女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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怪談話はいつの時期に話しても怖いもんは怖い

 

 

 プライベートな時間、皆様はどうお過ごしでしょうか。ゲームや読書、ネットサーフィン、動画視聴にテレビ視聴。筋トレなんかも有りだね。うんうん、俺はね、ベースを弾いているよ。これが言いたかっただけだよ。

 

 仕事も終わり、飯も食って風呂も入った、寝るまでの至福の自由時間。毎日毎日、飽きもせずに触り続けている重たいボディを組んだ太ももに乗せ、もう何年も硬いままの指先で弦を弾く。

 こんな夜にはクラブでヒステリックな可愛い女の子としけこみたいものだが、そんなわけにもいかず。足先指先を機嫌よく躍らせ、BPM126のテンポを真芯でとらえ続けるだけだ。

 本当に良い曲。低音映えするよね。オシャレな曲を弾いていると、なんだか自分もオシャレになった気がするから好きだよ。俺、無難な服の方が好きだけど。

 

 夜の雰囲気に身を任せ、この色に染められて。一度きりの人生を捨てたってかまわない。昭和の名曲も、先入観無く聞いてみれば、現代の最新ヒットチャートにも全く見劣りはしない。音楽って良いものだね、素敵だね。

 自分だけの空間。自分だけの世界。一目も雑音も気に入ることなく、まるでそこに溶け込めるような感触。良いもんだね。我ながら、素敵な趣味だね。

 

 時間って言うのは、こうやって有意義に溶かしていかなきゃ。大体、得体のしれない金持ちって価値の分かりもしねぇクラシックとか聞いて優越感に浸ってるって芸人のラジオでよく言うじゃん? 貧乏人でも、同じ様な事やったって良いと思うんだよ。幸せだもん。

 おい、誰だよ急に芸人のラジオの切り抜き流した奴。急に方向性変わってびっくりしちゃったじゃないか。まるでメジャー帰りの選手の外国かぶれみたいだね。

 

 そんなことはどうだっていいんだ。

 今、僕はオサレな趣味に全身全霊で乗っかってまるでオサレなお兄さんになっている。いいね? そう来なくっちゃ

 

 

『──────────!!!!!』

 

 

 ん? なんか聞こえるくね?

 ジャズの奥からなんだか雰囲気ぶち壊しな声みたいな。耳を澄ませば、なんだから女性なんだろうけど女性とは思えないような叫び声?

 これ、もしかして心霊テープってやつですか? でもそんなわけなくない? だってこれYouTubeだよ? もういっちょ、今度は音楽を消して耳をsドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!!!!

 

 

「わ゛ー!゛?゛ うるっせええええええええええ!!!!!!!」

 

 

 キレそうなほどにタイミングのいい爆音連打ドアノック!

 玄関先!

 ガチギレ大爆走!

 ドア開けRTA!!!

 

 

「なんで早く出ないのー!!!」

「お前じゃねぇか!」

「わ゛ー!゛?゛ なんで服着てないのー!」

「服は着ねぇもんだろ!!!」

「レディになんてこと言うの!!!」

「その前にごめんなさいって言えよ!!!!!」

「みくにも謝ってよ!!!!!」

「??????」

 

 

 大丈夫? これちゃんと会話成立している? もしかしたら、関西圏と関東圏では使用されている日本語が若干違ったりするのかな。今まで意思疎通出来ていたと思っていたんだけど、もしかして全くそんなことなかったのかもしれないね。

 

 感情と感情をぶつけても何にも話って噛み合わないんだね。如何に感情論に身を任せた議論が無意味なのかを肌で実感しているよ。そんな頭の良さそうな会話とかした覚えないけど。今している会話のレベルでそんなことを実感するべきじゃないんだな多分。

 

 

「なんですか、それで。ゴキブリですか」

「食堂! ついてきて!」

「夜食なら一人で食えよ。太るぞ」

「そんなんちゃうわ!」

 

 

 

 晩御飯というにはやや遅すぎるこのお時間。フルパワーノックして夜食のお誘いとかどういう神経してるんだお主は。そんなもん一人で食べてきなさい!

 夜中にご飯を食べると全部脂肪になっちゃうからね。夏シーズン真っ盛りで裸になる機会ばかりだって言うのに、お腹にお肉がついてくるようだと悲しいので。やっぱり、海に行くならスッキリお腹で出陣しないと。

 

 

「良いから! はーやーくー来るにゃー!」

「えー」

「あと、さっさと服着る!」

「甚兵衛でも良い?」

「何でもいいからパンツだけはやめる!」

「お前泣いてね?」

「泣いてない!」

「だってなんかお前最初から涙目」

「泣いてない!!!」

「はい、鼻セレブ」

「ありがど」

 

 

 丸くてきれいなおめめの下に、そこそこ大粒の涙貯め込んでるように見えるんだけれど、本当にそれ違うかい?

