女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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可愛い子兎も案外強い

 最近のCPはデビューラッシュが続いている。本田、卯月、凛のニュージェネレーションズ。新田さんとアーニャのラブライカ。蘭子ソロのRosenburg Engel。

 

 

「はぁ……しっかりしなきゃ」

 

 

 そして、今度はまたしても二組同時デビュー。

 莉嘉、みりあちゃん、きらりさんの凸レーション。智絵理ちゃん、三村さん、杏のユニット。CANDY ISLAND……英語難しいね。キャンディアイランドとして、それぞれ三人でのユニットデビューが決まった。

 智絵理ちゃんと三村さんがくっつくのはなんとなく予想ついてたけど、そこに杏が加わるのはちょっと意外だった。Pさんなりに色々と考えがあるのだろう。俺にはよくわからんけど。

 

 

「ご注文はどうされますか?」

「ブラック一つ……あと、たまごサンドで」

「はい! コーヒーのブラックと、たまごサンドですね!」

 

 

 そんなわけで、僕は今346プロのあるカフェに来ています。あちらの席でちょこんと一人で座っているあの子がターゲット。新しくデビューが決まったばかりの緒方智絵理ちゃんですね~。

 いやー、めっちゃ落ち込んでる! もうデビューが決まったというよりも、明日赤点確実なテストが返ってくるのが決まったみたいな、そんなテンションの落ち込み方。

 親父にテスト見られて『お前、もうちょいなんとかならんか』って言われた後に、ちょっと凹んでふさぎ込んだ時みたいなやつの強化版みたいな。

 

 なんか知らんけど、わしは心配でならんわけじゃな。ストーカーみたいに後を追ってたらここにいたよね。

 もう完璧な変装。今どき流行りの黒マスクに、普段は被らないような帽子まで深く被ってバレないようにする。帽子とか普段使わなさ過ぎて、寮の部屋に置いてあったのがなんとなく持ってるヤン〇ースの帽子しかなかったんだもんな。

 

 ちなみに、元野球部からの教えとしては、前髪がぺちゃっとなると小学生の被る運動帽に見えるので、前髪はしっかりと上げて、帽子の中に入れるのが通例だ。

 この時、ちょっと帽子を浅めにしたり上目に上げると、よりそれっぽくなるな。投手がそういう被り方しててしょっちゅう帽子落としてるの見ると、しっかり被れやと受けてて思うぞ☆

 

 

「智絵理ちゃん?」

「ふぇっ!?」

「なにしてるの」

「みくちゃん、美波さん……」

「ここ、空いてる?」

「ど、どうぞ」

「ありがと!」

 

「お待たせしましたーっ! コーヒーと、たまごサンドでーす!」

「どうも」

 

 

 思わぬ来客に、私も思わず顔をふっと背けてスマホを見るふりをする。オイ、聞いてないぞ。なんで美波さんと前川が来るんだ。

 そして注文してから提供時間までが早すぎる。ここは9秒でカレーを提供する店かよ。流石に9秒以上はかかってるけど。それでもおっそろしい速度で来たな。びっくりしちゃった。

 いや、二人とも智絵理ちゃんの事が心配ってのはわかるけど。って言うかその行動を、今まさに一ちゃん悪い方向で起こしてるやつがここにいるけど。

 

 

「今日は、かな子ちゃん一緒じゃないの?」

「かな子ちゃん、ジャケット撮影があるからちょっと走ってくるって言ってました……その、少しでも痩せる様にって」

「ふふっ、頑張ってるんだ。ジャケットの撮影、いつやるの?」

「今日です」

「今日……? そっか、でも最後の一押しって、結構効くから大事かも」

 

 

 いや、試合直前の総合格闘家かよ。流石に昨日の今日でもそう簡単に痩せないのに、今日の今日で痩せることなんてそうそうないだろ。メカニズムとか知らんから実際わからんけど。

 俺、滅茶苦茶突っ込みそうになったわ。いやいや、そうはならんやろって。

 

 って言うか、撮影前に運動って大丈夫なのかな。流石にシャワー浴びるか。そういう問題じゃないけど。

 三村さん、そんなにわかりやすく太ってるわけには思わないんだけどなぁ。なんか、想像の範疇のぽっちゃりというか。寧ろ、周りにいる女性のスタイルがバケモンみたいに細いだけというか。

 

