この素晴らしい世界にパー子を!   作:Tver

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仮面の悪魔

マイが牢屋を脱走してから数日。

どうやらマイは、上手く逃げているらしく、その足取りは一向に掴めていないそうだ。

俺はてっきり直ぐに捕まるとばかり思っていたので、少し驚いている。

 

……驚きつつも、日が経つにつれて、先日アクアが呟いた、『このままマイがいなくなると、マイの借金はどうなるのかしら』という言葉が、頭の中で反芻する。

ただでさえ多額の借金を背負っているのに、これ以上は無理だ。

このままだと、見てくれは良い3人のうちの誰かを身売りに……等という考えが頭をよぎるが、そんなことをするほど、俺、佐藤和真は冷徹な人間ではない。

………冷徹な人間ではないが、念の為に頭の隅っこには置いておこう。

 

兎も角、マイが未だ逃げていることを安心しているような、不安なような気持ちな俺達だが、こんな俺達にもここ数日色んなことがあった。

 

例えばめぐみんが使い魔と称してペットを屋敷に連れてきたり。

ちょむすけ、というなんとも可哀想な名前をつけられた漆黒の毛皮を持つその猫は……、背中に羽が生えてたり、口から炎を出すが、とても人懐っこく、俺の荒んだ心を癒してくれる。

………ただ、アクアのことはどうやら毛嫌いしているらしく、引っ掻いたりと全く懐かないのだが。

おそらくちょむすけは、心の綺麗な人が分かるのだろう。

 

他には、めぐみんの自称ライバルであるゆんゆんにピンチを救われたり。

ゆんゆんは、めぐみんと同級生とは思えない程のスタイルの持ち主で、更には上級魔法を操る、本物の紅魔族だ。

うちのなんちゃって紅魔族も、ゆんゆんのことを見習って欲し………い……、なんだか悪寒がするので、これ以上言うのは辞めておこう。

 

そういえば、なんちゃっ………めぐみんとは、ゆんゆんと会った日に、一緒にお風呂に入ったりもしたっけか。

今更ながらもう少し見ておくべきだったと後悔している。

………断っておくが、俺は断じてロリコンなどでは無い。

ロリコンではないが、男なら当然の感情である。

そういえば、あの時タオルの隙間から見えた模様みたいなのは一体……。

まぁその後、アクアに一緒風呂に入っていたことがバレて、しばらくロリニートと呼ばれたことは、忘れよう……。

 

つい先日は、ダクネスのお見合い騒動があった。

というのも裁判の時、俺を助けるために、領主のおっさんに対してダクネスが『なんでも言うことを1つ聞く』と提示したのだが、それに対して領主のおっさんが提案したのが、領主の息子、バルターとのお見合いである。

まぁこのお見合いも無事破談に………いや、惜しくも破談と言うべきか。

あのバルターってやつ、あの領主の息子とは思えない程の好青年で、ほんとに良い奴だったなぁ。

本当にダクネスを貰ってくれればよかったのに。

ダクネスとしては、全く好みではなかったようだが……。

…………あいつの性癖は、最早手遅れだろう。

 

………と、そんなことを考えているうち、だいぶ出来上がったな。

 

「ねぇカズマさん、これってひょっとしなくてもあれよね?」

 

俺の作業を隣で黙って見ていたアクアが、何か言っているが、そうあれである。

日本のことも知っているアクアは、俺が何を作っていたのか分かったのだろう。

 

「先程からずっと作業に集中していたので、何も言いませんでしたが、途中何かよからぬ事を、考えてはいなかったですか?」

 

俺の後ろからそんな言葉とともに、振り向かなくても分かる鋭い視線を感じた。

 

「……べ、別に考えてねぇーよ?」

 

俺は振り返らずにそう答える。

……別に振り返るのが怖かった訳では無い。

……訳では無い。

未だ後ろから鋭い視線を感じていると、

 

「これは一体何に使うものなのだ?」

 

本人はそのつもりはないだろうが、ダクネスの質問はまさに助け舟だった。

俺は立ち上がり答える。

 

