皆さんに大事なお知らせがあります。事件が起きました。嘘でしょ?
美嘉さんと別れ、しばらく近くの本屋で最新刊の漫画が発売されてないか一通りチェックして時間を潰し、やることもねーから帰るかー……と電車に乗りました。
それで電車ですよ。さっきまでぼく、絶賛帰りの電車の中だったんですよ。過去形ですよ、過去形。帰りの電車に乗って、出発して約3分よ。カップラーメン出来ちゃう。
まとめサイトで野球の記事見てたらさ、急に凛から鬼電かかってきたの。電車の中だから、電話に出る訳にもいかんじゃん? とはいえ、凛から鬼電って大体そこそこの要件の時なのよ。
そんなわけで、一旦電車を降りて、凛に折り返し電話したわけ。
『Pが警察に捕まったって』
『顔かぁ』
『詳しいことはわかんないけど。まぁ、多分』
Pさんが、警察に身柄確保されたらしい。
まぁ落ち着けって。確かに、字面だけ見たらマジの緊急事態なんだけど、俺達にしたらこんなの慣れっこな訳ですよ。これだけ聞いたら、Pがしょっちゅう警察に捕まってるヤバい人って捉えられかねないけど、実際あの人しょっちゅう捕まるからね。もう警察の方でも、この人は顔とかやってる行動は危ないけど、ちゃんとした人だから大丈夫って回覧板回しなよってレベル。
まぁ、大概の場合は大柄の顔が怖い男が綺麗な女の子を付けてるだとか、しつこくアプローチしてるとかで周りの人や警察本体にとっつかまったりするのが通例だ。
凛がいっちばん最初の最初、346に入るって話をするためにスカウトしに来た時も、それで捕まりかけてたし。本田の一件の時も、本田の住んでるマンションの住人の人に通報されたらしい。顔が怖くて体がでかいだけなのに、冤罪喰らいすぎだろ。
そう言うわけで、捕まるだけだったら別に良かったんですよ。Pさんも大人だし、名刺とか持ってるだろうし、誰かしらが身柄抑えに行ってくれるだろ。それこそ俺が行っても良いし。
でも俺が行っても信じてもらえんだろうから、ちゃんとした社員の人じゃないとダメなのか。いや、知らんが。
『P、きらり達と一緒に居たんだけどさ。はぐれちゃったみたいで』
『ほう……ほう?』
『竹下通りにいるらしいんだけど、きらりがいるとはいえ、やっぱり三人だけだと心配だからさ』
『把握。とりあえず原宿戻るわ」
『うん。ちひろさんがいるから大丈夫だと思うけど、きらりたちも心配だからよろしく』
っていうやり取りをして、また3分かけて今ぼくは原宿に逆戻りしてきました。厳密には乗り換えとかでもう少し時間食ったんだけどね。誤差誤差。
ICカードを使って行っちまったもんだから、改札に一旦行って駅員さんに事情を説明したら、めっちゃ申し訳なさそうな顔して最低料金だけは頂いても良いですか? って言われたもんで、普通に払ってきた。そんな申し訳なさそうにしないでほしい。無茶言ってるのはこっちだし。たかが数百円だし。
「…………つながんねーか」
普段行かない原宿に出て、そんで迷いかけながら凸レーションのライブを見て、美嘉さんと一緒に服を見て、ボッチで本屋で漫画漁って、帰るために電車に乗ったらなんかPさんが捕まってて、それで凸レーションがほっぽり出されて、それをサポートしに行くために途中下車してそのままUターン……今日はすげぇ一日だな。電車でUターンとか初めてしたわ。
とりあえず、きらりさん達を迎えに行くかPさんを救出しに行くかなんだが。その前にきらりさんに電話……が、繋がらず。一番良いのは、きらりに一回細かい状況を教えてもらうのが良いんだけどな。
結局、Pさんと凸レーションがはぐれただけで、凛の言い方的にきらり達は三人固まってるのはほぼ確定だし。きらりがいるなら安心だろう。
そうと決まれば、俺はとりあえずPさん救出かな。Pさん動けるようにしないと、合流もクソも話始まんねーし。
「ヨシ! とりま、Pさん回収しに警察行くか!」
「警察って言ったら、警察署じゃねぇのかよ!」
めっっっっっちゃ、居なかった。もう影も形も無いどころか、そもそも警察署にはいなかったです。
って言うか、さっき優しい警官のおっちゃんが教えてくれたんだけど、ピンクの髪の毛をした女の子が、全く同じ様な事を聞きに来たらしい。多分、美嘉さんだな。仕事か打合せかなんかがあったはずなんだけど、話が全然繋がらねぇ。
「もしもし? P、警察署にいなかったんだけど、警察って言ったら署じゃないのか?」
『ごめん。交番だった。あと、ついさっきちひろさんがPさんと合流したって』
「把握。そんだけ」
困ったのでとりあえず状況を整理するべく、凛に電話をする。きらりさんは相変わらず通話中だったからな。ものの見事に噛み合いが悪い。負のスパイラルだ。
てか、警察と言えば警察署じゃなくて交番か~! 盲点! 普段警察の世話になった事とかないから、この判断は無かったわ。
そもそも、警察署と交番の違いすらよくわかんねーし。警察署に行けば、大抵解決してくれるんじゃねーのかYO!
