「サトウカズマー!サトウカズマはいるかー!!??」
それは俺達が、ウィズの店から帰ってきて、ゆっくりしようと丁度一息ついた時だった。
最近聞き慣れたその声と共に、屋敷にセナが入ってくる。
「今度は一体何なんだよ。またカエル討伐か?この前充分倒しただろ?」
屋敷にやってきたセナの様子は少し鬼気迫るものがあったが、どうせ前回と同様にカエルとか、そういったことだろう。
……というのも、俺の裁判が終わったすぐ後に、今回と同じようにセナが屋敷に怒鳴り込んできたことがあった。
その時は、俺を逃がすためにめぐみんが真夜中に放った爆裂魔法の影響で、冬眠から出てきたカエルの討伐をやらされたのだ。
だからどうせ、またそのようなことだろうと、俺はタカを括っていた。
だが、俺の予想は裏切られる。
「貴様、自分の仲間であるタナカマイが現在逃亡中というのに、随分と落ち着いているな。そうでなくても、保護観察処分の貴様の立場は危ういというのに。……それよりもだ!貴様ダンジョンで一体何をした!?」
「……ダンジョン?」
セナの口からダンジョンという思いがけない単語が飛び出し、頭に疑問符が浮かぶ。
俺達が関わったダンジョンと言えば、あのリッチーがいたキールダンジョンぐらいなのだが……。
「そうだ、ダンジョンだ!現在アクセル近郊にあるキールダンジョンに、新種のモンスターが現れるという異変が起きているのだ」
どうやらキールダンジョンのことらしいが、新種のモンスター?
「………それが俺らとどういう関係があるんだ?」
「聞いた話によると、あのダンジョンに潜ったのは、貴様らが最後だそうだ。その時に何かしでかしたのではないのか!?」
「………それだけで俺らのことを疑ったのかよ!理不尽にも程があるだろ!前回のカエルは確かに爆裂魔法が原因だったかもしれないが、今回は全く関係ないぞ!?」
俺の言葉に、傍らで俺とセナの話を聞いていた皆が、コクコクと頷く。
いつも何かと、しでかすこいつらだが、今回ばかりは関係がないようだ。
………本当にないんだよな?
俺の心配とは裏腹に、皆の様子を見て、俺達は関係ないようだと判断したセナは少し態度を和らげる。
「……どうやら本当に関係はないようですね。きっとあなた達が何かしでかしたと思っていたのですが……。しかしこうなると誰かを調査のために雇わないといけませんね………」
セナはそんなことを言いつつ、1人で思案する素振りを見せながら、チラチラとこちらを伺っている。
……おい、まさか!?
「その調査を俺達でやれってか!?」
「まさか検察官殿が、疑いを掛けた相手に、調査協力を依頼するだなんてことはありませんよね?」
俺と同じくセナの意図を理解しためぐみんが、追い討ちをかける。
めぐみんの言う通りだ。
それは都合が良すぎるというものだ。
「……あなた達は分かっているのですか?現在サトウさんだけではなく、逃亡中のタナカマイにも魔王軍関係者との疑いがかけられているのですよ?領主殿の要請で近々タナカマイには、懸賞金もかけられる予定です。そのような中で、検察官である私に恩を売っておいて損はないと思うのですが?」
まさかの切り返しにぐうの音も出ない……。
セナがこんなことを言い出すとは。
それにマイに懸賞金がかけられるだなんて………。
俺達はしぶしぶ、調査依頼を受けることに。
俺達が依頼を受けると聞いたセナは、満足そうに『それでは私は、ギルドでも人を集めて参ります』と言い残し、屋敷をあとにした。
……ギルドで人集めるなら俺達いらないのでは、と思った時にはセナの姿は見えなくなっていた。
マイが逃亡なんてするから、厄介なことに巻き込まれてしまった。
見つけた時には、ものすんごい目にあわせてやろう。
一体どんな目にあわせてやろうか……。
………それよりも今は、とりあえずダンジョンの異変を何とかせねば。
新種のモンスターか。
俺は先程の不安を思い出す。
セナは俺達には関係ないと判断したようだが、念の為再確認しておこう。
俺はそれぞれ準備をしている皆の方に振り返る。
「一応確認しておくが、今回の件、本当に心当たりはないんだよな?」
「爆裂魔法絡みでなければ、心当たりはないですね」
「私も2人とは違って普段から問題は起こさないようにしている。なので心当たりはないな」
めぐみんとダクネスは、どうやら大丈夫のようだ。
元よりこの2人はあまり心配していなかった。
本命は………
「私も関係ないわよ?………あんたその目私のこと疑ってたでしょ!」
どうやら今回に限ってはアクアも関係がないらしい。
俺は何の根拠もなく、アクアを疑ってしまったことを心の中で謝罪を、
「あのダンジョンに関しちゃむしろ、私のおかげでモンスターは寄り付かないはずよ?」
謝罪をしようとしたが、俺はアクアの言葉を聞き、両肩を掴んだ。
「おい、今なんつった!?」
「急にどうしたのよ?だからね、あのリッチーを浄化するために使った魔法陣があったでしょ?あれは本気も本気。今も効果を発揮して、モンスターを寄せ付けないようにしているのよ!」
そんなことを自慢気に述べるアクア。
だが、それを聞いた俺は、
「この馬鹿がぁぁぁ!!!」
怒りのあまり、そう絶叫しながら、アクアの頭をひっぱたいていた。
□□□□□□□□
「───今回は私、悪くないはずなのに……」
アクアは泣きながらそう言うと、俺に叩かれた頭を抑えていた。
自分でヒールをかけていたので、もう痛くも無いはずだが……。
俺への抗議のつもりだろうか?
