あとこの話と、次話に、少しだけ、ほんの少しだけアニメより先の要素が含まれています。
暖炉の薪がパチパチと燃える音がする。
カズマはその暖炉の前にあるソファでくつろぎ、めぐみんとダクネスはボードゲームをしている。
私は2人の勝負を眺めていた。
既に何戦目だろうか。
やはりアークウィザードというのは伊達ではなく、めぐみんが連勝している。
この対戦もめぐみんが優勢のようだ。
「ふふ、これでどうでしょうか」
めぐみんが決め顔でアークプリーストを前のマスに進めた。
丁度その時、リビングの扉が開いた。
アクアが風呂から上がったらしい。
リビングに入ってきたアクアは、私達には目もくれずカズマの元へ歩み寄って、何やら話しかけていた。
「あぁ!ダクネスそれはずるいです!」
私はそんなめぐみんの声を聞き、視線をボードゲームに戻す。
すると先程進めたアークプリーストが、ダクネスのソードマスターに取られていた。
そのソードマスターは更に、めぐみんのアークウィザードを射程に捉えている。
「この勝負でようやく私が勝てそうだな」
「そう簡単にはいきませんよ?ここはテレポートを使いましょうか」
「な!?ずるいぞ!」
「ルールですから」
そう言うとめぐみんは、アークウィザードを盤面の真ん中辺りにテレポートさせ、逆にソードマスターを射程に捉える。
次にダクネスが、逃げの一手を打ったところで、また扉が開く音がした。
どうやらカズマが、自分の部屋に行ったらしい。
今までカズマがいたソファにアクアが寝転んでいた。
「エクスプロージョン!」
「ふぎゃあ」
その声を聞き、ボードに視線を戻した時には既に、めぐみんが盤面を引っくり返した後だった。
「今回も私の勝ちですね」
「くっ、クルセイダーを捨ててもめぐみんには勝てないのか…」
「ねぇ、盤面を引っくり返すのはありなの?」
「もちろん公式ルールですとも」
ルールとは一体なんだったのだろうか。
「悔しいが、私はそろそろ寝るとしよう。2人もあまり夜更かしするのではないぞ」
めぐみんが散らかした駒を全て拾い上げたダクネスは、そう言うと部屋から出ていった。
「ダクネスは寝てしまいましたか。マイさんはどうします?私達の対戦を見てルールが分かってきたなら、一度私と勝負してみますか?もちろん手はぬいてあげますよ?」
そんなことを挑発するような顔で言うめぐみんに対して、私はその挑発にのることにした。
───のることにしたのだが、結果は惨憺たるもので、勝負にすらなっていなかった。
「マイさんは、攻め方が愚直すぎて読みやすいですね」
「めぐみんに勝とうと思うなら、私にみたいに賢く攻めなきゃね」
いつの間にか観戦していたアクアが、そんなことを言う。
これだけ強いめぐみんに勝てるなんて、さすがアクアというところか。
「アクアは何やら卑怯な手を考えては、毎度私に返り討ちにあってるじゃないですか」
やはりアクアをもってしても、めぐみんには勝てないらしい。
めぐみんに勝つにはもっとルールを覚えてからじゃないと厳しそうだ。
その後しばらく、ボードゲームについて語っていたが、そろそろ寝ようということで、私達3人はそれぞれ自室に戻っていった。
私は1人、寝る前にトイレに行こうと思い、廊下を歩いていた。
明かりは月明かりだけで、とても暗い。
既に時間は深夜で、こんな暗い夜には、いつぞやの人形のゴーストでも出そうだと考えてしまう。
まぁ私の場合、ターンアンデットで退治出来てしまうので、全く怖くはないのだが。
そんなことを考えつつ、もうすぐトイレというところで、前方に歩く人影が見えた。
まさかゴーストか!?と思いもしたが、今はアクアが結界を張っているので有り得ないなと、屋敷の誰かだろうと推察する。
よく見るとそれは、カズマのようだ。