 自称、涙じゃないそれを拭うのは良いんだけど、アイドルっぽさ皆無で鼻をかむのはやめた方が良いかもしれない。音がすんごいから。可愛げの欠片も無いから。俺が出す音と大差ないから。

 

 そこまで言われたら仕方がないよね。玄関で一生騒がれても、こんな時間に騒音問題となっては嫌だし。しゃーなしで甚平引っ張り出します。やっぱ、羽織るだけで良いって最高だね。服着たくない。

 

 

「はぁ……小梅ちゃんがキッチンで誰かと話してた……? 誰かいたんじゃなくて?」

「紗枝ちゃんが言うには、壁に向かって一人でって……」

 

 

 何故か俺の後ろにぴったりとくっついたまま話が進んで行くのはさておき。聞いた話を要約してみる。

 紗枝ちゃんと美穂ちゃん……あ、美穂ちゃんって言うのは、寮住まいの346のアイドルの子ね。死ぬほど性格が良い。で、その二人がお風呂上りに二人で歩いてたら、小梅ちゃんがキッチンに向かって一人でぶつぶつ喋っていたと……あ、小梅ちゃんって言うのは、この子も寮住まいの346のアイドルの子ね。全然話が進まねぇな。

 最初は、その小梅ちゃん……基、白坂小梅ちゃんの十字架がどうこうという話から、彼女に関する噂話に話が発展。紗枝ちゃんと美穂ちゃんに、偶々合流した前川と多田がその話を膨らませ、なんやかんやあってこの時間の誰もいないキッチンに、前川と多田で様子を見に行くことになったらしい。

 

 

「ありがとっ! 光! これで何かあっても大丈夫!」

「ほらほら! 早く行こうにゃ!」

「いや、俺が先頭になってるが」

 

 

 それが怖かったかなんかで、俺が呼ばれたと。唐突に唐突が重なってなんもわからんが。少なくとも、用心棒で呼ばれただけ過ぎる。

 押し進められながら、キッチン前で屯していた三人に合流。そのまま、背中押し要員を二人に増やし、笑顔の紗枝ちゃんと半泣きの美穂ちゃんに見送られることになりました。こうなったら行くしかないもんね。これはもう巻き込まれ体質どうのこうのでもない気がする。家庭で嫁さんや子供に助けを呼ばれるお父さんの気持ちって、多分こんな感じだと思う。

 

 

「なんか……静か、だね」

「いつもは、もっと騒がしいんだけど……なんか妙な雰囲気……」

 

 

 まぁ、こんな時間だしな~って言う感想は、面白いので胸にしまっておこう。

 日中はアイドルや清掃のおばちゃんなどが行き来する廊下も、この時間帯になると誰もいないことだって不思議じゃない。

 よく見る光景と違うんだから、妙な雰囲気に感じるのも仕方がないっちゃあ仕方が無いね。明らかにビビってて感覚が変わっているだけなんだけど。それはそれとして面白いので黙っておこう。

 先頭歩いてて良かった。ニヤニヤしてるのバレたら、前川に思いっきりどつかれるとこだった。

 

 

「ね、ねぇ。この寮、他にもたくさん人がいるんだよね……?」

「うん……でも、なんだかいつもより廊下が暗く見えて……わっ……!」

「しっ!」

「ちょ……どうしたの……?」

「しーっ!」

 

 

 少し焦ったような表情で、多田が口元で人差し指を立てる。

 静寂の中に、三人の誰でもない声が、キッチン正面の付近の廊下側から聞こえてくる。まだ明るいままの廊下だが、人がいないせいか確かに雰囲気は少し変わる。どう暗く見えるのかまではよくわからないけど。

 

 

「うん……大丈夫……様子、見てくる……もうすぐ……10時……」

 

「あれって……小梅ちゃん……? 誰かと話して……」

「じゅ、10時って……」

 

 

 声の主は、まぎれもない白坂小梅さんご本人。姿や顔までは全く確認できないが、曲がり際にいるんだろう。

 ポケットから画面だけ見える様にスマホを覗かせる。電源を入れると、画面には21時59分と表示されていた。

 

 

「あ……もうすぐ消える」

 

「消え……?」

「る……?」

 

 

 スイッチ音。視界が、暗転。

 