 って言うか、たまごサンドめっちゃうめぇな。コーヒーに関しては、美味いコーヒーと不味いコーヒーの違いが一切わからない高校生なので知らんけど、たまごサンドバケモンみたいに美味いのはわかるわ。しかもちゃんと大きいし。

 レディースサイズもあるのが、アイドル事務所っぽくていいよね。僕は通常サイズだけど。

 

 

「あっ……そうそう! 杏ちゃんはどうしてるの? CDデビュー、喜んでたりするの?」

「杏ちゃんは『印税の為!』とか言って、やる気です。『ついに本気を出す時が来た!』って……」

「そ、そうなんだ。それ、冗談とかじゃなかったんだ……でも、やる気があるのは良いことだよね!」

「……はい」

 

 

 杏はいつでも本気だよ。方向性捻じ曲がってるだけでね。

 それにしても、俺だけじゃなくて話しやすいであろう美波さん相手にもこんな感じとは。やっぱり何か上の空のような、そんな感じだ。

 元々、コミュ力は低めの妖精特性激高みたいな子だから、あんまり進んで話すようなタイプではないんだけど、それにしてもである。CDデビューってなると、やっぱり色々と心配事はあるんだろうなぁ。

 

 

「美波チャン、無理することないよー」

「みくちゃん……」

「ぁ、あのっ、その……」

「Pチャンに言われたからって、みく達が無理して話しに行くことないよ。そこにいる誰かさんみたいに付けたりしたら悪いし。行こ?」

「」

「み、みくちゃん! ……智絵理ちゃん、また、あの……連絡入れるね!」

「あっ……はい……」

 

 

 あんの野郎……俺の存在に気が付いてやがったな。気が付いたうえで黙っていたのか。悪質極まりない。ア〇ム法律事務所かひ〇ゆきに質問してやる。

 

 それにしても前川、あーんな風に突き放すような言い方するなんてな。女には女にしかわからない何かって言うのがあるのかもしれんけど、男視点で見るとキツイものがあるぜ。それも、相手は言い返したりしてくる多田じゃなくて、智絵理ちゃんだし。

『Pチャンに言われたから』とか言ってたけど、だとしたら前川がわざわざ智絵理ちゃんを突き放すようなこと言う必要ないだろうし。あいつ、意外と頭はキレるところあるから、なんかの意図があるのか。それともいつものアレか。俺にはわっかんねーや。

 

 

「随分と、楽しそうなことをしていますね」

「楽しいというか心配というか………………あの、高垣さん、ですよね……?」

「下の名前で呼んでください。周子ちゃんは良いんだから、私も良いですよね?」

「え、いや、あの」

「私、高垣楓って言うんです」

「存じております。たまごサンド食べます?」

「じゃあ、頂きますね」

 

 

 いつの間に相席してた? 流石に、ちょっと待てぃ! が出てしまうが。あまりにもナチュラルな対面位置取り。俺は気が付かなかったね。

 目の前の席には、あの超有名アイドル。高垣楓さん……が、モグモグとたまごサンドをおいしそうに頬張っている。とっても綺麗で可愛い。

 なんていうかわからんけど、大きめの帽子におしゃれなサングラスをかけた、変装スタイル。でも高垣さんってわかるんだよなぁ。圧倒的美貌。オーラ。

 

 

「ほらほら。かえで、って呼び捨てでも良いんですよ?」

「流石に頭抜かれかねないので、楓さんで大丈夫ですか?」

「うんうん。私、後輩の男の子から名前で呼ばれるの。ちょっと憧れてたんですよね♪ みんな、何故か苗字でしか呼んでくれなくて」

 

 

 あぁ、そりゃあ憧れが叶って何よりでございます……本当に大丈夫なのかな。事務所NGとかないのかな。って言うか、たかg……楓さんクラスにもなれば、そりゃスタッフの人たちも多少は委縮するよなって。名前呼びなんてもっての外すぎる。

 勿論、それは俺も含めてだ、でも、本人から正面切って下の名前で呼んでくださいなんて言われたら、そんなもん断れないじゃないですか。当たり前でしょう。

 

 

「それにしても、光くんがそんなに変装するなんて。ふふっ、何かあったんですか?」

「いや……あの………………同僚というか、友達が心配でちょっと」

 

 