こんな真夜中に廊下を歩いているなんて、カズマもトイレだろうか。
そこでふと、引っ越してきた日のことを思い出し、悪戯心が芽生えた。
私は、髪で顔を隠しゆっくりと近づいて、後ろから肩を叩く。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
振り向いたカズマは、私を見て気絶してしまった。
まさかそこまで驚くとは…。
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翌日、私は街を歩き、服屋を探していた。
というのも、昨日目を覚ましたカズマに、部屋着は白い服以外で、前髪はピンで留めてくれと、怒られたからだ。
これだけ怒られては、さすがに悪戯でしたと明かすことも出来ず、素直にそれに従うことにしたのだった。
まぁ確かに、前髪が少し邪魔だったので、ピンを買うのはいいのだが、部屋着は安くて丈夫で、気に入っていたので少し残念だ。
また安くていい物を置いている店を探そうとブラブラしていると、同じく街をブラブラしているように見えるカズマを見つけた。
暇をしているのなら、カズマ自身に納得いく部屋着を探してもらうか、と思いカズマを追いかけることにした。
少し近づいたところで、カズマが狭い路地に入った。
私は駆け足でその路地まで行き、その先を見る。
しかしそこに居たのは、少し先にいるカズマより先に路地に入ったであろう2人組しかいなかった。
その2人組には、何だが見覚えがあるので、おそらくアクセルの冒険者だろう。
その2人組も路地で角を曲がり見えなくなった。
この路地は日陰で少し暗いものの、隠れるような場所も2人組が曲がったところ以外に道もなかった。
一体カズマはどこに消えたのだろうか。
私はしばらく路地を見ていたが、屋敷に帰ったらカズマに直接聞こうと思い、服を探すために再び街をブラブラすることにした。
カズマに選んでもらえれば、また服を変えろと言われることは確実にないだろうと思っていただけに、カズマを見失ったのは少し残念だった。
今度はどんな服を買おうか。
まぁ借金のせいで安物しか買えないが…。
私はふと通りにあった服屋に目を向ける。
ショーウィンドウには、ヒラヒラとした飾り付けがなされた、可愛らしい服がある。
こんな服を着るのは可愛らしい人で私には似合わないなと思い、ショーウィンドウの目の前に立って服を眺めていた人に視線を向けた。
一体どんな可愛らしい人が…とても見覚えのある背中だった。
「ダクネスはこんな感じの服が好きなんだね。似合うと思うよ!」
私はショーウィンドウを眺めていたダクネスに近づき、声をかけた。
「な!?マイ!ち、違うのだ!こ、これはその……、あれだ……、い、いとこが……そう!いとこが着れば似合うだろうなと思ってだな!」
「そうだったんだ、ダクネスも似合うと思うのになー」
そう言いつつダクネスの顔を覗き込むと、何故か真っ赤になっていた。
「わ、私のような無愛想な女には…その…にあわない…というか…、そ、それよりも!マイはどうしてこんな所にいるのだ!」
「私?私は部屋着を探しててね。あの白い服はやめてくれってカズマに言われちゃって」
「あーそういえば、白い服に長い黒髪だとカズマの故郷の幽霊に似ているだとか何とか言っていたな」
「そうらしいんだよね。良かったらダクネスも一緒に服を探す?えっと…ここのお店は少し高くて無理だけど、私何軒か安いお店知っているから案内するよ」
「そうだな、夕方まで特に用事もないし、私も付き合うとしよう」
そんなこんなで、ダクネスと一緒に服を探すことになった。
先程の店から立ち去る際に、ダクネスが一度振り返ってショーウィンドウを少し残念そうな表情で見ていた。
やっぱりいとこのためだけじゃなくて、ダクネス自身も欲しかったのだろうか。