「お前は何か余計なことをしないと気が済まないのか?確かに今回の件とは関係無いかもしれないが、そこにお前の魔法陣があること自体が問題なんだよ」
そう、アクアが作った魔法陣があるということが問題なのだ。
それが原因かどうかは関係ない。
それがあるということだけで、何かしらのいちゃもんをつけられる可能性があるのだ。
俺達は証拠隠滅のため、手早く準備をすると、直ぐにキールダンジョンへと向かっていた。
理想としては、セナがギルドから冒険者を連れてくる前に、ダンジョンへと潜ってしまいたいのだが……。
俺達がダンジョン前に到着すると、そこには既にセナ達が到着していた。
厄介なことになってしまった。
「サトウさん!遅かったですね。依頼を受けながら来ないのかと思いましたよ」
「依頼を投げ出す訳がないじゃないですか。街を危険から守るのが冒険者の役目ですからね」
「…………とりあえずご協力感謝します」
俺の本音が疑われているようだが、今はそれどころじゃない。
どうにかして魔法陣を消さねば……と、考えているとダンジョンの入口から出てくる珍妙なモンスターに気づいた。
あれが新種のモンスターか。
それは一言で言うと、仮面人形。
仮面をつけた膝の高さほどのサイズの人形が、二足歩行でダンジョンから次々と出てきていた。
あれをどうにかしつつ、魔法陣を消しに……消しに……あっ。
俺はそこでふと思いついた。
別に消しに行かなくてもいいし、あいつらがダンジョンから出てこれなくすれば良いのではと。
よしこれで行こう。
「おい、めぐみん。魔法の準備だ」
「サトウさん、一体何を?」
「いや、あいつらが出てきて困っているなら、入口を塞いでしまって、出てこれなくしようかと」
「ちょっと待ってください!ちゃんとダンジョンに潜って原因究明をお願いします!」
どうやら俺の作戦ではダメらしい。
ならば直接潜って消すしかないのか……。
俺は準備をさせためぐみんに、ステイの合図を送ろうとめぐみんを見ると、俺達の会話を聞いていたのか、既にしょんぼりとしていた。
………していたが、時折入口と杖を交互に見ている。
「撃つなよ?」
「……………………もちろん撃ちませんよ?」
「おいその間はなんだ!?絶対に撃つなよ!?」
俺がめぐみんを制止している傍らで、アクアが仮面人形に向けて石を投げようとしていた。
「あの人形、なんだか生理的に受け付けないんですけど」
俺はめぐみんを宥めつつ、アクアがまた何かやからさないか、心配になって視線を向ける。
すると、アクアに気づいた仮面人形が、アクアに近づいて………脚にしがみついた。
しがみつかれたアクアはというと、
「……甘えてるのかしら?見てるとなんだかムカムカする人形だけど、ちょっと可愛らしく………ってこれなんだかだんだん、熱くなってきたんですけど!すごくまずい気がするっ───」
そこでその仮面人形は爆発した。
「あのモンスターは、ああやって人に取り付き、自爆する習性を持っています」
「なるほど、確かに厄介だ」
俺はセナの説明に相槌を打っていた。
「どうしてそんなに冷静なのよ!」
爆発を受けたアクアはというと、少し煤けていたが、無事なようだ。
俺がアクアの様子を確認していると、隣にいたセナが懐から札を取り出して俺に渡してきた。
「サトウさん、これは強力な封印が込められた札です。これをモンスターが湧き出ていると思われる魔法陣に貼って、それを封印して下さい」
俺はその札を受け取ったが……。
アクアは知力こそパーだが、他のステータスは優秀だ。
そんなアクアが、あれだけの衝撃を受けた爆発をどう対処すべきか……。
俺がそんなことを悩んでいると、不意にダクネスが、仮面人形達の前に出る。
「おい、そんなことしたらっ──」
俺の制止虚しく、前に出たダクネスに仮面人形が飛びつき、自爆する。
