女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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雨の日はいろんな意味でコンディション不良

 夏場の移動教室は地獄だ。ただでさえ外気温は高く、クーラーの効いた教室内から出たくないというのに、どうしてクソ暑い廊下や外を通って違う部屋や校舎に行かねばならんのか。

 教師の人も大変なんだから、もう全部クラスの教室内でやればいいじゃんかと、僕はそう言いたいわけでございますよ。でもよりにもよって中年のおっさんが一番元気だったりするんだよな。どっからその体力湧いてくるんだ。

 

 と、言うわけで移動教室の帰りでございます。えぇ、もう愚痴しか出てこないよ。

 うちの学校は校舎が大きく分けて3つの棟に分かれている。さっきの化学の時間では、俗に言う北棟にある理科室を使ってたわけだが、これが俺たちの普段いる棟からは遠い。

 行き来の途中で通る6~9組からしたら理科室から近いかもしれんが、そこを通って行かなきゃいけない俺達からしたら遠いのだ。地価違うだろ、なんかサービス寄越せよ(暴論)

 

 

「────────」

「おるやん」

 

 

 そしてというかなんというか、この棟には奏のいる7組がある。たまには覗いたらいるかもな、なーんて覗いてみると、男女に軽く囲まれていてまるで女帝みたいになってる奏さんがいた。大変そうだなぁ。もう夏って言うのに囲まれて暑そうだ。

 

 それにしてもあいつの夏服、割と初めて見たかもしれん。冬服の時から学校終わったら着崩してた癖に、すぐに夏服に変えなかったんだな。俺とかすぐに夏服に変えたのに。

 冬服の時には割とちゃんと着こなしていた制服も、今となっては滅茶苦茶首元開けてるしあんまり変わらん気がする。夏服も死ぬほど似合ってるけどな。

 

 

「──────……」

「……はっ」

 

 

 そんなに長い時間のぞき込んでいたわけではないが、どうやらあっちはこっちに気が付いたようだ。周りには不自然に見えないように、こちらに対して目配せして唇に指をあててきた。

 なんというか、しぐさの一つ一つがずるいよな。健全な男子高校生に対して、そういう煽るようなことをしてはいけないと思うんだよ僕は。

 

 

「なーに見惚れてるんですか」

「いや、有名アイドルさんは余裕があるなってな」

「まぁアレが日常なんだろ。あたしにはわかんねーけど」

「そりゃそ……ん?」

 

 

 今度は後ろから物凄く聞きなれた声が。まぁ声を聞けばわかるが、お団子ヘアーから腰くらいまで垂れるもっふもふの髪の毛とふと眉がキュートな神谷奈緒さんである。

 奈緒は俺達3組含む、1~5組がいる棟ではなくこの棟にある6組に在籍している。そういうこともあって、実際に関係はあるんだけど、普段は全く関わりが無いんだよな。そんなわけで、あっちから話しかけるなんて珍しい。

 

 と、思って振り返ってみると、なんか奈緒のもふもふがいつもよりもマシマシでもふもふになっている。

 実際大きさは変わってないんだろうけど、節々から髪の毛がぴょんぴょんと跳ねており、奈緒の表情はもう諦めを通り越して悟りの境地に入っている。

 

 

「今日、雨って言ってたっけ」

「多分な」

「ご苦労さんです」

「ほんっと勘弁してほしいよなー」

 

 

 若干いじけながら不機嫌そうに髪をいじいじしだす奈緒。そうなんです。この子、雨センサーとしても超絶有能なんです。

 というのも、湿度が高くなってくると一体全体どういう理屈なのかはわからんが、奈緒の髪の毛は確実に荒れる。そしてそれを毎回加蓮や凛が楽しそうに整えてやるのがいつものスタイルだ。

 

 

「凛と加蓮とこ行くんか?」

「昼まではこのままでいいや。どうせ自分で足掻いたってどうにもなんないのはあたしが一番わかってるし」

「苦節16年の成果だな」

「なんも解決してねーがな」

 

 

 まぁそう落ち込むなよ。奈緒のそういう体質、俺は面白くて好きなんだし。他人事だからな!(ド畜生)

