女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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あんことクリームは優しさと愛で出来ている

 

 

 女子寮への最寄り駅を降りると、外はもう真っ暗だった。夏場になると日が落ちるのも遅くなるはずなんだけど、こんなに真っ暗になるとは少し珍しいことがあるもんだ。

 

 

「何が良い?」

「アーニャ、あんこが好き、です……!」

「人の肌と酷似せし……」

「はーい言い方言い方。すいません、カスタード1つとあんこ4つ」

 

 

 そんな夜更け、両脇にとんでもなく可愛い女の子二人を携えて、たい焼きを爆買いするだなんてガチの方で珍しいこともあるもんだな。いや、珍しすぎるだろ。どういう状況やねん。

 

 今日は帰ってくるのがべらぼうに遅かった。

 色々とあって急務中の急務なレコーディングが入り、速攻で仕上げるべく学校終わりの平日にスタジオに突撃、そのまま缶詰してたらこんな時間だったって訳だ。

 まぁこれは珍しいというか、346に来てからは初めての体験だが、別にこんなものはどうってことない。お仕事だからね。こんなもんでもプロですから、お仕事は100%でやらせてもろてます。

 

 そんなわけでちょっと遅めの20時過ぎにラーメンをすすり、帰宅途中の電車を待つホームの中。ピコンとL〇NE電話が鳴ったと思ったら、お相手はちょっと珍しいアーニャちゃん。

 

 

『光、作詞の差し入れ。何が、良いですか?』

『うーん。たい焼きかな』

 

 

 なんであの時、私はたい焼きだと答えてしまったのだろうか。その謎を調査するべく、ジャングルの奥地へと向かう必要性は実は何もないんですけどね。単純にふと思い浮かんだのが、たい焼きと大判焼きの二択だっただけです。私は大判焼き派の人間。

 

 

『タイ……ヤキ……?』

 

 

 まぁ急にそんなことを言われても、アーニャちゃんは何もわからないわけで。そもそもたい焼きを知っているのかもわからないし、たい焼きなんて今どきどこに売っているかもわからないわけで。

 だがしかし、俺は知っていた。周子さんに教えてもらった、割とガチ美味いというたい焼き屋さん。

 

 

『買ってこようか? 今、外にいるからついでに買ってくるよ』

『それはダメ、です。私と蘭子の、差し入れ、ですから』

 

 

 って言うわけで、二人揃って付いてきた。最寄り駅に着いた時、外はもう真っ暗だったし、可愛い女の子二人が付いてくるとかいうとんでもない光景だった。自分の記憶フォルダのお気に入り欄に保存しておかないといけん。

 

 そんなわけで、気持ちズッシリと来る袋を受け取り、物腰の柔らかいおじさんとの別れを告げる。こんな時間と言う事もあり、もう作り置きで暫く経ったものしか置いてないかと思っていたが、袋から伝わるほかほか具合がそれを否定してくる。周子さんのお墨付きは伊達じゃないかもしれん。まだ食ってないからわからんけど。

 

 

「ほな。帰りましょか」

「……ふぇっ!? ひ、光くん。まだ代金払って……」

「良いの、良いの。こんな夜に出て来てくれたんだし。それがお駄賃よ。ほれ、食べながら帰るべ」

 

 

 少し納得がいかない様子ではあるけど、差し出されたたい焼きは素直に受け取ってくれた。

 良い子、良い子。お店で女の子に代金出させるなんて、ちょっと恥ずかしいからな。前時代的な考え方? 違う違う。単純に見栄を張りたいだけです。これくらい良いでしょ! 男の子はカッコつけたい生き物なの!