………自爆したのだが、その爆発を受けたダクネスはピンピンしていた。
「うん、これなら大丈夫だ。私が露払いとして前に出よう」
さすがはダクネスさんといったところか。
普段はド変態クルセイダーだが、こういう時には役に立つ。
「私はダンジョンの外で待機していますね。ダンジョンでは足手まといになりますし」
確かにめぐみんは、地上待機がいいだろう。
……となると、
「私もここで待ってるわね」
「おい、お前は一緒に行くんだよ!」
目を向けるやいなや、そんなことを言い出したアクア。
「……嫌。ダンジョンは嫌なの。どうせまたダンジョンの奥でおいてけぼりに……」
目の焦点があってない程に動揺するアクア。
どうやら以前のダンジョン探索がトラウマになってしまったらしい。
まぁそれもこいつが悪かったのだが。
アクアがダメということになると………
「……ダンジョンでカズマと2人きり…。モンスターよりカズマの方が怖いのだが……!」
怖いと言いつつ、少し頬を赤らめているこいつにも、ダンジョンでトラウマを植え付けてやろうか。
……とりあえず人選が決まった俺達は早速ダンジョンに潜ることに。
俺とダクネス以外には、セナが連れてきた冒険者が数名ついてくるようだ。
アクアの魔法陣を消すためには、どうにかしてついてくる冒険者達を撒きたいのだが………と、後ろの冒険者達を気にしていると、前方から、
「───当たる!当たるぞ!こいつら私の剣でも当たるぞ!」
そんな言葉が聞こえて、そちらを見ると、ダクネスが嬉々として、仮面人形を斬っては、爆発させ、斬っては、爆発させを繰り返し、1人突っ走っていた。
俺はそんなダクネスについて行く。
すると、だんだん後続の冒険者との距離が開き……、横からはどんどんと仮面人形が飛び出し、後続の冒険者達を襲っていた。
「よし!ダクネス!そのまま進め!」
これをチャンスとばかりに、俺はダクネスに前進を指示し、突っ走るダクネスの後ろを追いかけ、後続の冒険者達を撒くことに成功したのであった。
それにしても、仮面人形を斬りまくるダクネスはとても嬉々としていて………。
そんなにモンスターが斬れることが嬉しいなら、両手剣スキルを取れよ………。
俺は切実にそう思った。
□□□□□□□□
ダンジョンの最深部。
俺達はその手前まで辿り着き、後はこの角を曲がれば、あのリッチーがいた部屋なのだが……。
「どう考えてもあいつがあのモンスターの主だろ」
そこにいたのは、ダンジョンには適さないタキシード姿であぐらを組み、仮面人形と同じ仮面を付けて座っている怪しげな男。
そいつは足元の土を捏ねては、あのはた迷惑な仮面人形を作っていた。
あの仮面男をどうにかしないと、部屋に辿り着けないのだが………と、考え込む俺をよそに、ダクネスが1人その男の前に飛び出す。
「貴様そこで何をしている。その人形を作っているということは、貴様がこの騒ぎの元凶ということでいいのだな?」
勝手に飛び出しやがって!
俺も仕方がなしに、ダクネスの後を追い、大剣を構えるダクネスの後ろで、身構えた。
仮面男はというと、ダクネスの声を聞き、ようやく俺達の存在に気づいたのか、こちらを値踏みするような視線で少し観察した後、ゆっくりと立ち上がった。
座っていて分からなかったが、そいつはかなりの大柄で、ただなら雰囲気をまとっている。
そいつは仮面の目の部分を赤く光らせ、俺達を見つめると、不敵な笑みをうかべた。
「……うむ、よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ!いかにも、我輩こそが諸悪の根源にして元凶、魔王軍の幹部にして、悪魔達を率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔……バニルである」
やばそうなやつが出てきた!
