女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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夢追い人は10割増しでかっこよく見える

 

 いつもというわけではないが、大体俺は346プロに来る時はベースケースを背負ってここを訪れている。理由もクソもないが、俺はベーシストとしてここに雇われているスタジオミュージシャン見習いだからな。

 ただ、今日の俺は一味違う。

 

 気分は最高潮、テンションフルMAX、パ〇プロの調子バロメーターで表すのならノリノリだから。ピンクのまんまる頭がニッコニコで上回転してるから。綺麗なストレートの回転だから。火の玉ストレートだから。

 

 

「おはようございまーす! Pさんいますかー?」

「光くん! おっはようにぃー!」

「学校終わりだってのに元気だなぁ……杏は寝てるんだよぉ……」

「Pさんなら、今はお部屋にいると思うよ!」

「さんきゅー!」

 

 

 CPルームに入って開口一番元気に挨拶。久しぶりに野球部の時みたいな挨拶したかもしれん。それは嘘だけど。こんな腑抜けた挨拶したらぶっ飛ばされかねん。

 部屋に入ってすぐさま右に回ると、Pさんがいつも仕事をしている部屋、俗に言うPルームがある。そこに3回ノックをすると、大体扉の向こうから野太い声で。

 

 

「どうぞ」

 

 

 って返ってくる。返ってこないときは、勿論だが大体そこにPさんがいない時だ。この人も忙しい人だからな。なんてったって14人のアイドルの活動を1人でまとめてるんだ。

 アイドル業におけるプロデューサーが、平均でどれくらいの人数を1人で請け負っているのかは知らないが、素人目で見ても14人を1人で管理するって労基に訴えても許されるレベルじゃん。最近、俺の中であの人は人間ではない説が浮上してきてるからな。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます。松井さんは、本日は予定は入っていないはずでしたが……」

「いや、ちょっとサウンドブースを使わせてもらいたくて」

「サウンドブース、ですか。自主練のご予定でも?」

「自主練もですけど、新しいギター仕入れたんで、こいつの確認も兼ねて。もし実践でも使えるようなら、それに越したことは無いと思いますし」

「成程、わかりました。少し確認を致しますので、少しお待ちください」

「了解っす」

 

 

 さっすがPさん。話が早い。私的目的でのサウンドブースの使用はあんまり褒められたもんではないからな。今西みたいなコネの場合は知らんが。

 でも、俺がある程度エレキも弾ければ、それだけスタジオミュージシャンとしての幅も広がるのも事実。別に俺が無理してギター弾かなきゃいけないほど、346内のスタジオミュージシャンが枯渇しているのかと言われたら、そこまでカツカツではないんだろうけどね。

 

 そうなんです! 仕入れたんですよ。新しいギターをね! 人生初の、自前のエレキギターをね!!!(大興奮)

 いやー、家に居る時は親父の奴を触ってたりしたもんだけど、自前の物ともなるとやっぱ思い入れが違うね。寮で触ったけど、なんというか愛着がすさまじかったもの。

 

 

「お待たせしました」

「はやっ」

「サウンドブースの方。ルーム2は18時から高森さんのラジオの予定が入っていますが、それ以外では予定は入っていないようです。ですが、ルーム1の方を現在木村さんが使用しているとのことなので、ルーム2の方で良ければ……」

「いやもう全然大丈夫! 何の問題も無いです! ルーム2の方ならもう空いているんですよね?」

「は、はい。そちらの方であれば、いつでもと……」

「わっかりました! 行ってきます!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……んで、なんでついてきたんだよ。美嘉さんは大歓迎ですけど」

「いいじゃない。連れないわね?」

「奏があまりにも楽しそうな顔をするもんだからつい……」

「美嘉さんは良いんすけどね……二人とも仕事があるでしょ」

「丁度、その仕事を今終わらせてきたところよ。生憎、スケジュール管理はしっかりしているから」

「アタシはまた後で別の仕事があるけどねー★」

 

 

 なんか拾ってきてしまった。もう楽しさオーラ全開でサウンドブースまでステップを踏むような勢いで行ったのが間違いだった。

 サウンドブースのある階にエレベーターで降り、もう目の前! ってところで扉を開けたらいたのがこーの二人~! ババーン! 笑いのニューウェイブ! 陣〇って言いそうになった。あぶねぇ。

 