 それにしても本当に大変な体質だよな。奈緒が女じゃなかったら、今すぐにでも後ろに回り込んで髪の毛の中に手を突っ込むところだった。

 

 実際、加蓮はよくやってる。冬場とかあいつ隙あらば奈緒の髪の毛に手を突っ込んでるんだよな。あったけぇんだろうな。あと奈緒の髪の毛めっちゃいいシャンプーとかリンスの香りするし。

 凛もそうだけど、長髪の女の子のそういうシャンプーやリンスの香りってマジで凄いよな。俺、本当に疲れた時に凛に頼み込んだ結果、凛を膝の上に乗っけて凛の頭に顔ツッコんでそのまま寝かけたことあるもん。

 ありゃよかった。隙あらばやりたいけど、あれをやると俺の男としての尊厳がなくなる気がするから、アレ以降頼んでは無い。帰れなくなる気がしたわ。

 

 

「それにしても雨かー。傘持ってきてねーや」

「あたしの貸してやるよ。あたしは凛と加蓮に入れてもらうし」

「あっいらないです(即答)」

「なんでだよ。素直に受け取れよ」

「いや、俺電車通学だし。女子と違って濡れて透けても問題ないし」

「透けっ……! お前なぁ!」

「ドードードー。ココ、廊下だから」

 

 

 いや、実際透けるかは知らないよ? 女子の服がどうなってんのかは男子の中では迷宮入りの開かずの扉みたいなもんだし。現実に雨に降られて下着が透けて見えちゃう~みたいなことになってる女子高生を俺は見たことが無いし。

 

 あと傘に関しては単純に奈緒に悪いって言うのがある。それに俺は電車通学だから、相当な土砂降りでもない限りは多少濡れる程度で済む。

 俺は男だから濡れても実質ノーダメージだしな。けれど奈緒ちゃんはそういうわけにもいかないだろう。可愛い女の子なんだし風邪でもひいたらどうするんだ。

 

 

「お前が風邪ひいたら凛と加蓮になんて言えばいいんだよ」

「光が風邪ひいたらあたしは凛に顔向けできないんだぜ?」

「凛がそんなことでキレるか?」

「…………想像つかないかも」

「結論出たやん」

 

 

 これが結論構成ですか。ウィングマンとリピーターじゃん。俺は絶対にマスティフとフラットラインの方が良いと思うんだけどな。どういう選択と結末を辿ればあんな変態構成で結論付くんだろうな。不思議でならない。

 別に凛は俺が風邪ひいても人に当たることなんてないだろうし。それが奈緒ならなおさらな。それに俺は風邪をひかねぇ。馬鹿だからな!

 

 

「でも、お前に風邪をひかれるとあたしだっていい気にはならないし……」

「俺は馬鹿だから風邪はひかねぇ」

「馬鹿は風邪をひかないんじゃなくて、風邪になったことに気が付いてないだけなんだよ」

「でも俺風邪になったことあるぜ?」

「じゃあ普通に風邪ひくじゃねーかよ!」

 

 

 奈緒ちゃんは可愛いなぁ。ちゃんとボケたら全部ひろってくれるから、安心感が段違いだよ。前川という良いおもちゃも見つけたけど、やっぱり年数的にはこっちの方が付き合いながいから安心感が違うわ。

 付き合いの長さって大事だな。なんだかんだ俺ら、年数だけで言えば中高合わせて知り合ってから3年は経つわけだしな。

 3年もあれば中学生が高校生になるし、2011年が2014年になるし、中日ド〇ゴンズがリーグ優勝してから暗黒期本格到来まで行けるわけだからな。泣けてくるぜ。色んな意味で。

 

 

 

「あら、随分と楽しそうね?」

「え゛っ゛」

「もういいのかよ。有名人さん」

「お楽しみだったかしら?」

「御覧の通りで」

「ちげーだろ」

 

 

 あらあら、速水奏さん。いつの間に教室から出てこんな辺境まで? まぁほぼほぼすぐ目の前の廊下なんだけど。

 それにしても、こうやって奈緒と比べると夏服の着こなし方がアレというか、個性出てるな。男子なんかみんなそろって似たような恰好しかしてないのに、女子は同じ制服でも個性が出るからすげーや。

