第2章からは、アニメ、原作から独自路線が増える見込みであります。
無罪の冒険者
「……帰りたい。もう日本に帰りたい……」
冬の終わり、だがまだ雪の降る寒い夜、そんな俺の言葉が牢屋に虚しく響く。
どうして俺はこんなとこにいるのだろう。
せっかく屋敷を手に入れたと思ったら、デストロイヤーがやって来て。
屋敷を守るために頑張ったと思ったら、牢屋にぶち込まれて。
どこで間違えたのか考えつつ、俺は牢屋の隅で縮こまっていた。
国家転覆罪
それが俺にかけられた容疑だ。
なんでもランダムテレポートで飛ばしたコロナタイトが、アルダープという領主の屋敷を吹き飛ばしたらしい。
俺の幸運値は一体どこに行ったのか。
死人が出なかったという所は不幸中の幸いではあるが…。
と言ってもそんなものは悪運だ。
きっと何かが俺の幸運を……そうだ!アクアに違いない!アクアがあの場にいたから俺の幸運は相殺されてしまったんだ。
そうに違いない……、そういうことにしておこう。
それにしてもアクア達もギルドの連中も冷たすぎる!
最初こそ、俺を庇ってくれていたが、国家転覆罪は主犯以外にも適応されると聞いた途端、手のひらを返したように、俺を裏切りやがって。
でも1番酷かったのは、マイだ。
ギルドに入って、剣呑な雰囲気を感じ取った瞬間、我関せずといった様子で、俺達のパーティーから1歩身を引いていたのを俺は見逃さなかった。
更に国家転覆罪と聞いた時には、潜伏スキルを使っていたかのように存在感を消して、最初から庇いすらしてくれなかった。
………してくれなかったのだが。
「なんでマイさんも牢屋に入ってるんだ?」
「はは、どうしてかな?ちょっと領主が宿泊している宿の近くで、爆裂魔法を続けて2発撃ち込んだだけなのにどうしてかな?」
「あんたそれ、まじもんのテロだから!俺よりよっぽど国家転覆しようとしてるから!というか、爆裂魔法を2発だなんてほんとチートだよな」
「威力をすごく抑えたからね。それでもフラフラになっちゃって、呆気なく下手人として取り押さえられちゃった」
マイは俺とは対面の位置で、膝を抱えながら嘲笑じみた表情で話す。
「俺のためにそこまで抗議してくれるなら、ギルドで庇ってくれたってよかったのに」
「え?違うよ?」
「違うの!?」
俺はてっきり、俺の不当逮捕に対する抗議で、そのような愚行を行ったとばかり思っていたので、マイの返事には面をくらってしまった。
「じゃあどうしてそんなことをしたんだよ」
「あーそうか、カズマは捕まった後だったから聞いてなかったのか。どうしてこんなことをしたかと言うとね、そうそれはカズマが捕まった後のことだよ───」
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「確保ーーー!!!」
カズマが逃げ出し、ギルドの扉から出ていったと同時に、検察官のセナが命令を下す。
すると、両脇に控えていた騎士が勢いよく走り出した。
重そうな鎧を着てどうしてそんなに速く動けるのか聞きたいほど、それはもう速かった。
そんな騎士から逃げれるはずもなく、カズマはギルドを出て、数メートルのところで、呆気なく取り押さえられていた。
「カズマ、あなたのことは一生忘れません」
「お務めを終えたら、温かく迎えに行ってあげましょ」
「おい、そんな冷たいことを言ってやるな。これは明らかな不当逮捕だ。何か私にしてやれることがあればいいのだが」
死んだ人に祈りを捧げるかのようなポーズをとるめぐみんに、『お酒を飲みましょ!』といつも通り空気の読めていないアクア。
ただ1人ダクネスだけが、カズマを案じているようだ。
周りの冒険者はというと、カズマを裏切ったことを悔いている………様子もなく、既にアクアにつられて酒を飲み始めている者もいた。
次第に剣呑だったギルドの雰囲気も解れていく。
そろそろ私もみんなの輪に入るかと思った時、あることに気づいた。
カズマを捕まえ、目的を果たしたはずのセナがまだそこにおり、辺りを鋭い眼光で見渡している。
何も悪いことをした記憶がないのに、何か嫌な予感がする。
「タナカマイ、タナカマイはいるかー!?」
セナの声がギルドに響き、解れていた空気が再び張り詰める。
私の嫌な予感は当たってしまったようだ。
何とか他人のフリをしてこの場をやり過ごせないだろうか。
「今度はマイに何か用があるわけ?」
皆の動きが止まっている中、アクアだけが果敢にもセナに食いかかる。
私を守るために……という訳ではなく、酒の邪魔をされたからといったところか。
「そうだ。タナカマイはどこにいる?」
「あんたカズマさんに続いて、マイまで捕まえる気?そう簡単にうちのマイは渡さないわよ!」
アクア!