それでも、有益な情報は得ることが出来た。Pさんが救出済みということは、あとは不安定要素は凸レーションの三人と、美嘉さんに絞られたわけだもんな。
これは一気に行動しやすくなる、まさに神の一手と言っても過言じゃない。楓さん、今は違うから来ないでね。
『あと、私も美波と蘭子と三人でそっち行くから。あの三人が次の会場間に合わなかったら、誰か繋がないといけないらしくて』
「おっけ。じゃあ、後はそっちに集中してくれ。とりあえずここでいったん区切るわ」
『うん。道、迷わないでよ』
「もう迷った後だわ」
ここまで来るのにも、ちょっと迷ったって言うのに畜生。少しばかり困ってしまったので凛に電話をすると、なんかもうPさんは救出された後だったらしい。
俺が迷ってたせいだな。俺の方が近かったはずなのに、こんちくしょう。無事なら良いけど。
とは言え、俺、Pさん、凸レーション、そしておそらく美嘉さんの4チーム揃って別行動ですれ違いとなれば、流石に不味い。どっかに合流しなければ。
こっからは凛に連絡も取れないし、俺が単独行動して迷ったら元も子もない。俺は別に迷ってもどうにでもなるだろうけど。
きらり達は三人、Pさんはちひろさん。となると、単独行動してるのは美嘉さんか。そこに合流してどっちに行くか決めるのが手っ取り早いな。電話するか。
……いや、美嘉さんとLI〇E交換して初めて電話かけるが。緊張するが……ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ。さっさと電話かけろタコ助!
「もしもし? 俺です、光です」
『光ッ!? なんで……じゃなくて、莉嘉が!』
「莉嘉になんかあったのか!?」
『わかんないけど、莉嘉がPとはぐれたとかっ……それでアタシ、莉嘉とPを探して走り回ってたんだけど、急に莉嘉と連絡付かなくなっちゃって……光、今どこにいる!?』
「原宿警察署です。」
『さっきアタシが行ったからすれ違い……!』
「美嘉さん、今どこにいます? とりあえず合流しましょう。手分けして探しても埒が明かないです、これ」
『うん、わかった……! じゃあ──────』
電話越しに聞こえる美嘉さんの声は、ひどく焦っていた。
色んな意味で、そりゃあそうだろうな、と言った感じだが。やっぱり美嘉さんも、俺と一緒でひたすらきらり達やPさんとすれ違いまくってた様子だ。予想当たるね。予想の範疇でもないけど。
莉嘉と連絡が急に付かなくなったってどういうことだ? でも、さっき凛と電話した時は、きらりと連絡が付かなくなったみたいなこと、言ってなかったもんな。三人の身に何かあったのか? いや、わからねぇな。
きらりとは相変わらず通話中で連絡繋がらないけど、連絡中って事は、少なくともきらりのスマホの電源が落とされたとかオフにされたとか、そういうことはないはずだ。なら、ひとまずは安心できる。
とりあえず、美嘉さんと合流しよう。てんで散り散りになってちゃ、ここだと迷っちまう。
「美嘉さん……! はぁっ……大丈夫ですか……!」
「光っ……! アタシは大丈夫だけど、莉嘉が! 莉嘉がっ!」
「ちょっ……落ち着いて!」
「落ち着いてられないっ!」
集合場所まで全力疾走して辿り着くと、遠目で捉えた時には落ち着いていた様子だった美嘉さんが、俺を見た瞬間に情緒を乱し始める。さっきまで走り回っていたと電話で言っていたあたり、ずっと一人で不安と闘いながら必死に莉嘉とPを探し回っていたんだろう。
普段なら絶対しないであろう、俺の肩口に勢いそのまま掴みかかり、必死に叫ぶ美嘉さんの顔は、ひどく焦っていて、さっきまで走っていた俺の何倍も青ざめていた。完全にパニック状態だ。いつもの美嘉さんじゃない。
「何回電話しても莉嘉と連絡が付かないの!」
「美嘉さん、大丈夫っす。莉嘉とPなら……」
「大丈夫って! 急に連絡付かなくなったんだよ! 駅に行ってもいないしっ!」
「多分、それはすれ違ってるだけで……あいつらだったら……」
「そんな確証ない! 警察に捕まったとかいうあいつは警察署にも交番にもいないし……!」
「ちょ……美k」
「もし莉嘉になんかあったらアタシ……アタシ……!」
「美嘉! 俺の目ェ見ろ! stay! 落ち着け!」
「ッ……!」
えーい、我慢ならーん! 力業じゃーい!