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「本当にその服でよかったのか?」
「むしろこれが良かったの!肌触りもいいし、丈夫だし、何より安い!それにこれだけ真っ赤ならカズマには何も言われないはず」
「まぁ確かに何も言わないだろうが…」
私達は人通りの少ない通りにある、小さな服屋から出てきて話していた。
そこで見つけたこの真っ赤な服を見つけて、即決したのだった。
「ダクネスは何も買わなくてよかったの?」
「あぁ、私は服を見れただけで満足だ」
ダクネスには、この服を見つけるまで2軒程付き合ってもらったが、結局何も買わなかった。
度々、可愛らしい服を見つけると、少し眺めていたので、やはりそのような服が好きなのだろう。
ダクネスの意外な一面が見れた日だった。
帰ったらアクアやめぐみんにも教えてあげようか、等と考えているとダクネスが立ち止まった。
「どうかしたの?」
「ウィズ魔道具店…、ここがあのリッチーが営んでいる魔道具店か。そう言えば、マイは先日、カズマやアクアと来たのだったな。私も一度入ってみたいのだが、いいだろうか?」
ウィズ、リッチーでありながら、魔王軍の幹部といういかにも凶悪そうだが、その実情はただ魔王城の結界の維持を行ってるだけのなんちゃって幹部で、人を傷つけたこともない善良な魔道具店の店主。
最初はウィズに対して怯えもしていたが、ウィズがいかに穏やかな性格か分かったので、今となっては何も怯えることはない……、正直ちょっとだけまだ怯えてはいるが。
「今日はダクネスに付き合ってもらったし、もちろんいいよ」
その答えを聞くとダクネスは、「じゃあ入ってみるか」と言ってドアを開けた。
「いらっしゃいませ。あ、ダクネスさんにマイさんじゃないですか」
「やぁウィズ、久しぶりだな」
「私は先日ぶりだね」
店に入るととてもアンデットで魔王軍の幹部とは思えない、朗らかな笑顔で迎えてくれた。
「今日はお2人なんですね。ゆっくりご覧になって下さいね」
「ほぅ、魔道具店だけあって様々なポーションが置いてあるのだな」
「ポーションはやめておいた方が…」
私は先日来た時、手に取るポーションがどれも爆発するポーションだったことを思い出し、ダクネスをとめようとする。
「マイさん、安心して下さい。爆発するポーションは奥にしまったので、今あるのはどれも安全なポーションですよ」
私はそれを聞いて安心し、ポーションを手に取った。
隣で、爆発という単語にダクネスが反応していたが、流石のダクネスも爆発するポーションはおっかないのだろうか。
「こ、この、獣型モンスターに群がられるポーションというのは、例えば獣のように飢えた男からも襲われるのだろうか!?」
「いえ、それはその名の通り獣型モンスターを惹き付けるもので、それを振りかけると、絶え間なく獣型モンスターに襲われるというものでして…」
どれも安全なポーションと聞いたのは、聞き間違いだったのだろうか。
そのポーションのどこが安全なのか教えて欲しい。
ダクネスもそのポーションの危険性に驚いたのか、口をパクパクさせている。
「も、もらおう!」
「「え?」」
ウィズと声がハモった。
いや、ウィズは売れると驚くようなものを仕入れないで欲しい。
「ほんとに買うの?」
「もちろんだ!こんな楽し……いや、危険なポーションが他の人の手に渡っては危ないからな!」
流石はダクネス、他の人のことを考え、敢えて買うとは。
「マイは何か買わないのか?」
特に買いたいものがあった訳では無いので、悩んでしまう。
今日はお目当ての服を買えたし……、あ、そう言えばヘアピンも、付けろって言われたんだっけか。
ただここは魔道具店。