「それは歩きながら説明するよ。みんなウィズの店に行くぞ」

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

俺達の借金は物凄い金額である。

それはもう、物凄いのだ。

どのくらい物凄いかというと、おそらく一国の国家予算並の金額にのぼっている。

もちろんそんな金額持ち合わせている訳が無いので、稼がねばならないのだが、アクセルで冒険者稼業なんかやっているだけでは、一生かかっても返せないだろう。

それはもう不死者のリッチーとかにならない限りは……。

 

もちろんそんなことはできないので、俺はかねてから画策していたことを実行に移すことにした。

そしてその手始めが、先程屋敷で作っていたのこの 「ライター」 である。

そう俺が始めようとしているのは、商売だ。

素人の俺がそんなことをして、上手くいくかは分からないが、冒険者登録する時に、冒険者になるより商人を勧められたぐらいなのだから、きっと上手くいくはずだ。

 

そして俺には成功させる自信があった。

この世界には魔法というものがある代わりに、道具はほとんど発展していない。

例えばこのライター。

この世界には『ティンダー』という火の魔法があるので、それを覚えていればとても便利なのだが、この魔法を使えない人は未だに火打ち石を使って火を起こしているそうな。

俺はそう言った発展していないところを、日本の知識を活かして道具を作り、金を稼ごうと考えたのだ。

 

ただ、店も何も持っていない俺がいきなり商売することも出来ないので、まずはこのライターをウィズの店に置いてもらうことにしたのだ。

 

そのために俺達は、いくつか作ったライターを手にウィズの店に向かっていた。

向かっているのだが……

 

「………いい加減、俺の真後ろを歩いて睨みつけるのは辞めてくれないか?」

 

俺は屋敷を出てから、ずっと俺の真後ろを歩いていためぐみんに文句を言う。

 

「私はただ、カズマの後ろを歩いているだけですよ?睨まれていると思うのは、何かカズマにやましい気持ちがあるからじゃないですか?」

 

「………悪かったって。ただ、ゆんゆんのことを思い出して、めぐみんと比べてただけだよ」

 

「………ゆんゆんと私を比べて、どうして私に対してやましい気持ちが生まれたのか聞こうじゃないか!」

 

俺は掴みかかってきためぐみんを、片手で頭を抑えつつ、宥める。

しばらくすれば落ち着くだろう。

だが俺のそんな考えとは裏腹に、めぐみんの勢いは直ぐになくなった。

その視線の先には、先程からライターをカチカチとさせてる、ダクネスの手元があった。

 

なるほど、めぐみんもライターが気になるようだ。

俺はいくつかあるライターから、1つ手に取るとそれをめぐみんに渡した。

 

めぐみんはそれを受け取り、早速カチカチとさせると、火が出る度に『おぉ』と感嘆の声をあげていた。

 

「カズマの作ったこの魔道具は、とても便利ですね。これがあれば旅がとても楽になりますよ」

 

まぁ魔道具ではないのだが。

 

「あぁ、カズマにはたまに驚かされるが、一体どうやってこんなものを思いつくのだ?それにしてもこの火はどれくらい熱いのだろうか。この火を私の肌に近づけたら……………んんっ!」

 

後半は何を言っているのか分からないが、褒められて悪い気持ちはしない。

 

「カズマさんったら、少し褒めらただけで顔がニマニマしちゃってるけど、2人にこれはカズマの国にあったものを真似ただけだって教えていいかしら?まぁでもカチカチするのは楽しそうね。私にも1つもらえるかしら?」

 

「だめだ」

 

「どうしてよー!」

 

「お前俺がこれを作ってる間、ずっとゴロゴロしてただけじゃねぇか!めぐみんやダクネスは色々と手伝ってくれたんだぞ!欲しければウィズの店に置いたやつを買うんだな!」

 

「1つぐらい別にいいじゃない!このケチ!クズ!ロリコン!」

 

「ロリコンはやめてもらおうか!?」

 

俺はライターの入った籠をダクネスに押し付けると、アクアに掴みかかる。

アクアはそれに対抗するように俺に掴みかかる。

この駄女神は今日こそは折檻してやる!