力が抜けたように視線を下げて、下に向かってひたすら感情を吐露する美嘉さんの手を握り、少しだけ叫んで美嘉さんにこっちを向かせる。
誰かが正常な思考判断をとらないといけない。こちらの話を聞かせようにも、頭の中で色んなモンがごちゃついて頭が回り切らないときは、ショック療法が一番良い。男相手なら胸倉掴んでどっこいしょでもいいが、女性相手には無理。
びっくりさせるようで申し訳ないが、円滑に、確実に話を進めるには、多少荒くなるのも仕方がないと許してほしい。これ以外にもっと有力な人の落ち着かせ方を知らねんだ。今だけメンタリストになりたい。
「莉嘉なら大丈夫! きらりとは凛の方で連絡が取れてるし、Pさんもさっき千川さんが迎えに行って普通に外にいる! 何処にいるかは知んねーけど! 莉嘉と連絡が付かねぇ理由はわかんないけど、とにかく落ち着け! 騒いだって何にもなんねぇ! それに莉嘉は一人じゃない。きらりとみりあだっている。今、ここで俺らが焦ったってどうにもなんねぇぞ!」
「でも……! でもっ!」
美嘉さんの肩を掴んで、目を離させないように真っすぐ見つめる。目と目を見て話す。会話の基本だ。こういうときにも、この方法が一番生きる。数少ない野球部時代に学んだ根性論みたいなやつだが、案外現代でも通用する。
こういう時に心にいつも天〇こころじゃなくて、松〇修造。熱血キラキラ根性気迫論も、人間、時には大事なんですよ。
「俺とPさんと莉嘉達を信じろ! アンタも一人じゃねぇ! 俺を見ろ!」
「っ……!」
美嘉さんの表情は、不安一色に染まっていた。体は少し震え、表情筋は強張り、目元はかなり潤んでいた。
「大丈夫! 今、俺がここにいる! 一人で抱えんな! ほら、大丈夫だ! 大丈夫!!!」
「ぅん……うん……! ごめん……っ!」
「気にすんな! よし!!! 富士山だ!!!」
彼女の顔が不安げな表情から、少しだけ引き締まった表情に移り変わった。
やっぱり、この人はつえーや。俺なんてものの見事に大暴走したのに。マジであんなことしてた人が、年上の人にこんなこと言ってんの笑っちまう。でも許してくれ、俺は間違えてもいいけど、美嘉さんに二の舞は踏ませたくないんだ。
莉嘉と急に連絡が取れなくなった理由はわからないが、さっきも言った通り、きらりが無事であればそこにいる莉嘉達も必然的に無事だとわかる。そうじゃなければ、きらりが何かしら報告してるはずだしな。
きらりに全幅の信頼を寄せているが、きらりはそれだけの人間だ。人を見る目、判断力、接し方、全てにおいて上手なれっきとした女の子だ。だから、大丈夫。信じることってとっても大事。
「とりあえず、Pさんと合流しよう。俺らだけで動いていても埒が明かねぇし……だーっ! ちっきしょー! ze○lyとか発信機とか付けとけばよかった!」
「うん……それは普通にストーカーだからやめた方が良いと思うけど……」
「合流したら大人たちの判断を仰いで、それから……」
「城ヶ崎さん、松井さん……! どうして……?」
「なんか来た! ナイスタイミング!」
えぇ、えぇ。やっぱり悪いことが続くと、事態は好転していくんですよ!