 

 

「アーニャちゃんも、はい……ん?」

「ダメです。私と蘭子の、差し入れ、ですから。光が横取り、ダメです」

「う、うむ! 手柄の横取りは不敬に値する!」

 

 

 いつの間にか両脇のプリンセスが、ぷっくりぷりぷり状態。いや、なんか怒り慣れてなさそうなだけで、しっかりと不満げなのは伝わるんだけど。

 言われてみれば確かに。これでは俺が二人の案をかっさらった嫌味な先輩になっちまうな。やっぱり下手なカッコつけはダメなんだな。

 

 

「じゃ、100円ずつ貰うべ。300円だからね。俺と合わせてワリカン。俺からも差し入れって事で。ダメ?」

「конечно! それなら、ナットク」

「細かいの出すのは面倒だし。winwinやんね……てなわけで、蘭子もどうぞ」

「うむ! 次は私が我が友に冥界よりに業火を渡る海神を送るとする!」

 

 

 鯛の事を海の神なんて要するには、流石に鯛にしても荷が重すぎる気がしないでもない。まぁ、それはそれとしてたい焼きを受け取ってくれたので良しとしよう。

 そんなわけで、遅ればせながら私も一口……

 

 

「うんま!」

「おいしい!」

「вкусный!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そういや、差し入れって前川と多田にするの?」

「вот так……二人とも、がんばって、ます」

「堕天の苦しみ……かの者達も同じと言う事……」

 

 

 ここで言う堕天っていうのは作詞の事かな? 蘭子って作詞とかしてるっけ。いや、するか。しそうだし得意というか専門職というか。そういう部類ではあるよな。

 

 わしはそういう作詞とかは専門外だしなぁ……難しそうだし。下手に作って末代まで語り継がれるような恥にでもなった日には、もう死んでも死にきれん。地獄でどうにか消してくれぇ~! って泣き叫んで鬼さんにドン引きされる姿まで見えるね。

 

 

 

「光は、しないんですか?」

「作詞のことかい?」

「なんとなく、思います。光は、きっと、得意です」

「うむ……魔王の血を分かち合う者なら、容易な物……」

 

 

 魔王と杯交わして兄弟になった覚えは残念ながらないんだけどね。

 作詞が得意そうなんて言われてもなぁ……本当にやったことが無いので、得意かと聞かれてもわからない。

 バンドマンが全員作詞作曲をするなんて大間違いだ。どうするんだ、孤独の鳥居だって普通に錬成するかもしれないんだぞ。いや、あれはベースとドラムがいないから事故ってただけだとは思うんだけど……多分。

 

 

「光なら、二人になんて、声をかけますか?」

 

 

 視界にひょっこりと彼女の顔が飛び込む。ちょっとびっくりしちゃって足を止めちゃった。

 アーニャの目は、いつもと変わらない真っすぐな瞳。この年にしてこの目が出来るって凄いよな。

 

 

「みくも、李衣菜も、二人とも頑張ってます。けど、やっぱり難しい、です」

 

 

 そりゃそうだ。作詞作曲なんて簡単に言ってはいるが、自分で歌詞を作るってのは簡単じゃない。

 曲というのは不思議なもので、中身ゼロでかわいい雰囲気だけの作詞でも売れれば、中身たっぷりでカッコいい雰囲気の作詞でも売れる。だが、少し歯車がかみ合わなければ売れないことだってある。

 

 曲の中にどういうメッセージを込めるか。ストーリーを包み込むか。曲に秘められた思いというのは、不思議と聞き手にも伝わる。言葉って言うのは、それら全部を相手に伝えられる、繊細なもの。

 形だけの作詞なら誰でもできるが、その曲に命を吹き込む作詞は、誰にでもできるわけではない。少なくとも、俺はそれを簡単にできるとは思えない。

 

 

「アーニャは、二人にどうしてあげたらいいか、わかりません……でも、光なら、わかると、思って」

 

 

 同じグループの仲間が苦しんでいるんだから、助けたいなんて気持ちになるのは当たり前だろう。いつの間にか、こっちを見つめてくる瞳の数も二倍に増えている。この二人なんだ。余計にそういう思いは強いだろう。片方も触れずらい云々はあるかもしれないが、中身はまだただの中学生だし。

 

 残念ながら、俺は作詞のプロではない。こういうお仕事をさせて頂いている立場になってから、作詞業のプロフェッショナルに会ったことだってあるが、だからと言ってそれが出来るわけではない。

 ただ、そんなほぼ素人の俺でもわかることはある。音楽をしてきたからこそ、ちょっとだけわかることはある。

 

 

「俺はね、何もしないことが正解だと思う」

「…………その心、真の物か」

「えぇ、勿論」

 

 

 めっちゃ疑われてる。でもね、本当です。これがね、僕が彼女らに出来る最大限の事だと思うんですよ。

 