私は不覚にもアクアに感動してしまった。
ただ、片手にジョッキを持っていなかったら、もっとかっこよかっただろう。
だが、そんな感動も直ぐに裏切られてしまう。
「マイ!あなたのことはこの私が守ってあげるからね!」
アクアはそんなことを言いながら、私めがけてサムズアップしていた。
直ぐにセナの鋭い眼光が私に向けられる。
私は苦し紛れに、さらに私の後ろを振り向いてみたが、そこは壁だった。
私が前に視線を戻せずにいると、両肩に手を置かれた。
そっと振り向くと、顔はそっぽを向いていたが、めぐみんとダクネスだった。
こいつら、まだ誤魔化せたかもしれないのに、トドメを刺したな!
「貴様がタナカマイだな」
「……は、はい」
言い逃れられるわけもなく、私はそう返事する他なかった。
『あれ?どうしてばれちゃったの?』といいつつ、周りをキョロキョロとしているアクアには、今度部屋に隠してあるお酒の中身を安物にすり替えるとしよう。
といっても、カズマみたいに捕まえられてしまってはそれも叶わないが。
さて、どうして私が検察官に探されなければならないのだろうか。
身に覚えが無さすぎて、逆に怖い。
「私が一体何をしたのでしょうか……?」
「貴様には今、20億の賠償請求がなされている」
「に、20億!?」
「ま、マイさん!あなた一体何をしたのですか!?20億ですよ!20億!」
私は隣にいためぐみんに、胸ぐらを掴まれて揺さぶられていた。
ただ、20億という途方もない金額に対する衝撃で、思考回路が停止している私には、揺さぶられていることしか出来なかった。
「検察官殿、20億というのは、さすがに何かの間違いではないのか?そもそもマイが一体何をしでかしたというのだ」
思考回路停止している私に代わって、ダクネスが言い返してくれた。
そう何度も言っているが、何も身に覚えがないのだ。
「20億という数字に間違いはない。タナカマイ、貴様は先日、デストロイヤーがこの街に襲来した際、穀倉地帯にいた、それに間違いはないな?」
穀倉地帯。
偶然とはいえ、デストロイヤーが来た際、そこに居たのは間違いではない。
今でも穀倉地帯を守れなかったことは悔やまれるが、それが一体何だと言うのだろうか。
「はい、間違いはありません」
「貴様はその際、デストロイヤーめがけて爆裂魔法を放った。間違いないな?」
「は、はい……」
それが一体何だと言うのか。
周りの人も検察官が言わんとしてる事が分かっていない様子だ。
「貴様は現在、デストロイヤーに対して、不用意に攻撃を行い、穀倉地帯の被害拡大の原因として、穀倉地帯に携わっていた者達から訴えられている」
そんな馬鹿な。
こんな馬鹿な話があっていいのだろうか。
私はただ、あの場所を守りたくて、ただそれだけだったというのに。
だが、その後なんと抗議しても受け入れてもらえることはなく、私は絶望のあまり、膝から崩れ落ちたのであった。
□□□□□□□□
「───っていうことがあったんだよ」
「……ど、どんまい」
俺はマイの話を聞き、返せた言葉はその一言だった。
俺も大概、事件やトラブルに巻き込まれやすいが、マイも大変だな。
あれ?でも待てよ。
「どうして、20億の賠償請求で領主への嫌がらせに繋がるんだ?」
「あー、それはね。ダクネスが教えてくれたんだよ。普通こういった領地の問題は領主が責任を負うはずだって」