美嘉さんを一旦落ち着かせて、次の行動に移るべく、Pさんに連絡を付けようとしたら、その相手が向こうから息を切らしながら走ってやってきた。やっぱ走るよな。俺もめちゃくちゃ走ったもん。明日は筋肉痛待ったなし。
「細かい話は後で! ある程度、今の状況とかそれの内容は入ってます。莉嘉達はどこに?」
「まだ、どこにいるかは……ただ、行き違っているだけなら、ステージの時間も迫っていますので、彼女たちは、ちゃんと仕事を優先してくれるはずです。なので、お二人には一度、次の会場に向かっていただけますか?」
「あんたは?」
「自分は、万一のために……」
やっぱ、こういうところはちゃんと大人だ。Pさんは俺たちと違って、きらり達のスケジュールも頭に入ってるもんな。そりゃ、俺達が走り回るよりもよっぽど視野も考えも広くなる。情報は正義だ。マジで警察にさえ捕まらなければ、完璧だったんだろうなって。なんでや! 顔がちょっと怖いだけやろこの人!
最近は親切心で声をかけただけで不審者扱いされたりとかする世の中だからな。悲しい世の中だぜ。人間、見た目が全てって言うわけじゃないのにな。
「うっわマジかよ!」
「あっちだって! 行こうぜ!」
なんてこの世の最近の理不尽な不審者論に杞憂していると、急に右側で騒ぎが起き始める。あっちは大通りの方角だ。何が起きているのかはわからないが、そこら中の人たちが、どんどんとその大通りに向かって走っていく。そりゃあそうだが、これはただ事ではない。事故があったか、それとも……っていうやつかもしれん。
「行ってみましょう」
「美嘉、走れる?」
「当然! アイドル、舐めないでよね!」
完全復活と言わんばかりに美嘉さんの瞳には真っすぐな芯が通っていた。
本当、強い人だわ。さっきまであんなにグラついてたのに、きっかけ一つで簡単に立て直すんだからな。トップアイドルなんだもん。そりゃあそうか。そう来なくっちゃ。
『ありがとうございまーす!』
『アタシ達に興味ある人は、付いてきてねー☆』
『凸レーションでーす! おーにゃしゃーすっ♪』
「……すっげぇ」
「こんな巻き込み方が……」
「これ、許可取ってなくて良いんですか」
「…………」
「ごめんなさい。この話、後にしましょっか! 後にしましょう! ね!」
騒ぎの起きている先まで走っていき、そこにあった光景は、まさに信じられない光景だった。
今回のイベント衣装に身を包んだ凸レーションの三人が路上を練り歩き、文字通り、恐らく彼女たちのファンではないであろう通行人たちの視線をもくぎ付けにしている。
ただでさえ身長の大きいきらりの上で、ぱっと見のインパクトが大きい莉嘉が元気いっぱい周りに笑顔を振りまいてるのも、その要因の一つなのだろう。ハチャメチャに目立っている。
いわば、パレードみたいな様相だ。きらりのことを乗り物みたいに例えるのは良くないが、ディ〇ニーのパレードと同じで、可愛い乗り物に可愛いキャラたちが乗って、ファンに元気を与える。
しかも、それが実写化されている状態だから、全部可愛いと来た。きらりも一人で目立っていけるタイプだから、決して莉嘉をおんぶするだけにとどまってない。
『お客さんをもっと、巻き込みたいと思いました。ファンだけでなく、偶然通りがかった人にも、足を止めて頂けるような』
まさに、Pが言っていた通りの事だ。元々の凸レーションのファンだけではない。偶然通りがかった人にも足を止めてもらい、周り全員を巻き込む。
彼女らの行く先は、方向的にイベント会場だろう。もはや、民族大移動みたいになってる。知らねぇ人が見たらマジでなんかのイベントか、デモ活動かと思うんじゃないのかな、これ。それくらいに凄い光景だ。
問題は、十中八九、これの行動が無許可であるということだけど。こういうのって、それこそ警察の許可がいるんだよね。路上ライブと一緒。Pさんには、後で頑張ってもらおう。頑張れ、Pさん!
