この素晴らしい世界にパー子を!   作:Tver

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逃亡犯との再会

「冒険者サトウカズマ殿!ここに貴殿の活躍を表彰するともに、あらぬ嫌疑をかけてしまったことに対して、深く謝罪を───」

 

セナの声がギルドに響く。

俺はセナの目の前で、その言葉を受けていた。

そう俺は………

 

「──機動要塞デストロイヤー及び、魔王軍幹部バニルの討伐報酬から、借金を差し引いた残り───」

 

あのバニルを討伐し、

 

「金4000万エリスを与えます!」

 

借金生活からの脱却に成功したのだ!

 

 

俺にかけられた魔王軍との関係者ではないかという嫌疑は、バニル討伐に貢献したことにより見事に晴れた。

長く苦しかった、借金生活。

理不尽にも処刑されそうになったこともあった………。

そんな生活とも今日でおさらばなのだ!

 

だが、俺は素直に喜べないでいた。

何とも皮肉な話ではないだろうか…………

 

魔王軍関係者ではないかという嫌疑を、魔王軍幹部との取引の結果、晴らすことが出来たのだから。

 

そう俺はあの時、バニルとの取引に応じたのであった────

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「───取引だと!?」

 

「だからそう身構えるでない、小心者の小僧よ。汝が想像しているような魂と引き換えにするような取引ではない。先にも言ったが我輩は人間は殺さぬを鉄則としておるのでな。我輩も小僧もハッピーで!ウィンウィン!な取引であるぞ?」

 

とても胡散臭い。

ただ、現実的に考えて、この状況で取引に応じる以外の手立てはあるだろうか。

ダクネスの意識があれば、取引なぞ言語道断と斬りかかっていただろうが………

 

俺は佐藤和真。

冷静な判断ができる男だ。

 

「………とりあえず話をきこうじゃねぇか」

 

俺のその言葉を聞くと、その悪魔は不敵な笑みをうかべ、

 

「フハハハハッ!フハハハハハハ!汝であればそう答えると分かっておったぞ。なーに、取引は単純。ある条件をのむのであれば、我輩を討伐させてくれようではないか!」

 

「はぁ!?」

 

こいつ今なんつった!?

自分を討伐させてくれるだって!?

それは俺にとっては願ってもないことだが………

 

「その自分の命と引き換えにする条件ってのは、一体何なんだよ……」

 

魔王軍幹部でもあるこいつを討伐させてくれる代わりとなる条件。

一体どんな要求が待ち受けているのか。

 

「小僧も知っておるのであろう?アクセルの街で働けば働くほど赤字を生み出す、世にも奇妙な魔道具店のことを」

 

働けば働くほど赤字を生み出す魔道具店………

そんな店といえば、ウィズの店しか……

あっ!そう言えばウィズも魔王軍の幹部だった。

おそらくウィズとバニルは知り合いなのだろうが、今それがどんな関係があるんだ?

 

「その店に小僧が持ちうる限りの知識を提供する。ただそれだけでいいのだ!」

 

「それってつまり……」

 

俺の持ちうる限りの知識………つまりライターとか、俺が日本で見てきた知識のことか!

見通す悪魔には、俺が異世界から来たということまで、何でもお見通しのようだ。

ただそれを全て提供かぁ。

この知識をもって一財産築くつもりだったのだが……

俺がそんなことを悩んでいると、

 

「何も無償で提供しろと言っているのではない。ただ、通常よりも格安で提供してもらうだけだ。この状況を打破できるのだぞ?悪くはなかろう?まぁそもそも貴様に選択肢なぞないのだがな。フハハハハハハ!」

 

確かにバニルの言う通り、俺にはこの取引に応じなければ、こいつを倒す手立てはないだろう。

そう倒す手立ては。

逆に言えば、この条件をのめさえすれば、バニルを討伐できるのだが………

 

「……それを承諾したとして、お前がすんなり討伐される保証はあるのか?それに、この取引にお前のメリットを全く感じないんだが……」

 

「その点は安心するが良いぞ、小僧よ。我ら悪魔族は契約には特にうるさくてな。取引に応じるのであれば…………、まぁ多少暴れるつもりだが………、必ず履行することを約束しようではないか!その代わり、汝が契約を破った場合は………」

 

バニルの鋭い眼光が俺を射抜く。

け、契約を破ったら、俺は一体どうされるんだ!?