 うーわぉ。ものすんごい楽しそうに聞きますね。それでいて、本当は知っているんですよー。自分の口から言ってみたらどうですか? みたいな。まさに大人の余裕、みたいな感じ。

 確かに、普段は変装のへの字もしない男が、普段はあまり来ないカフェに来ているんだから、何かしら疑うのが常と言えばそうなんだろうけど。

 

 ここでなんていうか、秒数にして見りゃ1秒くらいなんだろうけど、体感5時間は迷ったよね。

 同僚と言うのも間違いでは全くないんだけど、なんか言い方冷たいし。友達というのも、そこまで俺と智絵理ちゃんって、友達と言い切れるほど距離感近いっけ? ともなるし。

 結局選ばれたのは、両方でした。両方言っときゃ、まぁ間違いないのよ。多分。

 

 

「優しいんですね」

「そんなことは無いんです……」

「でも、友達が心配なんでしょう? その気持ちからそういう行動をしているのなら、貴方はきっと優しいんです」

 

 

 なんか楓さんが言うと、説得力が半端ねぇな。楓さんに宗教勧誘されたら、普通に信じて入会しそうだもん。壺とかも買っちゃいそうだもんね。信頼度が半端じゃない。

 俺の知り合いの中でも、Pさんや千川さん、菜々さん、今西部長に次ぐ大人の人だし、信頼が厚いのは当たり前っちゃあ当たり前なのかもしれない。気兼ねなく話せる大人の人って、多分Pさんと菜々さんくらいだし。

 

 

「でも、見ているだけなんですね」

「……後を付けておいてなんですけど、彼女自身の問題なので。心配なんですけどね」

「……そうですか。ふふっ」

「やっぱ変ですよね。後ろ見てるだけなんですけど」

「ううん。そういう、少し不器用な所。なんか、似てるなーって」

「誰にですか?」

「それは……ヒミツということで。予想するのはよそう、してくださいね?」

「ちょっと無理がありません?」

「今日は少し、キレが悪いかもしれませんね」

 

 

 誰に似てるって言うんだろう。多分、俺の知らない人なんだろうけど。

 あるよねー。なんかこの人、俺の知り合いとタイプ似てるよなーって感じること。俺は最近で言うと、奏と加蓮になんか似たものを感じたわ。あいつら、隙あらば俺の事からかってくるし。

 

 それにしても、やっぱり隙あらばダジャレを組み込もうとしてくるんですね。普通に会話してたから、やっぱり周子さんみたいな知り合いがいる時のノリなのかなって思ってたんですけど。やっぱり素なんですね。

 なんというか、普通にカフェで智絵理ちゃんの後ろ追っかけて様子窺ってただけなのに、誰もが知る超有名アイドルの方に話しかけられて……というか、いつの間にかいて、一緒の席にいるって。何かいまだに信じられない光景だよな。すげーよ、この仕事。夢しかないね。

 

 

「……あの」

「……! Pさん……」

「新田さんと前川さんが、ここに来なかったでしょうか」

「あっ……さっきまで一緒でしたけど、二人でどこかに行っちゃって……」

「……そうですか。では、二人を探してきます」

「あ、あのっ……待ってください……!」

 

「あら、お友達の方。動きそうですよ?」

「? ……あっ、Pだ」

 

 

 そんな現状をかみしめていると、後方にいる智絵理ちゃんの元に、いつの間にかPさんの姿が。

 ……ちょっとちんまりしてる智絵理ちゃんと、190cm超えてくるガッチリしたスタイルの超絶高身長コワモテPが一緒に居ると、なんというか、とっても不安になる絵面になるね。

 

 

「あの……ありがとうございました……」

「……なんのこと、でしょうか」

「Pさんが、私のこと気にしてくれたから、美波さんとみくちゃんが、話しかけに来てくれたんですよね。だから、ありがとうございました」

「……申し訳ありません。新田さんたちに頼むのも、どうかと思ったんですが、緒方さんが、一番話せるようにと考えた結果、つい……」

 

「ふふっ、やっぱり似てますね」

「何がですか?」

「んー、女性の秘密は、精密なものですから」

「どういう意味ですか……」

「うーん、やっぱり今日はスランプですね」

 

 

 楓さん。会話が普通にできる人かと思ったけど、特定の場面においては蘭子並に難解な言語を使うかもしれん。ダジャレってこんなに難しいものだっけ。

 それにしても似ているって言うのは、俺とPさんの事なのかな。不器用って言っても、俺ってそんなに不器用かなぁ。流石に、Pさんほど口下手では無いと思うんだけど。実際どうなんだろ。