そしてアクアと掴み合いの喧嘩をしていると、ふと、アクア越しに黒髪長髪の女の人が目に入る。

一瞬マイかと思ったが、直ぐにそれは人違いだと気づいたが、その時には既にアクアへの怒りは削がれていた。

様子が変わった俺を不思議に思ったか、アクアも俺の視線の先に振り返り、俺が何を見たのか理解したらしい。

俺とアクアはお互いに矛を収める。

 

「マイさんは一体どこに行ってしまったのでしょうか……」

 

めぐみんが俺達皆が思っていることを口にする。

本当にどこに行ってしまったのか。

少しでも俺達を頼ってくれたらいいものを。

俺はそんなに気持ちとは裏腹に、

 

「そのうちひょっこり帰ってくるさ」

 

少し突き放したことを言い、俺のその言葉を最後に、ウィズの店につくまでは誰も口を開かなかった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

お店の扉を開けると、そんな明るい声が俺達を迎えてくれた。

 

「よぉ、ウィズ」

 

俺が店に入り、店内の様子を伺うと、いつも通り他の客はいないようだ。

 

「あら、皆さん!今お茶をいれ…ます……ね?」

 

「どうかしたのか?」

 

ここは魔道具店なので、お茶は出さなくていいといつも思うのだが、今日はそんなウィズの言葉の歯切れが悪かった。

 

「いえ、今日はマイさんはご一緒じゃないのかなと思いまして…」

 

「「「あぁ……」」」

 

皆の声がハモり、少し空気が重くなる。

………いや、アクアだけは既に席に座り、お茶が出るのを待っていたが、どうやらウィズは、マイの現状を知らないらしい。

 

「マイさんは今、逃亡中の身なんだ…」

 

「えぇぇ!?」

 

ウィズはとても驚いた様子だ。

まぁ確かに急にそんなことを聞いたら、普通は驚くだろう。

 

「つい先日、お店にお越しになったばっかりなのに……一体何があったのですか?」

 

「…………なんだって!?」

 

ウィズの言葉に驚きのあまり皆の動きが止まる。

マイが捕まる前にウィズの店に行ったという話を聞いていないので、おそらく、マイがこの店に来たのは脱獄した後ということだ。

思わぬ所でマイの足取りを掴んでしまった。

そして皆の動きが止まる中、1人動く影が。

 

「とりゃぁぁ!」

 

それは今まで席に座っていたアクアだった。

アクアはウィズに掴みかかると、直ぐにマウントをとっていた……。

なんかデジャブだ。

 

「アクア様!やめてください!私消えちゃう!」

 

「おいアクアなんでいきなり掴みかかったりなんかしてるんだよ」

 

俺はどうせ下らない理由だと思いつつ、とりあえず聞いてやることにした。

 

「きっとこのリッチーが、うちのマイを悪の道に引きずりこんだのよ!そうに違いないわ!さぁ白状しなさいリッチー!」

 

それは案の定突拍子もないことだった。

そもそもまだ逃げているだけで、マイが悪の道に行ってしまった訳でもないのだが。

そんなアクアに対して、ウィズは頑張って潔白を証明していた。

 

「誤解です!私はそんなことはしていませんー!私はただ『テレポート』の魔法を教えて欲しいとのことだったので、教えただけです!」

 

「な!?『テレポート』をマイさんが覚えたのですか!?『テレポート』といえば、使えるだけで職には困らないと言う程使える人が少ない高等な魔法なのですが……」

 

「えぇ、1度教えただけで直ぐに習得されていましたよ」

 

「なるほど、どうりで足取りが掴めない訳だ。既に『テレポート』でアクセルから離れたのであろう。ウィズ、『テレポート』を教える際にどこかに連れて行ったりはしなかったか?」

 

「あぁ、はい。私が登録していた王都に一度連れていきました…」

 

「ほら!言ったじゃない!このリッチーがマイの逃亡を手助けしたのよ!」

 

「いや、逆に捕まらずに逃げれてるのはウィズのおかげということではないか?ただ、逃げて欲しくはないのだが……」

 

ダクネスの言う通りだろう。

アクアもダクネスの言い分を理解したのか、しぶしぶウィズを解放する。

ただここまで手際よく逃げるだなんて、マイはそんなに頭の回る人だっただろうか。

俺はマイの手際の良さに少し違和感を覚えつつも、ここに来た本来の目的を思い出す。

 

「そうだ、ウィズ。これこの前話していたやつなんだが。店に置いてもらってもいいか?」

 

「えぇ、もちろん!」

 

その言葉を聞き俺は、ライターの入った籠を店の一角に置かせてもらう。

これで本来の目的は達成した。

あとはこれが売れてくれるのを祈るばかりである。

 