「あっ! Pくん! お姉ちゃん! 光くーん!」
「……ね。大丈夫でしょ? お宅の自慢の妹さん」
「……本当。心配させてばっかなんだから」
当の本人は呑気なこって。やっと見つけた、どこ行ってたのと言わんばかりの感じで、ぶんぶんときらりに担がれながらこちらに手を振ってくる。
元気そうで何よりでございますよ。これなら、次の時間にも間に合いそうだし。いやー、本当良かった。これで莉嘉が無事じゃなかったら、もうどうしようかと思ったよね。本音。
「本当にごめんねぇ……?」
「良かった、間に合って!」
「わが友よ……よくぞ、舞い戻った」
「助かったぁ……」
「ギャーッハッハッハ!!! ひーっ……ひーっ……!凛、おまっ……に、似合わねぇーっ!!! ダハハハハ!!!」
会場に着き、控室のプレハブの中に入ると、そこにはきゃりーぱみゅ〇みゅの世界観に身を包んだ、凛と蘭子と美波さんがいた。凛たちがこっちに来るってのは本人から聞いてたけど、まさかこんなことになってるとは思わないじゃん。
なんというか、クールなカッコいい系の衣装が似合う三人組だとは思ってたんだけど、思ったよりも美波さんと蘭子は似合っているんだよな。こういうキャピキャピした服。意外にも蘭子は超絶ノリノリだし。美波さんはちょっと恥ずかしそうだけど。
だが問題は最後の一人。渋谷凛ちゃん。
単刀直入に言って、凛がもうマジで似合ってない。本ッ当に似合ってない。この格好と親和性がもうゼロ。フランス料理にケーキぶち込んだみたいになってる。
もう見た瞬間、笑いが止まらなくなっちゃったよね。仕方ないよね。だって想像してなかったんだもん。これが本当の不意打ちです。
「光」
「じゃ、着替えて来な! 俺は男だから外に出てるぜ!」
ものすっごい剣幕で睨まれてしまったので、そそくさと退散することにする。小屋からさっと出て、また思い出して吹き出してしまった。いやー、良いもん見れた。今年一笑ったわ。
本来、凛くらい顔面が良い人って、大概何着ても似合うんだけど、これだけは本当に合わない。本当に相性最悪って感じがする。不思議だなー、ファッションって。
「……あ、光」
「美嘉さん。お疲れさまでした」
「莉嘉達はこれから本番だけどね」
小屋の外に出ると、美嘉さんとPさんが何やら話していたようで。いや、話し終わった後臭いな。丁度良いタイミングで出てきたね。っていうか、さっき思い出し笑いしたの見られてたかな。だとしたら超絶恥ずかしいんだが。
「あのさ、さっきは取り乱しちゃって……」
「あれ、なんかありましたっけ?」
「えっ」
「ほら、莉嘉たちは無事見つかったし、イベントにも間に合ったし、なんもなかったじゃないすか」
「でもアタシ……」
「なんもないですって! 莉嘉たちは見つかった! Pさんも無事お勤め完了した! モーマンタイですモーマンタイ!」
美嘉さんが言いたいことはなんとなくわかるが、悉くそれを拒んでいく。覚えてないと言えば覚えていないんですよ! えぇ!
こういう時は気負わせてはいけない。男なんだからね。
「……うん。ありがと」
「その言葉だけで俺は最強の称号を得ましたよ。城ヶ崎美嘉にありがとって言ってもらえた男とね!」
男が一々細かいことを気にするもんじゃないよ。美嘉さんからなんかそういう様な事を言われるのも、貸しを作るみたいで嫌だし。
俺の知ってる美嘉さんは、いつもはファンを魅了するカリスマギャルで、時にはおてんばな同僚を纏める常識人で、それでいて、妹の事を第一に考えてる立派なお姉ちゃんだから。それは、今も何も変わらんし。
そんなちょっとややこしいやり取りをしてると、小屋の少し上の方からきらり達がばっと出てくる。目線が上だ。うむ。
「っ! あのね、Pチャン……きらりも、後で一杯、謝るね?」
「私もだよ!」
「アタシも!」
「……私もです」
「お客さん、三人の事、楽しみにしてるよ」
「……さぁ、行って来な★」
「「「はい!」」」
元気よく小屋に引っ込み、イベントの準備をしに行く三人の背中を見届ける。
なんか、こういうのって良いな。人間、やっぱり困難を乗り越えれば乗り越えるほど、強くなっていく。
どっかの職人も言ってたな。刀は叩いて、鍛えれば鍛えるほど、強くなる。刀とアイドル。一見、似ても似つかないけど、本質的なところはどっか似てるのかもな。俺は何が言いたいんだ一体。
あと、Pさんはマジで色んな所に謝りに行かないといけないんだろうな。Pさんの胃がちょっと心配になってきた。
『『『せーのっ、凸レーションでーす!』』』
「「「「「「「「ワァァァァァァァァァァァッ!!!!!」」」」」」」」