 

 

「その……緒方さんにデビューを伝えてから、塞ぎ込んでいるように見えたので」

「……あの、私っ、今でもドキドキしてるし……自分でも出来るか不安だけど……デビューしたら、ちゃんと頑張ろうって、思うんです」

「緒方さん、無理はしていませんか……?」

「卯月ちゃんや美波さんのデビューイベントを見て……みんな、とっても頑張ってて。私も感動して。だから、私も頑張りたいって、思うんです……自分一人だったら、絶対こうは思えなかったと思うんですけど……」

「……頑張ってください」

「はいっ……!」

 

「ヤバイ。泣きそう」

「男の子がそう簡単に涙を見せちゃダメですよ? 涙を見せた男は並だ、ですからね」

「今度は上手いっすね」

 

 

 Pさんの頑張ってくださいって言葉には、なんだか言葉以上の重みと、安心感みたいなそれを感じた気がする。俺も全く同じ親心みたいなのを感じているよ。

 

 智絵理ちゃん、そんなに頑張ってただなんて……心配で後を付けてた俺が恥ずかしくなっちまうよ。彼女はもう、俺が心配するまでもなく、自分で一歩一歩、階段を進んで行っているんだなって確信したわ。

 智絵理ちゃんは強いよ。フェアリータイプだ。見た目鬼強なドラゴン相手に一撃粉砕できるくらい強いよ。サザ〇ドラとか600族の恥相手に一撃ぶち込んで粉砕できるよ。

 

 

「でも、その……やる気があるからと言って、上手にできるかどうかは別だし……緊張するのもすぐには治らないって思うから……その、失敗したら、ごめんなさい……」

「失敗したとしても、見守ってくれる人がいれば、大丈夫です」

「……! はいっ」

「……いい笑顔です」

 

 

「……やっぱり、変わりませんね」

 

 

 そうやってPさん達の方を見る楓さんは、サングラス越しでもわかるくらい、どこか懐かしい思い出を思い起こしているような、ちょっと嬉し気な目と表情をしていた。

 Pさん、昔に楓さんと何かあったのかな。そう言った話はPさんから一切聞いたことないけど。そもそも、自分の身の上話とか、Pさんの場合は自分からは絶対にしないだろうしな。

 ……まぁ、変に勘繰るのも良くないか。

 

 

「所で」

「はい……?」

「アイドルを続けること自体には、悩まれていないようでしたが。それでは、一体何について悩んでいたのでしょうか?」

「……あの、ジャケット撮影の時に、どんなポーズをすればいいのかなって……」

「……私で良ければ、相談を受け付けますので」

「本当ですか……! こういうことも、聞いて良いんですね……! えへへっ……」

 

「Pさん、そういうのもいけるんですね」

「あの人、何でもできるんですから。凄いんですよ? ……ちょっと恥ずかしがり屋さんなところはありますけど」

「恥ずかしがり屋さんですか」

 

 

 アレは恥ずかしがり屋さんって言うのだろうか。どう見てもそう言った見た目には見えないが。いや、普段のPさんを知っているから、俺も楓さんの言いたいことはなんとなくわかるんだけど。

 

 やっぱりPさんもアイドル事務所のPさんってだけあって、ダンスとか歌とかにもそれなりに精通しているんかな。Pさんがお手本見せるためにポージングしている所を想像するだけで、なんかちょっと違和感凄くて面白いんだけど。

 

 

「やっぱり、早くみくもデビューしたーい!」

 

「あちらのお友達は、気にしなくても?」

「あぁ。ありゃ自己完結している奴なんで、気にしなくても大丈夫っす」

 

 

 アレはなんというか、お家芸になりつつある別物ですから。最近みんなデビューが決まっていて焦りつつも、一歩ずつゴールに向かって行っているのはあいつも気付いているだろうし。

 そこからのあの叫びだからな。さっすが前川。色々とわかっているね。

 

 

「やっぱり。お友達の事、よくわかっているのね」

「あいつは特例っす」

 

 

 認めたくないけど、結構俺と前川って似ている所がある気がするって、最近少し思い出してしまったからな。

 畜生。何か悔しいぜ。

読者層気になるので知りたいアンケ

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