女子寮生活は難儀です   作:as☆know

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夏の暑さは全てを狂わせる

 

 青い空。白い雲。地平線。浜風。最後に、合宿。

 ここには、日本の夏に欲しいものが全て詰まっている。

 

 

「レッスンは午後からの予定です。一時までは自由行動ですが、あまり遠くには行かないでください」

 

 

 みんな揃って元気なお返事。そして、返事をした途端に点でバラバラ、思い思い各方面に散っていく。自由やね。

 

 ここは海沿いにある合宿場。基、民宿。なんだか、代々アイドルの合宿場としては縁のある場所らしいが、細かい話はよく知らない。

 今回、行われる合宿は、一週間に及ぶ長尺の物。夏に行われる、346プロ内のアイドルだけで行われるアイドルフェスにCPの参加が決定したことを受けての物だ。

 どうやらこのアイドルフェス。相当に有名な物らしい。ジャ〇ーズカウントダウンとどっちが有名なの? って聞いたら、こっちのカウントダウンも知名度では負けてないよって奏が教えてくれた。

 実際、アイドルフェスがどんなもんの規模感で、どんなもんの知名度と有名具合かはわからんかった。奏も頑張って説明してくれてたんだけどね。無知でごめんね。わからんかった。

 

 

「あちー……」

「光くんは、卯月ちゃん達と一緒じゃないの?」

「あぁ。あいつら、自由時間って言われた途端にどっか行っちゃったんですよ。俺はちょっと宿の散策ついでにで涼んできますわ」

「ふふっ。確認、お願いね」

 

 

 タオルで汗を拭いても吹いてもキリが無いね。真夏の炎天下ってのは。

 美波さん、なんか話すたびに本当に大学生かわかんなくなってくるな。落ち着きすぎてる。俺もあんな大人になりてぇな。

 今週には8月に入ると言う事もあり、勿論外は灼熱。だと思うんだけれど。そんなものをものともせず、アイドル達はこのロケーションに完全に有頂天。ニュージェネレーションズや凸レーション組は元気にどっかに行ってしまった。

 

 あ、俺? 俺が何でいるのかって?

 いやー、ね。俺もよくわかんないの。この話が全体ミーティングで出てきた時に、みりあちゃんが『光くんも来るんだよね? 同じだもんね?』って上目遣いで聴いてくるもんだからさ。やんわりと、俺はCPのメンバーじゃないんだよって断ったはずなんだけど、なんでか可哀そう扱いになっていて、初日だけ合宿に同行することになってた。

 幼女パワーおっそろしい。でもありがとう。このロケーションはテンションブチアゲ。でも、暑すぎたのは想定外だったかな。早くも室内に避難です。

 

 

 宿の外には民宿と看板が立っていたが、内容はめちゃくちゃ綺麗。確かにホテルじゃなくて宿。廊下を歩くと、足元が少し軋むってのも含めて合宿っぽいって雰囲気だが、水回りなどの設備はぱっと見新しそう。

 とはいえ、こんだけの民宿を貸し切りなんて、うちの事務所のパワーを感じるよな。散策する分だけで言えば、他のお客さんの部屋覗いちゃって、あら大変なんて言うのが無いから良いけどさ。

 

 

「あら、杏ちゃん。貴方も室内組かい」

「こんな暑い中、外に行くなんてごめんだね」

「同感。お隣失礼」

「お好きにどうぞ~」

 

 

 そんな杏がいたのは、外と吹き抜けになっている畳の部屋。和室、という訳ではなく。シンプルにここの民宿の部屋は全部畳部屋っぽい。通れど通れど、全面畳部屋。磯の香りに、おばあちゃん家みたいな良い匂い。

 座布団二枚を敷いて、その上にうさぎを抱いたまま、あおむけで扇風機を独り占め。民宿の自由時間、満喫してるね~。お隣、座らせてもらいますよ。

 