その後俺達は、ウィズに出してもらったお茶を飲みつつ、商品を少し見て、……なかなか酷いものばかりだったが、屋敷への帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□

 

 

 

暗いし寒いし、少し薄気味悪いが、隠れ家としては申し分ないだろう。

私はとある部屋の中で、王都で買った毛布にくるまりながら、座っていた。

王都の物価の高さには驚かされたが、買って正解だった。

これがなかったかと思うと……、考えるだけで寒くなるのでこれ以上は辞めておこう。

 

───あの日、私は脱獄に成功した。

私の睨んだ通り、多くの署員が、カズマに同行したらしく、警備は手薄だった。

私はそんなざる警備を、易々と掻い潜って脱獄を果たすと、アクセルのある場所、ある人に一目散に会いに行く。

高名な魔法使いである彼女であれば、私の教えて欲しい魔法を知っているだろうと考えたのだ。

そうウィズである。

 

ウィズの店に着いた私は、はやる気持ちを抑え、いつも通りを装い、扉を開ける。

 

「あら、マイさん。いらっしゃいませ。今日はお1人なんですね」

 

「そうなの。たまには1人で来るのもいいかなって」

 

「もちろん歓迎しますよ。あ、今お茶を出しますね」

 

とても魔王軍の幹部にしてリッチーには見えないな、と思いつつ、出されたお茶を飲みながらウィズと世間話をする。

そして世間話をしながら、今ふと思ったかのように、ウィズに聞く。

 

「そういえば、ウィズって『テレポート』とかって覚えてるの?あれがあれば直ぐに移動ができて楽そうだね」

 

「もちろん覚えてますよ?なんならお教えしましょうか?」

 

「ほんとに!?」

 

さすがはウィズである。

なんだか少し騙しているようで、後ろめたいが、ここはウィズの好意に甘えておこう。

 

「えぇ、もちろん。まぁお客さんもあまり来ないので、少しの間であればお店を開けていても大丈夫だと思いますし……」

 

「………なんか買えたらいいんだけど、今あまりお金持ってなくて…」

 

いつか必ず沢山買ってあげようと心に決める。

 

「いえいえ、そんな構いませんよ!今準備してきますね」

 

その後私はウィズに、『テレポート』で王都まで連れてきてもらい、無事に私も『テレポート』を覚えた。

そして直ぐにアクセルへと帰ったのだが、ウィズがアクセルの門の外をテレポート先に登録してくれていて大変助かった。

 

というのも、王都で必要なものを揃えた後に、再びアクセルに戻ってくるつもりだったのだ。

ただその際に、アクセルでの登録先が街の中だと、用があるのはアクセルの街の外なため、門をくぐる必要があったのだ。

そして私はてっきりウィズは、お店の近くをテレポート先として登録していると思っていた。

なので、逃亡の身でありながら、門をくぐるという危険な行為を覚悟していたので、これは嬉しい誤算だった。

 

ということで私はアクセルの門の外をテレポート先に登録すると、アクセルの街に帰るウィズに別れを告げ、直ぐに王都に覚えたての『テレポート』で向かったのだった。

 

 

───逃げている途中は兎に角必死で、あまり考える余裕もなかったが、改めてこう落ち着くと、カズマ達には少し申し訳なくなる。

私が逃げたことで、何か厄介に巻き込まれてなければいいのだが……。

 

まぁ既にしてしまったことを悔やんでも仕方がない。

それに私は1人になる必要があったのだ。

捕まっていなくても、どの道姿をくらませていただろう。

 

それもこれも、あの領主、アルダープの悪事を暴くために。

私は牢屋でカズマと話していた時、1つ彼に嘘をついた。

特段隠すようなことでもなく、ただ、話す必要が無いと思っただけなのだが。

 

私はダクネスの話を聞いて、直ぐに領主が泊まっている宿に向かったと話したが、実はその前にある所に寄っていた。

 

それはデストロイヤーによって蹂躙されてしまった穀倉地帯。

私はどうしても、穀倉地帯の人が私に対して賠償請求をしたということに納得がいかず、直接話を聞くこうと考えたのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

穀倉地帯………だった場所につき、辺りを見渡す。

当時は落ち着いて見渡す程余裕もなかったので、改めて見るととても悲惨なものだ。

 

以前の面影はどこにもなく、ただ荒れた大地が広がるのみ。

デストロイヤーが通った後は草も残らない、というのは本当だったらしい。

 

だが、荒野と成り果てたにも関わらず、多くの人が作業を行っている。

鍬で土を耕す人。

荒れた土地に栄養のある土を振りまいている人。

 

皆が皆、この土地の復興に取り組んでいるようだ。

私もこんな状況でなければ、手伝いたいのは山々なのだが、今はやることがある。

 

そしてしばらく辺りを見渡していると、荷車の近くで休んでいる人に目がいく。

あの人は……!