俺の恐怖とはよそに、バニルは小さく笑うと、

 

「我輩のメリットについては、言わずともいずれ知ることになるであろう。さぁキリキリと決めるが良い、冒険者よ!」

 

もとより俺に選択肢はない。

俺はこの取引に応じることに。

終始掴みどころの分からない悪魔だったが、この取引は吉と出るか凶と出るか。

俺の答えを聞いたバニルは、今日一の高笑いをしていた。

 

そこでふと俺は、元々の目的を思い出した。

 

「バニル、済まないがちょっと待っててくれないか?奥の部屋にある魔法陣を一応消しておきたいからさ」

 

「ほぅ……我輩としてもその魔法陣を消してくれるのは大変ありがたいが………ふむふむ、この見通す悪魔が予言しよう。汝、30を数えてからその部屋に入れば、必ず我輩に感謝することになるだろう!」

 

そんなことをバニルが言ってきた。

30を数えてから、この部屋に入る……?

俺は騙されているのかと思いつつも、律儀に30を数えてから部屋に入ることにした────

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「────48、49、50!」

 

ダクネスに教えてもらった筋トレ。

最初こそ苦痛だったが、今となっては習慣となってしまった。

特に今はこんな何も無い部屋にいるものだから、筋トレがさらに捗ってしまう。

 

筋トレを一通り終えた私は、少し汗ばんでいたので、服を脱ぎ、首筋に『フリーズ』の初級魔法を優しくかける。

こういう時に、初級魔法はとても便利だ。

 

それは突然だった。

バニルの時を合わせると2回目。

隠し部屋である、その部屋の扉が開かれたのだ。

またバニルだろうか、そう思いつつ、入口に目を向けると………

 

「あ、カズマ」

 

「あ、マイさん」

 

恐らくカズマにとっても予想外だったのであろう、驚きのあまり、時が止まったかのようにお互いが見つめあったまま静止する。

だが、直ぐにカズマの視線が、私の目から少し下におりたことに気づく。

それに合わせて私も視線を下に下ろすと………

下にはズボンを履いていたが、上は先程脱いだばかりなのでもちろん、下着姿のままで…………

 

私は顔が熱くなるのを感じた。

それは恥ずかしさからなのか、怒りからなのか、それとも両方なのか。

おそらく私の顔は真っ赤になっていただろう。

カズマはそれに、気づいているのか気づいていないか、分からないが、まるで旧友に再会したかのように、片手を軽く挙げ、朗らかな表情で、

 

「やぁマイさん。一体こんなところで何をしているんだい?」

 

と、ふざけたことを口にして………

 

「───ら、ら、ら、らら『ライトニング』!!!!」

 

私は以前仲間を傷つけたことによって、封印していたその魔法を躊躇なくカズマに向けて放った。

だが、私が魔法を放つとほぼ同時に、カズマはその場にそれは綺麗な土下座をきめることによって、その魔法を華麗に回避したのであった。

 

私は外したことに対して舌打ちをし、一瞬カズマがビクッと震えた気がしたが………、そんなことは気にせずに、改めて土下座をしているカズマ目掛けて手をかざし、もう一度魔法を放とうとしたその時、

 

「フハハハハハハハハハハ!汝の羞恥の悪感情大変美味である!」

 

そんなふざけた声が部屋の外から聞こえてきた。

私はその瞬間に怒りの対象を変えた。

 

「バニル!カズマがここに来たのは、あんたの差し金でしょ!何度も言ってるけど、目的を果たすまではこの部屋を譲る気はないからね!」

 

「おっと、勘違いはやめてもらおうか、おしゃべり娘よ。その小僧は自分の意思でその部屋に入ったのだぞ。まぁ少々、部屋に入るタイミングはアドバイスしてやったがな!フハハハハハハ!…………それよりもだ、早く服を着ないでいいのか?先程からそこの小僧がチラチラとみておるぞ?」

 

「えっ!?」

 

私は直ぐにカズマの方に視線を向けるが、カズマは、地面に頭をつけ、綺麗な土下座をしたままだった。

…………少し癪ではあるが、バニルの言う通り服を着ることに。

 

「カズマ、もう服を着たから顔をあげていいよ。というか、どうしてここにいるのか教えてよ?」

 

その言葉を聞いたカズマは、恐る恐る顔を上げ、私の顔を見る。

そしてもう怒っていないと判断したのか、少しホッとした様子で、ただ姿勢は正座のまま、ことの経緯を教えてくれた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「──────ってことで、ここまで来た訳だ」

 

俺は手短に、経緯を説明した。

マイは静かに聞いていたが、俺の説明を聞いてだいたいは理解してくれたようだ。

正直チラチラと先程の光景を思い出し、説明どころではなかったのだが………

まじバニルさん、あざす!