 

「うわぁぁぁあああ!!!」

「ギャァァァアアア!!!」

「ちょちょちょっ! なんで急に真っ暗になの! ねぇ!?」

「あ゛ー!゛わかんないにゃあ゛! りーなチャン! みくの手掴んでてーッ!」

「ねぇ! なんか光ってる! なんか光ってるよ!」

「りーなチャン見ちゃダメ! ごめんなさい~!」

 

 

 わーお。暗くてなーんも見えないけど、俺の後ろでまさに阿鼻叫喚の大パニックが起こっていることだけはわかるね。

 多田は割かし可愛らしい女の子の怖がり方なんだけど、前川はなんでそんなに所々に濁点が付いてるんだろうね。声も顔もとてつもなく可愛いのに、なんでそんなに驚き方やリアクションがどこまでもバラエティ映えするような芸人魂燃え盛ってるんだ。お前、将来絶対に売れる芸人になるよ。間違いないね。アイドルだけども。

 

 

「……大丈夫?」

「……あ、ついた」

「っはぁ~……びっくりしたぁ……」

 

 

 スマホの明かりを頼りに、食堂前廊下の電気のスイッチを点ける。

 仲良く揃って騒ぎ倒す二人を心配して、小梅ちゃん達も出て来てくれたご様子で。大きな声につられて、奥の方で待機したままの紗枝ちゃんと美穂ちゃんまで駆けつけてきた。面白がって放置したまんまだったけど、二人まで心配させちゃったのはちょっとアレかもしれない。

 

 

「ここ、10時になったら廊下とかの照明切れるんだよね。消灯時間、結構早いから」

「門限、厳しいんですよね~」

「ちょっと! どうしてそれでみくが驚くの! 知らないはずないでしょ!」

「りりりっ! りーなチャンと居て時間がよくわからなかったのー!」

「ったく……ただの門限だなんて。っていうか、もしかして……」

 

 

 あっ、気が付かれました?

 小梅ちゃんが話してた、10時からって話は明かりの消える時間の話。十字架がどうのじゃなくて、10時からっていう聞き間違えだろうね、多分。小梅ちゃん、映画とかの話でもない限り、突飛に十字架って言うような子じゃないから。普通の子と比べてると、十字架ってワードが出やすい子ではあるけども。

 

 

「ま、要するに電話をしてた小梅ちゃんの口から出た言葉が、偶々切り取られて不穏な感じになってたってタネって訳」

「なーんだ……心配して損しちゃいました……!」

「ところで、小梅ちゃんは誰と話してたの?」

「あ……えっ、と……」

「寮生活だし、親御さんから連絡があったんだよな。小梅ちゃん、まだまだ心配されてるって。しっかりしてるから、大丈夫なのにな~」

「う、うん……お母さん、心配してて……」

「なーんだ。そうだったんだ~」

 

 

 なんだか困った様子だったので、さらりとそれとなくフォローも入れておく。ご友人も、安心なされてるそうで。

 キャラがキャラだからって、誤解されるようなこともあると大変だよな。

 別に危害を加える訳でもあるまいし、そんなに怖がらなくったっていいじゃないかと思う。小梅ちゃんだってまだ小さいんだから。みんなで支えてあげないと。

 

 

「それじゃ、さっきもお母さんと?」

「え……ううん、さっきはトモダチと……」

「うん。みたいだね」

「ほら! 全然怖い話じゃないよ!」

「みたいどすなぁ~」

「あっ、そうだ! 解決したところで、みくちゃんと李衣菜ちゃん! みんなで、私の部屋で少しお話しませんか?」

「えっ、いいの!?」

 

 

 ホラー展開じゃないとわかるや否や、女性陣の皆様の顔色がぐんぐん良くなる。みんな、こういうの苦手なんやね。俺も怖いのは苦手だけど。

 美穂ちゃん、コミュ力高いよな~。おう、とりあえず飲みに行こうぜ! みたいなノリでお茶に誘うんだもんな。女子特有の距離感というか、距離の詰め方というか。男でこんなセリフ吐いた日には、キッショで終わるもんな。羨ましいね。やっぱり男は殴り合いという名の対話しかないのか。いつまで経っても世紀末。

 

 

「あの、もしよかったら小梅ちゃんも光くんも一緒にどうですか?」

「あ……私、は……」

「俺は遠慮しとくよ。花園だし、叩かれちゃう。こんな時間だし、小梅ちゃん達を一旦送って部屋に戻るべ」

「う、うん……充電器とか、色々持っていきたいから……」

「うん、わかった! じゃあ、小梅ちゃんはまた後でね!」

「光クンは部屋に帰ってさっさと寝るにゃ!」

「引きずり回しておいてなんて言い草なんだ貴様」

 