 俺の目の前に現れたのは、カリスマギャル城ヶ崎美嘉と、ミステリアスな年齢詐称疑われているアイドルNo.1と名高い速水奏さん。

 ちなみに菜々さんはなんでかと言わないがランキング外です。あの人はもう一周回って疑われてないからね。

 

 

「まぁ二人とも時間が空いてるならいいじゃねーか。それよりさ! 光が買ったギターっての見せてくれよ!」

「あっ、はい」

「夏樹はもうギターにしか目が無いね……」

「まぁ、本職みたいなものだし」

 

 

 そして俺は今ルーム1にいる。ルーム2にいるはずだったのに。

 そもそもこのルーム1とかルーム2とかいうの。よくわかんない画面かなんかの前にいるかわからんけど、なんかやりたいから説明しよう!

 

 ここ、サウンドブースには部屋が二つあるんだ。

 一つはボーカルや楽器など、どちらかというと音楽系統のものを収録するのがメインのルーム1。俺が一番よく使う方。

 そしてもう片方は、主にラジオの収録などをメインに行われるルーム2。こっちは俺が入ることは基本的にないが、やはり音楽系統主体の事務所らしく、ルーム1ほどではないにしろ音楽などの機材も普通に置いてある。

 だから俺はルーム2を使う予定だったんだけど……ルーム1を使ってた夏樹さんに丁度見つかって。

 

 

『それ、ギターケースじゃん。なに? 新しいギター仕入れたのかよ! マジか、こっちの部屋来いよ! アタシにも見せてくれ!』

 

 

 って感じで、多分俺よりもウキウキになってる夏樹さんに捕まった。夏樹さんは俺がエレキ持ってないって知ってたしな。新しいギターを仕入れた+わざわざサウンドブースに来た=買ったのはエレキギター、ってなるもんな。

 それにしても後ろについてきている二人には目もくれず、ウッキウキで腕組んで来てルーム1の方に引きずり込んで来た時にはびっくりしたね。

 リーゼントヘアーがバチバチに似合うイケメンとはいえ、女性は女性だからね。腕組まれたらびっくりしちゃうんだよね。そういう経験あんまりないからね。

 

 そんなことを言っていたとて、このまま連れ込まれて何もしないわけにもいくまいし、もう目の前にいる夏樹さんがワクワクしてて抑えきれてなさそうなので、このギターケースを開けることにします。

 

 

「はい。これっす」

「フェンダーのジャガーか! いいとこ行くなー!」

「おー、綺麗な水色のギター」

「綺麗っすよね。よくわかんないですけど、タイドプールって言うんですって」

「もっと服装みたいに当たり障りない色を選ぶかと思ったけど、意外と攻めるのね」

「本当は一番スタンダードなカラーか、黒と白の一番当たり障りない色を選ぼうと思ってたの見透かすのやめな?」

 

 

 そうです! 今回買ったのはこちらァ!(超ハイテンション) フェンダーのplayerシリーズのジャガーです! お値段中古で7万には届かないくらい!

 中古だけど状態はほぼ新品同然だし、下手に安いもん買うよりかは、これくらいお金出した方が良いよなってことでこれを買いました。今のところ後悔はしてない。まだちゃんと試奏以外で弾いてないけど。

 正式名称で言うと、Fender Player Jaguar PF TPLというらしい。ギターは初心者だからよくわからないね。なんて言ったって、初めてのエレキだし。

 

 本当は買いに行くときに夏樹さんを誘うかメッチャ迷ったんだよな。結局誘ったのは妥協に妥協を重ねた結果、今西になりました。あいつ、割とちゃんとギタリストだし、普通に上手いしな。

 

 

「これ、試奏はしたのか?」

「勿論です。音的にも好みだし、割と小さいんで、少なくともアコギよりは取り回しもしやすい。今はわかんないっすけどここら辺のスイッチとかアームも使えるようになれば幅が広がるかなって」

「一応スタジオミュージシャンでしょう?」

「痛いとこ突くなよぉ。わかるにはわかるけど、ドヤ顔でわかるぜって言える知識量じゃねーんだ。ギターは本職じゃねぇし勘弁してくれ」

「え、光ってギターが本職じゃないの!?」

「違うよ。こいつの本職はベース。めっちゃ上手いんだぜ」

「ギター弾いてたから、てっきりアタシ、ギタリストだと思ってた……」

 

 

 頼むからハードル上げないでください。俺の強い所って滅茶苦茶地味で伝わりにくいんですから。美嘉さんもそうだったの? みたいな顔でこっち見ないでください。理由はさっきと同じ。多分、以下同文。