とまぁそんなことを考えているだなんて、マイは思いも知らないだろうが……というか、そんなことを考えているだなんてバレたら、今度こそさっきの魔法を当てられてしまう。

………あれはまじで死ねるやつだ。

 

とりあえず俺からの説明は終わった。

そうなると今度はこちらの番だ。

 

「マイさんはどうしてこんな所にいたんだよ。てっきりもっと遠くへ逃げてるとばかり……」

 

俺が質問すると、マイは少し困ったような表情をうかべると、押し黙ってしまった。

逃げたことと言い、何か言い難い理由でもあるのだろうか?

俺がじっと回答を待っていると、マイはおもむろに口を開く。

 

「…………借金を抱えるのが嫌でね。思わず逃げ出して……、ここなら安全だろうって」

 

おそらく嘘だろう。

そもそも借金が嫌で逃げ出すなら、こんなアクセルの近場に潜伏するのではなく、俺がさっき言ったように、さっさと遠くへ逃げてしまえばいいのだ。

ただ、マイが嘘をつくだなんて………

俺のマイの印象は、良くも悪くも素直。

そんなマイが嘘をつくほどの理由があるのか。

 

「…………その、言いたくないなら言う必要もないし、無理にも聞かない。ただ俺達は仲間だ、そんな俺達のことを少しは信用してくれてもいいんだぞ?」

 

俺のその言葉を聞いたマイは、少し目を見開き、驚いたようだったが、再び黙り込んでしまう。

 

沈黙が流れ、えも言わぬ空気が漂う。

そんな空気を破ったのはあいつだった。

 

「なんとも気まずい空気になっているようだが……いつまで我輩を待たせるつもりだ?」

 

その言葉を聞いて俺は本来の目的を思い出す。

さっさとこの魔法陣を消さないと……………

 

「もしかしてだけど、マイさんはこの魔法陣が今も効果を発揮していることを知ってて、ここに来たのか?」

 

「え?…そうだよ。以前アクアが自慢気に話しているのを思い出してね」

 

なるほど。

普通であれば、ダンジョンなんて危険なところに潜伏するだなんて、正気の沙汰に思えないが、この魔法陣のことを知っていたなら納得出来る。

それにここは隠し部屋になっていて、見つけたのも俺達だけだ。

ってことはつまり………

 

「じゃあこの魔法陣消すって言ったら……困る感じ?」

 

「え!?消すの!?困る困る!すごく困る!」

 

ですよねー。

念の為に消したいのだが……、マイがいるなら、後始末はマイに任せるか。

それに今回の騒動であるバニルをどうにか出来れば、ダンジョンの調査は行われないだろうし。

 

俺は魔法陣はそのままに、ダンジョンを後にすることにした。

 

「じゃあ俺はそろそろ地上に戻るとするよ。あいつと決着もつけないといけないからな」

 

「バニルと戦うの!?………相当強いよ?」

 

「俺を誰だと思ってるんだよ。ベルディアやデストロイヤーを葬った佐藤和真だぞ?」

 

………まぁ今回は半分八百長みたいなもんだし。

 

そして俺は最後に

 

「どうしようもなくなったら、いつでも屋敷に戻ってこいよ。……………き、気が向いたら助けてやるからさ」

 

決してツンデレになったわけでも、自分の言葉が照れくさかった訳ではない。

…………決してそんな訳ではない。

 

俺はそれだけ言い残すと、少し早足でその部屋を出た。

部屋を出ると、隠し扉が閉まり、そこはただの壁になる。

俺は扉が閉まる直前、部屋の中から『ありがとう』という声が聞こえてきたのを聞き逃さなかった。

 

「『いつでも屋敷に戻ってこいよ』と、何やら格好つけていたようだが………おおっと!羞恥の悪感情、大変美味である。フハハハハハハ!」

 

こ、こいつ!!