 

 そんなこんなで、ワイワイガヤガヤとご退場していく面々の後姿をみんな仲良く並んで見送る。

 声も聞こえなくなってきた頃合いになると、小梅ちゃんがいそいそとポケットからスマホを取り出した。画面を見ると、数十分間通話中のまま。相手は誰かと画面を少しのぞき込むと、機転を利かせてスピーカーモードに切り替えてくれた。

 

 

「あの……もしもし……」

『白坂さん、すみません。何やらお手数をおかけしたようで』

「大丈夫……二人とも、凄く仲良くやってるよ……?」

『松井さんも……状況は把握できていませんが、協力して頂けたようで……』

「いえいえ。完全に偶々ですけれども」

 

 

 電話越しにも伝わる、この激渋ボイス。間違いない。我らがCPのPさんその人だった。

 小梅ちゃん、苗字にさん付けで登録する派の人間なんだね。変なあだ名で登録してるタイプじゃなくてよかった。場合によっては腹を抱えて笑ってる所だった。

 

 通話時間的に、あの時電話してからずっとかけっぱなしだったみたい。小梅ちゃん、頭が回るというか、機転が利くタイプというか。とても13歳とは思えない判断力だね。尊敬しちゃう。

 

 

「でも、急にPさんから電話がかかってきて……少し、びっくりしたな」

『……すみません。白坂さんが、前川さんの隣の部屋という話を聞きまして。少し、様子を見てもらおうと、いきなり思い立ったもので』

「そうなの?」

「うん……みくちゃん……お隣さん……」

「大丈夫? 騒音被害とかないかい? 急に叫びだしたりしない?」

「大丈夫……とっても、優しいよ」

 

 

 画面から真横に視線を移してみると、小梅ちゃんがコクリと可愛らしく頷いてくれる。

 小梅ちゃん、本当に良い子やね。ピアスはバチバチに決めているけど、超絶模範的優等生として尊敬しちゃう。高校生の俺なんかよりも100倍良い子だよ。俺なんか服も着れないんだからね。

 

 それにしても、まさかPさんから小梅ちゃんにコンタクトを取っていただなんて、ちょっぴり意外だ。

 それだけ信頼されているだけの人物とも考えれば、意外でもなんでもないんだけど。Pさんからもそれだけ信頼集めてるとなると、本当に凄い子なんだね。小梅ちゃん。控えめに言って、天才か?

 

 

「じゃあ、私はみんなの所に行くね……」

『本当に、お手数おかけしました……ところで、先ほどお友だちと電話されていたと聞こえてきましたが、私の電話は、お邪魔ではありませんでしたか?』

「あー、大丈夫ですよ。小梅ちゃん、電話で話してたわけじゃなさそうでしたから」

『そう、ですか。それでは、失礼いたします。』

「うん……バイバイ……」

 

 

 電話が切れたのを確認して、ほっと肩を下ろしたような挙動を見せる。ま、どんだけ優秀でもまだまだ子供だもんね。二人とも、よく頑張ってくれたよ。

 

 可愛らしいと、ついついえらいな~って頭を撫でてしまうと、嫌がることもなく、にへらと笑ってくれる。

 この子、ヤバいな。いや、俺は普通に小さい子供とか好きなんだけど、こういう純粋な可愛さはあまりにも保護欲を掻き立てられる。もしかして、俺はこの子のママになれるのでは……?

 違うね。この子をお腹を痛めて産んでくれた実のお母様に申し訳が無いから辞めようね。

 

 

「部屋、とりあえず戻るかい?」

「うん……あの……手伝ってくれて、ありがとうございました……」

「いえいえ、困ったときはお互いさまって奴ですよ」

 

 

 お礼も言えるなんて。前川にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだね。

 今日に関しては横暴祭りだったからな。私の寛大な心を持って許して差し上げるが、お返しに今度絶対にゲーム大会で集中狙いのフルボッコにしてやるね。私は器が小さいんだ。根に持つぞ~、覚えてろ~……!

 

 

「それで……光さん、その……」

「んー?」

「光さんも、トモダチ、見えるの……?」

 

 

 廊下の明かりが、音もなく一瞬消えかかる。

 夜も遅いし、二人とも送り届けたら、今日の所は夜更かししないで早く寝ようとするかな。




更新期だと思ったら違ったようです。
のんびり生きましょう。

読者層気になるので知りたいアンケ

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