 

「彼女らの曲はね、彼女らが生み出してこそ意味がある曲なんだよ。彼女らを作り上げてきたものが、曲を構成する。音楽って言うのはね。作った人の気持ちが籠ってれば籠っているほど、相手によりそれが伝わる。不思議なコンテンツなんだ」

 

 

 恋の歌、努力の歌、生活の歌、学校の歌、青春の歌、ちょっとおバカな曲。

 どれだけ方向性が違っても、内容に一貫性があればあるほど、説得力も一体感も増すのが音楽。簡単に言うなら、純度が高ければ高いほど、その効力を発揮する。

 こうして一歩一歩彼女らに近づいていく。赤の他人が介入するのは、ハイリスクハイリターンだ。曲の手直しをすることで、その曲がより良いものになる可能性もあれば、違う色が入って魅力が損なわれてしまうかもしれない。

 

 

「そんな大事なのをさ、技術どうこうで誰かがこうした方が良い……なんて介入したら勿体ないじゃない。前川みくと多田李衣菜の化学反応。Pさんも、きっとそれを期待してあの二人を組ませたんだから。化学反応を待っているのに、こっちから変なことしたら、まさに勿体ないよ」

 

 

 作曲経験が無い人が作るからこそ、聞き手に突き刺さる作詞に化けた名曲を俺は知っている。

 変に格好つけず、自分の身の丈のお話を詰め込んだ、聖夜の夜の暖かい家庭の色の曲。その曲からは、人の温かさが溢れている。

 彼女たちが、彼女たち自身で作り上げる曲だからこそ、曲に乗り移るものは絶対にあるはずなんだ。きっとそれは、プロが作るような形の良いものではないかもしれないけど、プロが作っても生み出せないようなものを持っている。

 

 

「不要な手助け、と言う事か」

「まさか。形ある応援って言うのは、一番の力よ」

 

 

 少し不安そうな表情にさせてしまったアーニャと蘭子に買ってきたたい焼きを見せつけて、そっと手渡す。

 何も、手を出さないって言うのは、触れないって言う事ではない。外から応援をする分には、根気を詰める作業をしている人からしてみれば大歓迎だろう。だからこその応援って言う奴だ。変なこと言っちゃったけど、こういうのが一番やんね。

 

 玄関を通り、二階に上がって少し進めば、彼女らの缶詰。

 こんこんと扉を二回ほど小突いてみれば、中からやや疲れ気味の眉間にしわを寄せたアイドルが出てくる。

 

 

「おっす。如何ですかな、進歩は」

「…………ご生憎様」

 

 

 とっても追い詰められているようで。締め切り前の同人作家ってこんな感じなんだろうなというような雰囲気だ。ピリピリしているというか、どんよりしているというか。前川にしてはレスポンスもなんだか気持ち遅い。

 

 

「ふふん。そんなあなたに?」

「大いなる力の源をここに!」

「差し入れ、どうぞ」

「わぁ! 蘭子ちゃんにアーニャちゃん!」

 

 

 反応違いすぎるよね? おかしいよね? なんでそんなに僕は君からの信頼が無いのか、いささか疑問なのですが。

 これまでの俺たちの友情を思い返してみろよ、涙ちょちょぎれるほどの感動的ストーリーが特にない。彼女のこの対応の差は正しい。よっぽど、この二人とのストーリーの方がしっかりしている。勝てるはずねぇ。

 

 

「期待しているよ。作詞家さん達」

「むむ……嫌味~!」

「はっはっはっ、まさか。本心だよ。二人の化学反応、楽しみしてるんだから」

「みくと、李衣菜なら、出来ます!」

 

 

 本当、案外こういう凸凹コンビが物凄い曲を作ってくれるんだから。アイドル×ロックの組み合わせって、実は結構メジャーなんだからね? 俺から言わせれば、化学反応が起きるための土台はもうすでに完成しているのよ。知らんけど。

 だから俺がやれることはなんも無し。たい焼き食って、たい焼き差し入れて、そんで寝て、自分が出来ることだけやる。シンデレラストーリーに、不要な王子様の手助けなんていらないんだからね。

読者層気になるので知りたいアンケ

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