 縁側に向かって胡坐をかく。重心を後ろに懸け、見上げた先には大きな入道雲に澄み渡る青空。時々、頬を撫でる浜風が、湿気にやられた肌を撫でてくれる。

 

 

「でも、暑いな」

「これだけ吹き抜け状態で、生きていられるくらいの室温を維持してるだけ涼しい方だけどね……」

「そう言いながら、ダウンしてるじゃないの。お嬢さん」

「杏はそもそも暑さに弱いからね。あつい……」

 

 

 そんな逆張りをしているくせに、ちんまい体は座布団二枚並べられた上からピクリとも動かない。浜風に寝ぐせかアホ毛が時たま揺れるだけ。

 近くにある宿の冊子的なファイルで仰いでみると、にへらとご機嫌そうに頬を緩めだす。苦しう無いですか。そうですか。

 

 

「夏だねぇ」

「夏って感じ」

 

 

 胡坐をかいたまま、ケツを支点に120度回転して、後ろにかかった重心に身を任せ、畳にごろり。

 大きく鼻から息を吸ってみる。さっきよりも、実家の香り。腕に少しだけチクリと刺さるのすら、なんだか懐かしい。

 耳を澄ませば、夏の音。その奥に、夏を感じてる音。小動物のような呼吸音。笑い声に、地面を蹴る音。さざ波。

 身を任せているだけで、数分が溶けていく。

 

 なんかこれ、めっちゃエモくない? 今のこの感じを一枚の写真に収めてほしいんだけど。

 

 

「あぁ、そう言えば。あっちの部屋に面白いものがあるって」

「なにそれ」

「まぁ。行ってみればわかるんじゃない?」

「なんじゃそりゃ」

 

 

 寝っ転がって目線も合わせることもなく。ニヤニヤとなんだか企んでいる様子の口元だけ。

 基本的に動かざること山のごとしを地で行く杏がそんなことを言うなんて、珍しいどころの騒ぎじゃないから怖いんだけど。

 

 そんなことを言われて、動かないわけにもいかないので。畳との別れを惜しみつつ、伸びをしながらあっちの部屋とやらに。

 4つくらい先にある部屋と言われてましても。くらいって。君が面白いものがあるって確定で言うもんだから行くのに。困っちゃうわね。全くもう。

 

 

「……良いんじゃない? 誰にとっての面白いものとは、杏は言ってないからね」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 なんもねぇな。なんも無かったわ。

 さっきとほぼ変わらん、あるもの的にはなんも変わらん部屋と、角度的に少し違うだけの景色。

 

 杏が面白いものがあるって言うもんだから、ほんのちょっぴりウキウキして来たのに。部屋を覗いてみれば、何の変哲もない。一気に萎えた。返して欲しい。俺のこの男の子にありがちなウキウキの気持ちを。

 

 

「壺の裏とか……」

 

 

 流石に本当に何もないと悲しくなってしまうので、何かしたかが無いかを探してみる。掛け軸の裏とか……お札も貼ってないただの壁。壺の中はちょっとだけ埃。

 クソ暑い中、部屋の散策というよりもこれはもはや探偵ごっこ。捜査の域。

 

 

「クッソ……なんも出てこん……本当になんもない……」

「……何してるの」

「あっ」

 

 

 裏が無いなら中だろうと、壺の中に顔を突っ込んで、埃臭さにむせながら顔を出す。明るく目の前が開いたら、視界の外からすんごい冷めきった声。

 声のする方を自分でもわかるすんごい速度で振りけると、明らかにドン引きした様子で腕を組む、難しそうな表情の見知った顔。この時期にロングヘアって暑くないかね。黒髪だし。

 思わず目を合わせて、ずきゅんどきゅん。3秒くらいフリーズしたね。セミの鳴き声がとってもシュール。

 

 

「どうしたん?」

「ごめん。それ、こっちのセリフなんだけど」

 

 