雑貨屋ではないので恐らくないだろうが、とりあえず聞いてみよう。
「ねぇ、ウィズ。このお店にヘアピンなんて売ってるかな?」
「ヘアピンですか……、あ!そう言えば1ついいのがありますよ!えっと確かこの辺に……あった!」
ウィズが渡してくれたのは、ごく普通のヘアピンにみえる。
「これも魔道具なの?」
「もちろんです!そのヘアピンは、一度留めるとどんなに動いてもズレないという優れものなんです!」
「ほぅそれはすごいな」
「確かに!これ買います!」
「ありがとうございます!あ、ただそのヘアピン…付けるとズレないのですが、取ることも出来ないものでして………」
私はそのヘアピンを元あった場所にそっと戻した。
店内になんとも言い難い空気が流れたのは、言うまでもない。
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ウィズのお店を後にした私達は屋敷への帰路についていた。
ダクネスは途中で用事があるとの事で、私だけ先に屋敷に帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、マイじゃない。もうどこに行ってたのよー。皆外出しちゃうから、私がめぐみんの日課に付き合うはめになったんですけどー」
帰宅した私を出迎えたのは、何やら文句を言っているアクアだった。
ただ文句を言いつつも、身体はソファで横になったままであるが。
「今日の爆裂魔法も最高でした」
アクアの不機嫌の原因であるめぐみんは、机に突っ伏しているが、顔はツヤツヤしている。
「今日はマイが夕食の当番だったわよね?今日は疲れたからがっつり食べれるものを所望するわ」
あ、忘れてた。
「………どうして何も返事をしてくれないのかしら?」
「マイさんの顔を見れば理由が分かると思いますよ」
「……もしかして忘れてたの?私もうお腹ペコペコなんですけどー」
「ご、ごめんなさい!今すぐ食材を買ってくるから!」
そう言って私は慌てて部屋を出ようとする。
「マイさん!財布、財布!」
めぐみんのその言葉を聞き、慌てて踵を返す。
財布を取り、再び部屋を出ようとすると、扉がひとりでに開き、反対側から人が入ってきた。
「みんな喜んでくれ。私の父が引越し祝いを贈ってきてくれたぞ」
部屋に入ってきたのはダクネス。
私はダクネスの後ろに、山のように積まれた箱が目に付いた。
「これは!?高級なお酒の匂いがするわ!」
「高級食材の匂いもするのです!」
そんな匂いがするだろうかと、頭に疑問符を浮かべている私をよそに、アクアとめぐみんは、ダクネスのお父さんからの贈り物に群がっていた。
「これは高級シュワシュワね!」
「こっちは霜降り赤蟹です!」
「みんな喜んでくれたようでよかった。今日はこれで蟹パーティでもしよう!」
これは夕食の準備を忘れたのは結果オーライということにしておこう。
「マイは今すぐ、鍋の具材を買ってきて!」
結果オーライという訳には行かないようだった…。
□□□□□□□□
蟹鍋に蟹のフライ、蟹の刺身に炙り焼き。
まさに蟹づくし。
「カズマ遅いわねー。もう先に食べちゃいましょうか!」
「そうですね。こんな時間まで帰ってこないカズマが悪いのです」
「私としては、皆に食べて欲しいのだが、これだけあればカズマの分も十分だろう」
私はそんな皆の言葉を、刺身を口に入れた直後に聞き、咀嚼せずに止まっていた。
あ、皆カズマ待つつもりだったんだ…。
そんな私を少し冷たい視線で見る皆だったが、直ぐに少し笑い各々好きな物を食べ始めた。
「はわわわわ、まさか人生で霜降り赤蟹を食べれるなんて!」
「このシュワシュワも中々の逸品ね!」
皆が食事を始めたのを見て私も咀嚼を始める……、な!?
一口噛むだけで、口の中に芳醇な蟹の風味が広がる!