「………それだけ聞いて領主に脅迫まがいな嫌がらせをしたのか?」
「………最初はどうして私に賠償請求がされるのか聞こうと思っただけだったんだよ?でも、取り次いで貰えず、会うことも出来なかったから……」
「からなんだよ!それだけで爆裂魔法を撃ったのか!?あんたはアイツらと違って、1人でいれば何も問題を起こさなかったのに、とうとうそこまで毒されたのか!」
マイは反省しているのか、特に何も言い返さず、顔を膝に埋めていた。
前々から影響を受けていたが、めぐみんの短気さが移ってしまったようだ。
借金に加え、さらなる問題児を抱えるというお先真っ暗な展開に頭を抱える。
そもそも国家転覆罪をどうにかしないといけないのだが…。
その時だった。
地面が震え、爆音が響く。
真夜中だったということもあり、署員も慌てふためいてる様子が聞こえてくる。
「カズマ…、カズマ…こっちよこっち」
そんな署員が慌てる音に紛れて、俺を呼ぶ声が聞こえる。
どうやらそれは、唯一ある窓から聞こえてくるようだ。
少し高い位置にあるその窓に目を向けると、
「アクアじゃないか」
「カズマ逃げるわよ!今めぐみんが爆裂魔法を撃ってくれたおかげで、署員は慌ててそっちに向かったわ」
そう言うとアクアは何かをこちらに向けて投げ入れる。
それを拾い上げると、それは1本の針金で…
「それで牢屋の鍵を開けて、カズマのスキルを使ってそこから逃げ出すの。それからは屋敷に向かって、急いで夜逃げの準備よ」
これでピッキングをしろと?
そんなこと簡単にできるのかと思いもしたが、それよりも気になることがある。
「逃げたりしたらそれこそ立場がまずくならないか?」
そう俺はまだ疑いの段階である。
だが、逃げでもしたら罪を認めるようなものだ。
「あんた国家転覆罪ってのは、最悪死刑らしいわよ?」
「……まじかよ」
さすがに無罪の罪で殺されたら、たまったものじゃない。
「それにカズマは知らないだろうけど、マイも大変なことになってるのよ。詳しくは後で話すけど、そのマイが昼間からどこかに行っちゃったのよ。あの娘どんくさい所もあるから、心配なのよね」
アクアにどんくさいと言われるなんて、俺なら耐えれないが、俺の正面にいるマイは、現にこうして捕まっているので、何も言えないのだろう。
「……マイさんならここにいるぞ」
俺の言葉に少し えっ? と驚いたアクアは、牢屋を覗き込み、牢屋の月明かりの当たらない、暗がりにいたマイを見つけた。
「ほんとマイじゃない。どこに行ったと思ったらこんな所にいたのね。でも流石ね。私達の作戦を見越して牢屋に先回りして中から手引きしてくれるのね!」
全く見当違いなことを言うアクアに対して、本当のことは恥ずかしく言えないのか、マイはそれを正すことなく、力なく片手をアクアに振り返しただけだった。
「じゃあ私は正面で待ってるから、逃げ出したら私のところまで来てね」
そう言うとアクアが立ち去る足音が聞こえる。
俺は先程アクアに貰った針金を手に、牢屋の入口に向かおうとすると、マイが入口の方を指さしていた。
そちらに視線をむけると………
ダイヤル式じゃねぇか。
俺はアクアが、覗いていた窓からその針金を投げ捨てた。
そして、布を被り寝ることにした。
横になる前にマイの方をチラッと見たが、既に布を被って寝ていた……。
………今更だが、同じパーティとはいえ、同じ牢に男と女を入れるとか、流石にまずくないか?