 

 このギター、そもそも図体がでかいアコギと基本的にスタイリッシュなエレキを比べるのはそもそも間違いではあるんだが、普通のエレキに比べてもちょっと小型だ。

 特にこのネック。ジャカジャカする方じゃなくて、まっすぐ伸びてる部分ね。ここの間隔が短く、エレキ初心者としては取り扱いやすいのも嬉しい部分だ。ジャガーとジャズマスターの違いでもあるね。

 

 

「確かに、音も全然悪くないな。ジャガーって感じの音だ」

「ですよね! どう、この音良くね?」

「私に聞かれても細かい違いなんてわからないわよ」

「なんだよー。ついてきたんだからちょっとくらい褒めてくれよ」

「珍しく冒険しただけあって、ギターは似合っているんじゃない? 青のギター、案外合ってると思うけど」

「褒められたら褒められたで怖い」

「美嘉、止めないで」

「まーまー、そういうキャラじゃないから★」

 

 

 いやー、やられっぱなしも堪ったもんじゃないからね。少しはやり返してやりますよ。

 

 アンプと繋がったギターは水を得た魚の如く、生き生きとした音を出し、それを耳と肌で感じながらこっちのボルテージも上がっていく。

 自分で言うのもなんだけど、本当に上手くなったな。エレキよりも使いにくいアコギを触ってたってのもあるかもしれんけど、エレキとアコギってほぼほぼ別ものだろうし、割と何とかなるもんだな。

 後は、右手の感覚をエレキで覚えるだけか。カッティングとかブリッジミュートとかあたりまでは応用できるのかもしれんけど。

 

 

「うん。激しく弾いても弦落ちしないですね。ジャガーって弦落ちするもんだと聞いてたんですけど」

「結構新しい機種みたいだし、スイッチ類もよく見るジャガーに比べてかなり少ないから、一概にジャガーとは言えないかもな。カスタム版みたいな」

「ですね。でもこんだけ弾けて取り回しも効くなら、こいつを選んで正解でしたわ」

 

 

 それっぽくチョーキングや、激しめに弦を弾いたり、スラップをしてみても弦落ちする様子はない。

 ジャズマスやジャガーは弦落ちするのが使命、ってまで聞くくらいだし、最悪パーツ交換とか取り付けしてもらおうかと思ったけど、そんなに弦落ちしないって言う店員さんの言葉を信じてよかった。この先、後悔するかもしれんけど。

 

 それにしても、ストラップを付けて立ちながら弾いてみると、取り回しの良さがより分かりやすい。普段使っている楽器がボディの太いアコギか、ネックとか長くてでかいベースなので、余計に使いやすい。気分もノってくるね。

 試しにそれ(漢字なら其れ)っぽく知ってる曲のイントロを弾いてみたりする。

 うわぁ、すげぇ。エレキギターだ。そりゃそうだけど。なんというか、こんな感じの音を自分で出したことが無いから、物凄く新鮮だ。

 

 

「やるか?」

「よくわかりましたね。ワンオクですよ?」

「そりゃあわかるさ。って言うか、弾けるの?」

「今の俺でもギリギリ弾けそうなんで」

「なら問題ないな。じゃあ、二人にいいもん見せてやるよ。特設ライブだ」

「おー! いいじゃんいいじゃん★」

「ギター二人しかいないすけどね」

「光がボーカルやりなよ。アタシがラップパートやっから」

 

 

 うぇ~、マジか。まぁラップパートの方がきついと思うけど、ボーカルも音域広いんですぜ。なんてったってワンオクなんだから。あと、英語の発音にも若干自信が無いんだよな。

 なんとなくそれっぽい感じで歌うことはできるし、歌詞も覚えちゃいるけどさ。こういうガチガチロックをギターでやるのは勿の論で初めてだから、割と緊張する。それよりもウキウキの方が勝ってるけど。

 

 もう一回、もう一回と、まだ手に馴染まないエレキギターの感触と音の返り方を肌で感じる。

 よし、スイッチ入った。いつでも行けると言わんばかりに夏樹さんの方を向くと、心の底から嬉しそうな顔をしてこっちを見ていた。どんだけ楽しみなんすか。

 

 タン、タンと二度足踏みをしてギターの弦を躊躇なく一気に弾く。休符を挟みながらのシンプルなフレーズに、ピッタリのタイミングで夏樹さんがリードギターを差し込んでくる。