私は気づくと既に2個目の刺身を口に運んでいた。
「これはおいしい!」
「皆の口にあってよかった」
こんな美味しいものが、口に合わないはずがない。
私が3つ目の刺身を口に運んだところで、扉が開く。
「帰ったぞー、ってどうしたんだよこの料理!?」
私達の普段の食事に比べ豪勢な今日の食卓を見て、カズマは驚きの声を上げた。
「カズマ遅かったわねー。もう始めちゃってるわよ!」
「霜降り赤蟹ですよ!」
「うちの実家が、引越し祝いに贈ってくれたんだ」
「へぇー」と言いながら、カズマは席に着いた。
私は口の中の刺身を飲み込んでカズマに話しかける。
「カズマも早く食べないと……」
私が声を掛け、カズマの方を見ると既に彼の両手には蟹の脚が握られていた。
カズマの皿には既に、いくつかの身を食べられた蟹の脚の殻があり、物凄い勢いでたべているみたいだ。
これは人の心配をしている場合では無さそうだ。
「カズマ、火をちょうだい。私が今から美味しいお酒の飲み方を教えてあげるわ」
「はいよ、ティンダー」
カズマに火を貰ったアクアは、その七輪の上に蟹味噌が少し残った甲羅を置き、そこへお酒を流し込んだ。
そのまま少し温め、それを甲羅のまま、ぐびっと…。
ごくり。
それを見ていた私をはじめとしたみんなが、そう唾を飲む音がした。
普段あまり酒を飲まない私だが、これは飲んでみたい。
早速カズマがアクアの真似をしようと酒を持っていたので、次に酒を渡して貰おう。
と、思ったのだが、カズマの動きがそこで止まっている。
どうかしたのだろうか。
あ、そう言えば今日どこに行っていたのかまだ聞いてなかったな。
「ねえカズマ、今日のお昼どこに行っていたの?」
「へ?べ、別にどこにも?いってないけど?」
「路地に入っていくところをみたんだけど…、人違いだったのかな」
「あ、あぁ!そうだった!その先に隠れ家的な酒場があってな。そこで男友達とのんでたんだよ!」
「そうだったんだ」
少し釈然としない気もするが、酒場に入ったから見失ったのだろうと納得した。
「少し早いけど、俺はそろそろ寝るとするよ。あとは皆で楽しんでくれ」
どこかいつもより朗らかな笑顔でそう言うと、カズマは結局酒を飲まずに自室に向かってしまった。
「カズマのくせに付き合い悪いわねー」
「まぁ昼間も飲んだらしいし、仕方ないんじゃない?」
「それにしてはお酒の匂いがしなかったのよねぇ。まぁいいわ!カズマも寝たことだしこれからは女子会よ!」
「おお!女子会か。なんだかいい響きだな」
「せっかくの女子会ですし、私も飲んでいいですよね!?」
「私のとっておきの芸を披露してあげるわ。機動要塞デストロイヤー!」
「「おぉ!」」
アクアが見せてくれた芸は、なんだかウネウネとしていてたまに聞く、デストロイヤーが何なのか更に分からなくなったのだが、ダクネスとめぐみんはそれを見て興奮していた。
その後もアクアが芸をみせてくれたり、めぐみんも少しだけなら飲んでいいことになったりと、楽しい時間を過ごしていた。
今はダクネスが、酔っているめぐみんなら勝てるのではないかと、ボードゲームを挑み、それをアクアと私が遠目から眺めていた。
「ねぇデストロイヤーってなんなの?」
「そう言えばマイは、カズマと一緒で何も知らない転生者だったわね」
またこの話だ。
テンセイシャがなんだとか、出会った時も言っていた。
なんでもカズマは私と同郷で、アクアは記憶を失う前の私を知っているとか。
なんだかんだその話を詳しく聞く機会がなかったので、この際聞いてみるのもいいかもしれない。
「アクアは記憶を失う前の私を知ってるのよね?」
「んーちょっと違う…というか、私が知っているのは、マイ達が暮らしていた日本のことで、マイ本人のことは…」
「ことは?」
「死んだ時のことと、その後に少しあっただけなのよね」
「へ?」
アクアから聞いた話はまさに寝耳に水。
私はニホンという、こことは別の世界で暮らしていて、そこで一度死んでしまい、この世界に転生してきたとかなんとか。
アクアに会ったのは死後の世界で、女神として私を導くためだとかなんだとか…
