なんやねぇ」
「なんでそこで勉強しなかったの?」
「いや本当。なんでなんだろうな」
あそこで勉強に火がついていれば、また違った人生にもなってたんだろうな。太鼓の〇人とかダン〇ラとかに時間を消費してた部分をそこに移していたら、それなりに成績は上がっただろうに。どうせ、長続きしなかったのは目に見えているとはいえね。
中学の時の俺はとにかく暇な時間を持て余して、とりあえず目に入った気になるものに手を付けてたからな。
ただ、どうしても一人で消費する趣味に力を入れるしかなかったんだよ。だからサッカーとか野球はダメだったんだよ。ほんとに一時期一生リフティングしまくってたくらい。
それにゲームだって飽きるし、漫画だって一度読み込んでも、それを何十周もするのは多少無理がある。いくら面白くても、それだけにつぎ込むのは至難だ。
ダンスは単純にそこまでセンスがなかったし、見せる相手もいなかった。あと、なんか俺には合わなかったんだよな。だから凛とかめっちゃ尊敬する。
ちなみに、周子さんが言う通り、母親は超絶適当な人間だ。その癖鋭い所があるし、俺はあの人の息子なのに、あの人の事が末恐ろしいよ。怖いわけじゃないんだけど。
「でもそんなに後悔はしてないなぁ。結局、ベースをそこで始めたおかげで、今346にいるし」
「ここで女の子にも囲まれるしね」
「最近慣れてきちゃったけど、本当にこれって多分許されちゃいけないよな」
「ええんやない? うちらは別に嫌やないんやから」
「そーそー。光は深く考えすぎなんやって」
落ち着いて考えてみると、本当にあそこが分岐点だったのかもな。
あのまま、中学で硬式の野球クラブに入っていたら、今頃高校の野球部に入って毎日死んでただろうし。
勿論、趣味で音楽を嗜むことはあったとしても、本当に嗜む程度で、ここまでしっかりとのめり込むことはなかっただろう。
「なんでベースだけは長続きしたの?」
「無限なんだよ。音楽って」
「む、むげん……」
「マジマジ」
そんな中で、ベースとギターだけは本当に無限だった。どれだけ曲を覚えても覚えても、無限に覚えたい曲がどんどん出てくるんだよ。それで、やればやるだけ自分で上手くなっていると実感できる。
野球なんかも同じで、日々の積み重ねで地道に上手くなっていくかと思えば、急に何かの拍子にポンと上手くなったりもする。そうして腕上がっていくと、レパートリーが増えてもっと先が増える。
要するに、この分野だけは汎用性が高すぎたんだよな。後は、俺の場合は家にギターやベースも置いてあったから。
「突き詰めても突き詰めても、絶対に奥が見えてこないんだよ。それで見返してみると、やれることが馬鹿みたいに増えててさ。マジで楽しいぜ? お前もやらね?」
「み、みくは音楽本業な所もあるけど、そこまで行かなくてもいいかな」
「なんか、夏樹はんとおんなじ様なこと言うはりますなぁ」
「バンドマンって、やっぱ根っこは似てるんだねぇ」
「李衣菜チャンとの決定的な違いかもしれんにゃ……」
そんなことは無いと思うぞ。李衣菜もまだ知識が追い付いてないだけで、根本は俺らと一緒だよ。ロックににわかも何も関係ないさ。李衣菜は今の所にわかで間違いないのは確かだけどね。
って言うか俺はロック一筋じゃないしな。ただ、邦楽ロックを主体に聴くってだけで、J-POPやボーカロイドやアニメソングやらEDMなんかも聴くし。それこそ、最近ではアイドル系の物も聴くようになった。
いやはや、音楽ってすげぇよな。ちゃんとジャンルごとに特色があって。それぞれに良い所があるんだもんな。まさに無限だわ。
「とどのつまり、光がやけに器用な秘訣は、中学時代にあったって訳やね」
「器用と言うか、守備範囲がちょっと広いだけですけどね」
「ほんま、光はんはおもろい人やわぁ」
「どちらかというと、不器用な気がするにゃ」
前川のそれは完全にディスりに来ているのはわかるんだが、紗枝ちゃんのは褒めてんのかディスってんのかどっちなんだろう。
喋り方が柔らかいから、言ってることヤバってなってもなんだか柔らかく感じるよね。紗枝ちゃん、恐ろしい子かもしれん。でもかわいいから許されるわ。かわいいって正義。アイドルだしね!
読者層気になるので知りたいアンケ
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男! 未成年
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女! 未成年
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どっちでもないorわからん! 未成年
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男! 成人
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女! 成人
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どっちでもないorわからん! 成人