 ギター二本でのセッションとは思えないほど圧力。これが音楽の良い所だよな。

 

 

『Your life is automatic Believe a little magic』

『Your future may be tragic For a toxic animatic』

 

 

 Aメロに入るとリードギターが外れ、俺のギターと俺自身の声に全てが委ねられる。こういうのは慣れっこだ。寧ろ燃える。噛まなけりゃあな。

 この音の川を流してそこに自分の声を乗せる感覚はベースにも通じるものがある。これは行ける。そう確信すると、対面から『Why?』と煽り文句が飛んでくる。

 

 

『Don't stay in a lonely place, hey, you!』

『Don't you understand? 今の自分 さぁ Wonderland』

『My life つまらない それが表情に』

『Don't forget 向上心常に』

『意味が無いものに手を差し伸べても刺激が強すぎ悲劇なRonin』

『やりたいこと日々冒険 Keep it going!』

『ついて来い 世界に行こうぜ』

 

 

 まだ行けるだろと言わんばかりの完璧なラップ、そしてサビへとぶち上げていくアレンジ。最高過ぎる。こういう人が音楽界で食っていくんだろうなと体感するが、そこで負けてちゃ男が廃る。

 勿論、ここで終わりゃしませんよ。見るからには上を目指す。それが俺達、バンドマンの生き様。夢は見るモンじゃないでしょう?

 

 

『夢は見るモンじゃなく so かなえるモンでしょ?』

『だからかなわない夢なら 夢とは言わない!!』

『それでも人が「夢は夢」だと言うなら』

『まずは俺らが先陣切って 笑い飛ばしてやる! 飛ばしてやる!』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「バンドマンの本気の演奏って、やっぱり間近で見ると迫力あるねー」

「完全に私たちの事は見えてなかったようだけど」

 

 

 正直、全然忘れてた。もうガッチガチに忘れてたね。

 やっぱり実力がある人とのセッションは、心の奥底にあるなんかが燃え滾ってくる。アドレナリンとかどっばどばだもん。セッションというか対バンみたいな感覚になるよね。

 

 

「いやー、やっぱ歌上手いよ! やっぱり光もアイドルにならないか?」

「アイドルにはならないで良いですけど、歌は上手くなりたいんすよね」

「ボイトレとかやってないのか?」

「受けたいんですけどねー」

 

 

 前にも凛と話してたんだけど、ボイトレ受けたいんだよな。Pさんには公私混同だと思って言ってないけど、こうやって夏樹さんの実力を見ると、やっぱ受けて見たくなる。やっぱ俺って影響されやすいのかもしれん。

 

 

「受ければいいじゃない」

「そんな簡単に言うなよ」

「もしボイトレしたかったら、アタシから頼んどこっか★」

「美嘉さんレベルが言うとマジで現実になりかねないっす」

 

 

 ここにいる人たちって、みんなすげー人だもんな。権力とかは知らんけど、少なくともそこら辺の社員さんが言うよりもよっぽど意見が通りそうだし。

 でもボイトレしたいのも事実だし、でもこうやって事務所に来ながらボイトレするってのも、俺はアイドルじゃない、ただのスタジオミュージシャンなのになんで歌を鍛える必要が有るの? って話になるし。

 

 

「やりたいことをやればいいじゃない。さっきまで歌ってた貴方の顔、凄く楽しそうだったけど?」

「そりゃ、楽しかったけどな」

「優柔不断ね。モチベーション維持のためにも、空いている時間にボイトレも取り入れる。そういう大義名分でも不十分?」

「お前天才かよ」

「少なくとも、毎回赤点回避に勤しんでる貴方よりかはね」

 

 

 これは決まったかもしれん。俺はヘタレ。だが、大義名分さえあればそれなりに動ける男だ。

 自主的に何かをしに行くことは殆どないが、それなりに理由やら原理やらやるべき義務とかそういった物さえあれば十分だからな。

 

 そうと決まれば、Pさんに言うのはちょっとアレだから千川さんからだな。あの人、直接的にCPに関わることは少ないけど、実はかなり関係の深い人物だし。こういったちょっとした相談なら、割としやすい相手ではあるからな。こえーけど。

 

 

「奏って、結構面倒見良い所あるよね★」

「そんなことないわよ」

「なんだ、奏のお気に入りか?」

「さぁ?」

読者層気になるので知りたいアンケ

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