あれ、アクアが女神なのは夢の話だったんじゃ…
頭がこんがらがってきた。
「そう言えば私の死んだ時のことをしってるって…」
「ええ、知ってるわよ」
「私はどうやって死んだの?」
あれこの質問なんだか覚えが……
丁度こうアクアと向かい合って話していて…
「マイの死因?それはね──」
「「転んで死んだ」のよ」
「え?思い出したの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
急に頭が痛くなってきた。
でも何か思い出せそうな、そんな気がする。
今はひとりになりたい。
「アクア話してくれてありがとう。私は先に寝るね」
そう言い残し、部屋を後にする。
後ろでは、「エクスプロージョン!」という声と共に、ボードがひっくり返された音がした。
□□□□□□□□
夢。
私はそう理解するのに時間はかからなかった。
意識がふわふわとし、暗闇に立っている。
後ろから女性の泣く声がする。
振り返ると私は、とても静かで薄暗い部屋にいた。
そこには、台の上に横たわり頭まで布をかけられた人と、それにすがりながら、泣いている女性。
私はその女性に見覚えがある……、あるのだが思い出せない。
それになんだか、この光景を見ていると私まで悲しい気持ちになってくる。
一筋の涙が頬を伝う。
それを拭おうとし、目を擦ると、私は別の場所にいた。
今度はとても明るく騒がしい。
先程の部屋とは段違いに広く、たくさんの机が並んでいる。
周りにはたくさんの人がいてそれぞれ話していた。
不意に後ろから声をかけられる。
「舞ー、今週提出のレポートもう書いたー?」
その声に振り返りその顔をみる。
そこには私と同年代であろう女の子がおり、その顔はすごく懐かしく、親しみのある顔で……、だがそれが誰か思い出せない。
私がその人の顔をじっと眺めていると、部屋全体に響くほどのベルが鳴る。
そのベルがやむと、部屋前方の扉が開く。
そこから入ってきたのは──
「くせ者よ!皆であえであえ!」
アクアが入ってきた。
ん?何かがおかしい。
そう思ったところで夢が崩れ、再び暗闇に、そして意識が覚醒していく。
「皆この屋敷にくせものよ!」
私は自室のベットで起き上がる。
これは夢ではなさそうだ。
アクアの声で目覚めてしまったらしい。
ただ、先程見ていた夢は本当に夢だったのか。
夢というにはリアルで、現実味があり、精巧だった。
ただ、部屋やそこにある物、そして服など、全てがこのアクセルのものとはかけ離れていた。
あれがアクアの言う、ニホンというところなのか…。
そこまで考えていると、窓の割れる音がした。
そう言えばくせ者がなんだとか言っていたな。
みんなの事だから特に心配もないだろうと思いつつ、廊下に出る。
そこでみたのは、ボロボロになったカズマと、外に向けて塩を撒くアクアの姿だった。
□□□□□□□
私は今アクセルの街を出て、草原を歩いていた。
現在の季節はまだ冬だが、春も近づいており、少し肌寒いといった気温だ。
昨日の騒ぎは、どうやらサキュバスが忍び込んで、カズマの精気を吸おうとしていたらしい。
ただ当のカズマがサキュバスに操られ、サキュバスを庇おうとしたので、皆にフルボッコにされたそうだ。
あの時聞いた窓の割れる音は、サキュバスが逃げ出した時の音だったらしい。
私は寝起きだったこともあり、それを聞いてまた直ぐに寝たのだったが、あの夢の続きは見れなかった。
ただ、あの夢を見てから何か思い出せそうで、1人になるために早朝からアクセルの街をでて、草原を歩いていたのだ。
1人でいる時にモンスターに襲われたくなかったので、比較的にモンスターの少ない、穀倉地帯を目指して歩いていた。
あの時見た泣いていた女性は、声をかけてくれた女の子は一体誰だったのだろうか。
昨日見た夢のことを思い出していると、前から大荷物を抱えた男性が慌てた様子で走ってきた。
モンスターにでも襲われたのだろうか?
「どうかしたのですか?」
そう聞く私に目もくれず、すれ違いざまに男は私に告げた。
「あんたも早く逃げた方がいい!デストロイヤーがくるぞー!」