 誤魔化せなかった。全く持って誤魔化せなかった。

 壺に顔を突っ込む流れのままずっと綺麗に正座した下半身とはミスマッチに、壺に手をついてちょっとキリっと言ってみたけど全然ダメだった。そりゃあそうだ。すっごいダサいもん今。

 

 

「杏が面白いもんがあるって言っててぇ……」

「確かに、面白いものは見れたよ」

「視点が違くない?」

「誰にとってとは言ってないからね」

「確かに言われてないわ」

「納得するんだ」

 

 

 なんか納得してしまった。いや、してないんだけどね。腑には落ちないけど納得はしているよ。この感情、なんていうんだろうね。きっと、悔しいって言うんだろうね。こうして人の心を学んでいくんだ。俺はサイボーグか何かかな。

 

 呆れたとか驚いたとか色んな感情を飲み干したむず痒そうな表情で、俺の髪の毛の埃を掃ってフッと息で吹き飛ばす。あっ、良い匂い。やめようね。自己防衛だよ、自己防衛。

 杏ちゃん、そこまで考えて言ってたのかなぁ。まさか、そこまでの策士では無いと思いたいね。これを全部仕込んでいたとした、それはもう諸葛孔明だからね。呂布だからね。もう呂布カ〇マ。

 

 よっこいせと少し痺れる予感がしている足元を崩して、目いっぱい両足を伸ばす。足先まで血液が巡ってくるようなこのぞくぞくした感覚。あ~……痺れてきた。予感大的中ってか。

 

 

「ひぃぃあっ!?……ってバカ! 逆やろ! 普通!」

 

 

 足がしびれてる人に対して、痺れたところをちょんってやるのは確かに鉄板の流れだけどさぁ! 普通それはクールな女の子相手にやってギャップ萌えを見るための奴じゃないのか! お前が俺にやるなよ! しかも無言で! なんかこう……段取りとか王道の流れとかをもっと大事にだね……

 

 

「可愛い声出るじゃん」

「本当に逆じゃん」

 

 

 膝を抱えてしゃがみ込み、目を細めてやや口角だけ上げたその顔。ムカつく。生粋のドSが。パンツ見えないかな。見えないようにしゃがんでんな。

 もう全部ひっくり返っちゃったや。もうこれわかんねぇな。

 男としてプライドも何もあったもんじゃないね。強いもんは強い。凛ちゃん、こういう所ですよ。本当に。

 

 

「バレてるよ」

「さぁ、なんのことだか」

 

 

 おでこを人差し指でコツンとつつかれ、隣に座るや否や、肘で脇腹をもういっちょ。

 あぁ、そうですか。男が思っているよりも、女の子は男の視線に敏感と。そういう話ですか。別に今更お前のパンツを見たいという話ではない。10%くらいはあるけれど。

 男たるもの、際どい立ち位置にいる女の子のパンツが気になってしまう現象は仕方がないのだ。万胸引力の法則ほどの効力はないが、ヘイトが傾く対象ではあるよね。仕方ねぇんだ。前も下着周りで似たようなこと言ってなかったか? 話逸らせ逸らせ。

 

 

「本田と卯月は」

「二人とも遊んでる。色々あったよ」

「ぽいね」

 

 

 色々あったと語る彼女の襟当たりが少し湿っている。文字通り、色々あったんだろう。

 手で汗をぬぐうくらいだったら、俺のタオルを使……

 

 

「使う」

「まだなんも言ってねぇよ」

「使う」

「怖い怖い怖い」

 

 

 顔を近づけてくるなよ! 近い近い近い! お前、至近距離で見ると顔のパーツが整いすぎてやいないかい? もう芸術じゃん。寸分たりとも狂いがないじゃん。両親に感謝しな。だから俺の首元からタオルを引きはがそうとすんな。それ俺が汗拭いてる奴だから! しかも頻繁に使ってる奴だから!

 もうお前押し倒してるじゃん! すべてにおいて逆だろ。こっちが強く抵抗できないのを良い事に結構がっつり攻めやがって!

 これもダメ! 話の話題変える! 変えるから!