さっさと地上へ行って、こいつを倒してしまおう。

俺はそう心に決意する。

 

「我輩とて、メンツがあるのでな、そう簡単にやられるつもりはないが………そうだな。流石の我輩でも爆裂魔法なんてものを食らえばひとたまりもないであろうな」

 

そんな独り言のような事を言うバニル。

暗に爆裂魔法で倒せと言っているのであろうか。

そうであれば、めぐみんに特大のを準備させるとしよう。

 

「さぁ小僧よ!そこの脳筋クルセイダーを背負ってさっさと逃げるがよい!フハハハハハハ!」

 

「そうさせてもらうよ」

 

俺はバニルの言う通りに、ダクネスを担いで逃げようと……って重っ!!

ダクネス重っ!

こいつ……一体どれだけ筋肉があればこんなに重くなれるんだ!?

 

俺はアクアに身体強化魔法をかけて貰っていたおかげで、かろうじてダクネスを担ぐことが出来、なんとか地上まで戻ったのであった。

 

その後の展開は何とも………壮絶だった。

まぁ主にアクアとバニルだけだが。

 

俺はダクネスを担ぎながら、何とか逃げてきた体を装い、直ぐに魔王軍幹部のバニルがやってくると、地上にいる冒険者達に伝えた。

 

すると、直後にバニルがダンジョンから出てきて、戦闘に突入した訳だが………。

冒険者達の先頭に立っていたのが、アクアだったのだ。

どうやら、女神として悪魔であるバニルは、相容れない存在らしく、いつも以上に張り切って、対魔魔法を連発していた。

 

一方、バニルはというと………、バニルはバニルで女神を敵対視しているようで、アクアの対魔魔法を華麗に躱しては、何やら物騒な光線を放っていた。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!!『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

「フハハハハッ!フハハハハハハハハ!そんな攻撃当たらんわ!必殺!『バニル式殺人光線』!!!」

 

「『リフレクト』!!!」

 

「あっぶ!?」

 

白熱したこの女神と大悪魔の戦いは、誰もが固唾を呑んで見守るしかなかった…………と思われたのだが、俺がダクネスを他の冒険者に預けて、めぐみんのところへ向かうと、こいつは既に爆裂魔法の準備を整えていやがった。

 

「ふふふっ!こんな素晴らしい戦いを黙って見ていられようか!いやない!紅魔族として……あのカッコイイ仮面をつけた悪魔に爆裂魔法をくらわせて、いいところは頂きます!」

 

今回に限っては準備をする手間を省けたからいいものの。

こいつのこの性格はもう少しどうにかならないかね………。

 

とその時だった。

バニルが、アクアから離れて距離をとる。

それは丁度、遠巻きに見ていた他の冒険者達とも離れた場所だった。

 

そしてその時は訪れる。

 

「フハハハハハハハハハハ!どうした水の女神と同じ名をしたプリーストよ。貴様の魔法では、どれだけ攻撃しようが我輩は倒せぬぞ?我輩を倒したくば、爆裂魔法でも使える魔法使いを連れてくるのだな」

 

「あんたなんて私の対魔魔法で十分よ!人間の悪感情がないと生きていけない寄生虫みたいな分際で、生意気なのよ!次こそそのへんてこな仮面に………ってめぐみん?いきなり出てきてどうしたの?今私のいいところなんですけど!あの悪魔は私が───『エクスプロージョン』ッッッ!!」

 

めぐみんの爆裂魔法はバニルに直撃し、バニルがいたところを中心に、大きな爆炎がたちのぼる。

めぐみんは、冒険者達の方に振り向いたかと思うと、マントを翻し、

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法使いにして、魔王軍幹部バニルを葬りし者!」

 

それだけ言い残すと、地面にバタリと倒れた。

 

こうして爆裂魔法によりバニルは討伐され、この戦いに幕が降りたのであった。

 

爆裂魔法を放ち、地面に倒れているめぐみんを、見せ場をとられたアクアが泣きながら揺さぶっているという、なんても閉まらない終わり方だったが…………。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

そして後日。

俺は今、バニルとの契約を果たしに、ウィズの店に向かっていた。

 

バニルを討伐させてもらう代わりに、俺の知識をウィズの店に格安で提供する。

今日はその事をウィズに説明しに行くのだ。

正直、惜しい気もするが、バニル討伐によって俺の疑いも晴れ、報酬も貰えたので、まぁ良しとしよう。

 

…………ってちょっと待てよ。

これ今からウィズに説明しに行く訳だが、もしウィズに断られたらどうするんだ?

その場合、俺は契約を破ったらことになるのか!?

そうしたら俺は一体…………!?