 

「おじさん!私の事覚えてますか?」

 

そう私が見つけたのは、あの時、デストロイヤーの前でただ呆然と立ち尽くしていた私を助けてくれたおじさんだった。

 

「お前さんは……あの時の冒険者の嬢ちゃんか!あぁ覚えているとも」

 

私は私の事を覚えてくれていたおじさんの横に座り、話をした。

あの後アクセルの街は守られたこと。

そして私の仲間が、街を守るのに活躍したことなど。

 

おじさんは私の話を笑いながら聞いてくれていたが、やはりどこか元気がないように見える。

おそらく日々の復興作業で疲れているのだろう。

だが、私はここに来た本来の目的を果たせねばならない。

そのために私は意を決して、おじさんに質問をする。

 

「おじさんはこの土地の人達が、私に対して賠償請求をしているのは知ってますか?その、普通は領主の人が責任を負うって聞いたのですが、どうして私なのか、もし知っていれば教えて欲しくて……」

 

私がそう質問すると、少しおじさんの雰囲気が変わったように感じた。

 

「あぁ、知っているさ。俺もその1人だからな。だが、仕方がないんだよ。最初はもちろん領主様にお願いしたさ。復興資金を恵んでくれと。だけど領主様は聞いてくれなかった。代わりにこう言ったんだ。『デストロイヤーを刺激した馬鹿な冒険者に請求するんだな』って。だからあんたに請求するしかなかったんだ」

 

おじさんはそう告げると、作業に戻ると言って荷車を引いて、行ってしまったのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

私はおじさんの話を聞いた後、ずっと何かが引っかかっていた。

そんな馬鹿な話があるのかと。

そして直ぐに、やはり何かおかしいと感じた。

そう、普通であればこんな話は通じるはずがない。

普通であれば。

 

あの領主は、何かおかしい。

これは以前ギルドのお姉さんに聞いた話なのだが、私達が最初に多額の借金を背負う原因になった、デュラハンの住み着いていた廃城の修繕費だが、あれの所有権を主張したのも、どうやらあの領主らしい。

だがギルドのお姉さんはこうも言っていた。

『確かに遡れば、最後に所有していた貴族の末裔なのですが、あまりにも昔で普通であればこんなのは認められないんですけどね……』と。

 

更にはカズマの件もある。

普通は、デュラハンを討伐し、デストロイヤーから街を守ったカズマに、魔王軍の手先などという疑いをかけるだろうか。

まぁこれに関しては屋敷を破壊されたという恨みもあるのだろうけど………。

 

それにしてもあの領主の周りでは、普通ではない事が起きすぎている。

きっと何かあるに違いないと、確信した私はその真相を暴いてやると心に決めた。

 

ただ、最初の手が真正面から領主を訪ねるというのは、愚策だったなぁ。

その後の脅迫………もとい抗議はもっとまずかった。

そのせいで捕まり、脱獄なんてするはめになったのだが……。

 

今度はもっとマシな方法を考えよう……、とその方法を考えている時だった。

 

この部屋の唯一の出入口である、隠し扉が開かれた。

私は、この部屋には誰も来るまいと、たかを括っていたので、驚きのあまり思考が停止する。

そしてそこに立っていたのは、

 

「うむ、主がいないようだったので、もうここでいいかなと思い、ここまで来てみたのだが……、よもや先客がいようとは…」

 

手で顎を触りながら、こちらの様子を伺う、タキシードに仮面姿という、いかにも怪しい男だった。

 

 

 

 




ゆんゆん回とダクネスお見合い回は、都合上割愛です。
あと、キールダンジョンは、デストロイヤー前に潜っていたことにしています。

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