 

 

「うぎぎぎぎ……お、お前誕生日近いだろ! そういえば!」

「もう来週かな」

「誕生日プレゼントまだ決まんないんだワ。何が良い?」

「光」

「のタオルが抜けてんだろ」

「よくわかってるじゃん」

 

 

 自分そういうキャラじゃないじゃん! 俺だってこんな受け受けのツッコミキャラじゃないじゃん! なんでそんなに暴走気味なんだよ。俺知ってるぞ。これ、メイケイエールって言うんだ。爆走暴走お嬢様って言うんだ。だから

 待って! 止まって! こらっ、タオルを掴んだまま顔突っ込まないの! 女の子がそんなことしちゃダメ!

 嗅ぐな。くせぇから。誰のであろうと普通に一般未成年男子の汗の匂いだそれ。幸せそうな顔すんな。すっげぇ複雑だわ。もう十分堪能したでしょ! ほらっ、返しなさい! もう駄目! メッ!

 

 

「そんなことしちゃダメでしょ! メッ!」

「わっ」

「うっお!」

 

 

 なんやかんやドタバタ動いて変な体勢。こういう時に、変な力の掛け方をすると人間はどうなるか。バランスを崩してバタンと倒れそうになります。なんていうのを黙って見逃すわけないんですよねーっ!

 膝立ちみたいな恰好から後ろに傾いて、背中から床に一直線な凛の背中に左腕を回す。そのままこっちに引き寄せ、抱きかかえるような形。重力のまま床に向かって落ちていくのを、ツッパリ棒の方式で右手で床を叩き、激突を回避。そうすると左手で凛を抱えて抱き込んだまま、右手で片腕立て伏せみたいな感じになります。

 今、人生で一番力強く女の子を抱きしめてるわ。そして、一番強く抱き返されてる。まるでラブロマンス。そんな状況じゃない。

 

「お、おぉ……せーふ……」

 

 

 ここまで一秒も経たず。全てが反射の領域で行われていました。耐えた。偉い。

 俺、上から落ちてくる棒を掴む反射神経のアレ、得意なんだよね。人生で初めて役に立ったかもしれんわ。この才能。

 でもアカン、右手がプルプルしている。いくら軽い凛とはいえ、片手で俺の体重ごと支えるのは、結構厳しいn

 

 

「ねー! 二人とも、何やってるのー?」

「わわっ! みりあちゃん! これってアレだよ! アレ! きゃ~っ!」

「あー! 待ってー!」

 

 

 ドタドタ走りがどんどん近づいてきて、止まって、ドタドタ走りが去っていく。

 

 時を戻そう。あれっ、戻んない。おかしいな。今、十秒くらい時が止まってたはずなんだけどな。止まってたんだから、巻き戻しくらいできるはずなんだけど。

 

 

「不味い」

「もう少しこのまま」

 

 

 おい待て! 普段やらないからって今は不味い! 抱きしめる力強くなってるって。俺だって、今体抱きかかえてないもん、宙ぶらりんだもん。鍛えたんだねぇ。

 こいつ普段こんなことにはならんのに、完全に夏の暑さに頭がやられてやがる。よくよく考えりゃタオルの件から執着の度合いが何かバグってたな。なんで気が付かなかったんだろう。え、俺の責任か?

 

 

「今度するから!」

「言質。追いかけるよ」

 

 

 切り替えはっや。俺の言質を取るや否や、手を放して追いかけていくじゃん。凛ちゃんいつの間にそんな子になったの? お兄ちゃん、本当にそんな覚えないんだけど。随分とアグレッシブになったんだね。

 

 全力で追いかけましたよ。本当に全力。完全に汗だく。

 莉嘉ちゃんが案の定あることないことばら撒いてたので、必死こいて訂正してました。杏が珍しく出てきてずっとニヤニヤしていたのだけ覚えています。お前ーッ! お前お前お前ーッ!

読者層気になるので知りたいアンケ

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