 

 

「随分と仲がよさそうだったけど。幼馴染ちゃん以外にも異性の知り合いがいたとか知らなかったわ」

「話してないしな。こいつ、神谷奈緒。可愛いだろ、自慢の友人だぞ」

「確か6組の子よね……? 何度か目にしたことはあるけれど、こうやって話すのは初めてかしら」

「は、初めまして!」

「ふふっ、そんなに固くならなくても。同じ高校の同級生なんだから」

「とは言ってもなぁ……」

「そうだぞ。こいつただ顔が良くてスタイルも良くて歌も上手くて、ダンスは知らんが多分上手いしすげーアイドルなだけだぞ」

「それが凄いんだよ。あとお前がスタイルに言及するなよ、なんかいやらしく感じる」

「不敬ぞ」

 

 

 そういえば奏がダンスしてる所とか見たことないな。動画で調べたことも無い。

 今の時代、口パク全盛期に比べて色々と見る目が厳しいらしく、ちゃんと歌って踊れるアイドルじゃないと評価されないとかは聞いたことあるけど、実際はどうなんだろうな。少なくともCPの連中は歌ってると思うけど。

 

 でも俺が知ってるアイドルの大半ってプロ意識の塊みたいな人たちだし。飛鳥とか美嘉さんとか紗枝ちゃんとか夏樹さんとか沢山。今の時代は歌も求められるんだろうな。すげぇ業界だわ。

 

 

「こんな可愛い子と知り合いだなんて、何だか嫉妬しちゃうわね」

「何がよ」

「言わないとわからないかしら?」

「口を開けばまた変なことを言い出すだろ。奈緒は単純なんだからやめろよ」

「随分と扱いが違うのね」

「人によって接し方は変えないとな」

「あたしは保護犬かなにかか?」

「トイプードルかしら」

「俺はポメラニアンだと思うな」

「人を犬扱いするなー!」

 

 

 いいねぇ、奏も随分と扱いが分かってるじゃないか。複雑な嘘をつくと困惑させた挙句に、本当か嘘かわからずにパンクするか、湾曲した理解をしてとんでもない火種になりかねないからな。俺はそれで一回痛い目を見た。あの時の凛と加蓮はとても怖かったよ。

 

 

「てな訳だから、まぁよろしく頼むよ。俺以外には悪い奴じゃないからさ」

「それってあたしに言ってんの? 立場逆じゃない?」

「だって俺からしたらこの人ペース掴めなくて怖いんだもの」

「あら? そんな怖がられるようなことしたかしら」

 

 

 しただろ。初めて会った時からキャッチボールの時に急に来た時のことまで含めて、全部洗いざらい思い出せ。

 そもそも俺視点での初対面の時の詰め方がおかしかったんだよ。あの詰め方はやべぇよ。後夜祭でテンションがぶっ壊れた時のクロ〇ワ+石油王みたいなガン詰めヤクザだもん。一生追っかけてくるんだもん、あんなもん対戦相手もびっくりだよ。

 

 

「その胸に手を当てて自分自身に聞いてみな嘘ごめん何でもない悪かった」

「胸に手を当てれば良いの?」

「悪かったって言ってるじゃん!」

「あたしも今の一連の流れで色々と理解したよ」

 

 

 その前かがみ上目遣いは絶対にいらないオプションじゃねぇか! お前本当に未経験なのか? 絶対に詐欺だろそんな未経験がこの世にいてたまるか。男性特効EXみたいな性格してるのにか?

 

 

「それにしても大丈夫なの?」

「何が」

「もう休憩時間終わるけど」

「…………じゃあな!!!」

「お前、アホだろ……」

「昔からあんな感じなの?」

「昔からあんな感じです……」

 

 

 この後、授業には間に合わなかったし帰りは雨に滅茶苦茶降られたし、寮に帰ってからはタオルを持った紗枝ちゃんに介護される羽目になった。

 寮に紗枝ちゃんがいて良かった。『えらいずぶ濡れやなぁ』って笑顔で言われた時には滅茶苦茶悲しくなったけどね。

読者層気になるので知りたいアンケ

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