『凄い人気ですねー!」
凸レーションの挨拶に答える声援は物凄いものだった。それは、一回目とは明らかに違った。
トークイベントに集まった観客の人たちから一歩離れたところで後方腕組みしながら見守っているが、明らかに一回目の時とは光景が違う。密度が違うね。コクも違う。
単純に一回目のトークイベントに比べると、観客の数が二倍近く、いや、それ以上は増えたんじゃないかな。母数が物凄いことになっている。
元々のファンに比べ、さっきまでのパレード擬きで捕まえた新規層。こういう業界における新規層とは、宝と同格か、それ以上の価値がある。凸レーションの三人は、一つのイベントでその新規層をこれだけ集めただけで、大成功と言えるんじゃないかな。
『ちょっとトラブルがあってー☆』
「トラブルってー?」
「なになにー?」
「……」
Pさんの顔色が明らかに動揺した表情になる。そして、いつものように、首元に手を持っていく。Pさん、ご愁傷様です。
莉嘉って、あんまりそう言うの気にしないからね。悪気はないんだけどね。積極的に弄っていくスタンス。
『でもっ! どんな時でも!』
『バッチシ笑顔で☆』
『はぴはぴ元気ー! じゃなきゃ、素敵なことだって、逃げちゃうもんにぃ~♪』
「結構イイじゃん★」
「はい、予想以上です」
「あんたも笑ってみたら? ほら、ニコっ★」
「に、にこっ……!」
「」
「」
「」
「流石わが友! 禍々しき霊気を感じる……!」
「ま、禍々しいとか言っちゃダメ……!」
「アハハっ!」
Pさん、出来ることなら子供の前では無理して笑わせない方が良いかもな。これ、子供が見たら泣くぞ。確実にトラウマになるぞ。千川さんと凛はドン引きしてるし、なんなら俺もドン引きしたわ。
って言うか、蘭子はずっとそのぱみゅ〇みゅ衣装着てるんだね。美波さんと凛はとっくに私服に着替えてるのを見ると、蘭子は相当その衣装がお気に入りなようである。いくら中二病とはいえ、やっぱり根っこは中学二年生の女の子なのか。
「そういえば、光はなんで敬語に戻してるの?」
「え、いや。元々敬語じゃないですか」
「さっきまでタメ口だったのに? 下の名前で呼び捨てにもしてくれたじゃん。アタシは嬉しかったんだけどなー★」
「そんなこと言ってました?」
言ってました。滅茶苦茶言ってました。正直、思い出したくないです。本当なら、調子に乗ってすみませんでしたって速攻土下座しなきゃなんだろうけど、逃げちゃったよね。罪な生き物です。ただ根性がないだけなんだけど。
「『美嘉』って呼んでくれてたじゃん」
「光。先輩にも手を出したんだね」
「ちょっと待って。そっちの方向は聞いてない」
「ふふっ、そういうのじゃないけどさ。アタシは本当に嬉しかったよ。なんか、光が一個壁を取ってくれたみたいで。これからも美嘉って呼んでほしいくらいにはさ」
……なんというか、そう言われると敬語でやってたのが逆に申し訳なくなる。けど、凛は凛の方でなんか刺してくるし。
今回の凛はそういう意味での刺し方ではないけど。なんかからかってるみたいな感じだし。お前、年取ったことで余裕出てきやがったな。誰にでも噛みつく様な狂犬だった癖に。俺はその時代の事、忘れてやらないからな。
「……じゃあ、そう言うなら。美嘉……で、お願いします」
「敬語、付いてるよ?」
「頼みま……頼むわ……ン゛ンッ!゛」
「なんか、光くんもPさんにちょっと似ている所あるよね」
「俺が?」
「私と、ですか?」
そうやってPさんと目を合わせるも、ぴんとは来ない。
今までそうやってやってきた当たり前だったことを変えていくのって、物凄く難しいんだぞ。Pさんに謝れよォ! 俺は謝らないけど!!!
読者層気になるので知りたいアンケ
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男! 未成年
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女! 未成年
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どっちでもないorわからん! 未成年
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男! 成人
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女! 成人
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どっちでもないorわからん! 成人