「おい、ダクネス逃げるぞ!」
こんな大物、2人では無理だと判断した俺は、踵を返し、逃げようとする。
だがダクネスは、
「何を言っている!女神エリス様に仕える私が、魔王軍の幹部、ましてや悪魔と聞いて引き下がれるか!」
こいつ!こういう時に限って頑固なところを見せやがって!
俺は逃げ出そうと踏み出した脚を踏み止め、バニルと対峙する。
バニルは特に武器も持たずに、ただ仁王立ちしているだけだが、全く隙が見えない。
本当にこんな大物、俺達だけでどうにかできるのか!?
俺が焦りを募らせる中、そいつは口を開いた。
「まぁ待て。落ち着くが良い。魔王軍の幹部と言っても、城の結界を維持するだけの……………ほう」
何かを言いかけたバニルはそこで言葉を止めると、俺達のことを今まで以上に観察する。
こいつは一体何なのだと困惑していると、突然、
「フハハハハッ!フハハハハハハ!そうか!そうか貴様らがあの愚痴娘の言っていた『スティール』を使う度に異性の下着ばかりを剥ぎ取る変態小僧に、腹筋が割れ始めたことを気にしている筋肉娘だな!」
そんなことを突然言い出し………
「っておい!それ誰から聞いたんだよ!間違ってないけど、誰から聞いたんだ!」
「べ、べ、べ、別に、ふ、腹筋、腹筋なんか割れてないぞ!」
「いやはや、せっかく見つけたダンジョンに、迷惑な魔法陣と喧しい娘がいた時は難儀もしたものだが………久しぶりに城の外を出歩くというのもいいものだな!それに変態小僧と筋肉娘がここにいるということは、この奥の部屋にある迷惑な魔法陣を張ったプリーストも地上にきているのだな!どれどれ少し拝見……」
なんだか急にテンションのあがり出したバニルは、そう言うと少し黙り、仮面の奥に見える、その赤い瞳で俺のことを凝視する。
それよりも、さっきの発言。
こいつ、アクアのことを知ってるのか!?
「……見える……見えるぞ!この迷惑な魔法陣を張ったプリーストが、ダンジョンの入口で茶を飲んでくつろいでいる姿が見えるわ!」
「あのバカ!俺達がこんな目にあってる時に!」
戻ったらアクアには、もう一度ダンジョンに潜らせてトラウマを思い出させてやる!
だがそれよりも、やはりこいつアクアのことを知っている!?
一体どうして……。
「フハハハハッ!我輩は先にも言った通り、見通す悪魔。汝らのことを見通すなど非常に容易い。そして我ら悪魔族にとって、悪感情を生み出す汝ら人間はまさしくご飯製造機。そんな汝ら人間は殺さぬが鉄則の我輩であるが……それはあくまで“人間”の話…………。こんなはた迷惑な魔法陣を作った忌々しいプリーストに、キツイの一発食らわしてくれるわ!さぁそこをどいてもらおうか冒険者よ!」
こいつ今、“人間”を強調したよな……。
ということはつまり、アクアの正体まで分かって………!?
「ダクネス!来るぞ!」
「ここは私に任せろ!お前は私の後ろに──」
「ダクネス!!」
ダクネスの言葉はそこで、バニルの手刀によって遮られる。
今までダクネスが立っていた場所にバニルが立っており、ダクネスはバニルの手刀で気絶させられ、地面に倒れてしまっている。
あのダクネスが一撃で倒されるだなんて。
それに動きが全く見えなかった。
これはとてつもなくやばい!
俺は剣を構えつつ、反対の手を身体の後ろに隠し、効かないだろうとは思いながらも、静かに『クリエイトアース』を唱え、手の中に土を準備する。
バニルは俺に視線を合わせたまま、ゆっくりと1歩近付き…………そして小さく両手を上げる。
それはまるで戦意がないことを示しているようで……
「まぁ落ち着くが良い、異界の地より来たりし小僧よ。ここはひとつ、我輩と取引をしようではないか」
バニルは今までで一番口元をニヤリと歪めながら、そんなことを俺に告げたのであった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
また、お気に入り、誤字報告等もありがとうございます。
余談ですが、今このすば総選挙してますね。
筆者は、アクシズ教となって、毎日アクア様の50ptのボタンをポチポチ押しています。
皆さんは誰に投票してるのでしょうか?
結果が楽しみですね。
以上余談でした。