そんなことを考えたら、急にドキドキして眠れなくなってしまった。
なにこれ、なんかまずい。
俺はこれ以上このことについて考えるのは、良くないと思い、そこで寝息をたてて寝ているのはアクアだと思い眠ることにした………。
□□□□□□□□
カズマの裁判当日。
カズマの手に手錠がはめられ、牢屋から出される。
私はというと、最初は迷惑行為ということで、すぐに出れるはずだったのだが、どうやら領主が私もカズマと同様に、魔王軍の手先に違いないと騒ぎ出したらしく、未だ拘留中だ。
カズマはカズマで、取り調べの際に、嘘を見抜く魔道具によって、魔王軍との関係があると判断されたらしく、といっても関係があるのはウィズなのだが、とてもピンチらしい。
「じゃあいってくるよ」
裁判に緊張して眠れなかったのか、目の下にクマを作りながらも、力なく笑い、私にそう告げる。
そして牢屋を出ようとして、
「カズマ!」
私はカズマを呼び止め、彼の元に駆け寄る。
そして、手錠がはめられた手を取り、両手で包み込み、下を向き祈るように、
「頑張ってね」
と伝える。
手を放し、顔を上げ、カズマの顔を見ると驚いた表情をしつつも、少し照れくさいのか、顔を少し赤らめていた。
そして一言、「お、おう」と言い、牢屋から出て、連れて行かれた。
そんなカズマの姿を見送った後、私はそのままその場に立ったまま、聞き耳をたてる。
とても静かだ。
ここ数日と比べて。
おそらくカズマの裁判に少なくない署員が駆り出さられたのであろう。
私は捕まってから考えていたことを、再び思案し、そして決意する。
このまま捕まって裁判にかけられるのも、20億の借金を抱えさせられるのも、真っ平御免である。
私は先程、カズマの手を取り祈った時に確認した、ダイヤルの番号を合わせる。
すると小さく カチッ と音がして、錠が開いた。
それを確認すると、私はよくカズマが使うスキルの1つ、「潜伏」を使う。
日中なので、あまり効果は無いかもしれないが、使わないよりマシだ。
そして錠を外し、扉を開け………
私は脱獄した。
□□□□□□□□
マイが脱獄した。
その報せを聞いたのは、俺の裁判が丁度終わった時だった。
危うく、領主によって強引に死刑にされそうになったところ、ダクネスが口利きをしてくれたおかげで、潔白を証明する時間をもらうことが出来、ホット一息ついた所での報せだったため、なんとも言えない雰囲気になる。
「マイさんが脱獄するなんて……」
「くっ!……どうして私達に相談してくれなかったのだ」
めぐみんとダクネスは、アクアからマイが俺と同じ牢屋にいることを聞いていたみたいだが、この報せには動揺を隠せないようだ。
でも一体どうやって脱獄したのだろうか。
窓には鉄格子がはめられ、とてもじゃないが出られない。
なので出るとしたら、牢屋の出入口からとなるが、鍵はダイヤル式で番号を見ない限りは……見ない限り……
あっ!
俺はふと、俺が牢屋から出る時のことを思い出した。
あの時マイは、出入口の近くにいた俺に近づき、手を取り下を向いて祈っていた。
だが、あれは祈っているフリで本来の目的は、ダイヤルの番号を確認するためだったのか!
上手いこと利用されたみたいだ。
あの時の胸のときめきを返して欲しい。
屋敷への帰り道、俺の死刑回避で本来であれば、明るいムードで帰れたのであろうが、その空気は重い。
誰もが口を閉じ、静かに歩いていたのだが、いつも通り空気を読めないアクアが呟いた。
「マイがこのままいなくなっちゃったら、マイの借金はどうなるのかしら?」
……………俺達はさらに空気が重くなるのを感じた。