 

そんなことを考えていると、どうしても付いてくると言ってきかなかった、ダクネスが口を開く。

 

「…………おいカズマ、お前あの悪魔と何の取引をしたのだ?」

 

「………え?」

 

どうしてダクネスが、取引のことを?

まさか……

 

「……ダクネス、お前途中から気がついていたのか?……ん?となると……、俺が担いで運んでた時も起きて……!お前意識があったら自分で走れよな!めっちゃくちゃ重たかったんだからな!」

 

「お、お、お前というやつは!こちらがせっかく殊勝な態度で聞いてやっていると言うのに!それに言い直せ!鎧が重たいと言い直すのだ!………

もういい!そこになおれ!そして魔王軍幹部でもある悪魔と一体どんな取引をしたのか白状するのだ!事と次第によっては、再びあの検察官の元に突き出してやる!」

 

「はぁ?そんなやましいもんじゃねぇよ。ただ俺の知識と引き替えに討伐させてもらっただけだよ。詳しい話はウィズの店でするから、黙ってついて………途中から気がついていたってことは、あそこにマイさんがいたのも!?」

 

俺はマイがあのダンジョンにいたことを、仲間に話すか迷っており、まだ話していなかったのだ。

マイに助けを求められた訳でもないし……、それにあいつらに話したら何か余計なことをしそうだし。

 

マイの名前を聞いた、ダクネスはというと、抜きかけていた剣を収め、先程の勢いは無くなっていた。

 

「………あぁもちろん知っている。なぁカズマ、バニルとの取引といい、マイのことといい、どうして私達に黙っているのだ?………そんなに私達のことが信用ならないか?」

 

「………別にそういうわけじゃねぇよ」

 

ダクネスは知ってか知らずか、俺がマイに言ったことと、似たようなことを言ってきた。

とても悲しげな表情で。

 

…………そんな表情で言われたら、余計なことをしそうだったから黙っていただなんて絶対に言えない。

 

 

その後俺達は特に会話もなく、ウィズの店に到着した。

俺はウィズに何と説明したら良いものかと考えつつ、店の扉を開けた。

扉を開けるといつも通りウィズが、

 

「ヘイ!らっしゃい!おや、最近体重が増えてきたことを気にして、鎧の軽量化を考えている娘に、そこの娘を担ぐ際、少しでも感触を味わおうと無駄に多く揺らしていた小僧ではないか!おおっと、汝らの悪感情、美味である!フハハハハハハ!」

 

「お、お、お前突然何言い出して!?ってお前も、蹲りながらチラチラこっち見てくるんじゃねぇ!」

 

扉を開けると、そこにいたのはバニルだった。

遅れて、店の奥からウィズが出てくる。

 

「あら、カズマさん!聞きましたよ、よかったですね。バニルさんを倒して疑いが晴れたそうで、おめでとうございます!」

 

さも当然かのように、目の前にバニルがいるのにも関わらず、そんなことを言うウィズ。

 

「いや、それはいいんだが、どうしてこいつ爆裂魔法をくらってこんなピンピンしてんの?無傷ってどういうことだよ」

 

ウィズに話しかけていた俺に対して、横からバニルがその質問に答えてきた。

 

「我輩とて、あんな魔法をくらえば無傷で済むわけがあるまい?よく仮面を見るがよい」

 

そう言いながら自らの額を指差すバニル。

その指先に視線をむけると、そこにはⅡの文字が。

 

「爆裂魔法で残機が一人減ったので、二代目バニルという事だ」

 

「なめんな!」

 

こいつは配管工か何かか、といきりたっていると、ウィズに宥められる。

 

「カズマさん落ち着いてください。バニルさんは以前より魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。そして一度滅んだので、今は魔王城の結界の維持にも関わっていません。とても無害だと思いますよ?」

 

そんなことを言われてもなぁ。

滅んでも残機が減るだけで、蘇るだなんてチートだろ。

何やらエプロンをつけて、ここで働く気満々のようだし。

 

…………ん?ちょっと待てよ。

元々魔王軍の幹部を辞めたがっていて、一度滅んだことによって、関係がなくなって………

滅んだとしても、蘇ることができ………

これからウィズの店で働くつもりで………

俺との契約は、確か俺の知識を、ウィズではなく、ウィズの“店”に提供するってことだったから、つまり。

 

「ようやく我輩のメリットに気がついた小僧よ。さぁ我輩との契約を果たしてもらおうか!フハハハハハハハハ!」

 

このチート悪魔、完全に俺のことを利用しやがった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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